2012.10.31

災害関連死をめぐる問題

津久井進 弁護士

社会 #震災復興#災害関連死

災害関連死とは

「災害関連死」の明確な定義はない。「災害弔慰金の支給等に関する法律」は、「災害により死亡した者」(1条)と規定するだけで、定義規定も具体的要件も定めていない。

一般的には、津波や家屋倒壊など災害の直接的な被害ではなく、避難生活の疲労や環境の悪化等により病気にかかったり、持病が悪化したりするなどして死亡することと理解されている。復興庁は、「東日本大震災による負傷の悪化等により亡くなられた方で、災害弔慰金の支給等に関する法律に基づき、当該災害弔慰金の支給対象となった方」と定義付けたが、具体的内容はなお明らかでない。

災害関連死をめぐる様々な問題は、定義の不明確さにも一因がある。

災害関連死の実情

(1) 東日本大震災

東日本大震災では、平成24年3月31日までに1632人の関連死が報告された1)。都道府県別では、1都9県で事例があり、福島県で761人、宮城県で636人、岩手県で193人を数えた。死亡時年齢別では66歳以上が約9割にのぼっている。

図1:災害関連死者数の県別割合2)

このうち1263人について復興庁が調査をしたところ、死亡時期は発災から1か月以内で約5割、3か月以内で約8割を数えた。

死亡原因は、全体で区分すると「避難所等における生活の肉体・精神的疲労」が約3割、「避難所等への移動中の肉体・精神的疲労」が約2割、「病院の機能停止による初期治療の遅れ等」が約2割だった。

県別にみると、岩手県及び宮城県では、「避難所等における生活の肉体・精神的疲労」が約3割、「病院の機能停止による初期治療の遅れ等」が約2割、「地震・津波のストレスによる肉体・精神的負担」が約2割。これに対し、福島県では、「避難所等における生活の肉体・精神的疲労」が約3割、「避難所等への移動中の肉体・精神的疲労」が約3割、「病院の機能停止による初期治療の遅れ等」が約2割だった。原発事故に伴う避難等の影響は明らかだ。

また、自殺者は13人であった。(末尾の表1参照)

(2) 阪神・淡路大震災

阪神・淡路大震災では、兵庫県の死亡者総数6402人のうち919人(約14%)が災害関連死で、長引く避難所生活で体力が低下して感染症等を発症して死亡した例や、病院の機能低下や停電等によって死期が早まった例が目立った3) 。

神戸市などが計17人の自殺者を関連死と認定し、弔慰金の支給対象としたが、政府は災害死とは認めず、全6434人と公表した死者数に含めていない。災害における死の捉え方について課題が残った。

(3) 新潟県中越地震

新潟県中越地震では死亡者総数68人のうち52人(約76%)が災害関連死であった4)。関連死を数多く認めたところに大きな特徴がある。

個別的に見ると、車中の避難者が下肢静脈血栓症・肺血栓症を発症して死亡した例や、地震による過労が原因となり交通事故で死亡した公務員の例などが特徴的である。

図2:災害別/全死者数中に関連死の占める割合5)

災害関連死の判定基準

(1) 判定基準の必要性

災害関連死と判定されると、遺族に災害弔慰金が支給される。したがって、遺族にとっては勿論、支給事務を行う行政にとっても、関連死に該当するかどうかは重要な問題である。

ところが、確立された判定基準はない。厚生労働省は、「認定基準はそれぞれの自治体が独自に判断するもの」との立場だ6)。裁判例では「災害と死亡との間に相当因果関係が認められることが必要である」と判示しているが(大阪高等裁判所平成10年4月28日判決)、その具体的内容はなお解釈を付け加えなければならない。

(2) 解釈方針

災害弔慰金は、遺族に対する弔意及び支援の趣旨で給付するもので、損害賠償金や労災死亡見舞金等とは性質が異なる。

だとすれば、その支給対象となる災害関連死はできる限り広く緩やかに捉えるべきである。

また、相当因果関係の有無は自然科学的な因果関係とは異なる法律上の概念である。したがって、もっぱら医学的な見地から厳格な因果関係を要求するのは制度趣旨にそぐわない。災害がなければその時期に死亡することはなかったと認められる事案については、漏れなく災害弔慰金が支給されなければならない。

例えば、老人が体調悪化により亡くなったケースでは死因が老衰になることは多いと思われるが、たとえ老衰であるとしても、災害がなければその時期に老衰で死亡することはなかったと言えれば、災害関連死と認定されるべきだろう。

また、災害後に体調が悪化した場合は、一旦途中で退院できたとしても、それによって直ちに関連性が失われるのではなく、災害後体調を崩してから災害前と同程度まで回復することのないまま死亡した場合は、やはり災害関連死となるはずだ。

さらに、災害によるストレス等から自殺した場合も排除されることではない。

(3) 長岡基準

新潟県中越地震では、長岡市が独自の基準を立て、東日本大震災では、厚生労働省が一つの参考例として被災地に紹介をした。

長岡基準は、①震災後1週間以内の死亡は震災関連死と推定し、②1ヶ月以内の死亡は震災関連死の可能性が高いとし、③1ヶ月以上経過した場合は震災関連死の可能性が低いとし、④死亡まで6ヶ月以上経過した場合は震災関連死ではないと推定するという時的基準を設けている。

しかし、その科学的根拠は乏しく、あくまで新潟県中越地震を前提としたローカルな基準であって、どの災害にもあてはまる一般的な基準とするには無理がある。避難生活が異常に長引いている東日本大震災に当てはめるべきではない。

他方で、長岡基準は、因果関係について、偶然による事故、重過失、第三者の過失が介在した場合は否定的な要因と捉え、一方、環境の激変については肯定的な要因と捉えている。環境激変の例として、「病院の機能停止による初期治療の遅れ」、「病院の機能停止による既往症の憎悪」、「交通事情等による初期治療の遅れ」、「避難所等生活の肉体・精神的疲労」、「地震のショック、余震への恐怖」、「救助・救護活動等の激務」、「多量の塵灰の吸引」を挙げており、これらは個別案件については参考になる部分である。

特筆すべきは、自殺についても「故意であることだけをもって一概に関連性を否定するものではない」としている点である。発作的なものでなく精神的疾患に基づき、その疾患が震災を契機とするストレスによるものであるとしている点である。これは、労災における過労自死の実務基準に準じたものとして参考になる部分であると考える。

(4) 東日本大震災の判定基準の試み

災害には顔があり、一つとして同じ被害様相はない。災害現象、地域性、環境、社会背景が違えば、被害の有様も違ってくる。となれば、災害関連死のパターンも違ってきて当然である。東日本大震災には、その実情に即した判定のあり方が検討されるべきである。

日本弁護士連合会は、東日本大震災の災害関連死の実情を踏まえ、次のような判定基準を打ち出した。7)

すなわち、①災害がなければその時期に死亡することはなかったと認められる場合はもちろん、②因果関係の途中に因果関係の断絶につながるような事象が若干みられたり、事実認定が困難な空白時期が若干あったとしても、災害がなくても同時期に死亡したことが確実と言えるような場合以外は、弔意の趣旨に沿って災害関連死と広く認定する。③特に、以下の事実に関連して、死亡し、あるいは体調を崩し、あるいは病状を悪化させ、その後震災前と同程度まで体調を回復することなく亡くなった場合等は災害関連死と認めるべき、というものである。

(1) 地震及び津波(地震での怪我、津波で海水を飲んだ、風邪を引いたなど。)

(2) 原子力発電所事故(被ばく、被ばく及びその可能性によるストレス、事故収束作業又は除染作業に伴う疲労等。)

(3) ライフラインの断絶(自宅、避難所、職場、病院等を含む。主に電気の断絶等。)

(4) 避難所、避難先、仮設住宅及び被災した自宅等の住環境の変化(劣悪な避難環境、親戚宅への避難で遠慮して十分に暖がとれなかった、心理的ストレスで体調を崩した、寒すぎる仮設住宅、被災した建物の2階部分での生活、避難先の変更等。)

(5) 周辺の医療機関の状態及び対応の悪化(医療機関自体の被災及び停電により医療機器が使えなくなった、暖房が入らなくなった、災害対応準備のために入院患者を退院させた、必要な薬が不足した、必要な医療器具が使用できない又は患者多数等で転院を余儀なくされたなど。)

(6) 灯油の入手困難及び節電等で十分に暖をとれなかったこと

(7) 体調維持に必要な食事や薬等を入手できなかったこと(持病の薬、流動食、アレルギーに対応した食事等を入手できなかったなど。)

(8) 災害によって生じた人的環境の変化(家族が亡くなった、避難先に知り合いが誰もいなくなった、家族が二重生活を余儀なくされた、解雇された、生業を廃業したなど。)

(9) 災害によって起きた環境変化等によるストレスによる自傷行為等(自殺、アルコール依存等。)

(10) その他災害によって生じた平時にはない特殊な事象(救助活動、ボランティア活動、除染作業等。)

認定の手続上の課題

(1) 審査委員会の設置

災害関連死に該当するかどうかは、市町村において判断する。被害の実情をリアルに捉え、一人ひとりの個別の事情をきめ細やかに把握するには、被害現場となった市町村が個別判断するのが最も適切だからである。そのため、災害弔慰金の支給は、各市町村の条例に基づいて行い、支給主体も市町村としているのである。

判定が難しい案件については、市町村が災害弔慰金支給審査委員会を設置する。災害弔慰金支給審査委員会は、通常、医師や弁護士等の専門家によって構成される。たとえば、岩手県山田町では、医師(外科、精神科)、弁護士、学者の4名で審査委員会を構成している。市町村から審査を受託する岩手県では、医師2名、学者、福祉関係者、弁護士の計5名である。

もっとも、相当因果関係の判断は法的解釈を伴うので、委員のうち少なくとも2名は法律専門家が入るのが望ましい。

また、医師については、過酷な避難生活が心身に与える影響を的確に見極めることが求められているので、ストレス症状について通暁している精神科医が加わるべきである。

東日本大震災では、市町村に審査委員会を置く余裕がない場合には、県に委託して、県に置く審査委員会に判断を委ねている。しかし、被災地から遠く離れた県庁で個々の被災者が置かれた苦境にどれだけ肉薄できるだろうか。温度差は、そのまま判断の深みの差に直結する。被災者や遺族に最も身近で、被災地の実情に根ざした各市町村が自らの責任の下に行うのがあるべき姿である。

(2) 審査の課題

申出件数が多いこと、体制が十分でないことなどの現実的な理由から、審査が不十分と思われる例がある。たとえば、災害と死亡結果との間の相当因果関係の立証責任が申出人にあるとして、申出人の提出した資料のみに依拠し、あるいは、死亡診断書などの若干の調査を経た程度で審査をすれば足りるとする例がある。

また、公平性や行政の統一性を強調し、あるいは、公金の支出なので厳格に審査しなければならないという姿勢を強調し、硬直的な審査が行われている実情が散見される。

しかし、災害弔慰金は、各市町村が死亡者及び遺族に弔意を示すものであり、また、申出人は被災者ないし被災者遺族であるのだから、積極的に調査を尽くすのが本来である。公金の支出であるとしても、補助金等とは違うので、厳格性を貫くのは害が目立つばかりである。むしろ、各案件における事情は様々なのであるから、調査は前例にとらわれず、柔軟に行われる必要がある。

(3) 再審査

災害弔慰金の支給決定は行政処分であるから、異議申立による再審査手続きが予定されている。また、処分の取り消しの訴えを提起することもできる。しかし、これまではこうした理解が行き届かず、単なる見舞金の支給たる温情的な措置に過ぎないという認識から、市町村が不服申し立ての教示をしていない例が散見される。

再審査が行われるケースでは、各自治体に与えられた再度の審査機会でもあるから、当初の審査以上に慎重かつ十分な審査がなされなければならない。

原発避難の特殊性

(1) 南相馬市の災害関連死

南相馬市では282人の災害関連死が認定されている(平成24年3月31日現在)8)。南相馬市によれば、突出して災害関連死者数が多い主な原因は、①医療施設や介護施設等が比較的多く、地域の中核的な役割を果たしていたところ、その入院患者等を全員避難させることになったこと、②原発避難や生活環境の変化によるストレス等で、体調の悪化が見られたこと、③要介護5、寝たきり状態、高齢者といった本来安静を保つ必要のある人を長時間かけ、長距離移動させたために、結果的に死期を早めた、ということである(市認定の要介護5の人数は467人、市全体の70歳以上の高齢者1万4349人)。

この経過を敷衍すると、①3月12日から15日にかけて、原発事故により市の大半の区域が避難指示・屋内退避の指示を受け、多くの市民が避難。②市内の医療・介護施設は、スタッフも避難し、運営が成り立たなくなり、患者の移動・転院が不可避。③避難させるための交通手段がなく、トラックやヘリコプターによる移動。④一旦、県内外の病院や施設、避難所等へ避難したが、受け入れ体制が整わず、さらに別の病院等へ移動。⑤仮設住宅の建設後は、遠方に避難した人々が戻ってきた。⑥避難による環境の変化や、自宅に戻れないストレス等で身体の状態が震災前の状態に戻るケースは少なかった、という事情がある。

(2) 避難事情の共通性

しかし、これらの原因は原発避難者に共通する事情であり、決して南相馬市の特有の事情ではない。

やはり積極的に認定をするかどうかという市の認定の運用に依るところも大きく、他の市町村の認定のあり方に不十分な点がないかどうか点検する必要がある。

そもそも、周知の徹底も必要である。埋もれてしまった震災関連死を見逃してはならない。

災害関連死の防止策

(1) 人間の尊厳

災害関連死は、自然災害を免れてせっかく助かった命であるのに、その後の対応の影響で落命する結果となり、死を防げたのではないかという無念さがつきまとう。

遺族にとって、愛する家族がなぜ死亡したのか、きちんと答えが出ない限り前向きに一歩を踏み出することはできないし、二度と同じ悲劇を繰り返さないで欲しいとの思いが復興への端緒となる。

人命第一の観点から徹底的な検証を行い、防止策を策定しなければならない。その真摯な姿勢が、被災者の「人間の尊厳」に対して求められる態度であろう。

(2) 復興庁の策定する防止策

復興庁の「震災関連死に関する検討会」においては、①震災関連死を防止するには生活再建が大きな課題であること、②被災者等の様々なストレス要因を軽減するため、国、地方公共団体、民間団体等の連携が必要であること、③被災者の見守り活動等の孤立防止や心のケアが必要であること、を関連死防止の基調としつつ、下記のような防止策を挙げている。

                     記

・災害時要援護者対策(要援護者名簿の作成、個人情報保護法制の整理、「災害時要援護者の避難支援ガイドライン」の見直し等)が必要である。

・安全確実な避難(避難計画の周知徹底、避難経路等)が必要である。

・広域避難(各行政主体の受け入れ体制を整備等)

・避難所等における生活(物心両面の配慮、責任者に女性が加わる、ニーズ変化への対応、みなし仮設へのサービス等)

・救命・医療活動(継続と連携、備蓄、DMAT等)

・被災者の心のケアを含めた健康の確保

・緊急物資の提供(プッシュ型の支援等)

・被災地への物資の円滑な供給、ライフライン等の迅速な復旧

・原子力発電所の事故に係る避難のあり方(緊急時の情報提供・情報開示、リスクコミュニケーション等)

(3) むすび

復興庁の検討結果は、最終的な結論ではなく、端緒に過ぎない。本稿も今後の対策に向けて課題を整理したものに過ぎない。

人間の復興の起点とし、人間の尊厳を念頭に置きつつ、本格的な対策が講じられなければならない。

表1:震災関連死の原因として市町村から報告があった事例(出典:復興庁)

参考文献

1) 震災関連死に関する検討会・復興庁(2012):東日本大震災における震災関連死に関する報告、p.1-2

2) データ出典: 震災関連死に関する検討会・復興庁(2012):東日本大震災における震災関連死に関する報告

3) 上田耕蔵:「震災関連死におけるインフルエンザ関連死の重大さ」都市問題100-12、p63-77

4) 新潟県:中越大震災、p7

5) データ出典: 震災関連死に関する検討会・復興庁(2012):東日本大震災における震災関連死に関する報告

6) 中日新聞(2011):2011年6月6日付夕刊

7) 日本弁護士連合会(2012):災害関連死に関する意見書

8) 南相馬市(2012):南相馬市における震災関連死の原因と対応策

プロフィール

津久井進弁護士

弁護士。マンション管理士。1969年愛知県名古屋市生まれ。1993年神戸大学法学部卒業。1995年弁護士登録。弁護士法人芦屋西宮市民法律事務所代表社員。民事・刑事・家事など幅広い分野で弁護士活動をするほか、災害復興の制度改善や被災者に対する法的支援に取り組む。日本弁護士連合会災害復興支援委員会副委員長、阪神・淡路まちづくり支援機構事務局長、関西学院大学災害復興研究所研究員、兵庫県震災復興研究センター監事、公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン監事、福島大学大学院東京サテライト非常勤講師、神戸松蔭女子学院大学非常勤講師ほか。主な著書「Q&A被災者生活再建支援法」(商事法務)、「大災害と法」(岩波新書)、(以下いずれも共著)「災害復興とそのミッション」(クリエイツかもがわ)、「3・11と憲法」(日本評論社)、「災害救助法 徹底活用」(クリエイツかもがわ)、「東日本大震災 復興の正義と倫理―検証と提言50」(クリエイツかもがわ)、「住まいを再生する」(岩波書店)等多数。

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