何のために学ぶのか、何のために考えるのか?

教養を得れば「知」を正しく疑うことができるようになる

 

finalvent このことは、学問や知識に対する信頼がもてるという言い方をしていいと思います。つまり勉強した人は知識を信頼することができる。逆に言えば、個人でも各種の知識を正しく疑うことができる。ということです。

 

そのことを強烈に感じたのは、例の3.11で、福1原発の問題が浮上してきたときは、まさにそんな感じでした。日本の情報が錯綜していてほとんど信じられなかった。だから、あのときはワシントンポストとかニューズウィークとかを当たって、「あっ、すごくスッキリしているな」と思ったものです。NRC(=原子力規制委員会)が状況報告や対応指針の資料を出しているんですよね。

 

そのなかで決定的な資料がリークされていたので、ブログにも載せましたが( http://bit.ly/10VFwvl )、「あっ、すごいや」と思って。ちゃんと壊れた原発の収拾手順まで書いて出してるんですよ。

 

そういったところから「知」を得ていれば、その「知」を使って、現実がどう動いているかとの距離感を見ることが可能になり、現実がどこに向かっているかがかなり正確に見えるようになってきます。

 

飯田 それを知れば今、現状がどれだけ悪いか、どのくらい正しいのかというのがわかるから、パニックになる必要はないですね。

 

finalvent 「ああ、政府はいまめちゃくちゃなことをやっているなー」という姿が淡々と見えるようになる。たしかにおっしゃる通り、「本来あるべきこと」と現実との距離感が可視化されることで、社会がパニックを起こしているときでも、自分の身の振り方を冷静に考えられるようになります。

 

飯田 原発の例でも経済政策の話でも、たしかに海外の雑誌や情報を読んでいると、日本と世界のモノの見方がいかに違うかということに気づくことができますよね。

 

finalvent ファイナンシャル・タイムズが日本経済をどう見ているかを8年くらい見ていれば、たとえばアベノミクスの話で言えば、「あっ、やっと日本の現実が世界の金融政策に追いつてきたな」ということを外野から自然に眺めることができます。ファイナンシャル・タイムズは、2008年頃には明確に、「日銀は、Unconventionalな(慣例に囚われない)金融緩和を行え」と言っていました。

 

でも、なぜか日本のメディアを通すと、そうした主張は消えてしまいます。フィナンシャル・タイムズが日本には規制緩和が必要だというと、それは記事に出てきますが、なぜか金融緩和は出てこない。逆に言うと、日本に入ってくるときに特定の情報が消されているというのが ――こう言ってはいけないのかもしれませんが―― 面白くも見えてくる。

 

飯田 その意味で、「世界の構造は可視である」とおっしゃられているわけですね。「知に到達する教養」を身につける場合、その「知」がどういう道筋を辿ってそこに登っていったか ――成立しているのか―― という部分まで見えていなければいけない。実際、勉強している人自身がそこに登るかはわからないけど、どうやったら、または何を努力すると登れるのかを知っているというのが、ある意味、知の基礎力であると。

 

finalvent はい、そういうものを明示的に書いたわけではないのですが、物語のなかから読者それぞれの方が感じ取ってくださればうれしく思います。

 

 

人生というものを屏風絵のように描きたかった

 

飯田 全体を通しての感想で言えば、たとえば、結婚の部分なんかが淡々と描かれているのがすごく面白かった。盛り上がらせる気ゼロだな、と、ある意味山場にもなりうるところなのに、そこはスルーなんだ……という(笑)

 

しかも突然、お子さんが産まれてというきっかけはあれど、ずっと東京で仕事してきて沖縄に移住するのは大決断ですよね。ここでも「大決断をした!」みたいな書き方ではなくて、なんとなく「フワっと沖縄に住んでしまいました」みたいな書き方がおかしいなと。あれは結構、意識して淡々とお書きになった?

 

finalvent はい、日本絵の屏風絵ってありますよね。端的に言えば屏風絵のような本を書きたかったんです。屏風絵っていろんなところがあるんですけど、全体としてはひとつの屏風絵というような本にしたいと思っていて。

 

飯田 たしかに、屏風絵って、どこが中心でどこが盛り上がってるってわけでもないですものね、なんだかペタっとしている。でもそれはなぜですか?

 

finalvent みなさん読者は読者でそれぞれの年齢でいらっしゃると思うんですよ。その年齢を相対化してほしいなと。つまり20の人、30の人、40の人、55の人が読むその人が、等距離に読めるような感覚にしたかったというのはあります。屏風絵を前にして、あ、ここは面白い、この人は自分に似ている、という風に。あれです、『ウォーリーをさがせ!』みたいに読んでいただきたかったのです。

 

飯田 ウォーリー(笑) つまり、すべての箇所を予見を持たずに等しく読んでほしいと。

 

finalvent それがただ読者ターゲットを広くするというのではなくて、人生のかたちのようなものが、それぞれの年齢で、それぞれの年齢の見え方として見え始めてくるわけですよね。歳を重ねれば重ねるほどに、人生が屏風絵のように見えてくる。ですから、人生は屏風絵ですよという感覚のようなものを描き出したかったということになります。

 

ちょっとどう説明すればいいのか難しいのですけど、そこに描かれているのは普通の人生なんだ……、逆に言うと普通の人生なんてつまらないんじゃいかと言われるんですけど、本当は普通の人生のほうが重要なんだと。

 

普通の人生を生きるのって結構大変なんですよ。そして大変な人生を生きていくなかで、文学や思想の課題といった陰の部分というものがどうしても生まれてくるんですね。自分はどうしてこういう風に生きてきたんだと、人生のほうが自分に問いかけてくる。

 

いろんな人の生き方のなかに何か普遍的なものがあるに違いない。なにか、人生という道といったニュアンスのようなが、誰の人生にもあるわけです。一見つまらない「自分語り」のようでも、その普遍的なものに近づけたいなと。

 

だから考えるということは、いろんな人がいろんな生き方があるんだけども、そのなかで普遍を受け取ることだ。でも、そういうと堅くなってしまうので、そこはできるだけくだいて、できるかぎり読みやすく書けたらと思いました。

 

 

飲み屋で隣に座っているおじさんのような本

 

finalvent 「琥珀色の戯言」さんが、「普通の人の普通の人生を読めるって面白いな」って言ってくれて(http://bit.ly/16s1GFQ)、それはうまく言い当ててくれたなと思いました。

 

現在のメディア、あるいは現在のネットの世界でも、案外、普通の人の普通の人生というのもが見えづらくなっているんじゃないかなと思っています。昔だったら、近所のおじさんやおばさんとかから、人間臭い生の人生の話とか冒険譚みたいな話を濃く聞けたと思うんですけど、今はなかなか聞けなくて。その部分をメディアが補ってしまっているわけですが、メディアはメディアで面白おかしく創り話にしてしまう。ネタをつくるというかですね。

 

そうしたネタ重視の動向に、「いや違うぞ。人生の味わいというのは、もうちょっと違うぞ」みたいな思いがあります。むしろ、この本は、飲み屋でおっさんが横で語っているような感じで受け取っていただけるとうれしいなと思います。

 

飯田 あー、飲み屋の隣のおじさんというのは面白いたとえですね。本当にリアルな部分だけを滔々と話してくる人ですよね(笑)。

 

finalvent そういう風にしたいと思った。もっというと、市民生活に密着した思想というものがあれば、そんな飲み屋のおしゃべりのようなかたちをしているはずだ、という思いがあり、なるべく文章を柔らかくしたいし、酒場の話くらいにしたい。それから女性に通じる話にしたい。実際40代以降の女性にも読んでいただけて、ホッとしています。

 

飯田 ありがとうございます。大量の読書が背景にあることがよくわかる、含蓄あるお話がすごく興味深かったです。それではつづきはご飯を食べながら聞かせて下さい(笑)。

 

*  * *

 

今回のインタビューで取り上げた『考える生き方』(ダイヤモンド社)は、その「まえがき」と「(本には書かれなかった)あとがき」が、ダイヤモンドオンライン上で公開されています。ぜひこちらもこのインタビュー記事とあわせてお読み下さい。

 

『考える生き方』まえがき ―― 空っぽな人生を生きてきた;http://bit.ly/10MnJGE

『考える生き方』(本には書かれなかった)あとがき ―― 空っぽな人生を書いてみた;http://bit.ly/12P0xJg

 

 

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