2014.10.05

ソレは突然やってくる――『父と息子の大闘病日記』(他)

今週のオススメ本 / シノドス編集部

情報 #廣瀬陽子#神足祐太郎#神足裕司#未承認国家と覇権なき世界#父と息子の大闘病日記

『父と息子の大闘病日記』(扶桑社)/神足祐太郎・神足裕司

ソレは突然やってくる――2011年9月。父・神足裕司がくも膜下出血で倒れた。息子である祐太郎は当時24歳で社会人2年目。転院ってどうすればいいの? 在宅介護はどうやれば? 妹の学費はどうしたら? なんにもわからないまま、病気、介護、お金、といった問題に家族は巻き込まれていく。

今回、紹介する『父と息子の大闘病日記』は、父のケアの過程を、息子の目線で描き、それに対し父が応答を行う形で書かれたエッセイだ。ケアする側と、ケアされる側、両方の視点で進んでいく。

転院してリハビリがはじまり、笑顔が少なくなっていく父の様子を気遣う息子。一方父は、「幼児と変わらない」馬鹿にされたように感じるプログラムと、「この人できないんじゃない」と思われながらやることにいら立っている。言葉で表せないだけで、患者は敏感に感じ取っているのだ。

また、くも膜下出血から生還し、「高次脳機能障害」になってしまったと診断を受けるのだが、「ボクは高次脳機能障害という病気になっているというが、ボクはそうではないと思う。ボクにはわかっている。けれど、言えないのだ。もう少しゆっくり話してくれればすべてが解決する。誰かボクをわかってくれ!」と父は書き綴る。

少し体が動かなくなったり、意思の伝達が不自由になるだけで、急激に主体性のないものとして扱われてしまう。その事実にハッとさせられると同時に、「多少考え方が変わって、多少やる気がなくなっても父は父だ。笑い方やちょっとしたしぐさがそれを教えてくれる。」と受け止める息子の姿に少し救われるような気持ちになる。

父が毎年つくってくれたおせち、「お尻を三回ふけ」という家訓、二十歳になった息子を行きつけの飲み屋に連れて行く父。闘病前のエピソードの一つ一つが、ケアし、ケアされる関係になっても、確かに輝き続ける。紡ぎ出される物語は、「闘病もの」の枠を超えた親子の物語として、読む人の心を打つだろう。(評者/山本菜々子)

『未承認国家と覇権なき世界』(NHKブックス)/廣瀬陽子

スコットランドの住民投票、イスラエルとパレスチナ自治区ガザの地上戦、はたまた香港の民主化デモ、ウクライナ東部の波乱、そしてそれに影響を受けて世界各地で起きる分離化への希求……。

いままさに世界のいたるところで起きている、これまでの「国家」という枠組みを揺るがす出来事。それらを紐解くのに有効なひとつの考え方がある。それが「未承認国家」だ。

「未承認国家」と聞いても漠然とした印象しか持てないかもしれない。最もわかりやすい例は、ソ連解体後の東欧・中東で起きた各地の内戦、紛争、あるいはわれわれに身近な台湾があげられるだろう。つまり、「未承認国家」とは、著者の廣瀬氏がもっとも適切と考えるニーナ・カスパーセンの定義を要約すれば下記の5つの定義によるものである。

・権利を主張する少なくとも3分の2の領土とおよび主要な都市とカギとなる地域を含む領域を含合しつつ、事実上の独立を達成している。

・指導部はさらなる国家制度の樹立と自らの正統性の論証を目指す。

・エンティティ(政治的な構成体)は公式に独立を宣言している。ないし、たとえば、独立を問う住民投票、独自通貨の採用、明らかに分離した国家であることを示すような同様の行為を通じて、独立に対する明確な熱望を表明している。

・エンティティは国際的な承認を得ていない、ないし、せいぜいその保護国およびその他のあまり重要でない数カ国の承認を植えているにすぎない、

・少なくとも2年間存続しつづけている。

これをみればわかるとおり、いま私たちが生きる現在は、既存の「未承認国家」によって引き起こされている問題や、新たな「未承認国家」が現出しつつあるということである。

本書の冒頭では「(主権)国家」という枠組みが、あまりに茫漠で、大国の思惑に左右された、頼りないものということがわかる。そして読みすすめていけばいくほどに、現出しつつある「未承認国家」が今後辿ることになるであろう道のりの、困難さを感じることができる。

それは「領土保全」「民族自決」「アイデンティティ」といった既存の概念では割り切ることのできない複雑な様相を呈しており、これからさらに長引く混沌を感じさせる。日本に、アジアに生きる我々が、「未承認」の国家を覗くとき、おそらくわれわれは、当然のものとしている「国家」という概念に見つめられている。いま必読の一冊といえるだろう。(評者/金子昂)

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