一度も稼働しないバターン原発はいま

入口ゲートに巨大な看板 「真実をつかめ」

 

モロンからの曲がりくねった山道を車で1時間以上。ようやくバターン原発の入口に到着すると、案内の職員が待っていた。

 

 

バターン原発の門に掲げられた看板

バターン原発の門に掲げられた看板

 

 

大きな門の脇には、原発の建屋の写真と、大きな文字が書かれた迫力のある看板が掲げられていた。

 

 

「LEARN the FACTS and DISCOVER the TRUTH about NUCLEAR ENERGY」

(原子力エネルギーの事実を学び、真実をつかめ)

 

 

1974年からフィリピンのエネルギー事業やバターン原発事業に関わり、フィリピン国営電力公社原子力コアグループ長も務めたマウロ・マルセロさんはいう。

 

「東京電力福島第一原発の事故後、日本からの視察者が急増した。その多くの人が、原発に対して批判的な見方を持っていた。そのため、原子力エネルギーの真実を知ってもらいたいと、職員から提案があり、作ったものだ」

 

 

バターン原発の門に掲げられた看板

バターン原発の門に掲げられた看板

 

 

2011年3月11日以降は、発電システムや核燃料の問題について日本国内でも多数報じられ、国民の関心が高まった。しかし、いくら関心があっても日本国内では、一般市民が原発のサイトに入って見学するということは難しい。ところが、このバターン原発まで来れば、原発の炉心部分まで防護服やマスク、メガネ、線量計なしで入ることができる。

 

マルセロ氏によると、燃料を装荷する直前までいったが、その寸前で稼働凍結が決定し、結局、燃料は売ってしまったという。事務棟に入ると、入口の右手にはバターン原発建屋の模型、さらに、見学に訪れたたくさんの人々の記念写真が掲げられている。3.11の余波で、2011年はマルセロさんも見学者の説明に追われる日が続いたという。事務棟の一室で、マルセロさんはスライドを使って、バターン原発に関する説明を始めた。

 

「東京電力の福島第一発電所は沸騰水型(BWR)の原子炉。それに比べてバターン原発は加圧水型(PWR)原子炉で、構造が違う。フクシマのBWRに比べて冷却水の系統が2つに分かれているために、緊急時でも沸騰水型よりも汚染が広がりにくい。制御棒も上から降りる形で、ずっと安全だ」。マルセロさんは力説する。

 

「ちょっとこれを見てみて」。マルセロさんがボールペンを取り出した。ボールペンのノック部分に燃料の模型が入っている。「これがウランのペレット(塊)の大きさ。こんな小さな燃料の集合体で大きなエネルギーを起こすことができる」。マルセロさんからボールペンを受け取った高校生は興味津々だ。

 

 

燃料ペレットの模型 最終 シノドス 写真

燃料ペレットの模型

 

 

よく見ると、何やら燃料の模型には日本語が書かれている。

 

「あなたの家庭の電気 八~九ヶ月分」。

 

マルセロさんにどこで入手したのか、聞いてみた。「日本で原子力関係の会議があったときにもらった」。日本の「安全神話」は思いがけないところへも“輸出”されていた。

 

この模型を手にマルセロさんは言う。「どうして原発が必要か。燃料のウランは豊富で、無限です。しかも二酸化炭素の排出が少なく、地球温暖化防止に貢献しています。安全で、クリーン。経済的にも安く、大量の発電が可能です」。

 

原発事故以前は、福島県内でも何度も何度も言われていたであろう原発の話。しかし、福島県自体が脱原発宣言をしている状況で、しかもいま説明を聞いているのが原発事故の被害に遭っている福島県の高校生である。原発事故被災者側の耳には、皮肉にしか聞こえない。

 

 

 

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