一度も稼働しないバターン原発はいま

バターン原発の歴史

 

DSCN4660 バタアン原発外観(シノドス)

 

 

バターン原発はマグサイサイ大統領、ディオスダド・マカパガル大統領時代から建設が検討され、71年には法律も制定されたが、本格化したのはマルコス大統領時代の戒厳令時代。1973年夏のオイルショックを受けて、マルコス大統領がフィリピン初の原発建設を発表。その後、米国の原発建設業者ゼネラル・エレクトリック社(GE)と、ウエスティング・ハウス社(WH)がし烈な受注競争を繰り広げたが、結果としてWH社の軽水炉が採用され、1976年から建設が始まった。

 

この時、WH社は過去の別の発電所の売り込みに対してGE社に遅れを取った経験から、「同じ過ちを繰り返さないため、マルコス大統領に近い人々をスカウトし、特別営業代表として送り込んだ」(『Debts of dishonor』 Amado Mendoza, Jr., et.al)ことにより、バターン原発を落札した。

 

WH社は東芝と関係が深く、バターン原発の電気系では東芝製品が納入されている。その後WH社は、事業の分割・売却が進み、現在は会社としては存在しないが、原子力部門が東芝グループに入った。

 

バターン原発を進めたマルコス大統領による独裁、財政悪化と政治腐敗、そして深刻な汚職への国民の怒りは、1983年のベニグノ・アキノ氏が1983年に暗殺されたことをきっかけに爆発し、86年2月のマルコス政権崩壊、その後のコラソン・アキノ大統領誕生に至る「ピープル・パワー」(エドサ革命)につながった。バターン原発は、マルコス大統領の汚職の中でも象徴的な存在だったため、86年のチェルノブイリ事故も加わって、アキノ大統領は凍結を決定。地元の住民や国民の大きな支持を受けたが、まだまだ不明瞭な贈収賄の疑惑とバターン原発建設で負った巨額の債務は残った。

 

原発凍結は原発だけの問題ではなかった。バターン原発近くには、ピナツボ火山や米軍のスービック(海軍)、クラーク(空軍)両基地があった。バターン原発凍結から5年後の1991年、ピナツボ火山が爆発。クラーク基地で被害が出て、米兵や家族は、スービック基地に避難したこの時、バターン原発と米軍基地に反対するグループの平和運動が盛り上がり、住民らは改めて「核災害が起きる可能性がある」として、フィリピン政府に対して原発事業からの完全撤退を求めるとともに、米軍基地撤退も求めた。

 

フィリピン政府は91年に米軍への基地返還を求め、これを実現。さらに92年にはWH社に対して、米国とスイスで締結された契約の債務無効確認などの訴えを起こした。結果は却下され、のちに、フィリピン政府にとっては不利な形の和解に。結果としてマルコス独裁政権の債務は残り、国民にそのツケが回された形になった。

 

その後フィリピン政府は、原発ではなく火力発電などとしてもなんとか施設を使えないかと事業可能性調査を実施。2010年には韓国電力公社(KEPCO)に委託して事業可能性調査を実施したが10億ドルもの予算が必要との調査結果がまとまった。

 

バターン原発の稼働に反対してきた地元の「バターン非核運動」は2011年の福島第一原発事故発生以降、原発事業からの完全撤退を強く訴えてきた。2013年10月、韓国企業のハンジンと、KEPCOが300メガワットの火力発電所としてバターン原発施設を活用することを計画しているとメディアで報じられたが、その後、具体的な動きは起きていないという。

 

 

 

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