いじめを止めたい大人たちへ ―― 「ストップいじめ!ナビ」第二弾更新にあたり

解決への兆しが見えない「いじめ問題」に一石を投じようと、様々な分野の専門家らが有志で集まり、立ち上げたストップいじめプロジェクトチーム。いじめで苦しむ子どもたちへの支援を行うことと共に、いじめの発生リスクをできるだけ抑制する社会環境づくりをめざして、多岐に渡る取り組みを行っている。

 

彼らによるいじめ対策のポータルサイト「ストップいじめ!ナビ(http://stopijime.jp/)」の開設から三ヶ月が経過し、先日第二弾更新が行われた。今回の更新では、「いじめに関する統計データ集」「裁判例紹介」「LGBTといじめの関係の説明」といった新たな項目が追加され、大人たちがより多面的にいじめの現状を理解できるようになっている。

 

谷川弥一文部科学副大臣による「いじめ対策に武道の先生や警察OBを導入すべきだ」という発言は、本当にいじめ軽減につながるのだろうか。精神論をもって語られることの多いいじめ問題に対して、統計や法律の観点は何を語るのか。ニコニコ生放送で行われた会見の模様を記事化した。(構成/出口優夏) 

 

 

いじめは増えても減ってもいない

 

荻上 こんにちは。プロジェクトチーム代表の荻上チキです。今回は「ストップいじめ!ナビ」第二弾更新内容のうち、統計データ集、裁判例、いじめのハイリスク層であるLGBT当事者への対処法という3つの要素について説明をしていきたいと思います。

 

まず僕からは、いじめに関する統計データについての説明をさせて頂きます。

 

いじめ研究はまだまだ発展途上ですが、それでもメディアが報じている以上に、そして多くの人が思っている以上に、研究によって判明している事実が多くあります。報道されていない多くのいじめに関する事実をお伝えするためにサイト上に統計データのページを設けました。

 

昨年、大津市のいじめ事件をきっかけとして大変いじめ報道が盛り上がりました。それを受けて文部科学省が緊急調査を行ったところ、その途中経過(4~9月)の結果でさえ、2011年の総認知件数をはるかに上回ったと報告され、話題になりましたね。そこで、「本当にいじめは増えているのか」という問いから始めてみようと思います。

 

 

いじめ認知(発生)件数の推移

いじめ認知(発生)件数の推移

 

こちらは文部科学省が行っている統計を並べたものです。これを見る限りですと、件数の増減が何度か繰り返されているように思えますね。この件数の推移をもって、「いじめの発生にはピークやブームが存在する、そうしたタイミングでしっかり対処しなければいけない」という論調をとる人もいます。

 

しかしながら、実はこのグラフのデータの取り方には問題があります。文科省のデータは、学校側の認知件数を国が取りまとめたものです。そしてそのカウント方法は、これまで何度か変わってきました。1985年定義、1994年定義、2006年定義のそれぞれで、より多くの数をカウントできるような仕方に変えたのです。

 

いじめ報道が盛り上がったタイミングで、文科省や政治家が「これは問題だ!」と、より多くのいじめを発見できる定義に変更してきた。そうすると当たり前ですが、認知件数が跳ね上がるようになります。

 

「学校側の認知件数」というのも重要なポイントです。これは「学校側が把握できた」いじめ件数の推移ということです。いじめの報道が盛り上がると、保護者が「もう少ししっかりと数えてください」と盛り上がり、学校側にプレッシャーをかける。学校側も、普段以上にしっかりいじめを把握しようとする。その結果、アンケートや個人面談を一生懸命行いますから、社会問題化された時期の認知件数は増えるわけです。

 

しかし時間が経つと、調査を担当した熱心な先生が異動したり、熱が冷めて翌年には調査を減らしたりするところが出てくる。そうこうしているうちに、「学校側の認知件数」は減る。こうしたことがあるため、文科省のデータ上では、いじめの数に増減があるように見えてしまう。でも、この文部科学省のデータは、実際のいじめ件数の増加とはリンクしていません。

 

次のデータを見て頂きたいと思います。こちらは教育政策研究所が行っている統計です。

 

 

小学校4~6年 いじめ被害 仲間はずれ・無視・陰口

小学校4~6年 いじめ被害 仲間はずれ・無視・陰口

 

こちらのグラフが文科省の調査と異なるのは、「いじめ」というキーワードを使わずに、悪口や無視といった具体的ないじめ内容の経験について、生徒本人に個別に聞き取りをしている点です。

 

「いじめ」という単語を使うと、定義に当てはまらない人が出てきたり、本人が認めようとしないことがありますが、「無視された」といった経験そのものは否定しようがない。また、こちらは認知件数ではなく本人の申告ですから、先程の文部科学省のものよりも実態に近いだろうということがわかります。

 

このグラフの推移を見てみると、だいたい横ばいになっていますね。つまり、いじめの件数は「増えてもいないけど、減ってもいない」というのが正しいことになります。ここから、「いじめが深刻化している」と騒ぐのは間違いだけれども、この十数年間、いじめを改善できていないという事実が浮かび上がってきます。

 

 

 

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