生活保護とクィア

「家族」規範とクィア、同性婚

 

「家族」はこうあるべきだ、「家族」になるべきだ、という規範は、国の社会保障制度を始めあらゆる制度の基盤になっています。家族とは助け合うものである。たしかにそうかもしれません。わたし自身家族に助けられてきましたし、親類同士の助け合いを切実に必要とする文化に生きてきました。

 

しかし扶養義務者に収入の報告をさせ、その裏付けまで取るという今回の改正案は、自民党安倍政権が社会保障を縮小させ、まさに「自分のケツは自分で拭け、自業自得だ。もし自分で拭けないなら家族でやってくれ」という方針をおしすすめようとするなかで出てきた改正案です。

 

過去を振り返ると、1929年に(当時は「救護法」)制定されてから1950年まで、扶養義務者が扶養できる場合は生活保護の対象としないという内容の法律がありましたが、これは「民法の認める扶養義務者がいるのに国が救護してしまうと家族制度(イエ制度)が破壊されてしまうから」(生活保護問題対策全国会議, p.13)という趣旨であったと言われています。今回の改正案は、実質的に扶養を強制するという点で、この古い考え方に回帰しようとするものです。

 

これはクィアにとっては、たとえば同性婚を法的に認めたときに、多少改善される部分もあるでしょう。年金料を一定期間おさめた人の配偶者が将来年金受給できるという仕組みは、同性婚が実現すれば、たしかに同性のパートナーを持つクィアの老後をマシにするでしょう。共働きであれば、世帯収入も大きく変わるでしょう。しかし、上で書いてきたようなことをすべて考えると、同性婚を実現することは、むしろ「結婚」に多大な機能を任せ「自助」を強制しようとしている自民党安倍政権のもくろみに、加担してしまうことにもなりえます。

 

クィアと一言で言っても、その立場は様々です。同性婚が法的に認められれば十分だと思う人、生活保護を受けないと生活ができないひと、家族が借金を抱えている人、母子家庭で育ち母を扶養しながら契約社員として働いている人、メンタルヘルスの問題を抱えて仕事を失いそうな人、親が年金をもらっておらず財産もない人、日本国籍を持っていない人、病気や障害があるが保護対象となっていないため生活が苦しい人、子どもを高校や大学に行かせるお金のない人など、さまざまな人がいます。つまり、「これをすれば、LGBTにフレンドリーである」という政策は、それ自体が多様性を単純化することにもなりえます。

 

もしかしたら多くの人は、クィアが同性愛者の権利を求める運動や、差別禁止法の制定を求める運動ばかりに全力を注いでいると思っているかもしれません。しかし、女性の貧困の問題についてずっと活発に運動に携わってきたレズビアン女性、トランス女性などがいることも事実です。

 

また、最近世論をにぎわせた「女性手帳」は、子どもを生み育てやすい経済的・社会的基盤を形成することに力を注ぐのではなく、女性を対象にした「啓蒙」「教え」に力を注ぐことで、少子化の原因があたかも女性の無知や無理解にあるかのような問題のすりかえをし、女性の自己決定/自己責任の問題に矮小化しようとしています。この女性手帳配布のニュースや生活保護法の改正案が出てきたなか、クィアのなかにもこういった「自助」重視の流れに不安を感じている人たちがたくさんいます。

 

わたしは、生活保護の問題、そしてその他多くの社会保障制度の問題が、クィアにとって身近な問題であることを、もっと多くのクィアが認識しなければいけないと思っています。わたしもまた、社会保障の問題がクィアにとって大きな問題であることに気づかず、別の問題だと思っていた時期があります。しかし、社会保障の問題がわたしたちクィアの多くの生活に影響を及ぼしていることは、ちょっと調べ、ちょっと考えてみれば、明らかなことでした。

 

「家族」規範からこぼれ落ちるのは、クィアだけではありません。シングルマザー、シングルファザー、その子どもたち、そして「婚外子」と呼ばれる、結婚した夫婦のあいだに生まれたわけではない子どもたち、認知されず父親不在の子どもたち、外国に家族を残して出稼ぎ労働をしている外国人、既婚者との性愛関係にある人などは、さまざまなかたちで、社会保障の対象から外されていたり、不十分な支援しかなかったり、割の合わない仕事を選ばざるを得なかったりしています。そしてもちろん、そのなかにも、クィアがいます。

 

欧米のクィアの主流の運動が同性婚や差別禁止法を中心に動いているいま、国政や地方政治への積極的な介入を含め「LGBT」運動の主流化が日本でも始まっています。しかし、多様な社会的・経済的立場にいるクィアたちの生活を全体的に改善していくためには、一見関係ないようにみえる社会保障制度について、わたしたちクィアも声を上げて行く必要があります。また同時に、「LGBT」主流の運動の一環として同性婚の実現を求めるのであれば、それが現行の社会保障制度および今後の社会保障制度の変化のなかで、どのように利用される可能性があるのかを、本当に慎重に考えなければならないでしょう。

 

たとえば「自助」の観点から同性婚を認め、「生活困難者の同性愛者は結婚して扶養してもらえばいい」という風潮をつくろうとする議員は、今後出てくるでしょう。その議員を、わたしたちクィアは応援するでしょうか。応援すべきでしょうか。あるいは、「そんな目的ではなく、同性愛者の権利の観点から同性婚を認めてください」と働きかけるべきでしょうか。

 

どのような観点から実現したとしても、政府が社会保障を削ろうとしつづける限り、同性婚はそのような汚い目的のために利用されることでしょう。その結果、わたしたちクィアの一部は苦しめられることになるかもしれません。そのとき、同性婚の実現を求めたクィアたちは、自分たちの運動を振り返って、誇らしさを感じることができるでしょうか。

 

いまは、クィアも、そしてクィアの生活や人生に関心を寄せる多くの人々も、生活保護法の改正案に反対するべきときです。それは、誰よりも自分のために、他のクィアのために、今まさに貧困状態にあるクィアのために、いつか貧困状態になるかもしれないクィアのために。そして、クィアであるかもしれない貧困者のために、いつかクィアになるかもしれない貧困者のために。

 

 

 

参考文献

・朝日新聞デジタル『昨夏から困窮か、役所に生活保護相談 大阪・母子死亡』2013年5月29日

http://www.asahi.com/national/update/0528/OSK201305280129.html

・朝日新聞デジタル『母子遺体発見の室内にメモ 「食べさせられずごめんね」』2013年5月27日

http://www.asahi.com/national/update/0527/OSK201305270013.html

・一般社団法人gid.jp日本性同一性障害と共に生きる人々の会

http://gid.jp/html/GID_law/index.html

・「岡山県第四選挙区 衆議院議員 橋下がく ブログ」『支えあいの年金』

http://ga9.cocolog-nifty.com/blog/2009/07/post-a32f.html

・厚生労働省社会・援護局保護課長『暴力団員に対する生活保護の適用について(通知)』

http://www.kobe-fuyu.sakura.ne.jp/060421/003.pdf

・「衆議院議員 橋下がくのオフィシャルサイト」『私の政策』

http://ga9.jp/policy/

・衆議院議員「はせ浩」オフィシャルサイト

http://hase-hiroshi.org/

・「衆議院議員 はせ浩 国政報告 はせ通信」Vol.51. 2012年7月発行

http://region.bz/region/baggage_ace/ishikawa/0000000783/doc/00026.pdf

・衆議院『第一八三回 閣第七一号 生活困窮者自立支援法案』

http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g18305071.htm

・諸葛やか『【意見】履歴書規格(JIS Z 8303)様式例の改定を求めます。』

http://yaka1224.seesaa.net/article/354817509.html

・全国信用保証協会 厚生年金基金『基金の年金・一時金』

http://www.pfund.or.jp/02/b28.html

・生活保護問題対策全国会議「間違いだらけの生活保護バッシング——Q&Aでわかる生活保護の誤解と利用者の実像」2012. 明石書店.

・生活保護問題対策全国会議『与野党5党による生活保護法改正案の修正合意をふまえての見解です』

http://seikatuhogotaisaku.blog.fc2.com/blog-entry-134.html

・総務省『平成22年被保護者全国一斉調査』

http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020103.do?_toGL08020103_&listID=000001087771&requestSender=search

・東京人権啓発企業連絡会『在日コリアンの人権について(4)』

http://www.jinken-net.com/gozonji/knowledge/0404.html

・東洋経済オンライン『国内LGBTに訪れた大きな“うねり” 自民党議員が!為末大さんが!』

http://toyokeizai.net/articles/-/14041

・内閣府男女共同参画局『男女共同参画白書(概要版)平成22年版 』

http://www.gender.go.jp/whitepaper/h22/gaiyou/html/honpen/b1_s05.html

・日本弁護士連合会『Q&A 今、ニッポンの生活保護制度はどうなっているの? 〜生活保護のことをきちんと知って、正しく使おう〜』

http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/publication/booklet/data/seikatuhogo_qa.pdf

・はせ浩オフィシャルブログ「はせ日記」『お見合いの極意~4月30日~』

http://ameblo.jp/hase-hiroshi/entry-11521711001.html#main

・日高庸晴×荻上チキ『セクシュアルマイノリティと自殺リスク』

http://synodos.jp/society/2252

・「ふくだ峰之の政治の時間」『ふくだ峰之の選挙公約』

http://fukudamineyuki.com/fukudamineyuki.html

・「ふくだ峰之の政治の時間」『僕の政策』

http://fukudamineyuki.com/seisaku.html

・ホワイトリボンキャンペーン『Gay-Lesbian-Bisexual-Transgendered YOUTH』

http://ww35.tiki.ne.jp/~yossyossy/reference1.html

・牧島かれんウェブサイト『政策提言』

http://www.makishimakaren.com/convictions/

・「夢でっかく!はせひろしのホームページ」『中国の海洋政策に関する質問主意書』

http://www.incl.ne.jp/hase/seijikatudou3/shitumon/180354.html

 

 

●ブログ「包帯のような嘘」: http://ja.gimmeaqueereye.org/

 

 

 

 

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