一度も稼働しないバターン原発はいま

フィリピンでの原発の将来性は

 

40年近く、原発や原子力政策の中で仕事をしてきたマルセロさんに話を聞いた。マルセロさんは主に安全管理の仕事をしており、事業凍結など原発事業の節目節目で異動を余儀なくされていた。

 

「福島の事故が起きたとき、自宅にいて、テレビを見ていたがとても悲しかった。特に、いくつか続いて爆発した時には本当に悲しかった。フィリピンの原子力政策にも影響する可能性があり、IAEAにも情報を求めた」。原発事故後の福島の状況を注目してきたという。

 

「フィリピンは韓国は、ほぼ同時期に原発をスタートさせた。でもフィリピンは86年に事業を凍結。もしも実施されていたら経済成長も違っていただろうと思う。でも今、こうして多くの人にプラントを案内し、見てもらい、理解してもらうことで、原子力の経済性を理解してもらえることは有益だ。ツーリズムは進めていきたい」とあくまでも前向きだ。

 

それでも、インタビューの最後にマルセロさんは筆者に聞いた。「これから原子力はどうなるのだろう。教えて欲しい」と。人生の大半を原子力とともに生きてきたマルセロさん。最後は、この「原発施設ツーリズムの案内人」として仕事を終えるのだろうか。原発政策の変化に翻弄されるマルセロさんの複雑な胸中が伝わってくると同時に、東京電力福島第一原発の事故が世界中に与えたインパクトを改めて感じた。

 

 

高校生の感想

 

昨年、バターン原発を訪れたのは、日本赤十字社福島県支部の海外研修に参加した福島県内のJRCの高校生10人と引率の教師、同支部の職員。原発のほかにフィリピン赤十字社の本部、マニラ首都圏の学校、貧困地区のパヤタス地区などを訪問している。

 

原発をコースに入れた理由として職員の石田政幸さんは「今回参加した生徒が今後福島県で生活するにせよ、どこかに行くにせよ、どうしたら住民が安心して暮らせるか、一人ひとりが自分のこととして考えていくことが必要。原発事故後、現在の状況を踏まえて、どう生きていくかを考えるきっかけにしたり、視察経験を通じて一人ひとりの成長につなげていってもらえたら」と話している。石田さんは双葉町に自宅があり、現在、両親は避難生活を送っている被災者の家族だ。

 

では、高校生はどのように感じたのだろうか。

 

中村アイリンさん(猪苗代高校3年=当時)は、母親がフィリピン人で、何度もフィリピンを訪ねているが、「フィリピンの現状を見てみたいと参加を決めた。説明を聞いて、原発はほかの発電所に比べて環境にも優しく、経済的にも優れていると聞いた。原発がなくなったら、自分たちの生活が苦しくなるのかなと思った。でもその後でみんなと話をしてみて、老朽化したバターン原発を動かすのは、やっぱり危険じゃない? と、そういう話もしました」。

 

田中さくらさん(いわき総合高校1年=当時)は「原発事故で、福島のことが悪く言われたりしたので、原発にはあまり良い印象がありませんでした。実際に説明を聞いて、『環境にも良いし、とてもいいものじゃないかな』と思いましたが、よく考えると、事故が起きたときの説明が一切なかったので、いいところだけしか説明がなかったのかな、事故が起きた時にはどういう対処をしたらいいのか、そういうところまで説明していただければ、納得できるな、と思いました」。

 

 

DSC01400記念撮影(シノドス)

 

 

 

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