いじめ対策推進基本法案は、いじめ問題の構造を変えられるか

現在国会で審議されている「いじめ対策推進基本法案」民主党による本法案は、いじめが発生する「構造的な問題」に注目し、その解決のための仕組みづくりとして作成された。本法案立法の際に実務責任者を務めた小西ひろゆき参議院議員に話を伺った。(聞き手/荻上チキ、構成/金子昂)

 

 

構造的な問題を解決する仕組みをつくるために

 

―― いじめ対策推進基本法案を作成された経緯を教えてください。

 

わたしは当選後、復興特区法案や障害者総合支援法案など、さまざまな法律の立法に携わってきました。去年の8月の終わり頃、大津いじめ自殺事件の教育委員会の対応が不適切だという報道が大きくされていたときに、それまでの経験から、いじめに関しても法律をつくることができ、子どもたちを最大限救うことができるはずだと気がついたんです。その瞬間に、子どもたちを守るために学校現場などで必要な仕組みが、頭の中にバーッと浮かんだんですね。そこで、民主党で立法しようとチームをつくり、実務責任者を務めました。

 

じつは2012年12月の総選挙がなければ、昨年の臨時国会で法律を通すつもりで条文化もほぼ完了していたのですが、選挙があり、また政権が交代したこともあって、新しい体制の下でこの法律の成立に向けて頑張っていくことになりました。

 

選挙後、民主党の文科部門会議で議論を重ね、2月12日に、民主党の「次の内閣」で案が了承されました。それから各野党に共同提案を呼びかける作業を行い、4月11日に、民主党・生活の党・社民党の共同により国会に法案を提出することになりました。その他の野党も、いじめ法案とは別の課題である教育委員会制度の改革などで見解が異なるため、共同提案にはのれないものの、内容には賛成だとおっしゃってくださった。ですから内容面で否定的なことをおっしゃられた野党はなかったと理解しています。

 

 

―― いじめ対策に法律が必要なのだろうかという声もよく聞かれます。なぜ法案で、いじめ対策をとろうと考えたのでしょう。

 

あらゆる立場の多くの人たちが、小中学高校時代に学校でいじめがあったと言います。民主党法案の基本的な考え方でもありますが、いじめは、どこの学校にも、どの子どもに対しても起こりうるものだと思います。

 

残念ながらいじめ問題は、学校教育の永遠の課題として、もしくは学校に限らず、人間のコミュニティであるかぎり発生しうる。しかし、いじめが発生する原因を解消できるような仕組みをつくることができれば、いじめを最大限に予防することができるはずです。それを全国のすべての学校で実現し、10万人とも20万人とも言われるいじめで苦しんでいる子どもたちを救いたい。そのために法律を制定する必要があると考えたんです。

 

今回、法案をつくる過程で、いろいろな専門家や被害者、学校の教職員の方々などと意見交換をしました。そして、いじめ対策には、「予防」、「早期発見」、「解決」の三点を適切に行う仕組みがなければ総合的な対策にはならないと学びました。この三つの課題を総合的に解決する仕組みとはどういうものか。

 

これまで、いじめ問題は、自殺事件のような悲惨な事件が起きたときだけ社会問題化され、その度に文部科学省が通知文を出す。次第に時間がたち、風化して忘れられてしまう。この繰り返しでした。なぜ文科省の通達が学校現場で機能しないのか。それは、いまの仕組みでは、いじめが発生する「構造的な問題」が解消できていないためでしょう。

 

であれば、構造的な問題を解決する仕組みをつくればいい。全国の学校がいじめ問題に真剣に取り組むような法律をつくれば、日本全体でいじめを予防することができるのではないか。そして予防だけでなく、残念ながら起きてしまったいじめにも、可能な限り早く対応をし、適切な解決ができるはずだと考えたわけです。

 

 

学校現場で、予防、早期発見、解決を実現する

 

―― いままで適切な解決ができなかった構造的な要因はどこにあるとお考えですか。また、その構造的要因に対処するための、民主党案の想定するいじめ対策についてお聞かせください。

 

構造的な問題は予防から解決まで全体に渡るものです。主なものをあげてみますと、「子どもも教師を含めた大人も、いじめは絶対にしてはならないとの認識が不足している、あるいは、ときにはそれが欠けるときがある」、「いじめが起きにくい学級や学校づくりができていない」、「いじめに遭ったときに、子どもたちが安心し信頼して相談・通報できる体制がない」、「教師や教育委員会において、いじめへの対応能力の不足があり、また、隠蔽体質がある」、「そもそも、教育だけでは対処しきれない複合問題であるいじめに対して、学校や専門家との連携不足がある」などが考えられます。

 

たとえば、学校の先生のいじめについての問題意識や対応能力について考えてみましょう。いじめ問題は、「いじめはいけないものだ」、「いじめは本当につらくて悲痛なもので、さらにいじめが解決されても被害者には大きなトラウマが残ってしまうものだ」と先生方が認識し、執念をもって対応するものでなければいけません。もちろん、いまでもそういった先生も多くいらっしゃいますが、残念ながらそうでない先生もいますし、挙句の果てには、いじめに加担したり放置する先生もいました。

 

こうした残念な事実が繰り返されてきた経緯を踏まえると、「いじめは絶対に許されないことなんだ」と学校や先生方の意識を変えていただくために、たとえば「教師は子どもたちを救うことが仕事であり、いじめを放置・助長してはいけない」といった条文を書いて、そのきっかけとすることもやむを得ないことだと考えました。

 

しかし、先生方にいじめは絶対に放置してはいけないことだと認識してもらうとともに、より大切なことは、先生方にいじめの予防や解決のスキルを身に付けてもらうことです。

 

このために本法案では、教職課程でいじめ対策を学んでもらうようにして、先生のいじめへの対応能力を高めてもらうようにしました。ただ、こうした底上げのための政策を行っても、結果としてこれまでどおり個々の先生だけに責任を求めるのでは、いじめの問題は現実には解決しません。

 

いじめについての対応能力のない先生であっても子どもたちが救えるよう、さらに、先生方が他の教員との連携のなかでいじめへの対応能力のスキルを高めてもらえるように、クラスで起きているいじめをたったひとりの担任の先生が抱え込むのではなく、現場の先生方がチームとなっていじめに対応していく仕組みをすべての小中高に設けてもらうことにしました。

 

具体的には、民主党案では、予防と早期発見、解決を学校現場で、構造的に実現するために、すべての小中高の学校に「学校いじめ対策委員会」をつくり、担任の先生がひとりでいじめに対応するのではなく、学校としてチームで対応できる仕組みをつくりました。

 

 

―― 「学校いじめ対策委員会」について、具体的に教えていただけますか。

 

「学校いじめ対策委員会」は、いじめ対策主任を含む複数の教員と、いじめに関する専門家、たとえば、臨床心理士や人権擁護委員、社会福祉士、民生委員、さらには、地域住民や保護者も参加することができる組織です。複数の教員とともに必ず第三者がチームに入り、つねに対応できるように準備することで、学校現場によるいじめの隠ぺいが自動的にできなくなります。また、適切な能力のあるチームが学校内のすべてのいじめを対応することで、いじめに対応する能力のない先生によるいじめの放置や助長を防ぐことができるわけです。

 

いじめは「複合問題」です。いじめを起こしてしまった子どもの背景に家庭的な問題の不安感が隠れていることもあります。となれば、その不安感をなくすために、社会福祉士や児童相談所など、学校教育とは別の人たちに関与してもらう必要がでてきます。あるいは、なぜいじめがいけないのかを教える情操教育や、事件が起きてしまったときに、人権擁護委員や弁護士会、場合によっては警察と連携する必要もあるでしょう。「学校いじめ対策委員会」にはこうしたいじめ対策に不可欠な専門家との連携を確保しておく狙いがあります。

 

 

いじめの構造に注目した法案

 

―― 担当の先生だけでクラスのいじめに対応する場合、その先生の取り組み方次第では、いじめられている子どもは1年間以上、「生き地獄」で苦しむことになります。「学校いじめ対策委員会」のような組織があると、その状況からは脱しやすくなるかもしれません。ただ一方で、いじめが発生しやすいクラス秩序を生み出さないための、未然防止も重要です。民主党法案では、どのようにして未然防止を行おうと考えているのでしょうか。

 

そうですね。いまはいじめが起きたときの対処方法を説明しましたが、一番大事なのはいじめの防止です。

 

いじめが起きにくい学級・学校づくりをするために、民主党案では、まず各地域の教育委員会が「地域いじめ対策計画」を立て、いじめ対策の基本方針や、未然防止のあり方などのひな形をつくります。そしてさらに、各学校が、より豊かな独自の取り組みを盛り込んだ「学校いじめ対策計画」を立て、「なぜいじめはいけないのか」といった情操教育や、道徳教育・体験学習など、児童を巻き込んだプログラムを行い、いじめは間違ったことであり、恥ずかしいことだと気づいてもらう環境づくり、すなわち、「いじめが起きにくい学級づくり学校づくり」をやっていくようになっています。

 

同時に、先ほどお話した「学校いじめ対策委員会」には解決だけでなくて未然防止の役割もあります。「学校いじめ対策委員会」で大人たちが真剣にいじめ対策について取り組んでいる姿を子どもたちに見せることは、自ずといじめが起きにくい環境の実現となり、それは子どもたちの安心に繋がるでしょう。

 

そして、それは信頼して相談ができる窓口、すなわち「未然防止」と同時に「早期発見」の機能にもなるものと考えています。既存の法務局や各自治体の相談窓口などと連携を取れば、全体として地域における早期発見の仕組みをより強化することになると考えます。

 

 

―― いじめ事件が起きてしまった場合にはどのような対応を取るのでしょう。

 

深刻ないじめ事件が起きてしまったときは、学校いじめ対策委員会とは別の組織である「対策特別委員会」をつくります。学校で対応できる場合は、学校で「対策特別委員会」を設置し、生活指導など調査・解決を行い、学校で対応しきれないより重大な事件の場合は、教育委員会で「対策特別委員会」を設置し、その対応にあたるようにしています。

 

いずれにしても、対策特別委員会には、被害者側の要望次第で、学校や教育委員会の関係者が入らないような構成にすることを可能としています。第三者のみで構成可能にすることで、被害者を守り抜き、また、加害者に対しても学校や教育委員会による適切な指導等を実現することを可能としています。

 

しかし、それでも先の大津いじめ自殺事件のように、教育委員会の対応に納得ができない場合は、これも被害者の要望次第で、大津市で実際に設けられたように、制度としては教育委員会の外にある県・市町村の首長部局に「いじめ事案調査委員会」を設置できるようになっています。

 

 

―― いじめ対策は、道徳教育を増やす、教師を叩きなおすといった話になりがちですが、意識改革は「いじめをしないよう教育が機能すれば、いじめが起きない」といったトートロジーに陥りがちです。

 

いままでお話したように、民主党案は、いじめの構造に注目した法案になっています。

 

ただ民主党案でも、道徳や情操教育を行うことはいじめ対策の基本施策の最初の条文に書きました。また法律全体の基本方針として、いじめ予防のために、なぜいじめを行ってはいけないかを気づかせることも大切だと書いています。そのために、言葉だけでなく、身をもって体験できるような、体系だったいじめ予防プログラムをつくることを想定しています。

 

 

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