2012.08.27

わたしの、詫び状

大野更紗 医療社会学

社会 #震災復興

10年以上前に亡くなったわたしの祖父は、浪江町の反原発運動家でした。

【全逓】。「ゼンテイ」と読みます。【全逓信労働組合】の略称です。【逓信省】という組織がかつて日本にはありました。郵便、電話、通信をすべて一手にひきうけていた行政機関です。

じいちゃんは、【全逓】。くそ真面目な、町の郵便局員だったのです。定年までずっと、一配達員でした。

孫のわたしは、大人の難しい事情はよくわかりませんでしたが、原発に反対したり、組合運動をしたりすると「出世できないのかなあ」ということは、子ども心にぼんやりと思いました。でもわたしは、じいちゃんが好きでした。近所の人たちからも、好かれていたように思います。お葬式の時には大勢の人がオウオウと泣いていたことを、覚えています。

2011年3月11日。あの瞬間。わたしは「めるとだうんする」と、反射的に思いました。それは論理でも危機管理でもなく、「我が家の教訓」によるものです。

「めるとだうん」、「ねんりょうぼう」や「ろしん」。これらの単語は、我が家では「カレーライス」とか「ラーメン」と同じレベルの言葉でした。じいちゃんがしつこく繰り返し唱えたので、覚えてしまったのです。

原発が「めるとだうん」することは、わたしにとっては「想定内」。

福島第1原子力発電所が、東京電力によって建てられたものであり、東京の人が使う電気を作っていることを、幼稚園児の時から知っていました。それでもわたしは、今日まで、東京で何もしませんでした。

「ずっと嘘だったんだぜ」と責められても、言い訳はできません。する資格が、ありません。

「ずっとなにもしなかったんだぜ~」

「言い訳は~『想定内』」

そんな言い訳が、通用するはずはありません。

今日、生まれてくる子に。まず心から、お詫びを申し上げたい。

(本記事は5月30日付「福島民友」記事からの転載です)

プロフィール

大野更紗医療社会学

専攻は医療社会学。難病の医療政策、難治性疾患のジェネティック・シティズンシップ(遺伝学的市民権)、患者の社会経済的負担に関する研究等が専門。日本学術振興会特別研究員DC1。Website: https://sites.google.com/site/saori1984watanabe/

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