魅惑の<アルヨことば>――『コレモ日本語アルカ?――異人のことばが生まれるとき』(他)

『コレモ日本語アルカ?――異人のことばが生まれるとき』(岩波書店)/金水敏

 

「あなた、この薬のむよろしい。とっても効くアルヨ。」

 

このセリフから、多くの人は中国人を思い浮かべるのではないだろうか。ちょっぴり、怪しく胡散臭いタイプのような感じがする。この薬、飲んだらちょっとやばいんじゃないの!?

 

とはいえ、実際に、そんな喋り方をしている中国人を、現実で目にすることはない。では、この<アルヨことば>の源流はどこにあるのだろうか。誰しも一度は疑問に思ったことがあるはずだ。今回紹介する『コレモ日本語アルカ?』は、その謎に迫った一冊だ。

 

本書では、まず、幕末から明治期にかけて、開港していた横浜で生まれたピジンについて着目する。ピジンとは共通語を持たない人の間で、作り上げられる言語のことだ。ピジンは横浜だけのものではない。日本人が中国大陸に渡り、現地の中国人と接する中で誕生した「満州ピジン」も存在する。

 

ピジンの一つの特徴として、語彙の減少や、きわめて限られた単語を使いまわすことが挙げられる。「~アル」が多様な意味でつかわれる、<アルヨことば>との共通点がどんどん解き明かされていく。

 

そして、カルチャーにおいて、<アルヨことば>は、時代の日中関係を反映しながら発展していく。『のらくろ』などのマンガでは、単に中国風のキャラクターに用いるのではなく、「ずるく」「卑怯な」中国人キャラクターに、意図的に<アルヨことば>を使っていく。私たちが現在もっている、胡散臭いイメージと重なりハッとする。

 

戦後も、怪しげな中国人の表象として<アルヨことば>は継承されていくが、日中平和友好条約が締結されたのちの1980年代以降、そのイメージは一変していく。今まで、下層社会の男性のイメージとして使われていた<アルヨことば>を、美少女キャラが使うようになっていったのだ。

 

<アルヨことば>は近代の日中関係の中で生まれ、創作作品の中で発展を遂げていった。ことばの源流を求める旅は、中国と日本の歴史を巡る、政治的文脈を強く意識せざるを得ない場所へたどり着く。ぜひ、そのダイナミクスを味わってほしい。(評者・山本菜々子)

 

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