2014.11.29

そこは地上の楽園か?――『動物園の文化史 ひとと動物の5000年』(他)

今週のオススメ本 / シノドス編集部

情報 #動物園の文化史#溝井裕一#日本政治とメディア#逢坂巌

『動物園の文化史 ひとと動物の5000年』(勉誠出版)/溝井裕一

今回紹介する本は動物園にスポットを当てた『動物園の文化史』です。先史時代から古代ローマ、中世ヨーロッパ、ナチスドイツ、現在まで、動物園を通してヨーロッパの自然観、動物と人間との関係を紐解いています。

そう書くと、ちょっと難しそうですが、特筆すべきは、随所にちりばめられているユーモラスな(ちょっと残酷な)エピソードの数々です。

たとえば、神聖ローマ皇帝のフリードリヒ二世は大規模な動物コレクションを有していました。しかも彼は諸地域を訪問する際、ライオン、トラ、ゾウやラクダを連れてまわり、さらに、「英国王ヘンリー三世の妹の結婚したときも、動物たちが華をそえた」というのです。(「動物が華をそえた」という表現を、本書ではじめて目の当たりにしました)

一方、イギリスのヘンリー三世はホッキョクグマを手に入れますが、あまりにも飼育費がかさむため、ロンドン市民に飼育費を負担させました。しかし、それでも足りないので飼育係は川までホッキョクグマを連れて行き、自分で魚を取らせることにしたようです。ほほえましいですね。

また、マクシミリアン二世はゾウを飼っていました。彼は当時キリスト教を脅かしていたオスマン帝国の皇帝の名前からゾウに「ゾリマン」とつけます。「さすれば、この人物もいずれはこのゾウのごとく、マクシミリアンの奴隷になるだろう」とのこと。ひどい話です。

中世ヨーロッパにおいて、動物コレクションを持っていることは、権力の象徴でした。また、『旧約聖書』に出てくる地上の楽園を再現する試みでもあり、キリスト教の概念と自身の権力とが結びついていることをアピールできる効果もありました。「自然」はだんだんと人間が支配・管理可能なものであると捉えられていきます。

19世紀末になると、動物園は動物だけではなく、西洋人にとって「僻地」に住んでいた「未開人」を展示する場にもなります。人とはなにか、動物とはなにか――自然を管理・支配する動物園の歴史は、まさに「人」と「自然」との関係の縮図です。奥深き動物園の世界にぜひ足を踏み入れてみてください。(評者・山本菜々子)

『日本政治とメディア テレビの登場からネット時代まで』(中公新書)/逢坂巌

本書は、鳩山一郎から安倍晋三まで戦後日本政治史を「政治とメディア」という視点で辿る一冊だ。

包括的で、多岐に渡る読み方が可能なため、全体を要約するのが難しいのだが、とくに興味深かったのは、新聞、ラジオ、雑誌、テレビ、そしてインターネットとメディアが発達していくと共に、政治とメディアの関係が変容していく点である。

テレビの登場と共に、政治とメディアの関係が徐々に変わっていく。自民党の派閥政治の中で、弱小派閥から生まれた首相は、権力争いに勝つために、地盤をたしかなものにするために、テレビを利用するようになる。

それだけではない。新聞記者を通して国民とコミュニケーションをとってきた政治家が、その介入を嫌い、テレビを使った直接的なコミュニケーションを好むようにもなるのである。それはニクソンショック以降、新聞と激しい対立にあった佐藤栄作が顕著な例だろう。佐藤は、退陣のテレビ記者会見の際、多くの新聞記者が参加しているのをみて「テレビカメラはどこかね。……新聞記者の諸君とは話ししないようにしているんだ。違うんですよ、僕は国民に直接話したい。新聞になると文字になると違うから」と語っている。

政治がテレビを利用する中で、「小泉劇場」以降が顕著なように、メディアは政治家のキャラクターやパフォーマンスに注目した報道を行うようになる。バラエティ番組に出演する数々の政治家、スキャンダル、数多の失言など、メディアを利用してきた政治家たちが、メディアによって面白おかしく報道されるようになるのである(もちろんその背景には、無党派層を獲得しようとする政治側の思惑もあるのだが)。

新聞記者の介入を嫌い、テレビのイメージを嫌った政治家がたどり着いたのが、ブログの開設やtwitterアカウントの取得、ニコニコ動画の出演など、インターネットを利用することだった。いまだマスメディアほどの影響力はないと言われるネットだが、ネット選挙運動解禁など、少しずつではあるがメディアとしての影響力を持ち始めている。衆議院議員総選挙が控えるいまだからこそ、政治とメディアの歩みを辿り、これからの政治を読み解く新しい視座にしたい。(評者・金子昂)

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シノドス編集部

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