いじめ対策推進基本法案は、いじめ問題の構造を変えられるか

厳罰化ではなく、関係者がルールを共有する仕組み

 

―― 民主党案の特色として、学校や地域における「構造的な問題の解決の仕組み」などの他にどのようなものがあげられますか。

 

民主党案の特色としては、「被害者サイドに立った施策を充実していること」、「児童生徒の主体的な参画を確保していること」などがあげられます。

 

本法案では、文科大臣のもとで「いじめ対策基本計画」を作成するようにしていますが、この基本計画は、いじめの被害にあった当事者や弁護士、臨床心理士などで構成される「いじめ対策協議会」の意見をうけて作成されるものです。

 

国が当事者の意見を踏まえた計画を作成する法律に「がん対策基本法」というものがあります。「いじめ対策基本計画」と同じ仕組みでできていて、患者や遺族が入らなくてはいけないと条文化された協議会がある。実際、当事者の方の意見はとても有益かつ参考になるんです。

 

また国は「学校と被害者やその保護者とのあいだで、いじめ事件についての調査情報を共有するためのガイドライン」も作成します。

 

とくに、いじめによって被害者が自殺してしまった場合、加害者サイドの証言のみになってしまいます。被害者サイドは、事件の深層がわからない。学校もブラックボックスになっていて、どんな調査・検証をしているかが見えない。学校が行ったアンケートも、被害者のご両親に渡すときには余計な箇所まで黒塗りされていることすらありました。かけがえのないお子さんを失った原因がわからない。原因がわからないから再発防止もできない。

 

ですから本法案では、文科省が学校側と被害者側が第三者のプライバシーなどにも配慮しながら情報共有するようなガイドラインを、文科省がつくるように条文に書いています。

 

さらに、「学校いじめ対策計画」やそのひな形となる「地域いじめ対策計画」の策定の際には、子どもたちの意見を聞いてそれを作成することを法律の条文に定めました。計画の策定段階から子どもたちが自らの課題として関与することによって、子どもたちの主体的な取り組みがいっそう可能となるようにしたものです。

 

なお、本法案の特色として、すでにあるいじめをしてしまった子どもへの指導を厳罰化的に強化するのではなく、「いじめをした場合には、こういう指導をうけることになるんだよ」と、子ども、学校、保護者が共有するように記した条文があることです。

 

いじめの加害者に対する指導や懲戒のルールはすでに揃っています。大切なことは、それを常日頃からすべての関係者が共有する仕組みをつくっておくことです。

 

 

PDCAサイクルによるいじめ対策の効果検証

 

―― 現在の日本では、いじめに関する統計データはまだまだ脆弱です。法をつくっただけで「成果」と謳うわけにはいきません。この法案の効果検証はどのように行うのでしょうか。

 

本法案では、PDCAサイクル(政策を評価にもとづいて効果的に実現していくための仕組み)だけで一章を起こしています。各地域がしっかり取り組んでいるか把握し、またインターネットで公開することで客観的に評価できるようにする。ここで気をつけないといけないことは、いじめの発生件数だけを絶対的な評価にしてはいけない点です。

 

残念ではありますが、いじめはいつでも、どこでも起きうるものです。ですから「A学校は10件で、B学校は5件。だから、B学校のほうがしっかりと取り組んでいる」と評価するのではなく、対策方法が評価できるものなのか、対策委員会のメンバー構成などはどうなっているか、どういった活動をしているか、あるいは、生徒はどういった感想をもっているかなども明らかにしていき、調査・分析を行うことにしています。

 

 

―― PDCAサイクルで検証しつづけ、効果的な対処法を学校を超えてシェアすることが重要となります。

 

おっしゃる通りです。法律の条文のなかに、各地域や学校での先進的なすぐれた取り組みなどを全国で共有していくことを明記しています。

 

じつは、「学校いじめ対策委員会」や「学校いじめ対策計画」などの仕組み自体が、アメリカのいじめ対策法や日本の先進的な自治体で実際に取り組まれ、効果をあげている仕組みです。こうした仕組みのもとでの各学校や地域の素晴らしい取り組みは、どんどん汲み取って行って、全国に展開し、みんなで共有していくことは非常に大切なことだと考えています。

 

 

インターネット、体罰、不登校

 

―― 深刻化しているインターネットを使ったいじめについてはどのような対策を盛り込んでいますか。

 

インターネットのいじめについては、インターネットで友だちの悪口を書くことは恐ろしいことなんだと子どもたちに教えて予防することはもちろん、実際に書き込まれてしまった場合の対策も考えています。

 

インターネットで書かれた悪口は、プロバイダ責任法を適用して削除するわけですが、子どもたちやその保護者が、わざわざ申請することは非常にたいへんなことです。これについては、いまでも法務局が任意で、手続きのお手伝いをしているのですが、法務局と協議して、法務局の仕事として日本全国で被害者のために、法務局が書き込みの削除申請のお手伝いをすることを条文化することができました。

 

 

―― いじめには不登校や体罰といった周辺的な問題もたくさんあります。教室空間でのストレスが、いじめといった加害行動になってしまう。また、いじめを受けた生徒が不登校になったり、先生自らが体罰をふるい、教室空間でのストレスを加速させるケースもあるでしょう。この法案ではいじめに隣接する問題に対処されるでしょうか。

 

不登校と体罰に関しては、別の法案で対応しますが、その一部についてはこの法律でも対処しています。

 

いじめによる対人恐怖症などによって、学校に通えなくなってしまった子どもに対しては、子どもの学ぶ権利を守るために、いまの学校教育法では制度の外側になっているフリースクールで教育を受けても、教育委員会のものとで教育を受けたと認定できるような法制度を創設する必要があると考えています。そのために、そうした制度を検討することを法案の附則に書き込みました。

 

また、いじめによる自殺が起きた事件で、被害者の方のお話を聞くと、お子さんが「学校に行かなくてはいけないんだ。休んじゃいけないんだ」と、学校に通いつづけてしまうことで、追いつめられてしまうことがありました。いじめでつらい思いをしているのに、学校に通わせて追いつめてしまうことがないよう、法案の条文に、いじめを原因に学校を休んだ場合は成績のマイナス評価にしないと書きました。

 

また体罰ですが、教師が生徒に行う体罰は、場合によっては教師による生徒へのいじめに該当するものがあるでしょう。民主党のいじめ対策推進基本法には「いじめの禁止」という条文があり、この条文は、すべての国民にかかっていますから、当然教師もその対象になっています。そういう意味では、いじめとして行っている体罰は、禁止規定にかかっているんですね。

 

ただ教師と生徒の関係と生徒同士の関係は分けて考えなくては、しっかりと機能する制度がつくれないと思います。そこで民主党は、体罰に関する別の法案も、今国会中に提出する予定です。

 

 

思いやりや尊厳をもてる社会に変わるきっかけに

 

―― なぜ他党との共同提出を選ばれたのでしょうか。

 

いじめ対策推進基本法は、子どもの命と尊厳に関する法案です。各政党は国民の役に立つものをつくるために知恵をつくらなくてはいけません。ですから、他の政党に、われわれがつくった法案をお見せして、協議しました。結果的には、最初にお話したように、複数の政党から賛成をいただきましたし、教育委員会制度の改革などについて見解の異なった政党も、内容について異存はないとおっしゃってもらいました。

 

 

―― 党利党略にこだわらず、超党派でベストのものをつくることを望みます。与党案と野党案が提出されることになりますが、ふたつの法案は今後すりあわせていくことになるのでしょうか。

 

この法案は、いじめという悲劇を最大限なくしていくことが目的です。ですから与党案のいいとことと民主党案のいいところを突き合わせて、より子どもたちのために内容になるよう、お互いに調整していくことになるのではないでしょうか。

 

ただわたしの知る限り、与党案は、いじめが起きつづけてしまう、そして適切に対応することのできない構造的な問題を解決する仕組みは立案できていないように思います。つまり、民主党法案の「学校いじめ対策委員会」や「学校いじめ対策計画」のような「予防」と「早期発見」に役立つ仕組みが盛り込まれていない。また、与党案では、いじめの「解決」については、学校や教育委員会の外にある組織(=自治体の首長部局にある組織)をつくって対応するようですが、それでは実際に子どもたちがいる学校という世界は変わらないと思います。

 

学校や教育委員会が対応できていなかったケースが多々あることはもちろん、兵庫県川西市の「子ども人権オンブズパーソン」のような第三者組織の先進例においても、残念ながら昨年に悲惨ないじめによる自殺事件が起きたように、外付けの組織だけでは学校の構造自体は変えられないし、そこにいる子どもたちを救うことはできないと考えます。

 

われわれは、どうすれば子どもたちを救う制度を立案することができるかを探るために、多くの被害者や専門家にヒアリングを行いました。また各地域で発表されている主ないじめに関する条例と条例案はすべて分析しましたし、いじめは世界各国の、人類共通の課題ですから、諸外国のいじめ法律も徹底的に分析しました。アメリカの州法やイギリスの制度を一言一句分析し、それ以上のものをつくったと自負しております。

 

繰り返しになりますが、民主党法案は、長年にわたって学校現場においていじめが蔓延し悲惨な事件が繰り返されてきた構造的な問題を解決する力を持った法案です。そして、何より、本法案をきっかけに、日本全体で、人に対する思いやりや尊厳をもてるような社会に変わる仕組みづくりが始まればと期待しています。

 

(2013年4月10日 議員会館にて)

 

●今年3月に掲載された「いじめ防止法の策定で何が変わるのか 馳浩衆議院議員インタビュー http://synodos.jp/education/811」をあわせてお読みいただけますと幸いです。

 

 

アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください。

 

 

 

◆◆「αシノドス」購読でシノドスを応援!◆◆

1 2
シノドス国際社会動向研究所

vol.226+227 特集:自立的思考のために

・飯田泰之氏インタビュー「経済学の基礎で社会を読み解け!――マクロ経済の思考法」

・角間淳一郎氏インタビュー「『風俗嬢かわいそう』で終わらせない――“孤立”に歯止めをかけるセカンドキャリア支援」

・【今月のポジ出し!】吉田徹「形骸化する地方自治――『くじ引き民主主義』を導入せよ!」

・藤代裕之氏インタビュー「フェイクニュースが蔓延するメディア構造はいかにして生まれたのか」

・塚越健司 学びなおしの5冊 <統治>

・齋藤直子(絵)×岸政彦(文) 「Yeah! めっちゃ平日」第八回