2012.09.20

被災地の高校生に参考書を ―― 学生復興支援団体「参考書宅救便」

赤塩勇太氏インタビュー

社会 #震災復興#赤塩勇太#参考書宅救便

東日本大震災以降、数多くのNPOやボランティア団体が、様々なかたちで支援を行ってきた。参考書宅救便は、東京の学生が始めた復興支援団体だ。思いばかりが先行しがちな学生ボランティアも多くみられるなかで、参考書宅救便は、被災地のニーズに応えるかたちでの活動を続けている。代表の赤塩勇太さんにお話を伺った。(構成/金子昂)

学生復興支援団体「参考書宅救便」

―― 参考書宅急便をはじめられたきっかけをお教えください

2011年の3月11日に東日本大震災が起きて、被災地のためになにかしたいと思いました。でも、それまでボランティア経験のなかったぼくが被災地に行っても力にはなれないし、逆に迷惑をかけるだろうと思ったので、現地で行うボランティアとは違ったかたちで支援をしようと思いました。

そこで考えたのが「ニーズにあった参考書を回収して届ける」という活動でした。最初は岩手大学の准教授をしている方が、被災地の中高生に学習教材を届けるために全国から参考書を集めていたので、東京で集めた本を送付するかたちで、協力させていただきました。

最初は、団体への寄付ということもあって、各教科の有名な参考書をまとめて送っていました。でも、そういう団体への支援を続けて行く中で「これって本当にニーズにあった参考書を支援できているのか」と疑問に感じてしまったんです。

ぼくたちが受験生だったときも自分で書店に行って、自分の好きな参考書を選んでいたと思うんですけど、被災地の受験生だって「自分が選んだ参考書を使いたい!」と思っているはずだと考えました。

そこで、もっと被災地受験生のニーズに沿った支援をしたいと思い、ウェブ上に在庫リストを掲載して、受験生から個別に要望を受けて送るかたちに変更しました。ウェブ上に在庫リストを掲載したことで、インターネットで参考書宅救便を知った、被災地の高校生が口コミで広めてくれて、少しずつ認知されるようになりました。

―― 累計で何冊くらい回収されたのですか。

最初はちゃんと数えられていたのですが、途中からは回収冊数が急激に増えてしまったことによって数えきれなくなってしまいました。最終的には2万冊以上は回収したと思います。でも、もっとあったかもしれません。

―― 現地の高校生にとってどんな本が嬉しいのでしょうか。

一番人気のあった参考書は、志望校別の赤本と、センター試験の過去問ですね。数学のチャート式も人気でした。そういった参考書って値段も高いですし、手に入れる手段もなかったと思うので本当に注文が多かったですね。

参考書宅救便とは

―― その活動をきっかけに現在の参考書宅救便の活動を始められたのだと思います。参考書宅救便の活動内容をお教えください。

被災直後は、スピードが肝心だと思っていたので無償で受験生を支援してきました。でも徐々に復興が進むにつれて、無償贈与は弊害になる予感がしました。無償で贈与すると現地の書店では購入しなくなってしまうので、それはどうしても止めなければいけないと思いました。

団体として自分たちができることを話し合った結果、まずはこちらで回収した本を売って、その売上金額の全額を購入金額にあてて、現地の書店で参考書を買い、高校生に届ける活動にシフトしました。気仙沼にある塾に寄付することはすでに決定しています。あとは福島出身のメンバーがいるので、お盆に福島の高校生に渡しに行ってきました。支援の要望もいくつか来ているのでこれからさらに支援先を決めて行きたいと考えています。

―― いまはどのくらいの規模で活動されているんですか。

活動しているメンバーは全体で80人以上になりました。震災から1年半以上たったいまでも参加したいと言ってくれる大学生は増えています。最初はぼくと副代表の二人で始めたのですがTwitterでいろいろな学生と知り合うようになって、徐々に人数が増えていきました。中には昨年度参考書を寄付してくれた高校生が大学生になって参加してくれたりしています。これは本当に嬉しいことですね。

現在、関東、関西の大学に7支部あります。ぼくが通っている青山学院大学、それから学習院大学、成蹊大学、明治学院大学、立教大学、聖心女子大学、立命館大学にも支部ができました。他にも準備中の大学もいくつかあり、さらに活動を広げていきたいと思います。

復興支援として様々な活動をしていますが、本を回収し、再販売するということが団体の活動の基礎として大切なので、どんどん協力してくれる学生を増やしたいと思っています。少なくとも3人いれば支部として成り立つので、少しでもやりたいと思ってくれた大学生は声をかけてくださると嬉しいです。

―― 回収した本はどのようにして売っているのですか。

長野県のバリューブックスという古本屋さんが回収と買い取りの協力をしてくださっています。あと、大学によっては回収用の箱を設置していまし、送料を負担していただけるのであれば、参考書はぼくの自宅でも受け付けています。おかげさまで6畳しかない狭い部屋の2畳は本でいっぱいです(笑)

バリューブックスさんのおかげで、一般書籍やCD、そしてゲームを買い取ってくださっています。ぼくらも全国の高校生に安く参考書を購入して欲しいと思っているので、アマゾンでも販売をしています。

―― どんな本が高く売れますか。

当たり前のことですが、珍しいものは高く売れます。あと古ければ古いほど、赤本や参考書は高く売れました。もちろん、汚れや書き込み等、出来るだけ状態のよいものをいただけると嬉しいです。

―― いまは回収と支援先のどちらが足りていない状況ですか。

どちらも足りていません。やはり規模が大きくないので、あまり資金がありません。その上、支援を受けたいというかたをうまく選定できていない状態です。

大学の研究室に行くと、教授の本があふれていて、毎年処分に困るという話を耳にしたことがあるので、各大学の教授に協力いただきたいと思っています。ただぼくらは学生なので、やっぱり教授の教科書を回収して売ることが多く、心苦しいところもあります(笑)。

忘却を食い止めるために

―― 他にはどんな活動をされていますか。

被災地のお母さんたちが、子ども達が夏休みになったことによって仮設住宅に子どもがずっといて困っているらしく、学習支援という名目で、子どもたちの夏休みの宿題を手伝ってあげたり、一緒に遊んだりしています。また、これからは関東や関西の大学生に震災についてもう一度考える場所を提供していきたいと考えているので、他の学生団体とコラボして写真展などを開催していきたいと思います。

また、個人的な目標があって、震災で一番困っているのは両親や片親を亡くした子どもたちだと思うんです。その子たちのためになにかしてあげたい。でもぼくらが直接関わることにはやはりリスクがあると思います。だから震災孤児に奨学金を渡している自治体や支援団体を支援する仕組みを作りたいと思っています。もちろん、やはり中高生にとって参考書は高額なので、本来の参考書宅救便の活動も続けていきます。

―― 子どもたちと関わることで、長期的に被災地と繋がることができるかもしれませんね。

震災から時間が経って、だんだん被災地のことが忘れられつつあると思います。ぼくらの団体の目標は、一人でも多くの学生が被災地と触れ合う機会を設けられるようにすることです。少しでも被災地に関わることができれば、忘却をとめられると思います。家にある、もう読まない本を送ってくださるだけで、被災地と関わることができます。そういう場にしていきたいと思っていますし、皆さんにご協力いただけると嬉しいです。

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