タンザニア農民との学び――国家の周縁地で森林保全とエネルギーの関係を考える

試行錯誤のプロセスを共有する

 

もちろん、こうした交流を重ねたからといって、ニャムワンガの村で植林や水力発電の取り組みが順風満帆に進んでいくわけではない。

 

たとえば植林に関しては、気候や土壌などの生態環境に応じて育成しやすい樹種が変わるため、利用目的に応じて地域にあった樹種を試験選抜する必要がある。また、人工林が無秩序に拡大して天然林の生育場所を脅かすようでは本末転倒だ。地域全体の植生バランスを考慮しながら、どのような樹種を、どこに、どれだけ植えるのか、管理・モニタリングしていくことが大切である。

 

他にもハードルは多い。ベナから苗木を譲り受けて2014年末から2015年初頭の雨季に植林したパツラマツは、いま、ニャムワンガの村にはほとんど残っていない。降雨が少ない環境に耐えて活着したが、ヤギやウシ、ブタなどの家畜による食害を受けて枯れてしまったのだ。

 

民家があつまる集落の近くに植林したことも、被害を大きくした。家畜は夜のあいだ集落にある家畜囲いに繋がれるが、その周囲に植林された苗木は、朝夕の放牧の行き帰りに食べるのにうってつけだった。そこで翌年からは、集落から離れた畑に植林する方針をとるとともに、集落で植林する場合は苗木を木の柵で囲うことにした。これによって家畜の食害は減ったが、柵をつくるために他の木を伐採するという矛盾も生じていて、悩ましい。

 

ベナとの交流から1年が経過した2015年中盤、食害にもめげず、交流に参加した村人が率先して数千本の苗木生産に取り組むようになったが、そこでも新たな問題が浮上した。育苗に要する労働負担の大きさである。

 

当時、住民グループには50人を超えるメンバーが参加していて、そのなかの十名程度が環境委員会を組織し、メンバー全員の苗木生産を担う体制となっていた。雨が降りはじめる年末から翌年初頭に植林するため、苗木は乾季のあいだに育てる。培土を調合して育苗チューブに詰める仕事に加え、播種から3ヶ月にわたって毎日の水やりが欠かせない。環境委員らが2人一組になって2週間交代で水やりを完遂したが、負担感は大きかった。

 

とりわけ、さまざまなグループ活動にはあまり参加しないで苗木だけもらっていくフリーライダーへの不満が募った。そこでグループの組織体制を見直し、活動への参加率が悪いメンバーをすべて除籍した。メンバー数は半分程度まで落ち込んだが、2016年乾季の苗木生産では、曜日ごとに水やり当番を決めて全員が従事する体制をつくることができた。

 

育苗体制が整うのと前後して、もうひとつ深刻な問題が顕在化した。それは野火被害である。焼畑にかぎらず、放牧家畜のための新鮮な食草をえるために、あるいは狩猟で獲物を追い詰めやすくするために、タンザニアの農村の人びとは原野に火を放つ。こうした火は自然消火に任されていることから、しばしば野火が発生する。

 

ニャムワンガの村では、集落から離れた畑の一帯は放牧地や狩猟場も兼ねていて、作物の収穫をおえたあと、あちこちで火が放たれる。それによって、畑に移植した苗木の大半が焼失してしまったのだ。

 

一方、ベナの村では、植林の拡大にともなって火を管理する仕組みが地域全体で構築されており、屋外で火を使う時の許可制度や、植林地を囲う厳重な防火帯、携帯電話をつかった消火ネットワークなどによって、現在では野火被害がほとんど見られなくなっている。住民交流の際にこれらの仕組みを見聞したものの、ニャムワンガの村ではまだ浸透していない。住民グループに参加していない村人への働きかけも含めて、どうやって野火被害を防いでいくか、模索を続けている。

 

水力発電に関しては、まずは発電技術を確立するまでにさまざまな苦労があった。活動している村には、モンバ川という大きな河川が流れている。水力発電は、流れる水の量が多いほど、また、水を落とす位置が高いほど、水車をまわすための大きなエネルギー(=電力)を得られる。

 

パングワの人びとが暮らす地域は、流量は多くないものの、落差を確保することによって発電を可能にしていた。モンバ川は、流量は雨季・乾季をとおして問題ないものの、落差が確保できないところに難があった。河川の脇に等高線に沿って水路をつくって標高差を得ようにも、まわりは岩だらけでむずかしい。

 

とにかく試してみようと、最初の取り組み(1号機の製作)では、すべて現地で調達できる材料を使い、パングワの人びとが実践しているタイプの水車を設置してみた。しかしながら、落差がネックとなり、発電には至らなかった。そこで、私たちは村人とともに、近くの町工場の技術者や、日本で小規模分散型エネルギーの取り組みを進めている研究者・技術者と交流を深めて、打開策を考えた。

 

そこで行き着いたのは、大正時代に富山県の砺波平野で生まれた「らせん水車」であった。一般的な円形の水車と違ってスクリューの形をしたこの水車は、落差が少ない緩傾斜でも回るという特性をもっている。砺波平野ではかつて農作業の動力に利用していたのだが、近年の分散型エネルギー開発の取り組みのなかで、発電用の水車として再評価されていたのである。日本とアフリカの現代的事情がシンクロしていたのも、私たちがらせん水車に出会えた要因であったと思う。苦心を重ね、事業に取り組んで3年目にしてようやく発電することができた(Okamura et al. 2015)。

 

 

完成したらせん水車による発電

完成したらせん水車による発電

 

 

しかし、軽量化や雨季の増水への対応などの課題が残されていて、電気は必ずしも安定的には使えてこなかった。現在、3号機を作り、さらなる改良を進めているが、ここで力を注いだのは、「電気の見える化」であった。

 

河川は雨季の後、水位が最大になり、そこから乾季になるにつれて流量がだんだんと減っていく。そのため、水車は固定式ではなくモバイル型で、流量の低下にあわせて適地を探すという形態をとる。電線を家までひくのではなく、その場で小型のバッテリーに充電し、家に持ち帰って電灯などにつなげて使うのである。

 

3号機では、ソーラー発電にも利用されている充電用のコントローラーをセットし、充電が完了するとLEDライトが知らせる仕組みをつくったことで、村人が充電にどれだけの時間が必要かを視覚的に確認できるようになった。流量の増減はそのままバッテリーの充電時間に影響するので、村人は使える電気の量と水位の関係に思いをめぐらせるようになる。

 

村内には、モンバ川とは別に、小高い丘の周辺から流れる小河川がいくつか流れていたが、森林環境の荒廃とともに、現在では雨季のみに現れる季節河川となってしまった。自然エネルギーの利用が、水資源と森林環境との関連性を気づかせ、人工林の造成や自然林の再生事業へもつながることを期待している。

 

植林にしても、水力発電にしても一筋縄ではいかない。活動の進行とともに生じるさまざまな出来事について村人ともに検討し、そこから得られた知見をフィードバックしながら対応策を講じていくこと、また長期的な視点のなかで捉えることが大切だと考えている。長期的に成果を捉えることは、短期間で具体的な成果を求める一般的な開発プロジェクトでは受け入れられにくいものだが、活動をともにする村人自身がその重要性を理解していることに勇気づけられている。

 

 

充電の方法について学ぶ村人。中央は共同研究者・岡村鉄兵氏(名古屋大学)

充電の方法について学ぶ村人。中央は共同研究者・岡村鉄兵氏(名古屋大学)

 

 

さまざまな要素のつながりのなかで考える

 

FAO(国連食糧農業機関)の統計によると、タンザニアは2010年から2015年の5年間の森林消失率が世界第5位という深刻な状況にある(FAO 2015)。ミレニアム開発目標のポスト計画として立ち上がった持続可能な開発目標では、その名のとおり多くが環境に関する達成目標を掲げている。この方向性自体は正しいと考えるが、効果的な事業を推進するためには、ミクロ・レベルの正確な実態把握が欠かせない。

 

ここで紹介してきたのは、植林と水力発電という2つの事業だが、気をつけなければならないのは、それらを、農村生活のさまざまな要素のつながりのなかで捉える必要があるということだ。前述したように、苗を植えても家畜がつながれていなければ、苗は食害の餌食になる。であれば家畜を小屋のなかで飼うこと(舎飼い)も考えなければいけないのだが、そうなると飼料となる樹木の葉や葉菜類などを安定的に調達しなければならない。

 

ところが村では、生活用水を川から汲んでいるため、乾季になると舎飼いをするための飼料どころか、村人が日常的に食用とする葉菜類の栽培もままならない。水汲みに何往復もしなければならず、労働力に余裕がないのである。そこで私たちは現在、電気や燃料を使わず、わずかな落差を利用して数倍~数十倍の高さに水を揚げることのできる水撃ポンプという技術を活用することを試みている。

 

同時に、舎飼いを推奨するような村の条例への働きかけといった制度づくりにも関与している。このように、地域で生じている問題に取り組むには、必然的に総合的な視点に立ちながら、複数の活動を同時進行することになる。そして、こうした活動の経済的な有用性はもちろんのこと、地域の文化や社会的な要素とどのように折り合いをつけるかを考えなければならない。たとえば、一部の人びとが経済的に突出しないような配慮をすることが大前提になる。

 

はっきりしているのは、農村部の人びとは、生活のための自然環境をなんとかしなければならないということを十分理解していることだ。なかなか状況が改善されない様子を見た外部者からは、「アフリカは環境保全の意識が低い」、「教育が足りない」という意見が時々聞かれるが、私たちはそうした論調には強い違和感がある。

 

あるいは人びとが現在、植林をしないからといって、それが彼らの「ニーズ」ではないと断言することも危うい。問題は、目の前の経済的な問題に対処せざるを得ないために、自分たちを取り巻く環境問題の解決に向けてどのように取り組んだら良いのかわからない、長期的に取り組むことができない、という背景が置き去りにされていることにある。目の前のニーズの充足と潜在的なニーズへの対応のギャップを埋めるという視点が大事なのではないだろうか。

 

 

引用文献

 

・FAO (2015) Global Forest Resource Assessment 2015
(http://www.uncclearn.org/sites/default/files/inventory/a-i4793e.pdf)

・伊谷樹一(2016a)「生業と生態の新たな関係」重田眞義・伊谷樹一編『争わないための生業実践-生態資源と人びとの関わり』(アフリカ潜在力シリーズ 第4巻)京都大学学術出版会、pp.3-16。

・伊谷樹一(2016b)「アフリカで木を育てる」『FIELD PLUS (フィールド・プラス) 』15: 14-15。

・近藤史(2016)「半乾燥地域の林業を支える火との付きあい方―タンザニア南部、ベナの農村の事例から」重田・伊谷編著『争わないための生業実践―生態資源と人びとの関わり』(アフリカ潜在力シリーズ 第4巻)京都大学学術出版会、pp.181-241。

・黒崎龍悟(2016)「水資源の活用と環境の再生―小型水力発電をめぐって」重田・伊谷編『争わないための生業実践―生態資源と人びとの関わり』(アフリカ潜在力シリーズ 第4巻)京都大学学術出版会、pp.301-330。 

・Okamura T., R. Kurosaki, J. Itani, and M. Takano(2015)Development and Introduction of a pico-hydro system in Southern Tanzania. African Study Monographs,36 (2): 117–137.

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

 

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ISBN-10 : 4814000081

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