福島レポート

2018.12.19

福島県の子どもの甲状腺被ばく線量はどのくらいか?

基礎知識

福島では、2011年から住民(原発事故当時概ね18歳以下)に対して大規模な甲状腺検査が行われています。では、その対象となっている福島の子どもたちの甲状腺は、どの程度放射線被ばくしたのでしょうか。

福島第一原発事故では、甲状腺がんのリスクとされる放射性ヨウ素を含む放射性物質が飛散しました。放射性ヨウ素は、食べ物や水、空気から体内に取り込まれます。しかし、放射性ヨウ素は半減期が8日間と短いため、内部被ばくは原発事故の直後でなければ測定することができません。

福島第一原発事故直後、県民全体の測定はできませんでした。

2011年3月24日~30日にかけて、飯舘村、川俣町、いわき市の3か所で、計1,080人の子どもの甲状腺等価線量の簡易測定が行われました。その結果、甲状腺の被ばく線量が50ミリシーベルトを超える子どもは1人もいませんでした。

放射線医学総合研究所の研究チームは、この1,080人の測定結果に、原発事故直後の大気の動きのシミュレーションをあわせて、福島の子どもの甲状腺の被ばく線量を推計しました。その結果、ほとんどの子どもは30ミリシーベルト以下だったことがわかりました。

「原子放射線の影響に関する国連科学委員会」(UNSCEAR)の2013年報告書は、福島第一原発事故後に福島に住んでいた1歳児の甲状腺被ばく線量について、15~83ミリシーベルトと推計しています。

原子力災害について考える際、多くの論文を客観的に検討したUNSCEARの報告は、信頼性の高いものと見なされます。ただし、UNSCEARの2013年報告書が検討した時点での論文の多くは、人々の避難経路や食べ物の入手経路などの実情や実測データではなく、理論的な推計値に基づくものでした。この報告から現在までに、より精密なシミュレーションや実測に基づく研究が数多く重ねられました。その結果、UNSCEAR2013年報告書の理論的な推計値は実測値に比べて過大であったとの指摘がされています。

鈴木元・国際医療福祉大学クリニック院長の研究グループは、環境省の事業として「住民の線量評価に関する包括研究」を進めています。これは、住民の避難経路や水、食料品の入手経路なども包括的に鑑みて、初期被ばく線量(半減期の短い放射性ヨウ素などによる被ばく線量)の、より実態に近い推計をするための研究です。

2017年10月23日に公表した中間報告によると、原発周辺13市町村で、1歳児の甲状腺被ばく線量は4.8~38.7ミリシーベルトと推計されています。これは、UNSCEAR2013年報告書の推計値より大幅に低い数値です。研究チームはさらに解析を進めた上で、2018年度中には最終的な報告を出す予定です。

世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)の専門家グループが、「原子力災害後の甲状腺の健康調査」と題した文書をまとめました。(https://synodos.jp/fukushima_report/22298

原子力災害後の甲状腺スクリーニング検査については、周辺地域住民に対する甲状腺の大規模な検査は実施しないことを推奨しています。その上で、「甲状腺の被ばく線量が100~500ミリシーベルトあるいはそれ以上」の個人に対しては、「甲状腺モニタリングプログラム」を考えることを提言しています。

原発事故後の研究結果の集積から、福島の子どもの甲状腺被ばく線量は、平均100ミリシーベルトを下回ることがわかっています。

また、福島の甲状腺検査でこれまでに見つかっている甲状腺がんが放射線被ばくによるものではないとされるのは、福島の子どもの甲状腺被ばく線量がもともと十分に低かったことも大きな理由です。

参考

「チェルノブイリ原発事故と東京電力福島第一原子力発電所事故との比較(甲状腺線量)」(環境省・平成29年度版放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料)

https://www.env.go.jp/chemi/rhm/h29kisoshiryo/h29kiso-03-07-25.html

「福島原発事故における甲状腺被ばくの線量推定」(2016年2月15日県民健康調査検討委員会資料)

http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/151309.pdf

「東京電力福島第一原子力発電事故における住民の線量評価に関する包括研究の経過報告」(2017年10月23日県民健康調査検討委員会資料)

http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/238778.pdf