「イスラーム国」パルミラの遺跡専門家を殺害

「ダーイシュ」(IS、イスラーム国)は、歴史遺産の街パルミラで、遺跡の元管理者の頭部を切断し、街の真ん中に遺体を吊り下げた。それと時を同じくして、カーミシュリー東部では同組織の要員が自爆攻撃を実行しクルド人戦闘員に数十人の死傷者をだした。また、ダマスカス北西、レバノン国境近くでは、シリア政府がザバダーニー市から隣のブルーダーンに避難していた人々を退去させはじめたと言われている。

 

ダマスカスの考古総局長マームーン・アブドゥルカリーム氏がFP通信に述べたところによれば、1963年から2003年までパルミラ考古遺跡局長を務めたハーリド・アスアド氏(82歳)が、火曜午後、ホムス県に属するパルミラ市内で、「ダーイシュ」要員により処刑された。考古総局長は次のように付言した。「考古学界の最も重要な専門家の一人をダーイシュが処刑した。アスアド氏はパルミラの言葉を理解しており、盗難に遭った考古遺物が戻った際にその真贋を見極めるため、われわれは同氏の見解を求めたものだった」

 

過激派のウェブサイトは、アスアド氏の遺体が電柱に吊り下げられ、その下に切断された頭部が置かれている画像を公開した。遺体の下には「背教者ハーリド・ムハンマド・アスアド」と犠牲者を示す札が置かれていた。過激派は、アスアド氏が国外の会議等で自国を代表していた故にシリア体制の支援者であるとして糾弾し、また、体制の治安関係者と連絡をとっていたとしている。「シリア人権監視団」もアスアド氏の処刑を確認し、テロ組織が「パルミラの広場で数十人を前にして」同氏の頭部を切断した旨述べている。

 

「ダーイシュ」は、シリア政府軍と9日間にわたる激戦の末、5月21日に、世界遺産に登録されているパルミラ市を制圧した。そのため、「砂漠の真珠」と称されローマ様式の列柱、神殿、王族の墳墓等で知られるパルミラ遺跡の今後が深く案じられている。

 

一方、カーミシュリー市内では自爆攻撃によりクルド人戦闘員を主とした16人が死亡した。「人権監視団」のラーミー・アブドッラフマーン代表は「爆発物を仕掛けた車両に乗った自爆攻撃者がカーミシュリーのクルドのアサーイシュ(警察部隊)*の拠点を狙った」として、死者のうち10人がアサーイシュ、他が市民であったと述べた。「ダーイシュ」がネット上で公開した犯行声明によれば、攻撃は「改造タンクローリーによりアサーイシュ総司令部に対し行われた」とされる。

 

また、反体制派活動家らによれば、(シリア政府の)治安部隊が、ザバダーニーから隣のブルーダーン市へ避難してきた400人の身分証を取り上げ、彼らに退去を強要した。活動家の一人は次のように述べた。「ザバダーニー市民の組織的な追放が公然と始まった。ワーディー・ガザール、ワーディー・イルヤースなどの地区でザバダーニーからの避難民が入居していた住まいに軍がやってきて、荷物をまとめるよう通達し各戸から身分証を接収、ブルーダーン市の陸橋に来たら身分証を返還するのでそこから市外へ立ち去るよう要請した。」

 

トルコで行われていたイランと反体制派との休戦交渉は、「シャーム自由人イスラーム運動」がイラン側の要請を拒んだため頓挫した。イランの要請は、シーア派で体制支持派とされるフォアとクファルヤーの二つの町の住民をイドリブ郊外からホムス郊外のクサイル市へ移し、7月初めから戦闘が行われているザバダーニーの市民を市外へ出すというものであった。

 

政治面では、ロシアのミハイル・ボグダノフ外務担当副大臣が、モスクワは「ジュネーブ3」準備にむけた実務手続きを開始したと述べた。「ノーボスチ」通信社によればボグダノフ氏は次のとおり発言した。「ジュネーブ3が単なる個別会合ではないことが理解されなくてはならない。それは、多大な政治的意思、忍耐、時間を要する交渉プロセスである。このような会議の開催は支持されてしかるべきだと考え、われわれはジュネーブ3準備のための具体的ステップを開始した。」

 

*訳注:アサーイシュ(Asayish、クルド語でsecurityの意)はシリア内戦により発足したクルド自治区の公式治安組織。

 

al-Hayat紙(2015年08月20日付)/ 翻訳:メディア翻訳アラビア語班

 

■本記事は「日本語で読む世界のメディア」からの転載です。

 

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