福島レポート

2018.05.12

なぜ放射性ヨウ素の被曝は抑えられたのか?

基礎知識

甲状腺は、のど仏のすぐ下にある、重さ20g弱の小さな臓器です。甲状腺は、食品に含まれる「ヨウ素」を取り込み、おもにわたしたちの体の新陳代謝を活発にするための「甲状腺ホルモン」を作っています。甲状腺ホルモンは、脂肪や糖分を燃やしてエネルギーをつくったり、子どもの体が正常に成長したりするための大切なホルモンです。

福島第一原発事故直後、「放射性ヨウ素」が飛散し、空気や水、食品から体内へ一部取り込まれました。放射性ヨウ素の半減期は約8日と短いため、この被曝量がどれだけだったのかを今から測定することはできません。しかし、たとえばチェルノブイリ原発事故の際と比べると、そもそもの放射性ヨウ素の放出量は約1/7であったことがわかっています。

また、福島第一原発事故直後の2011年3月17日に定められた食品における基準値はとても厳しく、乳・乳製品の暫定基準値は300Bq/kg、粉ミルクなど乳加工品では100Bq/kgでした(現在はともに50Bq/kgです)。チェルノブイリ原発事故当時の周辺地域で、原乳の基準値は3700Bq/kgとされ、基準値を超過した原乳は粉ミルクとして出回りました。これと比較しても、福島の子どもの放射性ヨウ素による被曝は比較的低く抑えられたと考えられます。 

ヨウ素は昆布やワカメなどの海藻類やそれを食べる魚などに多く含まれています。日本人はもともと海産物を多く食べるため、世界の他の地域に比べて、日常的にヨウ素を多く摂取しています。また、原発事故の後に避難指示が出た地域では、日常的に海産物を多く摂取する食文化がありました。甲状腺にヨウ素が満たされた状態であれば、仮に放射性ヨウ素を食べたり吸い込んだりしても、甲状腺はこれを取り込みにくい状態になります。 

甲状腺を満たすために必要なヨウ素の摂取基準は、もっとも多く必要な12~17歳の男女や授産婦において1日140マイクログラムです(『日本人の食事摂取基準』第一出版より引用)。きざんだ昆布100gのなかにヨウ素は230000マイクログラム含まれています(『日本食品標準成分表』データより引用)。また、日本人の平均的な食事によるヨウ素摂取量は1日に1000~3000マイクログラムですので、平均的な食生活を送っている日本人の甲状腺にヨウ素が足りなくなっているという状況は考えにくいと言えます。