いわゆる『二重国籍』問題――法務省の仕掛けた罠

二重国籍の国会議員は辞職が当然?

 

仮に蓮舫氏が二重国籍だったとしても、それを理由に国会議員を辞職するのが当然とは言えない。豪州の2名の上院議員が二重国籍を理由に相次いで辞任し、さらに大臣も辞任したが、議員辞職は裁判所の判断を仰ぐというニュースが日本でも流れた(注4)。しかし、日本の国会議員も同じように辞職すべきだというのは、勇み足である。これは、豪州では、連邦議員の二重国籍を禁止する憲法44条1号の規定があるのに対し、日本では、そのような法律がないからというだけではない。実は豪州憲法のような議員の二重国籍禁止規定は、国際的にみても極めて珍しいのである。

 

(注4)カナバン資源・北部担当相の辞任については、前掲「豪州3例目の二重国籍議員のニュース」参照。

 

たとえば、欧州評議会は、欧州連合の加盟国だけでなく、ロシアやトルコなどを含む47か国が加盟し、日本など5か国がオブザーバーとして参加する国際機関であるが、その2000年のレポートは、議員の二重国籍禁止規定の例として、豪州憲法を挙げながらも、その他の例は挙げていない(注5)。なぜメンバー国ではなく、オブザーバーにさえなっていない豪州の例だけを挙げたのだろうか。他国の例は、少なくとも主要国では見当たらなかったからだろう。

 

(注5)See the Committee of Experts on Nationality, Report on Multiple Nationality, CJ-NA (2000) 13, p. 12.

 

実質的にみても、豪州憲法が日本の参考になるとは思えない。最初に辞職した2名の上院議員は、「緑の党」という少数政党のリーダー的存在であった。スコット・ラドラム議員は、ニュージーランド生まれだが、子どもの頃に家族と一緒に豪州に移住し帰化した。それによりニュージーランド国籍を喪失したと誤って信じていたケースだ。またラリッサ・ウォーターズ議員は、両親が豪州国民であったが、カナダで生まれてカナダ国籍を取得した。まだ1歳にも満たない頃に豪州へ戻ったが、カナダ国籍が残っていた。

 

カナバン資源・北部担当相は、祖母がイタリア人だったが、母親や本人はイタリアに行ったこともなく、豪州生まれの豪州国民であった。ところが、母親がイタリア国籍の取得を申請し、同時に当時25歳であった息子の分も申請したというのだ。本人は、自分がイタリア国籍を取得したことを知らなかったと主張している。

 

これらの人たちがその政治的な資質ではなく、二重国籍であることを見落としていたというだけで、議員職を奪われてよいものなのだろうか。しかも続け様にこれが問題になったということは、今や豪州では二重国籍が政争の具とされていることを窺わせる。日本は豪州を反面教師とすべきであるのに、むしろ見習うべきだという主張があることには、豪州の人たちも驚くだろう。

 

実は日本でも、1985年の国籍法改正の法案が成立した直後の参議院法務委員会において、国会議員の二重国籍を問題視する質問があったが、当時の法務省民事局長は、次のように答弁している(注6)。

 

 

○飯田忠雄君 二重国籍ということは、御承知のように現在日本人であると同時に外国人だと、こういうことですね。日本人と外国人とが同居しているわけなんですが、人間の心というものはなかなか外からわからないんです。日本人と外国人が同居している場合に、その人の心は日本人なのか外国の方を向いているのかはっきりしないでしょう。そういうはっきりしない人が我が国の総理大臣になる、国会議員になるということでいいのかどうか、日本の政治を左右することになることが、それで日本の国家主権は守られるかという問題に関連するんですが、その点はいかがですか。

 

○政府委員(枇杷田泰助君) 確かに国の重要な地位に立つということは、国の将来をも決めるようなそういう意思決定をする立場にあるわけでございますので、したがいまして、日本の国というものを考え、そして日本の国民全体が連帯意識を持つ、そういうような考え方の強い方が望ましいことは当然だろうと思います。それを二重国籍者であるからといって、当然にそういう考え方がないだろうというふうに一つのパターンを決めて法律上制限をするということまでは必要ないだろう、それは日本国籍を持っておられる方であっても、場合によっては今申し上げましたような点においては十分でないという方もおられるかもしれません。ですから、それは個々の方の問題であって、法律的に一つのパターンを決めて、そしてある資格を奪うというふうなことはいかがなものであろうかというのが現行法の考え方でございます。

 

(注6)昭和59年8月2日参議院法務委員会会議録第10号18頁参照。

 

現行の公職選挙法が二重国籍を禁止していないことは、明らかだ。法務省民事局長は、さらに法律の趣旨を丁寧に説明し、二重国籍者だからといって、国会議員の資質に欠けるという「決めつけ」はしないというのだ。

 

蓮舫氏の場合は、自分の国籍に関する説明が二転三転したことも批判されているので、次のような国会答弁も挙げておこう。これは、国籍法14条1項の国籍選択期間を過ぎた者に対し、法務大臣が催告をすることができるのに(国籍法15条)、なぜそれをしないのかという質問に対し、法務省民事局長が答えたものである(注7)。

 

 

○政府参考人(倉吉敬君) 実は今の下でだれが重国籍者なのかというのをもう把握できないわけでございます。そのような状況の中で、たまたま把握した人に催告をするのがいいのかと。もちろん、催告を受ける側は追い詰められるわけですから、どっちかを選択しなければならない、それが本当にいいのかという問題はございます。いや、そんな生ぬるいことでいいのかとか、いろんな御意見はあるわけですけれども、今のところはそういったもろもろの事情を考えて催告をしないということにしております。

 

(注7)平成20年11月27日参議院法務委員会会議録第5号23頁参照。

 

この答弁では、そもそも誰が「外国の国籍を有する日本国民」であるのか、誰が国籍選択義務を負っているのかを把握できず、「たまたま把握した人」にだけ催告するのは不公平だから催告をしていないのだという本音が見える。蓮舫氏のケースについて言えば、昨年9月の新聞報道を見ても分かるように、法務省の説明自体が変遷している。「本人が知らないはずはない」というように単純な話ではないのだ。

 

1967年に蓮舫氏が生まれた当時は、中華民国が中国の正統政府として承認されていたから、その国籍法により中国国籍を取得した。しかし、1985年に届出により日本国籍を取得した時点では、中華人民共和国が承認政府となっていたから、その国籍法により自動的に中国国籍を喪失したのである。すなわち、二重国籍の期間はまったく無かったことになる。

 

このように「政府承認」が変わることにより、中国国籍の取得や喪失を決める国籍法が異なることを、誰でも知っていると言えるだろうか。蓮舫氏は、たしかに国会議員であるが、弁護士などの法曹資格を有するわけではないし、国籍法の研究者でもない。しかも中華民国と中華人民共和国という外国の法律まで理解していなければ、自分が中国国籍を持っているかどうかを正確に知ることはできないのである。このような状況を自分の身に置き換えて考えることが、今求められている。

 

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