2014.10.04

日本は、LGBTの取り組みが遅れている――国会議員へのLGBT施策インタビュー

谷合正明参院議員(公明党)×明智カイト

政治 #LGBT#いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン

谷合正明参院議員は「性同一性障害に関するプロジェクトチーム(PT)」の座長として中心的な役割を果たしてきました。インタビューを通して見えてきたことは谷合正明参院議員が性同一性障害にかぎらず、いろいろなマイノリティの人たちに光を当てていくのが政治家の使命だと考えていることです。そして、多様性の共存が図れるよう、共生社会を創るために努力されている姿でした。LGBTの取り組みについても期待したいと思います。(明智カイト)

マイノリティの法制度に関心を持つ議員は少ない

明智 ではまず自己紹介をお願いします。

谷合 公明党所属の参議院比例区選出の議員です。岡山市在住で、おもに中四国地域を中心に活動しています。参院議員になって10年目になります。現在41歳です。国会議員になる前は、岡山に本部を置く国際医療NGOのAMDA(アムダ)でアンゴラ、アフガニスタン難民キャンプ、 スリランカ、イラクなどで医療支援活動のプロジェクト・コーディネーターを務めました。その後、参院議員選挙にチャレンジしました。

国会議員になってからは公明党の青年委員長を約5年やっていました。若者の雇用政策を立案するために、現場で若者たちの声を聞いてまわってまいりました。主に関わっている政策としては厚生労働、経済産業、農政、外交ですが、より具体的に、性同一性障害(GID)、危険ドラッグ含め薬物問題、自殺対策、原爆被爆者対策、鳥獣被害対策、難民保護、NPO政策などは党PTの座長や事務局長を務めています。

議会では「経済産業委員会」、「政府開発援助等に関する特別委員会」、「議院運営委員会」に所属しています。あと、イクメン議員連盟の座長をしています。イクメン議員連盟は「イクメン」を増やしていくことを目的として、2012年6月13日に発足した日本の超党派の議員連盟です。私には子どもが4人います。

明智 谷合議員がLGBT/GIDの施策に関わる理由は何ですか?

谷合 国会議員になる前から性同一性障害(GID)の問題に関心がありました。私の実家は埼玉県ですが、母親はそこで市議会議員を3期務めました。その母から性同一性障害(GID)への取り組みに関して、政治から行政を動かす苦労話を聞いてきました。尚、母には「性同一性障害 3・11を超えて」という著作があります。

ある時、性同一性障害(GID)で悩む生徒をどのように学校で受け入れるか、大きな議論になったそうです。結果的には、関係者の努力もあり、配慮が届いた形で受け入れがなされてきたのですが、最初からうまくいったわけではありませんでした。Yomiuri Online の記事でも紹介されていましたが、市の教育長は、「性同一性障害の存在を学校現場が知った時、ある学校は否定し、ある学校は見てみぬふりをした。自分たちが構築してきた学校という組織を大きく揺るがすことになるからである」と、教育の場での現実を率直に語ってくれました。

公明党内では「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」の成立に貢献した浜四津敏子元参院議員、松あきら元参院議員の取り組みを引き継ぐような形で関わるようになりました。人権という観点から言うと国内難民や、LGBTのようなマイノリティの法制度に関心を持つ議員は、はっきり言って少ないです。だから私はマイノリティの人たちに光を当てていきたいです。行政ができないのであれば政治家が声を挙げていくべきです。

「性同一性障害に関するプロジェクトチーム(PT)」の成果

明智 「性同一性障害に関するプロジェクトチーム(PT)」を立ち上げた経緯について教えてください。

谷合 「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」の制定時は自公を中心とする超党派で取り組みました。自公両党では、おもに女性議員が立法の中心的な役割を果たしてきました。

その後、党内に、恒常的に性同一性障害(GID)の課題に取り組む場が無かったので、「性同一性障害に関するプロジェクトチーム(PT)」を立ち上げました。私がこのPTの座長を務めています。「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」ができて10年が経過するので、見直すべきところは見直していきたいと考えています。

また、地方議会レベルで性同一性障害に関する市民相談が増えていることから、性別適合手術や学校現場での配慮などの課題解決に向け、国政レベルでも議論できる受け皿が必要だったのです。

明智 「性同一性障害に関するプロジェクトチーム(PT)」を立ち上げて成果はありましたか?

谷合 2012年に「性同一性障害に関するプロジェクトチーム(PT)」を発足してから、いくつか成果があります。

はじめは岡山大学の中塚幹也教授よりヒアリングを行い、就労や学校での課題について議論しました。また、「gid.jp日本性同一性障害と共に生きる人々の会」よりヒアリングも行いました。各省庁に対しても申し入れをしています。

法務省には「女性から男性(FTM)に性別の取扱いを変更した当事者が、戸籍変更後に婚姻してできた妻の子を、嫡出子として扱う」ように要望しました。

厚生労働省には「性別の取扱いの変更を受けた性同一性障害の当事者に対して、新たな基礎年金番号を割り当てる措置を止め、従来の年金番号を引き継ぐ」ことを要望しました。これは新たな基礎年金番号を割り当てることによって性同一性障害の当事者であることが判明してしまうことから、従来の基礎年金番号を引き継げるようにしました。

また同じく厚生労働省には「精神障害者保健福祉手帳から、性別欄を削除する」ように要望しました。要望後には精神障害者保健福祉手帳から性別欄を削除することに成功しています。

文部科学省には「性同一性障害(GID)の児童生徒に対する実態調査を行う」ように要望し、その実態調査も実現しました。要望時や調査結果が出たときはマスコミにも大きく取り上げられました。今後は、「教育機関における、当事者の受入れに関する指針の策定」や、「教員など教育関係者に対する性同一性障害に関する研修の実施」について対応を求めていきたいと考えています。

日本のLGBTの取り組みは遅れている

明智 今後の取り組みについてどのように考えていますか?

谷合 性同一性障害(GID)のことで言えば性別適合手術の保険適用の課題があると思っています。やはり手術費用が高過ぎます。安く、順番待ちが少ないタイなど海外で手術してしまう。

そして、日本では性同一性障害(GID)が受診できる医療機関が少ないため、いつも順番待ちの状態です。質の悪い医療機関で手術したことによって医療事故も起きています。医療機関が少ないうえ、偏在もしていますので、当事者がどこに相談して良いのかわからない状況になっています。今回、学校での実態調査を行いましたが、今後のフォローを考えると、何かしらの相談窓口を整備していかなければならないでしょう。

また、「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」が施行してから、ちょうど10年が経ち、見直し時期の一つの区切りとも思っています。性別変更には、「現に未成年の子がいないこと」などの条件がありますが、見直すには超党派の議員立法で法律改正をする必要があります。法律のどこを修正するかに関するコンセンサスを得るには時間がかかります。法律改正の議論については、他党にこれから働きかけていきたいと思っています。

今後は性同一性障害(GID)だけではなく、個人的には、LGBTも性的マイノリティ全体としてどう対応するかについて考えていきたいです。今後、日本において共生社会を目指していくためには、性同一性障害(GID)のみならずマイノリティ全体に対する受け止め方について変えていく必要があります。多様な人たちが共存できる社会を作っていきたいです。将来的にはLGBTや性的マイノリティについては国政の大きなテーマになると思っています。外国の人たちもLGBTの取り組みについて、日本は遅れていると感じています。性的マイノリティの人権ということでしっかりやっていきたいです。

性的マイノリティに関する判決文として、東京都府中青年の家裁判(平成9年の高裁判決)に次の判決文があります。

「行政当局としては、その職務を行うについて、少数者である同性愛者をも視野に入れた、肌理の細かな配慮が必要であり、同性愛の権利、利益を十分に擁護することが要請されているものというべきものであって、無関心であったり知識がないということは公権力の行使に当たる者として許されないことである」

非常に重い言葉です。

明智 当事者のみなさんに何かメッセージはありますか?

谷合 性同一性障害(GID)やLGBTのことについて行政府が積極的に進めていかないのであれば、立法府においてしっかりと進めていきたいです。しかし、特にLGBTは国会議論がほとんどゼロの領域なので、もちろんはじめは抵抗する人たちもいます。私は「性同一性障害に関するプロジェクトチーム(PT)」の座長として、自分の職責を果たしていきたいです。

これから日本社会では避けて通れない領域としてLGBTのことがあると思います。一政治家として、LGBTの問題に取り組んでいきたいと考えています。問題を共有できる仲間を一人でも多く増やしていきたい。多様性の共存が図れるよう、共生社会を創っていきたいです。

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プロフィール

谷合正明衆院議員

1973(昭和48)年4月27日生まれ。41歳。埼玉県出身。創価高校、京都大学農学部卒。99年、京都大学大学院修士課程修了(農業経済学)。同大学院在学中、スウェーデン・ウプサラ大学経済学部へ1年間の交換留学。99年に、国連地域開発センターのインターン、ODA開発コンサルタント会社を経て、2000年1月、岡山市に本部を置く国際医療NGOのAMDA(アムダ)の職員に。アンゴラ、アフガニスタン難民キャンプ、 スリランカ、イラクなどで医療支援活動のプロジェクト・コーディネーターをつとめる。

この執筆者の記事

明智カイトNPO法人市民アドボカシー連盟代表理事

定期的な勉強会の開催などを通して市民セクターのロビイングへの参加促進、ロビイストの認知拡大と地位向上、アドボカシーの体系化を目指して活動している。中学生の時にいじめを受け、自殺未遂をした経験から「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を立ち上げて、「いじめ対策」「自殺対策」などのロビー活動を行ってきた。著書に『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(光文社新書)。日本政策学校の講師、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」メンバー、ホワイト企業の証しである「ホワイトマーク」を推進している安全衛生優良企業マーク推進機構の顧問などを務めている。

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