韓国という「国のかたち」――朴槿恵大統領の弾劾というケース

問題は朴槿恵個人ではなく「国のかたち」だ

 

「これでも国なのか」というのは、朴槿恵大統領の弾劾に至る過程の中で、韓国国民が自らに繰り返して質している問いである。

 

大統領を自分たちの手で直接選出するというのは、1980年代の民主化運動における最大の争点で、手続き的でミニマムな要求だった分、汎国民的な広がりを有し、全斗煥政権にとって「確実な脅威」になった。他方、「大統領直選制」を骨子とする民主化宣言が政権主導で行われると、経済・社会領域での民主化も要求した急進的な勢力は憲法改正の過程からは完全に排除された。

 

今回も「国のかたち」をめぐって様々な勢力がひしめき合っているが、せっかく勝ち取り、強い自負心を抱いていた「直選制」を通じて朴槿恵を大統領に就けたはずなのに、一民間人に「国政壟断」を許し、国民主権や代議制民主主義といった「憲政秩序を蹂躙」させてしまったという理解は共通している。だからこそ、世論調査やろうそくデモを通じて、朴大統領に対する「即時退陣」「弾劾・罷免」という圧倒的な「民意」になっている。

 

民主化以降、朴大統領で6人目の大統領だが、いずれも本人や家族が収賄などの不正に問われている。盧武鉉大統領の場合、退任後に検察による取り調べを前に自殺するという世界的にも稀な悲劇につながった。不正が繰り返される以上、個々の大統領の問題というより、大統領個人に権限が集中する「帝王的大統領制」という制度上の瑕疵ではないか、という「診断」がなされると、「処方箋」としても当然、制度の変化、つまり憲法改正が示されることになる。

 

すなわち、問題の所在も、問題の解法も、1987年憲法との関連において理解されているということである。

 

弾劾訴追後に、与野党合意で国会に憲法改正特別委員会が設置されることになったが、1987年憲法の下では初めてのことである。大統領の任期については「5年1期」から「4年2期」へと改め、国会と選挙サイクルを合わせることで分割政府が生じにくくし、大統領にガバナビリティを担保する案が以前から提示され、国民からも一定の支持を集めていたが、現状だと大統領の権限を縮小することが焦点になる。

 

さらに、大統領と首相の間で執政権力を分有する半大統領制や、議会は信任を失った首相を解任できる議院内閣制への執政制度それ自体の変更など、統治構造だけに限っても各アクターの期待は様々で、簡単には収斂しない。特に、文在寅は「憲法改正は次期政権に任せよう」という立場で、憲法をめぐって政界再編が起き、大統領選挙の構図が一変することを警戒している。

 

そもそも、およそ憲法には統治構造だけでなく、人権も規定されている。さらに、経済・社会構造に関する条項が置かれている場合もある。

 

朴大統領が注目した「経済民主化」(第119条第2項)もそのひとつである。財界は従来からこの条項の撤廃を求めている反面、「均衡のとれた国民経済の成長と安定や、適正な所得の分配を維持し、市場の支配と経済力の乱用を防止し、経済主体間の調和」(同上)を図ることはより一層切実になったと理解すれば、市場を寡占している財閥こそが「第3者供賄罪の共犯」(弾劾訴追事由)であり、「打破」すべき「社会的弊習と不義」(前文)となる。その場合、憲法典の改正にとどまらない「国家大改造」が必要とされる。

 

政治と(憲)法の関係、選出部門と非選出部門の位置づけ、民主主義と法の支配の相克、通常政治と憲法政治という2つのモメントなど「国のかたち」は多様で、常にダイナミックに変化する。

 

にもかかわらず、デモで大統領を引きずりおろそうとするのは近代国家として成熟していないだとか、逆に広く国民が政治に参加していて素晴らしいだとか、両極端な見方がはびこっている。とはいえ、この両者は、自らにとって唯一の理想像との差分でしか韓国を位置づけていないという点では全く同じある。

 

そうではなく、民主主義には多様なタイプが存在し、進化(evolution)の過程も一様ではないという視点(たとえば、アレンド・レイプハルト(粕谷祐子・菊池啓一訳)『民主主義対民主主義-多数決型とコンセンサス型の36カ国比較研究』勁草書房, 2014年)に立てば、それぞれの「国のかたち」、憲政史のダイナミズムについて、性急に価値判断(what it should be)を下すことなく、現状(what it is)や原因(why it is as it is)を理解できるようになる。

 

要するに、「韓国の論理」は一見不可解に思えるが、「国のかたち」に関するコメンタール(注釈書)やケースブック(判例集)を参照すれば、十分合理的に読み解くことができる、ということである。本稿がその序説になれば幸甚である。

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

 

日韓政治制度比較 (慶應義塾大学東アジア研究所 現代韓国研究シリーズ)

著者/訳者:康 元澤 浅羽 祐樹 高 選圭

出版社:慶應義塾大学出版会( 2015-04-08 )

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ISBN-10 : 4766421191

ISBN-13 : 9784766421194


 

 

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