Education at a Glanceから見る日本の女子教育の現状と課題 

先月、経済開発協力機構(OECD)から”Education at a Glance 2012 (図表で見る教育)”が出版された。この出版物はOECD34カ国+G20諸国の教育状況を、比較可能でかつ信頼できる指標を用いて比較することで教育問題を浮き彫りにし、教育政策の効果・進捗状況も明らかにすることで、各国の教育改革に活かせるように出版されているものである。本編は600ページほどあるが、それとは別に各国毎に教育状況の特徴と課題が記された簡潔なカントリーノートも出版されている。

 

日本についてのカントリーノートももちろん出版され、多くのメディアはEducation at a Glance本体ではなくこちらの内容を取り上げている。しかし、本編では教育とジェンダーを扱ったセクション(A4、P72)が設けられているが、日本のカントリーノートにはこのテーマを扱った部分が無い。では日本の教育状況が、教育とジェンダーの現状と課題が認識される必要が無い素晴らしいものかと問われると、決してそうとは言えない。

 

教育とジェンダーについては、国・地域毎にその課題が大きく異なっている。例えば、一般的に中南米では中等教育における男子の早期退学、中東では労働市場や移住が引き起こす高等教育における女子の高すぎる就学率、アフリカ・南アジアでは初等教育における女子の就学状況の低さ、アメリカでは低学年男子の学力、といったことが課題と考えられている。東アジア全般で見られる課題は教育段階におけるジェンダー格差であり、日本も例外ではない。ゆえに、今回は教育段階におけるジェンダー格差、とりわけ女子教育に注目して、Education at a Glanceを参照しつつ、いくつかの国際比較が可能な教育指標を用いて他のOECD諸国と日本を比較することで、日本の女子教育の現状と課題を描きだそうと思う。

 

OECDに加盟する国は全てで34カ国あるが、OECD加盟国の中でも所得水準のばらつきは大きく、特に高所得国と上位中所得国では教育制度・教育財政の在り方・抱える教育課題に大きな隔たりがあり、比較分析の対象としてあまり適切ではない。そこで、本記事では便宜上、日本を含む高所得国のOECD加盟国を持ってOECD諸国と表記することとする。

 

 

義務教育段階における女子教育の状況

まず、義務教育段階における日本の女子教育の現状を見ていく。日本を含むOECD諸国では義務教育の就学率はほぼ100%に近いため、女子教育の量に関する考察は省略し、教育の質に焦点を当てて考察していく。

 

最初に、TIMSS(国際数学・理科教育調査)という、主にカリキュラムの習熟度の測定を目的とした国際学力調査の2007年の結果を用いて、第4学年と第8学年(それぞれ小学校4年時と中学校2年時)の女子教育の質を見ることとする。尚、データはTIMSSを実施している”IEA(International Association for the Evaluation of Educational Achievement)”が出版している国際数学レポート国際科学レポートを参照している。

 

 

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これらの図は国名が左側に位置するほど、同じ国内の男子と比べた時の女子の数学の成績が良いことを意味している。また、棒グラフが赤で囲われている国・科目は、男女の間で統計的に有意に学力差が存在していることを意味している。図1は小学校4年生の結果を表している。図1が示すように、日本は小学校4年生の段階では数学でも科学でも男女間に学力差があるとは言いきれない結果となっている。数学においてはTIMSSに参加しているOECD諸国の過半数の国で、科学においても半数近くの国で、男子の方が女子よりも成績が高くなっていることを考慮すると、初等教育における日本の女子教育の質は高いものであると考えられる。

 

図2は中学2年時の状況を示している。この教育段階においても、日本では数学でも科学でも男女間に学力格差が存在するとは言えない結果となっている。半数の国で科学においては男子の学力が高く、数学においても2カ国で男子の学力が高いことを考慮すると、中学2年時においても日本の女子教育の質は決して低くはないと考えられる。

 

 

 

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