「被曝を避ける権利」を求めて

原発事故に伴う混乱の中で、法律の専門家が向き合ったものはなにか。「原発事故・子ども被災者支援法」の成立に携わった河崎弁護士と荻上チキが語りあう。電子マガジン「α-Synodos」143号より転載。(構成/山本菜々子)

 

 

「ここで逃げたら卑怯だ」

 

荻上 今回は、「福島の子どもたちを守る法律家ネットワーク」(SAFLAN:サフラン)の共同代表をされている河崎弁護士にお話を伺いたいと思います。河崎さんとぼくは色々な仕事でかかわっていて、いつも明晰さとアクティブさに敬意を抱いています。「原発事故・子ども被災者支援法」(以下、「子ども被災者支援法」)の成立にも関わり、積極的にロビイング活動もされていますよね。震災以前は、どのような法律問題に取り組んでいたのでしょうか。

 

河崎 20代のころは経営コンサルティングの会社にいたこともあって、ビジネスサイドの仕事が中心でした。一方で、30代になり、弁護士登録した直後がちょうど「派遣村」の時期だったということもあって、生活困窮者の方々の支援活動などにも取り組んできました。いずれにせよ、原発問題とはあまり関係のない分野で仕事をしていましたね。

 

3.11があって、震災直後の3月末には医療支援団に同行して被災地に入りました。津波被災地の圧倒的な破壊を目の前にして、弁護士という仕事は無力だなと感じました。原発事故の被害については、その頃はまだ、良くわからない、ただ漠然とした不安は感じる、というが正直なところだったと思います。

 

本格的に原発事故の問題に関わるようになったのは、連休明けからです。たまたま福島市での法律相談会に弁護士として参加していたとき、小児科医の方が、被曝の健康影響について根拠を示しながら踏み込んだ発言をされていました。当時は、被曝の影響について確かなことを発言する人はほとんどいませんでしたから、専門家としてここまで踏み込んで発言して大丈夫なのかと思いました。でも、そこには言葉の強さがあって、周りの人たちからも専門家としての意見を求められていた。誰もが確かなものが分からない中で、リスクがありながらも、専門家として自分の見解を話すというのも、一つの知性の在り方なのかなと感じました。

 

その時、その場にいた子ども連れのお母さんに、「お医者さんはこれだけ踏み込んで言葉を発しているのに、弁護士の方はなにも言わないんですか」と言われ、その言葉が刺さったんです。弁護士はいわゆる専門職ですが、原発事故に伴う社会的混乱の中で、何の言葉も持ち合わせていないこと気付かされました。そこで、東京に戻ってからいろいろ調べてみました。

 

調べていく中で分かったのは、実際に健康影響がどこの水準で発生するのかという難しい議論は置いておいて、この国の放射線被曝の規制は年間1ミリシーベルトを基準に設計されていたということです。また、年間5ミリシーベルトを基準に放射線管理区域が設定され、労災の認定なども行われていることも知りました。

 

ご存知の通り、当時の福島市の線量はこの値を大きく超える水準でした。従来の法的基準に照らし合わせると、許容されないはずの状況だったのです。そうした状況にあって、特に子どもを持つ親たちから「どうしたらいいのかわからない。一時的にでもこの地を離れようにも手段がない。」と助けを求められたときに、科学論争の議論にすりかえて見て見ぬふりをするのは卑怯だ、と思ったんです。特に私は東京の人間ですから、自分たちの電力を作るために福島が受難したのだ、という負い目のような思いもありました。

 

確かなものが何なのかが不明瞭な中で、専門職の人間が発言を行うことにより背負うリスクはありますが、福島のお母さんやお父さんたちに寄り添う人もいた方がいいんじゃないかと思い、考えに共感してくれた子育て世代の法律家たちを中心に声をかけて、サフランを立ち上げました。

 

荻上 弁護士は、代理人的な役割を遂行する部分もありますが、弱者にコミットすることで、結果的に運動のプレイヤーになっていく人もいると思います。河崎さんの中ではどうでしたか。

 

河崎 当初は目の前の相談者の方に対して、何ができるのかだけを考えていました。弁護士は常にそこが入口だと思います。しかし、原発事故のような新しく、そして複雑な問題に向き合うと、私たちにはあまりにも武器がないことに気がつかされます。相談者の方々の直面する困難を解決するために適用できる既存の制度が少ないのです。

 

政府の指示によらない避難(いわゆる区域外避難、あるいは自主避難)の場合は特にそうで、金銭的にも続かない。最後には「生活保護という制度もありますよ」というしかありません。それも一定の資産があったら受け入れられません。たくさんのハードルがある中でどうするか考えたとき、社会の仕組み自体にアプローチしないといけないと思いはじめました。

 

荻上 避難したらいくらかの保障を得られるという制度にしたとしても、本人の喪失感、将来期待のロス、関連して発生する諸問題へのケアもふくめてザル状態だったわけですよね。だから、相手に一度寄り添って、法体系の穴を捜し、再構築をめざしてみたと。

 

河崎 今考えたらそうなのかもしれませんが、当時はそんな難しいことは考えていませんでした。福島の問題にかかわるようになったこと自体は、偶然の要素も強くて、もし、津波被災者の方々に深く関わる機会が早くにあれば、もっとそちらに強くコミットしていたかもしれません。

 

荻上 あの時以降の心理や言説って、ファーストコンタクトで、関わる方向もかなり定まったように思います。ぼくが最初に触れた言説は、たまたま「とにかく線量を計って考えよう」というもので、正確な測り方をシェアしようというものだった。何に関わって行くのかはけっこう偶発的な要因で決まっていくものだと思いますね。

 

 

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