変容し続ける「復興情報」をとらえ、災害の過去、現在、未来をつなぐ

個人情報取り扱いのパラダイムシフト

 

岡本 藤沢さん、磯辺さん、開沼さんと、これまで国や行政などの間隙を埋める、ある意味で民間の担い手の側面からお話をしてきました。一方で、復興では行政も大きな担い手となります。むしろ行政があるからこそ活動できるところがある。

 

津久井 行政の存在は極めて重要ですね。行政は一般的に批判の的になって、課題の集積場のように語られがちですが、今回は、行政によって非常に上手に情報が流通した例もあったんですよね。

 

岡本 避難所での法律相談にせよ、ボランティアにせよ、まずは行政や自治体の理解、手引きがなければ動けません。そして行政内にコーディネーター役がいて、情報を適切に回せる土壌が作られているほど、われわれは動きやすくなるんですね。そうした中で岩手県の取り組みは注目に値するものでした。そこで当時、岩手県法務学事課で災害復興支援に当たっていた山本和広さんに災害後の岩手県の取り組みをお話いただきました。

 

岩手県は、避難所の安否情報リストを率先して開示し、また避難所にいる障がいを負われている方、とくに視覚障がい者の方の情報を民間支援団体に提供しました。もちろん、本人の同意はとっていません。いま考えてみれば、当然のことをやったまでだと言えるのですが、本人の同意もなく個人情報を提供するということは、これまでの行政の常識から考えるとたいへん思いきったことなんです。

 

津久井 東日本大震災では、ほとんどの自治体が個人情報を開示していませんね。

 

岡本 個人情報保護条例の解釈の問題です。行政の現場としては、本人の同意をとらないと個人情報を開示したり、別の目的で利用することはなかなか難しいんですね。ただ、実は条例にもいろいろと規定があって、緊急性があるときは、本人の同意なく個人情報を提供してもよいことになっているんです。

 

行政は、普段からそういった、本人の同意なくして個人情報を共有するという緊急事態を想定しているわけではありませんから、そんな思い切ったことをやろうと考えないのは仕方ないことです。しかし岩手県は、個人情報保護条例やガイドラインをしっかり調べて、既存の法令でできる範囲のことはやろうとした。かなり初期の段階から、避難者名簿を必要としている民間支援団体と情報を共有していたとのことです。そのおかげでNPOなどが、各市町村の避難所をまわって、きめ細やかに障害者などの生活再建支援するという実績ができたんですね。

 

津久井 岩手県の実践は、平成25年度の災害対策基本法の大改正に影響していると思っています。そういう意味で非常に先例価値が高い。

 

岩手県に限らず、行政、自治体は情報を開示する必要性は十分承知していました。しかしどうしたらよいのか悩んでいるのが現状です。そんな中、岩手県は新しい仕組み作りをしているんですよね。

 

岡本 そうです。岩手県の先例に対して「緊急性の高いときだったからこそ例外的にできたのでは」と言われることがあります。しかしその指摘が正しいとしたら、次の災害でも、なかなか個人情報の共有が進まないということが繰り返されてしまうということです。岩手県はあくまで、冷静に個人情報保護条例を解釈して政策を実践したと評価できます。

 

岩手県は、将来の災害を見据えた上で、緊急時や安否確認のフェーズだけではなく、生活再建のフェーズでも個人情報を共有できるような仕組みを作りました。他の自治体や民間の支援団体が、復興支援のために網羅的な個人情報(名簿など)を必要としていた場合に、本人の同意がなくても個人情報を提供できる仕組みです。大まかにいえば、目的に正当性があり、団体に適格性があるような場合は、情報を提供できることになりました。つまり、いままさに人命にかかわる事態に陥っているという状況でなくても良いのです。岩手県の個人情報保護審議会がこの新しいルールを承認しました。

 

これはたいへん貴重な取り組みです。復興支援という名目で、他の災害でも使えるような、いままでの実務の常識を覆す大転換となる先例価値があります。これが日本全国に広まれば、首都直下型地震や南海トラフ地震が発生しても、速やかに個人情報を支援団体に提供でき、より迅速に救助・救命、そして復興が行えるようになるわけです。

 

 

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行政も住民も個人情報保護と共有の実務を知ることからスタートを

 

津久井 個人情報を同意なく提供されることに反対する声も予想されますよね。

 

岡本 確かにそういう声は自治体職員の中からもありました。

 

私自身も、個人情報共有の必要性について言及してきました。岩手県以外にも先例はいろいろとあります。例えば、日ごろから見守りや孤立防止の取り組みをするために、本人の同意なくして、高齢者などの個人情報を、行政と支援者とで共有している自治体もあります。住民にとってみると、最初は「どうやってうちに来たんですか?」と戸惑われる方もいるものの、目的を説明するとむしろ感謝されるんですね。クレームはあまり聞かないそうです。

 

津久井 そうですよね。私の経験からもそう思います。

 

岡本 クレームを恐れるのは、個人情報に関する仕組みが知られていないためです。住人にも自治体職員にも、もともと個人情報は、共有した上での活用ができるということを知ってほしいと思います。

 

津久井 行政も自治体も情報共有の必要性は感じているものの、それをシステムが阻害している面がある。復興情報の課題のひとつは、情報を流通させる制度にあると、山本さんのお話を通じてよくわかりました。

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.222 特集:沖縄

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