つながるSYNAPSE――世界制作のための(x,y,z)

 

時には子ども目線で、コミュニティの輪に飛び込んでいく(松倉早星)

 

 

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京都を拠点に「Ovaqe」という会社の代表を務める松倉さんは、「新しいこと」成し遂げるための人のつながりを作るには、「古いやり方の方がうまくいくこともある」と指摘しました。

 

松倉さんの会社のメンバーは3人。ゲストの中でも最も少人数の組織で仕事をしているといえます。松倉さんの仕事はWebから広告プランニング、地域のコミュニティ作りと幅広く、「自分でも何屋といっていいかわからない」と仰っていました(「何屋とも呼べない人々を集めた」というのが今回の主旨だったりもしますが)。

 

そんな松倉さんの近年の活動の一つに、「小豆島醤の郷プロジェクト」におけるクリエイターレジデンスの経験があります。そこで松倉さんが得たヒントとは、「何をしていいかもわからないときは、まずそのコミュニティの人々の輪に飛び込む」ということ。

 

小豆島で1週間の滞在を始めたとき、港に停まっていた漁船を見て、船長たちに「築地丸、かっこいいっすねー」と声をかけ、飲み始めた。それがコミュニティ作りのきっかけとなったそうです。

 

それから毎晩、地域の人々と飲み会を開き、仲良くなり、島にある「こわい話」の採集を始めました。また、レジデンスの最後には島の子どもたちと遊びながら、彼らしか知らない「秘密基地の地図」を描くというプロジェクトを実施したそうです。

 

そこでは長年住む大人たちでも知らなかった「まちの新たな地図」が出現し、とても面白かったと語る松倉さんですが、それはきっと、人の目線で描かれた「地域と人の関係性が浮かび上がる地図」だったのでしょう。

 

聞いているだけでもワクワクする話ですが、松倉さんは「新しいことをするからと言って、昔ながらの方法が通用しないということではない」と言います。そして、2児の父でもある松倉さんにとって、「子どもは最高にクリエイティブな存在」。何か先鋭化された方法を探すより、見た目はいびつであっても、色々なものごとに可能性を見出せる「こどものような状態」が望ましい、と語りました。

 

 

クリエイティブな衝突から生まれるイノベーション(緒方壽人)

 

 

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デザインとエンジニアをつなぐtakram design engineeringの緒方さんは、彼ら独自のメソッドをまとめた書籍『イノベーションの振り子』について語ってくれました。

 

本のタイトルにもなった「振り子」とは、たとえば異領域の人々が集まったとき、全員の中庸的意見に合わせるのではなく、それぞれの先端的な思考と思考の間を「振り子」のように行き来すること。この緊張状態を保持しながら互いの視野を取り入れることがイノベーションにつながるのではないか、と緒方さんは言います。

 

またネガティブな問題解決から始まるデザインにおいても、多様性を取り入れることで思わぬ発見につながることがあることを自身の経験から話してくれました。たとえば、乳幼児専用の内部被ばく検査装置「BABY SCAN」(東京大学早野龍五教授、山中俊治教授、キャンベラジャパン株式会社と共同開発)の開発にあたっては、緒方さんご自身の子どもにも体験者となってもらい、子どもが寝転がっても不安にならないようなデザインを考案されたと言います。

 

 

「終わりのデザイン」が必要な時代になった(江口晋太朗)

 

 

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ここまで話を伺っていると、ゲスト個々人の活動は非常に成功しているようですし、実際そうだと思います。しかし、では何故、全体としての「浮上感」を味わえていない気がするのか。これら個別の成功例を一般化し、様々なプロジェクトを成功させるための方法は「全く確立されていない」と外山さんも断言しています。ここで、編集者の江口さんは近年何度か大きな「変革」ブームはあったものの、大きな変革にはつながっていないものが多いことを指摘しました。

 

福岡県出身で、陸上自衛官出身という異色の経験から、国家や社会の仕組みやあり方に目を向けるようになったという江口さんは、編集者の仕事の他にもネット選挙運動の解禁という公職選挙法の改正に向けて活動したOne Voice Campaignの発起人や地域課題に取り組むNPO法人スタンバイが運営するWebマガジン「マチノコト」の運営、市民参加型のコミュニティを通してテクノロジーを活用した公共サービスの開発運営を支援する「Code for Japan」に携わるなど、多領域の活動を続けています。

 

いくつものスタートアップやNPO法人の立ち上げなどを見てきた江口さんから出た一つの提案は、「終わりのデザイン」の必要性。NPO法人などは毎年右肩上がりで増え続けていますが、何かを始めるときはいいものの、その後は継続が目的にすり替わり、主軸を持たずにぬるぬると続く「Living Dead」の状態が日本の至るところで見られると言います。

 

事実、発起人として活動したOne Voice Campaignは、法律改正という目的を達成したことによってキャンペーンの活動を収束させています。ネット選挙解禁の次なる活動に歩みを向けてもいいところを、キャンペーンとしての活動を終了させ、活動に関わったメンバーそれぞれが個々にさまざまなアプローチで社会に対して変革を起こす動きを起こしはじめているとのこと。始まりではなく、終わりをデザインするとはどういうことか。

 

ここで言う「終わり」をどのように捉えるかについては、まだまだ議論の余地がありそうです。

 

 

「共感」をデザインし、多様なバージョンを重ね合わせる

 

 

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新しいことがたくさん起きているにも関わらず「なんか世界変わんないなぁ」という感じを、おそらく多くの人が持っている。全体が変化していくために、江口さんは「大きな編集が必要」だとも語っています。

 

大きな編集とは、変革のターゲットをある一部の層だけに留めず、それらを他ジャンルの層にも広く伝搬する仕組みを作ること。その方法についても様々な議論が登壇者たちと交わされましたが、たとえば鷲尾さんから出た言葉の一つには、世代間におけるギャップに対して、「インタージェネレーション・ラブ」が必要ではないか、ということ。異なる人々同士の「共感」または「愛着」をデザインしていく必要があるのでしょう。

 

あっという間の議論(3時間だが)が交わされた後は、ゆるやかな交流会がスタート。ここまで振り返ってみても、もちろんこの日の抽象的な議論がすぐに社会変革につながるとは私たちも思っていません。

 

しかし、この日の第一の目的は、登壇者同士、そして参加いただいた人々同士が顔を合わせ、互いのビジョンを共有すること。イベント名の副題にある「世界制作のための(x.y.z)」にはそんな意味も込められています。

 

「世界制作」とは思想家ネルソン・グッドマンの著作『世界制作の方法』からインスピレーションを得た言葉ですが、グッドマン曰く、「われわれはバージョンを作ることによって世界を作る」。社会が多層化した21世紀の今日、社会を一変させるような革命を待つよりも、様々な「バージョン」がそれぞれアップデートされ、互いに重なり合うことでゆるやかにこの社会にも風穴が空いてくるのではないか。これは今回の企画者の一人、SYNAPSEの塚田の勝手な拡大解釈ですが、この日は登壇者たちが個々に持つ「バージョン」が少しだけ重なり合う1日だったと思っています。

 

いつしか、私たちの「バージョン」と読者の皆さんとの「バージョン」が重なり、また新たな道が開ける日を楽しみにしています。

 

(文:塚田有那)

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.222 特集:沖縄

・仲村清司氏インタビュー「変わる沖縄——失われる心と『沖縄問題』」

・宮城大蔵「静かに深まる危機——沖縄基地問題の二〇年」

・北村毅「戦争の『犠牲』のリアリティー:当事者不在の政治の行く末にあるもの」

・神戸和佳子「『わからなさ』の中でいかに語り考えるのか——沖縄をめぐる哲学対話の実践から」

・山本ぽてと「沖縄トイレットペーパー産業史」
・齋藤直子(絵)×岸政彦(文)「Yeah! めっちゃ平日」