特集:世界を動かすメディアの深層

高木徹氏インタビュー「国際社会を生き抜くためのPR――国際情報戦の裏側に迫る」

 

情報は、自分だけが知っていても意味がない。現代の国際社会で生き残るには、情報を「武器」として、効果的に人々に伝えられるかが鍵になる。そう語るのはテレビプロデューサーの高木徹氏だ。政治家、国家、テロ組織。さまざまなアクターが国際社会の中で地位を築くためにPR戦を戦っている。その熾烈な情報戦の裏側を、高木氏に伺った。(取材・構成/増田穂)

 

◇記事制作過程に影響を及ぼす

 

――そもそもPRとはどのようなものなのでしょうか。

 

PRは「パブリック・リレーションズ(Public Relations)」の略ですが、うまい日本語訳はありません。「広報」と位置付ける方もいらっしゃいますが、厳密な意味では広報とも異なります。

 

PRを説明するには広告と対比させるとわかりやすいかもしれません。広告というのはスポンサーがお金を払って、紙面や放送枠を購入します。お金を出しているわけですから、自分の宣伝を自由にできるわけです。CMのように明らかに宣伝だとわかるものもあれば、タイアップ記事のように一見すると普通の記事と見間違えるようなものもありますが、スポンサーがいて、その枠を買っているという点で、その本質は同じ広告です。

 

これに対してPR、特にマスメディアとの間で行われるメディア・リレーションズの対象は、新聞社やテレビ局などの報道機関が自ら取材して、自らの意思で編集して、自らの責任において出す記事、ということになります。ですから基本的には記事そのものなんです。報道機関が記事を作成する過程に影響を及ぼし、聴衆にクライアントにプラスになる、思惑通りの何かしらのイメージを抱かせる。それがPRの手法です。

 

 

――つまりそもそも報道機関は広告として情報を扱っているわけではないのに、広告のような効果をもたらすということですね。

 

そうですね。PRの場合、本来書き手のジャーナリスト側が自発的に情報を選び読者や視聴者に届けていると思っているところに介入するので、広告よりも高度な技術が必要になります。少し悪い言い方で言えば手練手管です。さまざまなテクニックを駆使して、メディアや政策決定者、有権者の代表である議会、オピニオンリーダーなどの対象とコミュニケーションをとり、クライアントに有利な世論を生み出す。それがPRの神髄です。

 

 

――PRというとアメリカが有名ですが、日本にもPR会社はあるんですか。

 

日本の場合はそもそもパブリック・リレーションズの概念がなく、宣伝活動においてはやはり広告会社がメインになってきます。博報堂や電通が有名ですよね。こうした会社が組織の中にPR部門を設けていたり、子会社としてPR会社を持っていたりします。もちろん独立系のPR会社も沢山あるのですが、欧米のように規模の大きい大手のPR会社はありません。結果余計に広告とPRが混同されてしまっていると思います。

 

 

――PRの重要性はどういった点にあるのでしょうか。

 

今申し上げたように、PRの重要性は世論を形成するところにあります。民主主義国家であれば、当然選挙によって政治が決まっていくわけですよね。その時のアジェンダセッティング、つまり今この社会で何が問題として取り上げられているのか、問題とするべきなのか、そうしたことはメディアの潮流の中から生まれてきます。

 

同時に、現代社会は間接民主制ですから、問題として位置づけられた諸課題に、政党の代表たちがどのように取り組むつもりなのか、そうした情報も集める必要が出てきます。選挙演説を聞く、集会に行くなど、候補者から直接話を聞く機会もないわけではありません。しかし忙しい我々のほとんどは、選挙に必要な情報をメディアから得るのではないのでしょうか。

 

となると、世の中では社会の問題を規定する上でも、また、その問題に対する政策を決定し、社会の進むべき方向性を決めていく上でも、メディアは民主主義社会の中で主役の一つにならざるを得ません。当然、世の中を動かすためはメディア上でどのように取り上げられるかが重要な部分になってくるわけです。PRとは、そうした社会の動きの根本に影響を及ぼす死活的な活動なのです。

 

 

◇ボスニア紛争の裏側で活躍したPR会社

 

――世論を動かす死活的な影響力という点では、ボスニア紛争時のアメリカでのPR活動が非常に印象的でした。

 

ユーゴスラビアの解体とともに誕生したばかりのボスニア・ヘルツェゴビナ政府が、独立に反対する隣国セルビアとの紛争中、アメリカをはじめとする国際社会からの援助を得ようと、アメリカのPR会社に依頼して自分たちに有利な国際世論を形成した話ですね。

 

 

――はい。結果として、それまでボスニアの内戦に無関心だったアメリカ政府は軍事介入を行うまでになりました。高木さんは『戦争広告代理店』でその詳細をレポートされていますが、当時はどのようなPR活動が行われたんですか。

 

依頼を受けたルーダー・フィン社は本当に様々な手練手管を駆使しました。注目すべきテクニックとしては「サウンドバイト」「バズワード」「サダマイズ」があげられるでしょう。これは現在の国際メディア情報戦にも通じるPRの基本的なテクニックです。

 

まず「サウンドバイト」はもともとテレビの業界用語ですが、記者会見での長い発言の中で、重要な部分だけを切り取った短い断片のことです。本来会見は数分から数十分続きます。しかしニュースの枠の中でその全ては放送できませんし、だらだらと長い会見は視聴者も飽きてしまいます。そこでメディアでは要人の発言の中から最もインパクトのある部分を、十数秒という長さに切り取って報道することが一般的です。

 

ボスニアからは外相のハリス・シライジッチがPRためにアメリカに滞在していました。依頼を受けたルーダー・フィン社でボスニアの案件を担当したジム・ハーフは、内戦が激化するボスニアの情勢を伝えるスポークスマンとして、シライジッチを徹底的に訓練します。もともと大学で歴史を教えていたシライジッチは、テレビでボスニア紛争に関して説明をする際も、民族対立の歴史的な背景などを説明したがりました。しかし十数秒しかない枠の中で、長々と講釈を垂れるのはPRとしては最悪です。ジム・ハーフはアメリカのメディアを相手にした簡潔な喋り方をシライジッチに叩き込んだのです。

 

もともとメディア映えする風貌だったシライジッチは、サウンドバイトをはじめとするアメリカメディア向けのプレゼンテーション術を習得することで、「危機に瀕するボスニア人のために、つい今しがた、流血と殺戮の現場サラエボからやってきた外相」というイメージを見事に作り上げ、アメリカ世論に影響力をもつキャラクターとなっていきました。……つづきはα-Synodos vol.225で!

 

 

荻上チキ責任編集“α-Synodos”vol.225

 

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2017.08.01 vol.225 特集:世界を動かすメディアの深層

 

1.高木徹氏インタビュー「国際社会を生き抜くためのPR――国際情報戦の裏側に迫る」

2.【フェイクニュースQ&A】平和博(解説)「フェイクニュース蔓延にどう向き合うか」

3.【あの事件・あの出来事を振り返る】松尾匡「悪しき国家介入とデフレ不況――小泉『構造改革』が残した負の遺産」

4.富永京子 「学びなおしの5冊 <社会運動>」

 

 

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