日本経済停滞の脱出策を政治学から考える ―― 選挙と利益誘導の関係

イェール大学の斉藤と申します。こちらで日本政治の授業を担当しております。普段は合衆国コネチカット州ニューヘイブン市で暮らしています。わたしの主たる研究領域は比較政治経済学で、これは要するに世界各国の政治体制と市場がどのように相互作用しているかをみる学問です。

 

Synodos という素晴らしい場をお借りし、日本経済停滞の原因について、政治学の立場から分析し、発言していきたいと思います。

 

日本経済が停滞しているのは、ひとえに政策が間違っているからです。では、優秀な官僚集団を抱えながらも、なぜ間違った政策が立案され、選択されたのか?それは政治が間違っていたからです。

 

それでは、なぜ間違った政策を選んでしまう政治家ばかりなのか?有権者は誰も望んでいるわけではないのに、困った政策が選択されつづけるのはなぜか?それは、有権者が政治家を雇う契約のあり方、つまり選挙過程がいびつだからです。

 

というわけで、日本の経済政策のあり方を、選挙に根ざすさまざまなバイアスから考えていこうというのが、この企画の骨子です。

 

その時々の時事問題も材料にしながらテーマを選びますので、内容は前後することがありますが、主に

 

(1)選挙と経済政策の関係

(2)知識集約型経済への移行と教育(とくに大学の役割)

(3)都市と農村の共存

 

以上、三つのテーマに取り組んでいきたいと思います。

 

(1) は問題の原因を理解する上で重要です。(2)は日本が国際競争で今後、生き残る上で、本質的に重要な点だと思います。(3)は日本国内のさまざまな格差 が、都市と農村の違いに根ざすと考えられ、これを放置したために、将来志向の政策対応をとる妨げになってしまったと考えられるからです。

 

具体的には、少子化対策、農業保護、大学経営、入試の仕組み、ときとして高速道路無料化や地方分権などの各論に踏み込んでいきます。他のテーマについても、時々の関心に応じて発言していきたいと考えております。

 

 

選挙と説明責任

 

まず最初に、選挙と経済政策の関係について考えましょう。

 

選挙と経済政策について、もっとも素朴な考え方は、シュンペーター型の説明責任の仕組みです。つまり、(1)現政権が優れた経済政策をとり、有権者が満足していれば権力の座に留まる、(2)そうでない場合は代わりの政権を選ぶ。有権者がつねに(1)と(2)のどちらかを選択をすると、政治家の側で理解していれば、よりよい政策をとるために、政治家は一生懸命にがんばるはずです。そのような信頼のもと、有権者も政治家に政策決定を委任するわけです。

 

ある意味、市場で企業が競争するのと同じように、政治家が競争するのだというアナロジーです。おおかたの有権者は、民主主義とはこのように働くものだと、暗黙的に前提しているように思われます。

 

しかし実際には、有権者が満足するかどうかについては、経済政策以外の多くの要因が作用します。全有権者を平均的に満足させるのか、特定の有権者だけ集中的 に満足させるのかという問題もあります。しかも選挙のルール次第では、誰の意見が通りやすくなるのか、大きく変わってきます。社会は、いろいろな意見をも つ市民から構成されているため、みなを平均的に満足させることは決して容易ではありません。

 

当たり前のことですが、議院内閣制をとる国では、政権につくためには、下院の過半数の議席を確保しなければなりません。日本では衆議院議員の過半数の支持を獲得しないことには、政権をとることはできません。

 

単純化した例を考えれば、小選挙区制をとる国では、半分の選挙区で、およそ半分の投票者の支持を確保することが必要になります。つまり、少なくとも 1/2×1/2=1/4、投票者の1/4の支持が必要になります。全国がひとつの選挙区で構成される比例代表制の国なら、議席は投票にほぼ比例しますから、投票者の半分の支持が必要になります。

 

単純な例ですが、比例代表制をとる国で、GDPに対して政府支出の規模が大きく(例: 北欧)、小選挙区制をとる国で小さい(例: 英米)理由が、おぼろげながら浮かび上がってくると思います。しかも、定数格差が大きければ、より少ない支持で政権を維持することができます。

 

日本の場合は、二院制をとることと、中選挙区制の時代が長かったため、こうした単純な分析をそのまま当てはめることはできないかもしれません。現在の並立制 は小選挙区と比例代表ブロックを組み合わせたものですし、3年ごとに半数改選される参議院も含めて分析するとなると、かなり複雑です。

 

 

 

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