韓国という「国のかたち」――朴槿恵大統領の弾劾というケース

憲法裁判所は国民の期待どおりに「罷免」するか

 

韓国憲法では、国会による弾劾訴追を受けて、最終的に罷免するかを審判するのは憲法裁判所である。

 

憲法裁判所は、民主化・憲法改正の結果、現行の1987年憲法で法院(裁判所)とは別に新設された機関で、弾劾の他にも、法律の合憲性、政党解散、国家(地方)機関間の権限争議、憲法訴願の審査を専管している。任期は6年、9名の裁判官で構成されていて、大統領、国会、大法院長(最高裁判所長官)が3名ずつ選出する。その所長や大法院長は大統領が国会の同意を得て任命するため、憲法裁判所はそもそも大統領の意向が反映されやすい構成になっている。

 

一体、「即時退陣」や「罷免」を求める圧倒的な「民意」を前に、国民に直接選出されていない憲法裁判所はどのような基準や論理に基づいて行動を選択するだろうか。

 

盧武鉉大統領のケース(事例/判例)が唯一のレファレンスである。

 

2004年、盧大統領は総選挙を前に与党ウリ党への支持を呼びかけたが、公務員の「政治的中立」(公職選挙法第9条)義務違反として中央選挙管理委員会から警告を受け、それが国会における弾劾訴追事由になった。憲法裁判所は法令違反であることを認めたものの、憲政秩序を回復するためには罷免するしかないというほど重大ではないとして棄却した(憲法裁判所「2004憲ナ1」2004年5月14日)。

 

この「重大性」が今回、朴槿恵大統領のケースに対する法理判断の基準になり、当然、ケースどうしも比較衡量される。

 

当時の憲法裁判所法では、弾劾審判に限って裁判官一人ひとりの個別意見は公開されなかったが、金栄一、権誠、李相京の3名の裁判官は罷免に値するという「認容」だったことがのちに明らかになっている(李範俊(在日コリアン弁護士協会訳)『憲法裁判所 韓国現代史を語る』日本加除出版, 2012年, 317-321頁)。金栄一は金大中大統領が任命した大法院長による選出、権誠と李相京は国会選出だが、弾劾訴追を推進したハンナラ党と民主党(金大中大統領の与党で、盧武鉉もその公認候補として大統領に当選したが、のちに離党しウリ党を結成した)がそれぞれ推薦した。

 

この規定は05年に改正され、現在は、弾劾も含めて、憲法裁判所による審判は全て、法廷意見だけでなく個別意見も公開される(個別意見の重要さについては、大林啓吾・見平典編『最高裁の少数意見』成文堂, 2016年に詳しい)。

 

現在の憲法裁判所の構成は、大統領選出3名分は所長も含めて全員、朴大統領の就任直後に人事が行われた。大法院長3名分のうち2名は李明博大統領が任命した大法院長による選出で、残りの1名は盧武鉉大統領が任命した大法院長による選出である。国会選出3名分は李政権の末期に人選され、慣例で与党1名、野党1名、与野党合意で1名、それぞれ推薦された。

 

今回、弾劾審判の主審裁判官を務めるのは、与野党合意の国会枠で選出された姜日源裁判官である。選出母体や過去の判例動向から、野党選出で、統合進歩党の解散審判で唯一「反対」の個別意見(憲法裁判所「2013憲タ1」2014年12月19日)を表した金二洙裁判官以外は保守的とされる。

 

憲法裁判所の構成に関する変数は、朴漢徹所長と李貞美裁判官(大法院長選出)の2名がそれぞれ2017年1月31日と3月13日に相次いで退任することである。

 

罷免を決定するには6名の裁判官の同意が必要で、そもそも審判は7名の裁判官が出席しないと成立しない。特に問題になるのが所長の後任であるが、大統領権限代行に就いた黄教安国務総理(首相)が人事権を行使することは憲法上認められているのか、また政治的にも野党が過半数を占める国会は同意するのか、未知数である。

 

罷免であれ棄却であれ、憲法裁判所による弾劾審判の決定が下る時期も重要である。罷免ならば、「60日以内」(憲法第68条第2項)に大統領選挙になるし、棄却ならば朴槿恵大統領は直ちに職務に復帰し、大統領選挙は当初どおり2017年12月20日に行われる。

 

大統領選挙の日程によって各候補者の競争条件が左右されるため、一部で「迅速な審判」を求める声が出るのもある意味当然である。憲法裁判所の審判は「180日以内」(憲法裁判所法第38条)とされているが、67日間で決着がついた盧武鉉のケースとは異なり、朴槿恵大統領は法理だけでなく事実関係についても全面的に争う構えを示している。

 

他方、朴大統領の刑事上の容疑に対する特別検察官による取り調べは同年2月28日まで行われることになっているが(一度だけ3月30日まで延長できるが、大統領権限代行による裁可が必要)、その後、李貞美裁判官の退任(3月13日)、朴自身も表明していた退陣時期(4月)と続くため、この間が審判の決定が出るタイミングとしてフォーカルポイント(期待が収斂する点)になることは確実である。

 

決定の内容については予断を許さないが、「憲政秩序を回復するためには罷免するしかないほどの重大な法令違反があったか」という法理判断以上に、憲法裁判所は「民意」に敏感にならざるをえない。

 

そもそも、韓国に限らず、司法は違憲審査にあたって、法律を違憲・無効にした場合、議会がそのとおり法改正を行うかどうか、さらには有権者が議会と司法のそれぞれをどのように評価するのかを「読み込んだ」上で、そもそも違憲にするかどうかを選択しているというのが、「司法政治論(judicial politics)」の視点である(たとえば、Georg Vanberg, The Politics of Judicial Review in Germany, Cambridge University Press, 2009)。そこでは、議会だけでなく司法も、中位有権者の動向によって行動選択が左右されるという知見が示されている。

 

韓国の憲法裁判所も例外ではなく、その積極的な違憲審査は概して、「民意」に沿ったものであると評価されているし(たとえば、車東昱「空間分析モデルを通じてみた憲法裁判所の戦略的判決過程」『韓国政治学会年報』第40集第5号(2006年12月), 111-137頁)、憲法裁判所自身も「常に国民の側に立」ってきたことを自負している(憲法裁判所ウェブページ「憲法裁判所長の挨拶」)。日本の最高裁判所とは異なり国民審査もなく、憲法裁判所にとって民主的正統性はより切実である(棚瀬孝雄『司法の国民的基盤-日米の司法政治と司法理論』日本評論社, 2009年)。

 

 

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