ある「炎上」「ネットいじめ」に抱く、いやというほどの既視感 

2ちゃんねるやミクシィなど、ソーシャル系のインターネットサイトを震源とする、一般人のブログ「炎上」や、個人情報を悪用した嫌がらせなどが、問題として取り上げられるようになって久しい。

 

この短い文章では、そうした問題についての日本における議論の参考とするために、先日英語圏(とくに米国)で騒がれた、ある「ネットいじめ」の事例について、紹介してみたい。文中で言及している動画やコメントは、すでに知っている人もいると思うし、英語がちょっと分かる人が検索すれば一発ででてくるけれども、不必要に晒したくはないのであえて省く。

 

事件の概要はつぎのとおり。

 

被害者は、MySpaceやFacebookなどのSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)サイトに自分の画像や動画などを掲載していた11歳の女の子。彼女があるバンドのミュージシャンと一緒に撮った写真を自分のプロフィールに掲載したところ、そのミュージシャンは過去に性犯罪での逮捕歴があり、11歳の女の子とも性的な関係があるのだろう、という憶測が、動画中継サイトStickamを使ったゴシップサイトに掲載された。

 

それをきっかけに彼女が自分のSNSページに掲載していたさまざまな画像――なかには、年齢に相応しくない、やや性的なものもあった――が複数のサイトで晒され、彼女のSNSページには彼女を尻軽だとかブスだと中傷するコメントが多数書かれた。

 

それに対して彼女は、YouTubeなどを通じて、中傷を書き込んだ人たちに反論し、また口汚く挑発する動画を発表した。

 

その動画が注目を集め、彼女に対する悪口がさらに多数書き込まれ炎上しただけでなく、4chan(日本の「ふたばちゃんねる」方式の匿名画像掲示板)において、彼女の「性的な」画像とともに、彼女の実名や家族の住所などの個人情報が晒された。また、そうした情報をみた人の一部が、実家に嫌がらせ電話をかけて反応をYouTubeやTumblrなどで報告したり、出前の注文を入れたりという嫌がらせを行った。

 

また、彼女が自分自身の性的な画像を公開していることについて、親のネグレクトあるいは性的虐待であるという通報が警察に寄せられた。その一方で、彼女や嫌がらせ電話に出た母親に対して「レイプしろ」というコメントも書き込まれ、彼女の身の安全も懸念される事態になった。

 

これらのいじめ行為を受けた女の子は、最終的に涙を流しながら「もう嫌がらせはやめて」とYouTubeで訴えようとした。

 

しかしそこに彼女の父親が登場し、嫌がらせに加担した人たちに対する激しい怒りをぶちまけた。ところがこの父親はネットの仕組みをよく分かっていなかった様子で、「サイバーポリスに届け出た」「お前らみんな逆探知して正体は分かっているぞ」と、ありえないような内容を口にしてしまった。

 

それに加え、父親の口調や文法的な特徴が、あまり公式の教育を受けていない人に典型的なものであったこと、さらにかれの口ひげがちょっとユニークな面白いかたちだったことなどが相まって、その動画がそれまでの経緯を知らない人にも「笑える動画」として、リミックスやマッシュアップ版も含めて、広まってしまう。

 

その結果、YouTube、MySpace、Facebook、Stickam、4chan、Tumblrおよびこの動画を取り上げたさまざまなブログにおいて、女の子とその父親に対する中傷がさらに書き込まれた。

 

その後、被害者の女の子の安全のために警察が介入する事態になっており、また一部の良心的なブロガーによって、当初はただの笑える動画と思われていたものの背景に、深刻な「いじめ」があったという認識が広められたこともあり、ある程度沈静化した。

 

とはいえ、無責任に「炎上」に加担した人たちを批判したブロガーを中傷し、そうしたサイトへのDoS攻撃を示唆するようなスレが4chanに立つなど、その後も一部では騒動がつづいた。

 

日本において2ちゃんねるやミクシィなどで起きる、さまざまな「炎上」「ネットいじめ」「個人情報漏洩」といった事件についての報道をみてきた人なら、英語圏でのこうした事件についてこれまで一度も聞いたことがなかったとしても、上記の経緯に激しく既視感を覚えるのではないだろうか。

 

そうした事件が起きるたびに、このような事態が起きたのは日本の文化や国民性に関係しているとか、日本のネット圏は匿名文化だからというような、もっともらしい説明が行われてきた。

 

しかし今回米国に住む11歳の女の子とその家族を襲った事件は、日本で起きたいくつかの事例と、その展開や暴走・炎上の経緯まで、あまりに似通っている。文化の違いというのはたしかにあるだろうけれども、似たようなアーキテクチャさえあれば、こうした事件はどの国で起きてもおかしくないのではないだろうか。

 

他国におけるこうした事例を知ることを通して、日本国内の事象を安易な日本特殊論で説明してしまうことには慎重になる必要があるだろう。

 

 

 

 

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