2019.11.12

日本のプラスチックごみの行方を知って、冷静な議論を

小野恭子 リスク評価手法の開発

社会

このところ、海洋プラスチックごみが海の生物などに与える影響に注目が集まっている。このため、使い捨てプラスチックの代表格とされるレジ袋が全面的に有料化されることになったという。しかし、この因果関係、何かおかしくない?と違和感を持った。

海洋プラスチックごみは、海岸で、または、海中に漂っているうちに摩耗して、マイクロプラスチックになる可能性がある。そのため、海に流出するのを極力防ぐことが重要である。そのため、プラ製レジ袋をもらわず、ペットボトルの飲み物を買わないという行動は一定の意義があると思う。しかし、海洋プラスチック問題解決のため使い捨てプラスチックの使用量を減らす、まずはレジ袋削減から取り組むと言われると、ちょっと待てよ、という気がしたのだ。

ここでは日本は海洋プラスチックごみをどのくらい排出しているのか、そして日本のプラスチックごみはどのように処理されているかをまとめ、プラスチックリサイクルについて意見を述べる。

海洋プラスチックごみを日本はどのくらい排出している?

「プラスチックの多くは、使用後、きちんと処理されず、環境中に流出してしまうことも少なくありません」という説明をよく目にするが、これは日本においても当てはまるのかを検証してみよう。

現段階でもっとも包括的に推定しているJambeckらの論文 [1] によれば、日本が海洋に排出しているプラスチックは、一年で4万トンとされている(2010年、中位推計。環境省の資料 [2] では「2~6万トン」と記されている)。一方で、日本で一年間に発生するプラスチックごみ(以下、廃プラ)は、2010年で945万トン、容器包装関係に限っても450万トンほどである [3]。

ちなみに4万トンという数字は「廃プラの2%が街中で散乱する」という仮定のもとに求められたもので、この仮定は、全米での実績値にもとづいているものの、世界中の国で一律としている。日本では「街中に散乱し」「やがて海に流れ出てしまう」ごみが全体の2%もあるとは考えにくく、もっと小さい値の方が個人的にはしっくりくる。Jambeckらも、埋め立てごみが適正に処理されている“高所得国”では、この2%という数字次第で結果が大きく変わることを指摘している。なお彼らは、「世界的には“不適切な廃棄物管理”による排出量のほうが大きい」とし、この量は、日本ではゼロである [1]。

4万トンと450万トンという数字を見比べると、日本の廃プラは大きく見積もっても1パーセントしか海洋に流出しない、ということになる。つまり日本では、現時点のシステムがきちんと回っている限り、廃プラが海洋にそのまま出ることはきわめて考えにくく、レジ袋の有料化くらいでは大勢に変化はないことが容易に想像できる。

日本からの排出量が少ない理由

海洋への排出が低く抑えられている理由として、日本ではごみの回収が比較的うまくいっており、ごみの焼却率が高いため、出されたごみが放置されているのが稀であることが挙げられよう。ごみを焼却し、体積を減らして埋め立てることは、埋め立て地の確保が難しい日本にとって重要な技術課題だった [4]。そのため焼却技術の向上、焼却施設の充実が進み、「廃棄物処理の主流は焼却」となった歴史がある。一方、世界では、埋め立てのほうが焼却よりも主流である [4]。

じつは、海洋プラスチックごみ問題の旗振り役の一つである国連環境計画も、日本で対策が必要だとは言っていない。「レジ袋の配布が禁止されてないにもかかわらず、大変効果的な廃棄物管理システムと市民の高い意識のおかげで、環境中にプラスチックが出ないように管理されている、と日本は説明している」と中立的な説明をしている [5]。このことを、日本はなぜもっとアピールしないのか不思議である。

日本はどうすればよいか

このような考察から、海洋プラスチックごみを減らす対策は別にある、と考えるのが自然である。上述のJambeckらは、海岸線を持つ途上国において、集められたごみが適切に処理されず、海洋に移動しているのが主な発生理由であるとし、廃プラの80%以上が“不適切な廃棄物管理”される国・地域は41あるとしている(推定対象:192の国・地域)[1]。これらからの海洋への移動を減らすとともに、海へのごみ捨てを取り締まることが、もっとも現実的である。

じつは、日本も廃プラをリサイクルの原資として途上国に輸出している。輸出先は主として中国だったが、中国政府が2017年7月に輸入規制方針を明らかにしたため [2]、現在はマレーシア、台湾、タイ、ベトナム、などへの輸出が増えている [6]。それらの国も輸入規制を強化しているため、輸出量は減る傾向となっている。とはいえ、日本の廃プラが海洋に移動する可能性でもっとも大きいのは、それらの国で適正に管理されない場合である。今後、日本のごみ焼却の技術、ごみのかさを減らす技術、埋め立て地を適切に管理する技術などを、それらの国に移転することも有効と考えられるのではないか。

日本の廃プラは半数以上が燃やされているが

次に、日本の廃プラの行方を見てみよう。2017年の日本において、775万トンの廃プラはリサイクルされる。残りはリサイクルされず、直接燃やされるものが76万トン、埋め立てられるものが52万トンである。

廃プラのリサイクル方法は大きく分けて3つある。ふたたびプラスチックになる「マテリアルリサイクル」、化学工業で使う原料や素材に変える「ケミカルリサイクル」、プラスチックを圧縮して高カロリーの固形燃料として焼却し、熱回収して発電機を回すのに使う「サーマルリサイクル」である。それぞれ211万トン、40万トン、524万トン(2017年)[3] で、「サーマルリサイクル」が6割ともっとも多い。

環境省が5月に発表した「プラスチック資源循環戦略」[7] は、この3つのリサイクル方法を最適に組み合わせるとしている。一方で、「サーマルリサイクルはリサイクルではない」「廃プラを燃やしてしまうことは、化石燃料を一度しか使わないことになり問題だ」という意見もしばしば目にする。しかし、それほど単純な話ではない。現時点でもっとも合理的な選択の結果、「サーマルリサイクル」に落ち着いているのだ。プラスチックの再利用による資源の節約だけではなく、そのために使うエネルギーや二酸化炭素の排出まで考えることが重要であり、それぞれのリサイクル方式の特徴を知ることがカギとなる。

マテリアルリサイクル

「マテリアルリサイクル」の例として、代表的なものはペットボトルのリサイクルである。ふたたびペットボトルになるほか、ほかの工業原料や素材になる。ただしペットボトルを含め廃プラの「マテリアルリサイクル」は、手放しで称賛されるわけではない。新たにプラスチック製品に加工するときリサイクルされた樹脂のほかに、新しい樹脂を混ぜて使用する必要がある。これは「ケミカルリサイクル」「サーマルリサイクル」に比べて、エネルギー使用量や二酸化炭素の排出を減らす効果が高いとは言えないとされているからだ [8]。

これまで海外に輸出されていた100~150万トンの廃プラは、主として「マテリアルリサイクル」用途であったとされる [3]。輸出できなくなった廃プラが国内で不法投棄された事例は、現時点では確認されていない [9] ものの、この少なくない量を、今後国内で処理する必要が出てきた。ここで、無理な「マテリアルリサイクル」には慎重になった方がよい。すでに述べたようにエネルギー使用量の観点からは有利とはいえないからだ。

ケミカルリサイクル

エネルギー使用量や二酸化炭素の排出を減らす効果がもっとも高いとされる「ケミカルリサイクル」[8] では、様々な廃プラを処理可能である。化学工場が必要で、容器包装リサイクル法に基づく廃プラを処理できる工場は全国に8か所あり、処理能力は合わせて44万トン(2019年)である [3]。容器包装由来の廃プラが400万トン程度であるから、すべてを「ケミカルリサイクル」することは難しい。しかも、リサイクルして作った再生原料を使う先がないと現実的に量を増やすのは難しい。廃プラを工場まで輸送する距離が長いと、輸送のエネルギーや費用もばかにならない。これらの折り合いをどうつけるかは課題である。

サーマルリサイクル

廃プラの処理方法で現在もっとも多いのは、焼却して熱回収される「サーマルリサイクル」だ。世界的には「エネルギー回収」と呼ばれている。プラスチックは熱量が大きいことから、焼却して熱回収し、その熱を有効に使う方が、総合的に得られるメリットが大きいためである [8]。

さらに、様々な組成の樹脂が混じった廃プラは「マテリアルリサイクル」が一般には難しい。その理由は、原料としての品質が安定せず、ごく限られた用途にしか使えないからである。選別や洗浄を行うにしても、多くのエネルギーや人手(費用)がかかる。このような様々な樹脂が混じった容器包装をできるだけ使わないという考えもありうるだろう。しかし、これらの容器包装は、食品を衛生的に鮮度よく保つなど、現代の生活を安全で快適なものにするため重要な役割を果たしているものも多く、これらをゼロにするわけにはいかない。

廃プラの「サーマルリサイクル」は、日本で主流の「ごみは焼却して熱回収」という流れとも合致し、熱回収の効率を上げる技術開発もセットで進められてきたなかで優位になっている、という事情もある。効率の良い熱回収やごみ発電ができる設備があるかないかは、自治体によって違う。ない場合は、一般のごみと一緒に焼却炉で燃やした方が良い。余談になるが、この点が、プラスチックごみの分別方法が自治体ごとに違う理由の一つだ。住んでいる自治体の廃プラの処理ルート [10] や、ごみ発電炉の効率などを調べてみるのも面白いだろう。

ごみ問題はエネルギーと処理コストの問題でもある

このように、廃プラをいかに処理するかという問題は、エネルギー有効活用や二酸化炭素の排出の問題と切っても切れない関係にある。プラスチックをプラスチックにもう一度戻すのが必ず正しいとは限らない。

さらに、廃プラの回収・処理費用は、税金やメーカーが商品価格に上乗せして得た費用で賄われていることも忘れてはいけない。お金をかけて行ったリサイクルが、却ってエネルギーの使用量や二酸化炭素の排出を増やしていたとすれば、それは受け入れられないだろう。また、エネルギー使用量が減ったとしても、それに見合わない莫大な費用が掛かっていたとすれば、納得できる税金の使いみちとは言えないだろう。

まとめ:対策の方向を見誤らないために

日本の現状のごみ処理では、使い捨てプラスチックを減らしても、海に排出されるプラスチックの量に変化はほとんどないことを述べた。また、プラのレジ袋や包装を紙に置き換えることは、どちらも焼却されることを考えると、ごみのたどるルートに差はなく、これも海洋プラスチックごみとはほとんど関係ないことも推察できる。つまり、日本のプラスチックごみの発生抑制政策や、廃プラのリサイクル政策は、海洋プラスチック問題と分けて考えたほうがよい。

まずは、日本のプラスチックごみが現状どのように処理されているかを知ること。廃プラのリサイクルについては必要なエネルギーとのバランスで、最適な手段を選ぶこと。ごく当たり前のことであるが、これらの冷静な議論が必要である。

参考文献

[1] Jambeck JR, Geyer R, Wilcox C, Siegler TR, Perryman M, Andrady A, Narayan R, Law KL (2015). Plastic Waste Inputs from Land into the Ocean, Science 347(6223), 768 – 771. 日本の数値は本文中には出てこないので、付録のエクセルファイル(https://science.sciencemag.org/content/suppl/2015/02/11/347.6223.768.DC1よりDATA S1)を参照.

[2] 環境省HP. プラスチックを取り巻く国内外の状況 参考資料集. http://www.env.go.jp/council/03recycle/y0312-05/s1.pdf

[3] 一般社団法人プラスチック循環利用協会(2019). プラスチックリサイクルの基礎知識. 2019.https://www.pwmi.or.jp/pdf/panf1.pdf

[4] 国立環境研究所HP. 知ってほしい、リサイクルとごみのこと. 

https://taiwa.nies.go.jp/colum/recycling.html

[5] UNEP (2018). SINGLE-USE PLASTICS: A Roadmap for Sustainability. https://www.unenvironment.org/resources/report/single-use-plastics-roadmap-sustainability.

[6] UN Comtrade database https://comtrade.un.org/data

[7] 環境省 (2019). プラスチック資源循環戦略https://www.env.go.jp/press/files/jp/111747.pdf

[8]一般社団法人プラスチック循環利用協会HP. プラスチックとリサイクル8つの「?」. http://www.pwmi.or.jp/pdf/panf3.pdf

[9]環境省環境再生・資源循環局(2019).外国政府による廃棄物の輸入規制等に係る影響等に関する調査結果~平成30年度下期~(概要版)令和元年5月. https://www.env.go.jp/press/files/jp/111667.pdf

[10] 日本容器包装リサイクル協会HP. わたしのまちのリサイクル~分けた資源はどうなるの?~. https://www.jcpra.or.jp/Portals/0/resource/special/mytown/index.php

謝辞

本稿の執筆にあたり、東京都環境科学研究所 中村豊氏より情報をいただきました。この場をお借りして御礼申し上げます。

なお、本稿の記載内容の責任は筆者本人にあり、所属する機関の見解ではないことを付記します。

プロフィール

小野恭子リスク評価手法の開発

産業技術総合研究所安全科学研究部門主任研究員。2001年東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻博士課程修了。化学物質、工学プロセスなどのリスク評価とリスクトレードオフ解析、そのための手法開発を行っている。著書に「詳細リスク評価書シリーズ カドミウム」(丸善)、「基準値のからくり 安全はこうして数字になった」(講談社ブルーバックス)など。

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