ベルリンの壁崩壊から20年 ―― 地域住民の明暗 

ドイツ統一の苦悩は続く

 

10月3日は冷戦時代に約40年間分断されていた東西ドイツの統一記念日であり、20周年の節目となる今年は、首都ベルリンはもとより、ドイツ各地でさまざまな記念行事が行われ、統一を改めて祝した。フランクフルトの祝典には、冷戦終結を決定的にしたソ連(当時)最後の大統領であったゴルバチョフも参列したという。

 

しかし、ドイツの統一は現地住民にとっては必ずしもバラ色ではなかったようだ。

 

旧東独地域では、統一後に冷戦時代の秘密警察などの文書が公開され、じつは自分の近しい友人・知人、ひいては家族などが自分のことを密告していたことを知り、ショックを受ける人が続出するなど、生活の変化だけでなく、精神的にも大きな衝撃を受けた人びとが多かったそうである。

 

とはいえ、旧東独地域では、統一後に交通、道路、学校、病院などを含むさまざまなインフラ整備が進み、居住環境が良くなり、最近では人びとの生活やメンタル面でも安定が生まれてきたという。

 

しかし、東西の経済格差はまだ大きく、旧東独の国営企業やさまざまなシステムの解体が旧西独主導で進められ、経済や社会、生活の激変を強いられたこと、加えて政治や経済のエリートのほとんどが旧西独地域の出身者で占められていることなどでも旧東独サイドの住民の不満は募っており、統一記念日前日の2日には資本主義に反対する抗議行動なども発生していた。

 

そして、旧東独サイドでは旧西独サイドと比べ、失業率も高く(約11%で旧西独地域の約2倍)、収入も低い(旧西独地域の約8割)ことから、厳しい生活を強いられる傾向があり、今でも旧東独サイドから豊かな旧西独サイドへの人口流出はつづいている。

 

他方、旧西独サイドの住民も統一には複雑な感情をもたざるをえないようである。

 

旧東独地域の復興、発展のために、旧西独から莫大な資金が投じられてきた。その額はこれまでで約1兆6千億ユーロ(約180兆円)といわれるが、政府は最短でも2019年まで支援をつづけると主張している。しかし、旧西独住民はすでに支援に疲れ切ってしまっており、旧東独地域支援の財源となる「連帯税」を継続するか否かについて、最近の世論調査によれば、8割近くが反対を表明したという。

 

統一直後は、「統一」の喜びが支援する気持ちを支えてきたが、その負担の大きさや東西統一による治安の不安定化(旧東独出身の犯罪者が多いとされる)など、喜べない側面のほうが強く感じられてきているようである。

 

このように、ドイツ統一の苦悩は今でもつづいている。

 

 

他地域でも

 

冷戦後の変化に苦悩を感じているのは、ドイツだけではない。旧社会主義国の多くで、社会主義時代の近しい人びとの裏切りで人間不信になったり、経済移行の荒波で苦しんだりしたようであるが、欧州連合(EU)に加盟した諸国においては、今ではその痛みも一過性のものとして考えられる傾向が強いという。

 

しかし、政治や経済の移行がうまく進んでいない国、とりわけ旧ソ連や旧ユーゴスラヴィアでは共産党時代を懐かしむ声も多く聞かれる。たが、その傾向は、いわゆる「勝ち組」や共産党時代を知らない若者については当てはまらない。

 

「勝ち組」とは、市場経済化の恩恵を受け、巨額の富を蓄えたごく一部の層である。とくに、旧ソ連のロシア、カザフスタン、アゼルバイジャンなどの資源保有国は、資源や2000年代の油価の高騰などにより目覚ましい経済発展を遂げた。アゼルバイジャンでは経済成長率が数年連続で世界一を記録し、ロシアも大国の威信を取り戻すなど、その経済成長の規模はきわめて大きい。

 

しかし、そのことで国民が皆、豊かになったと考えるのは大きな間違いである。国家レベルでは経済的に成功しているようにみえても、その巨額の富は国民の1%未満に牛耳られているという。ロシアではそのようにソ連解体後に経済的に成功した人々を「新ロシア人」、「新興財閥」などと呼ぶこともある。

 

逆に一般市民は、以前より厳しい生活を強いられることのほうが多いといわれる。なぜなら、国家の経済規模が拡大することで、インフレーションが顕著に進行する一方、国民の収入はさほど変わらず、失業も高いままであり、生活はむしろ以前より厳しくなっている場合が多いのである。

 

 

 

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