雇用を生み出せ! 被災地における「キャッシュ・フォー・ワーク」

キャッシュ・フォー・ワークという言葉をご存知だろうか。もともとは発展途上国に対し、労働の報酬として資金を提供しようという考え方だ。この手法を被災地における復興にも応用しようと、さまざまな取り組みが行われてきた。2012年10月に開催された本分科会では、被災地における「製業・生活再建」にスポットをあて、どのような方法で雇用を生み出していったのか、それぞれのキャッシュ・フォー・ワークのかたちについて語り合った。(構成/山本菜々子)

 

 

被災者を雇用するかたちで資金を提供し、支援する

 

永松 東日本大震災からの復興過程で「キャッシュ・フォー・ワーク」という言葉をよく耳にするようになりました。これは、被災者を雇用するかたちで資金を提供し、支援をしようという考え方です。東日本大震災以降、わたしはこのキャッシュ・フォー・ワークを各地に広めてまいりました。

 

本日は2タイプのパネリストの方に来ていただきました。一方は「復興グッズ」を制作することで、仕事を創出しようとしている方々。もう一方は政府の緊急雇用事業を使いながら、被災者が被災者を支援するかたちで雇用を生み出そうと試みている方々です。両者を有機的に組み合わせることによって、被災地の復興が成り立っていくとわたしは考えています。

 

最初に刺し子の制作に取り組んでいる、テラ・ルネッサンスの鈴鹿さんお願いします。

 

 

「刺し子作りに没頭することで、震災の嫌なことを忘れられる」

 

鈴鹿 わたしたちは「大槌刺し子プロジェクト」を行っています。商品はコースター・布巾・ランチョンマットなどを扱っています。

 

大槌刺し子プロジェクト;http://tomotsuna.jp/

 

活動内容としては、大槌町中高年の女性40名程の皆さんに刺し子をつくっていただき、インターネットなどを通して全国に販売しています。活動に参加する際に、希望者には講習会に参加いただき、刺し子の作り方を覚えていただいています。2012年8月末までの累計で、販売枚数は1万7000枚、売り上げが約2千万円、登録人数が187名、つくり手の刺し子さんに928万円をお渡ししています。

 

80代女性の刺し子さんの声を紹介します。「『米でも買って』とお給料を渡し、家族に喜ばれるのが一番です」。その他にも「少しでも収入になるので助かります」「刺し子をつくっていることで、作業に没頭できる。津波や震災のつらいことを忘れることができる」「震災後、仮設住宅に移り、以前近所方たちがどこにいるのか分からなったが、毎週設けられる刺し子会で、安否を確認できた」といった声も寄せられています。

 

販売はイベントやインターネットを使っておこなっています。また、2012年の夏はap bank fesなどのイベントで販売させていただきました。販売代理店も少しずつ増やしています。自主店舗が19店舗。オンラインの店舗が8店舗です。また、ファックスと電話注文も受けつけています。

 

売り上げはイベントが大きな割合を締めています。とくにap bank fesのような大きなイベントではndymoriというアーティストの方が販売場所にきてくださって、とても注目を浴びました。Tシャツの販売など、コラボ商品にも取り組んでいまして、大手通販会社のフェリシモとエコバック・ミニトートなどを制作しています。また、Yシャツのポケットのところに刺し子を施した、「刺し子スーツ」というのも特注でつくっていますし、声援団の方々が集まって東北を支援するライブをおこなう際には、特注のTシャツを注文していただいています。

 

現在の課題は、プロジェクトを安定させていくことですね。震災後1年以内は、復興への関心も高く、積極的な営業をかけなくても売れていく状況でした。しかし、時間が経つにつれて関心が薄れ、一時的に販売数が落ち込んだ時期もあります。いまは冬に向けてパーカーをつくっているところで、早ければ今月にも販売する予定です。

 

目標は、10年以内の産業化実現です。小さくても現地で雇用を生み出し、刺し子の収益によってお母さんたちが収入を得られるような、コミュニティービジネスの仕組みをつくりたいと思っています。具体的には商品の支払いにより、生活再建を促進すること。また、刺し子をつくることによって、心のケアやご自身で収入を得る事で生きがいを得てもらうということです。

 

永松 ありがとうございました。「大槌刺し子プロジェクト」ではメディア利用はあまりされていませんが、売り上げ規模が大きいことに驚きました。とても健闘しているなという印象を受けました。

 

次に、SAVE IWATEの寺井さんお願いします。

 

 

「ぞうきん」と「くるみ」で仕事づくり

 

寺井 SAVE IWATEで活動をしている寺井と申します。SAVE IWATEは、震災直後の3月13日に「この状況をなんとかしたい」という思いのもと、盛岡の有志があつまって立ち上げた団体です。震災直後は支援物資を被災者に届けるという活動をしていましたが、少しずつ被災地の方に仕事を提供する活動を増やしていきました。現時点でスタッフが50人程、ボランティアの方も毎日10~20名の体制で活動しています。ちなみに、SAVE IWATEのマスコットキャラクターをしりあがり寿さんに提供していただいています。

 

SAVE IWATE;http://sviwate.wordpress.com/ 

 

仕事づくりの話は、大きく分けてふたつあります。

 

ひとつ目は「復興ぞうきん」です。いままでに3万6000枚を製作しました。支援物資のタオルを被災者の方に縫って頂き、ぞうきんにしてもらいます。評判もよく、予約注文も溜まっている状態です。

 

震災後、沿岸部の被災地から内陸に避難された方のなかには、温泉やホテルを避難所として利用する方もいらっしゃいました。はじめは温泉に入れたりして良い環境だったのですが、ときを経るにつれ、温泉での避難生活を苦痛に感じられる方が多く見られました。やはりなにもすることがないのは、人間にとってつらいことなんですね。しかもあの震災を経験されていらっしゃいますから、やることがないと嫌なことばかり思い浮かんでしまう。非常に苦しい時間をみなさん過ごされていたんです。

 

一方、わたしたちはたくさんの支援物資をお預かりしていたのですが、余剰物資も多くありました。そのひとつが、タオルです。山のように集まって使い道に困ったタオルと、なにもすることがなくつらい思いをされている避難者の皆さん。「タオルを使って、被災者の方にぞうきんを縫ってもらおう」というアイディアが生まれ、「復興ぞうきん」が始まったんです。

 

このアイディアが受け入れていただけるか心配もありました。最初に相談をしにいったところでは難色を示されて結局断られてしまいました。転機となったのは、ある旅館でスタッフが何気なくぞうきんを縫っていたところ、避難者の方が「おもしろそうだ、やりたい」と寄ってきてくださったときです。このことがきっかけとなり、盛岡市にある愛真館という旅館にタオルと糸と針を持ち込み、この事業が本格的にスタートします。人によって縫い方もさまざまで、色とりどりの綺麗な糸を使って、幾何学模様や凝りに凝った模様で縫ってくださる方もいます。そのぞうきんを200円で買い取り、300円で販売しています。100円はこちらで経費として使用しています。

 

ぞうきん以外にもいろいろつくってみたいという方には、衣料品のリフォームをしていただいています。衣料品も余剰物質のひとつですし、汚れたものや破れたものもあり、被災者の皆さんに配れないものも多いんです。またヤマブドウの藁でかごづくりをしてみたいなあとも、考えています。

 

ふたつ目の取り組みとして、三陸地方でたくさんとれる「和グルミ」を使った仕事づくりがあります。岩手では古くから美味しい味を「クルミ味」と表現するほど、この地域のクルミはとても美味しいんです。しかし現在では、クルミを食べるまでに手間がかかるため、くるみがほとんど料理に使われずにいます。このクルミをなんとか使いたいと思い、活用方法を考えました。

 

まずはわたしの独断で、昨年の秋から被災地に向けて「クルミを買い取りますので、集めてください」と声がけをはじめました。すると昨年はたまたまクルミの大豊作の年で、最終的に約320人が23トンのクルミを集めてくださった。いまさら「買えない」とは言えませんから、総額600万円分すべて、買ってしまいました……(笑)。あまりに大量のクルミに、周りのスタッフも「こんな量をいったいどうするのか」と不安げに見てくるのですが、とにかく買い集めました。

 

買い取り資金の出所は、去年作成した「三陸復興カレンダー」の売り上げです。一部1000円で、およそ一万部も売れて。この収益をほとんどクルミにつぎ込みました。ちなみに2013年のカレンダーももう完成していますので、ぜひ買い支えていただければと思います(笑)。

 

集めたクルミは専門の器具を使って殻むきをして販売しています。蕎麦屋さんに、つゆに混ぜていただいたり、おかしにしてもらったり、料理屋さんで使ってもらったりしています。いまはクルミのタレを開発中で、被災した赤武酒造と連携してくるみのリキュールなどにも取り組んでいます。

 

永松 こういった場ではなかなか聞く機会がない、資金繰りのお話まで伺うことができて大変参考になりました。震災後から始まった活動であるということも意外でした。ボランティアだけでなく、ビジネスの側面も強い活動ですね。

次に「おだがいさま工房」の天野さんお願いします。

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.222 特集:沖縄

・仲村清司氏インタビュー「変わる沖縄——失われる心と『沖縄問題』」

・宮城大蔵「静かに深まる危機——沖縄基地問題の二〇年」

・北村毅「戦争の『犠牲』のリアリティー:当事者不在の政治の行く末にあるもの」

・神戸和佳子「『わからなさ』の中でいかに語り考えるのか——沖縄をめぐる哲学対話の実践から」

・山本ぽてと「沖縄トイレットペーパー産業史」
・齋藤直子(絵)×岸政彦(文)「Yeah! めっちゃ平日」