2017.01.24

被災地の病院が医師の不在で危機に――少子高齢化時代の地域医療を考える

坪倉正治×矢澤聰×伊藤由希子×荻上チキ

社会 #荻上チキ Session-22#福島#地域医療#高野病院

福島第一原発事故から5年以上の間、双葉郡内唯一の入院可能施設として機能してきた高野病院。院長の高野英男氏がたったひとり、常勤医として近隣住民の診療にあたっていた。しかし昨年末高野氏が火災で亡くなったことにより、病院は常勤医不在の非常事態となっている。このニュースをきっかけに、医療過疎地域の現状に注目が集まった。少子高齢化の中であるべき地方医療の姿とは。地域医療の専門家たちにお話を伺った。2017年1月12日放送TBSラジオ荻上チキ・Session22「福島県・高野病院の事例から、少子高齢化時代の地域医療をどう支えていけばいいのか?」より抄録。(構成/増田穂)

■ 荻上チキ・Session22とは

TBSラジオほか各局で平日22時〜生放送の番組。様々な形でのリスナーの皆さんとコラボレーションしながら、ポジティブな提案につなげる「ポジ出し」の精神を大事に、テーマやニュースに合わせて「探究モード」、「バトルモード」、「わいわいモード」などなど柔軟に形式を変化させながら、番組を作って行きます。あなたもぜひこのセッションに参加してください。番組ホームページはこちら →https://www.tbsradio.jp/ss954/

ひとりの医師が地域医療を支えていた

荻上 本日のゲストをご紹介いたします。福島県相馬中央病院の医師で高野病院を支援する会のメンバーでもある坪倉正治さんです。後ほど埼玉で在宅医療を行う矢澤聰さん、東京学芸大学準教授の伊藤由希子さんにもご登場いただきます。よろしくお願いいたします。

坪倉 よろしくお願いします。

荻上 まず、高野病院はどのような役割を果たしてきた病院なのか、坪倉さんに伺います。

坪倉 福島第一原発から南22kmに位置する病院で、主に慢性期と精神科医療、寝たきりの方などの長期治療が必要な方や、精神科の患者さんが入院されていた病院です。

荻上 医療を継続して行うための重要な場所だったのですね。規模はどれくらいだったのですか。

坪倉 精神科と療養型の病床が約50ずつで、現在は100人ほどが入院されています。

荻上 第一原発から非常に近い位置にある病院ですが、事故後も避難せずに診療を行っていたのでしょうか。

坪倉 はい。病院のある広野町は原発事故の後一時的に避難区域になり、病院も避難の選択を迫られました。しかし、高野院長の決定によりそのまま診療が続き、これまで双葉郡内唯一の入院可能な医療施設として機能してきました。

荻上 こうした地域で医療が続けられることの意味とはどういったものなのでしょうか。

 

坪倉 医療の継続は、特に高齢者を中心とした地域の人びとには非常に重要なことです。現在の帰還政策でも、住民が帰還の意思決定をするにあたり、その地域の医療事情は重要な判断材料になっています。高野病院の場合双葉地区に唯一の入院施設ですので、地域の人びとにとっての重要性は非常に高いものです。

荻上 原発に近い地域では若い方の帰還が進まず、高齢化の傾向が見受けられます。高齢者医療を支える病院の存在はことさら欠かせなくなりますね。

坪倉 そうですね。やはりどの地区でも、放射線の影響を懸念して、若い世代は避難を継続し、相対的に高齢者が帰還する傾向があります。その結果高齢化が進み、必然的に医療の重要性は高まっています。また、高齢者世帯の増加に伴い、介護などの需要も増えているので、慢性的医療を行える施設の重要性が特に高い地域だと思います。

荻上 院長の高野英男さんはどういった方だったのでしょうか。

坪倉 何十年も地域医療に尽力されてきた方で、特に原発事故以後の6年近い期間、たった一人の常勤医として地域の医療を支えていました。もちろん非常勤の医師がサポートには入りましたが、ただひとりの常勤医として、連日の当直、100床強もの病床の見回り、緊急搬送、外来、検案と昼夜を問わず働かれていました。

荻上 ひとりの医師が全ての荷を背負っていたことで、その方ひとりが亡くなったことで地域医療が立ち行かなくなってしまった側面もあるのですね。広野町の住民の帰還状況はどうなのですか。

 

坪倉 報告では4,000人ほどの住民が戻られています。他にも除染や原発の作業員の方もいらっしゃいます。今後の帰還を考えている方にとってもインフラとして医療施設の存在は重要なものになると思います。

日本における地域医療問題の縮図

荻上 坪倉さんも、双葉郡同様原発に近い南相馬で医師として働かれていますが、こうした地域で医療が直面する課題とはどういったものなのでしょうか。

坪倉 どちらも医師、看護師、介護士などの医療者が非常に少ないのが問題です。双葉郡では病院がひとつしか開いていませんでしたし、南相馬では診療こそ続いていますが自転車操業状態です。医療者の負担はかなり大きいです。

荻上 福島での医療というと被ばく関連の話題が多いですが、こうした地域での医療では被ばくに関する検査も重要なのですか。

坪倉 実はそうではありません。もちろん放射能による汚染があったことは事実です。しかしこれまでの何十万回と行われてきた被ばく検査の結果から、福島県民の被ばく量は不幸中の幸いにも非常に低いレベルに抑えられていることがわかっています。

「健康」という意味では、放射線が直接与える影響は限定的です。より問題なのは、原発事故により社会構造や家族構成が変化し、それまで支えられてきた医療や介護が立ち行かなくなっている点です。新しい医療が必要とされているというより、もともと必要だった医療がさらに必要とされているイメージです。

 

荻上 住居や家族構成、地域との関わり方が変化することで行動が変わり、さまざまな健康問題として上がってきているわけですね。

坪倉 ええ。たとえば高齢者の方に何か症状が出た場合、2世代が同居していると子どもが病院に行くことを勧めたり、病院まで付き添ったりして早い段階で診療が可能になります。しかし、別居していると症状を我慢して診察が遅れ、診断やその後の治療に影響するのです。他にも家にサポートできる家族がいないことで、自宅療養なども難しくなります。結果入院が長引いたり、家に戻って症状がぶり返したりするのです。

現場の人間としては、原発災害における最大の課題は被ばくではなく、もともと存在した問題が社会変化により助長された点だと感じています。高野病院は慢性期医療として、それまで家族や周囲で支えられていた健康管理を一手に引き受けていました。今まさに被災地に必要な健康問題と向き合っていたのです。だからこそ、その維持が重要な問題になっています。

荻上 高野病院には精神科もあったそうですが、原発事故の影響による精神的なサポートの必要性についてはどうお考えですか。

坪倉 もちろん、うつやPTSDの患者さんへのサポートは欠かせません。しかし実態は例えば認知症高齢者が肺炎を発症し、家族が面倒見られないため入院していたり、家族や地域のサポートが難しくて入院していたりというケースが多くを占めます。こちらも社会環境の変化が複雑に絡み合ったもので、単純に原発事故によるトラウマの心理的サポートというわけでは全くありません。

荻上 高齢化による医療や健康の問題が集中して起こっているわけですね。1月3日には高野病院を支援する会で記者会見も行い、坪倉さんもお話をされていますが、具体的にメディアに伝えたかったことは何だったのでしょうか。

坪倉 何よりもまず、高野病院を守り広野町とその周辺の地域医療を維持しなければならないことを伝えたいと思いました。そして、被災地医療の現状です。献身的な医師がひとりで震災後5年以上もの間地域の医療を支えた話は確かに美談です。しかし医療がひとりに依存することで、その人がいなくなった時、全てがなくなってしまう。現在の被災地の医療はそうした非常に脆い状況の上に成り立っています。

医療はそもそも社会インフラの一つです。ヒーローの話をすると、次のヒーローが必要になります。そしてその新しいヒーローが倒れるまでやり続ける。構造的な問題を見落として、ヒーロー話を延々と続けるわけには行きません。こうした現状を直視し、今後どうやってみんなでよりよい町へ再生していくのか、もう一度考え直さなければならないという視点でお話をしました。

坪倉氏
坪倉氏

荻上 高野病院を支援する会で資金調達のため使用したクラウドファンディングでも、無事目標金額に到達したそうですね。

坪倉 有難いことです。今、高野病院は全国各地の医師がボランティアで業務を担当し、診療が継続されています。多くの医師からボランティア申し出ていただき、とても嬉しく思っています。クラウドファンディングも、こうした医師の交通費や宿泊費に当てようとはじめました。250万円の目標金額もすぐに達成し、多くの方から励ましの声をいただき、本当に有難いことだと思っています。

荻上 当初医師を入れるために250万円はとても少ないと思ったのですが、あくまで当座をしのぐため、ということなんですね。

坪倉 長期的に常勤医を雇うとなると、また話は別になってきます。とりあえずは1月〜3月のボランティアスタッフの交通費宿泊費を維持するための資金集めとして開始されました。ただ、4月以降の運営のためにも資金は必要です。おかげさまで目標金額には到達しましたが、将来のため今後も募金をお願いしていく予定です。

荻上 クラウドファンディングで寄付してくださった方の反応はいかがですか。

坪倉 多くの方が双葉郡の地域医療を守ろうとして助けてくださいます。心から感謝を申し上げたいです。皆様のお気持ちに大変励まされました。

公的な支援が不可欠

荻上 今回はクラウドファンディングで資金を集められましたが、持続可能性についてはどうお考えですか。

坪倉 もちろんボランティアは有難い話なのですが、善意だけでは限界があります。行政などが継続的に支援するシステムがないと長期的にはやっていけないでしょう。

荻上 高野病院は私立の病院ということですが、そもそも個人経営の病院には行政からの公的な支援は入らないのでしょうか。

坪倉 浜通りなど、原発被災地となった地域では、医療復興の目的で福島県主導の支援がいくらか行われています。具体的には、人件費に一部補助がでたり、看護師などの医療従事者の確保や就業改善のための補助金などです。しかし現状、それだけではやっていけません。

例えば、レストランなどの飲食店であれば、お客さんがいなければ店の運営は成立しない。しかし、人は飲食店が全く無いような場所には帰りません。どちらが先か、鶏と卵のようです。私立の病院にも現実問題として経営があります。負の循環に陥っています。特に避難地域では人口が少ない上、地域社会の変化で医療ニーズが流動的なので、どのような医療を提供すべきか不透明です。例えば、復興作業員のかたに対する医療と、高齢者に対する医療は異なります。救急と慢性期も異なります。こうした点をうまくカバーする行政支援と双葉地方全体の中でどうするのかという指針がないと、継続は難しいと思います。

荻上 広野町や福島県は高野病院の件に関心は持っているのでしょうか。

坪倉 広野町に関しては、火災当初から遠藤町長が動かれ、その後も継続的な支援を呼びかけてくださいました。町役場の方々にも献身的に支援していただいています。県の担当者も対応を考えてくださっていると聞いていますし、会議なども行っています。しかし手続きなどの関係もあり、こちらはまだ目に見えた成果には繋がっていません。

荻上 リスナーからのメールです。

「医療を含めたインフラの整備は、地元の人たちの生活には欠かせません。以前使用していた病院に医師が戻れば帰還も進むと思います。現時点で、どのくらい整備が進んでいるか、そうした動きを後押しする制度があるのか伺いたいです」

いかがでしょう。

坪倉 多くの方が尽力してくださっていますが、足りていないですし、この地域全体としてどのような医療を提供していくか、その大きな枠の中でそれぞれの医療機関がどんな役割を果たしていくのか。この連携がうまくいっていないのが実情です。既存の医療施設を使用することも、実は難しい問題です。以前からの施設を使えば人も集まりやすく、経済的にも負担減になるように思えますが、既存の私立病院を利用することは、利益誘導の問題になるといって行政は非常に及び腰になります。震災後これまでもずっとそうでした。現在、福島県立医大が主導で各地に小さい救急病院を設置する計画がありますが、以前とは別の場所に作る方向で計画が進んでいます。

例えば自営業のクリニックに関しても、もとの場所に戻って開業すれば援助をするといわれて戻ったとします。支援を頼りに戻ってみても、肝心の支援はいつ打ち切られるかわからない上、人口の動きや医療ニーズがどうなるかが不安定で、援助なしで経営が成り立つようになる目処も立ちません。なかなか開業に踏み切れないのが心情だと思います。残念ながら地域医療が震災前の水準に戻るまではまだ時間がかかりそうです。

医療過疎、1日がかりで通院する

荻上 なるほど。福島以外での地域医療の問題はどうなっているのでしょうか。こちらは埼玉で実際に地域医療に携わっている北本矢澤クリニック院長の矢澤聰さんに伺いたいと思います。まず矢澤さんの病院の位置と、どのような医療を行っているのか教えていただけますか。

矢澤 埼玉県の県央地域である北本市で、在宅療養支援診療所を運営しています。具体的には、進行がんの方や、脳梗塞後や神経難病で日常生活能力が低下している方、認知症の方、小児科の患者さんや精神疾患の方など、自力で通院が困難な方に対して、365日24時間対応で医師や看護師が自宅に出向いて医療を行う在宅医療サービスを提供しています。

荻上 在宅医療のメリット・デメリットとはなんなのでしょうか。

矢澤 メリットとしては、(1)自力での通院が難しい患者さんが通院の負担なく、診療を受けられること、付き添いの家族の負担が減ることがあげられます。埼玉の県央地域は高齢化が進む医療過疎地域です。短時間の治療を受けるために丸々1日かけて通院される方、それに付き添うご家族が少なからずいらっしゃいました。医師や看護師が訪問することでこうした負担が軽減されます。

(2)同時に、実際に医師が自宅へ行くことで、患者さんの生活がわかりますので、在宅介護をしやすいよう、医療器具、介護器具、福祉制度などについてアドバイスも可能です。より日常に近いかたちで負担の少ない療養生活を送ることが出来るのです。

(3)入院による治療では、一旦社会生活からは切り離されることになります。しかし在宅医療でしたら、家族や地域の中で変わらぬ絆を保ちながら療養生活を送れます。患者さんは安心した状態で療養でき、その結果周囲も安心する。そうすると患者さんも勇気づけられます。在宅医療のメリットですね。

一方デメリットとして、在宅医療は外来診療に比べると時間も手間もかかり、1人の医師が診察できる患者数も少なくなります。課題として、在宅医療を必要としている人に対して質の高い在宅医療をいかに安定的かつ確実に供給できるかという点があげられます。

荻上 埼玉の医療過疎は深刻な状況なのでしょうか。

矢澤 地域により異なりますが、当クリニックの周辺でも市街地を離れると状況は深刻です。先日も郊外のある地域で唯一運営されていたクリニックのご高齢の院長が、お亡くなりになり閉院になり、住民の方が困っているという話がありました。

荻上 高野病院と同じような状況だったわけですね。

矢澤 高野病院の話を聞いたときは、超高齢期社会における日本の医療の問題の縮図だと感じました。

荻上 一医師として、昨今の日本の医療過疎問題についてはどうお考えですか。

矢澤 坪倉さんからもコメントがありましたが、現在の日本の、医療過疎地域における医療は一人の医師の理念や情熱で何とか支えられている状況が少なくありません。このような、被災地や過疎地における医療システムの脆弱性を危惧しています。まちなか集積医療に代表されるように、効率的な医療提供システムを目指す動きもありますが、一方で住み慣れた地域で家族や仲間と共に暮らす幸福のかたちもあります。両者のバランスの取り方が重要な課題になると感じています。

荻上 矢澤さん、ありがとうございます。在宅医療は各地で議論されるべきテーマになるのですね。

坪倉 そうですね。埼玉、千葉、神奈川などの大都市は対人口比で医療者の数がより少ないことも問題にあげられます。あまりに人口が多く医療者が足りないので、病院のたらい回しなどの問題も増えてきます。病状が進行すると医者以外の介護者や家族のサポートも必要になりますが、そうしたことが共通認識としてまだまだ不十分なのも重要な問題ですね。

荻上 埼玉での医療過疎問題などは「首都圏なのに」という声もありますが、逆に首都圏だからこそということなのですね。

坪倉 そういうことです。

相互に欠かせない在宅医療と集積医療

荻上 政策的な問題についても考えて見たいと思います。こちらは「まちなか集積医療」に関する研究をされている東京学芸大学準教授、伊藤由希子さんに伺います。よろしくお願いいたします。

伊藤 よろしくお願いします。

荻上 医療の研究者の立場から、今回の高野病院のニュースはどう感じられていますか。

伊藤 高野先生の功績を非常に心強いと思うと同時に、やはり医療の社会的構造に問題があったと感じています。本来の医療は1人の医師が普通に働いて成り立つべきだと考えます。

荻上 現在の医療制度の問題点について、どうお考えでしょうか。

伊藤 現在の日本の医療体制は高度経済成長期に作られたものです。この制度に縛られ、変化する現状に対応できていないのが問題だと思います。

また、病院や病床が多すぎて、それを担当する医療者の数が足りないことも課題です。地方医療では特に医療スタッフが少なく、病床が増えることで医師はひとりで数多くの患者を担当しなければなりません。結果として医療が不十分になります。患者としても、そのひとりの医師が動けなくなることで医療サービスを受けられなくなるという不安定な状況です。

荻上 「まちなか集積医療」とはどういったものなのですか。

伊藤 多すぎる病院を減らすことで病院1件あたりの医療スタッフを充実させる試みです。同時に「まちなか」、つまり地域の中で現状最も利便性が高い場所にサービスを集め、アクセスしやすい仕組みを作ろうとしています。病院とその他の施設を併設するような仕組みも提案するようにしています。

荻上 点在する医療施設を一箇所に収斂することで地域の拠点を作る試みということでしょうか。

伊藤 その通りです。患者さんもそこに行けば包括した支援が受けられることになります。スタッフもそこで業務分担が可能になり、患者と医療提供者双方にメリットになります。集中投資もしやすく、限られた医療資源の中で持続可能な体制を築くには有効な手段だと考えています。

また、病院の数が多すぎるために、必要な病院と不必要な病院が区別されていないので、まずはこの判断が必要ですね。同時に、そこに効率性だけを追求するのではなく、患者が望む療養生活が送れるよう選択肢を多く残すことが必要です。このバランスを見極めて体制を整えていかなければなりません。

荻上 集積医療と在宅医療の連携は可能なのですか。

伊藤 まちなかに医療機関が集積することでその後の日常的なケアが受けられないようなことが起こらないようにするためにも、在宅医療の充実は不可欠です。集積医療設備を充実させ、急性期の症状に対応できるようにすると同時に、そうした患者が快復した後、ケアを受けられる在宅医療の仕組みが必要です。

荻上 国内での集積医療に関する議論はどの程度進んでいるのでしょうか。

伊藤 近年各地の病院の老朽化や公立病院の経営難から、建替え事業や病院の再編成が進んでいます。この動きの中で、地域がそれぞれうまく方針を決められるかが鍵になってくるでしょう。

荻上 医療従事者同士のネットワークの構築も必要になってきますね。

伊藤 ええ。今までは公立と私立の運営形態が異なることで鍔迫り合いが多かったのですが、こうした枠も超えて取り組む必要性がありますね。具体的に取り組みが進んでいる地域もありますので、今後の経緯を見守っていきたいです。

荻上 伊藤さんありがとうございます。まちなか集積医療と在宅医療、一見相対する発想のように見えますが、同時に行うことで患者第一の地域医療を進めていけるという話でした。坪倉さん、いかがですか。

坪倉 高野病院の一件を通して感じるのは、我々の健康は地域が守っているのだということです。周囲の人との繋がりや、暮らしに必要な社会インフラが整備され、医療者介護者同士もつながって、情報共有されていることが重要であり、病院はその一部でしかないのです。現在の医療需要と供給の不一致は最適化されなければなりませんが、病院や医師の数だけ増やせば健康が守れるわけではありません。地域が健康を守ることを人々が理解し、ネットワークや繋がりを再構築していく必要があるでしょう。

荻上 地域の人々の参画のもと、現状の設備などを活かしつつ町づくりの文脈の中で総合的に議論していく必要がありますね。坪倉さん、本日はありがとうございました。

■高野病院を支援する会のクラウドファンディングサイトはこちら

https://readyfor.jp/projects/hirono-med

***現状の動向なども報告しております。ぜひご覧ください。***

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プロフィール

矢澤聰北本矢澤クリニック院長

慶應義塾大学医学部卒業、東京大学Executive Management Program (EMP) 修了。亀田総合病院初期研修医、慶應義塾大学医学部助教、埼玉医科大学助教を経て現職。埼玉県北本市で在宅医療に精力的に取り組んでいる。著書に「総合診療・感染症科マニュアル」(医学書院、共著)「EBM泌尿器疾患の治療2015-2016」(中外医学社、共著)に加え、「腎外傷診療ガイドライン 2016年版」(金原出版、共著)、「泌尿器科領域における周術期感染予防ガイドライン 2015」(メディカルレビュー社、共著)等診療ガイドラインの策定にも携わっている。

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伊藤由希子国際経済,医療経済

東京学芸大学准教授。国際経済と医療経済を専門に研究。産業の立地選択が生産性に与える影響をテーマに、多国籍企業の進出要因や、医療サービス立地の効率性を研究。東京大学経済学部卒業後、米ブラウン大学博士(経済学)。東京経済大学経済学部専任講師を経て、2009年より現職。現在、内閣府「経済・財政一体改革推進委員会(社会保障ワーキング・グループ)」委員を務める。 著書に『国際経済学のフロンティア』〔共著〕(東京大学出版会、2016年)、『私たちの国際経済(新版)』〔共著〕(有斐閣、2009年)

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荻上チキ評論家

「ブラック校則をなくそう! プロジェクト」スーパーバイザー。著書に『ウェブ炎上』(ちくま新書)、『未来をつくる権利』(NHKブックス)、『災害支援手帖』(木楽舎)、『日本の大問題』(ダイヤモンド社)、『彼女たちの売春(ワリキリ)』(新潮文庫)、『ネットいじめ』『いじめを生む教室』(以上、PHP新書)ほか、共著に『いじめの直し方』(朝日新聞出版)、『夜の経済学』(扶桑社)ほか多数。TBSラジオ「荻上チキ Session-22」メインパーソナリティ。同番組にて2015年ギャラクシー賞(ラジオ部門DJ賞)、2016年にギャラクシー賞(ラジオ部門大賞)を受賞。

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坪倉正治

2006年3月東京大学医学部卒、亀田総合病院研修医、帝京大学ちば総合医療センター、がん感染症センター都立駒込病院を経て、2011年4月から東京大学医科学研究所研究員として勤務。南相馬市立総合病院、相馬中央病院非常勤医。東日本大震災発生以降、毎週月~水は福島に出向き、南相馬病院を拠点に医療支援に従事している。血液内科を専門、内部被ばく関連の医療にも従事している。

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