2016.09.19

特集:都市再生

荻上チキ責任編集 α-Synodos vol.204

情報 #αシノドス#α-synodos-vol-204#都市再生

1.木村幹夫×飯田泰之「不動産情報はウソをつけない!?――登記簿情報から読み解く、空き家、相続、ニュータウン、AI利用」

不動産・金融業者支援コンサルティングファーム、株式会社「トーラス」代表の木村幹夫さんに、これから注目される空き家問題、高齢化が進むニュータウンなど、不動産をめぐる都市問題についてお話を伺いました。

◇登記簿情報で性格までわかる!?

飯田:今回は「情報をいかにしてビジネスの糧とするか」という裏テーマも含めて、不動産・金融業者支援コンサルティングファーム、株式会社「トーラス」代表の木村幹夫さんにお話を伺います。まずは基本的な話から。木村さんが提供している「不動産・金融業者支援コンサルティング」とはどのようなサービスですか?

木村:日本中の不動産登記簿を集め、データベース化し、お客様に提供しています。登記簿のデータから、どういったライフサイクルのなかで、いつごろお困りになるのか、予測を立てることができるからです。

飯田:登記簿には、だれがどこに土地をもっていて、いくら担保があるのか……といった個人情報が記載されていますよね。そんな重要な情報にも関わらず、法務局にいけば公開されているのです。しかも、アーカイブしたものは門外不出になっている。データを収集するということによって、登記情報間の横串を通すことが重要なサービス提供となり得るわけですね。

木村:税金でつくっているはずなので、オープンデータとして本来は提供するべきだと思います。しかも、公開データであるにも関わらず、ひとつひとつコピーしなければなりません。データでは見せてもらえない。

飯田:一回アナログな作業が入ってくるんですね(笑)。日本の官庁らしいというか。登記簿に注目したきっかけはなんですか?

木村:登記簿情報はウソをつけないと思ったからです。お金に困っていたら土地を手放します。また、差し押さえ経験の有無もわかる。税金を支払わないと、役所は土地を差し押さえますから、何度も差し押さえをくらっているようなオーナーはいい加減な場合が多いです。性格まで分かると言えるかもしれませんね。

木村氏
木村氏

一方で、決算書は「お化粧」出来ます。ある程度のウソをつけるんです。中小企業の決算書って、必ずしも正確に書かれていない。私はもともと金融機関にいたので、このような例にたくさん出会いました。倒産する会社のそれまでのデータをみても、決算書上は上手くいっているところが多いんです。

飯田:まさに、行動はウソをつけない。経済学的な考え方ですよね。顕示性選好ってやつです。そして、不動産の情報は、多くの人が考えているより、かなり重要なものです。「リーマンショック」はその後の国際間の金融危機が注目されがちですが、もともとは住宅バブルが発端です。……つづきはα-Synodos vol.204で!

2.木曽崇「都市の経済的価値を高めるナイトタイムエコノミー」

今、ヨーロッパを中心に推進されているナイトタイムエコノミー(夜の経済活動)。日本でも6月に改正風営法が施行され、その重要性が注目され始めています。ナイトタイムエコノミーの活用は、経済活性化にどう繋がっていくのでしょうか。

◇夜にシフトする生活スタイル

農耕中心の社会として端を発した我が国においては日の出と共に目を覚まし、畑を耕し仕事をすることが是とされ、「夜は寝るもの」という価値観の中で社会が形作られてきた。いわゆる「お天道様と共に目覚め、お天道様と共に寝る」という生活への信仰である。このような生活スタイルに関する価値観は、産業構造が変化しかつての農耕を中心とした社会構造から離別した現在においても、依然として我が国では共有されているものである。

しかし、そのような変わらぬ価値観を余所に、我々の実生活は確実に昼から夜に向けてシフトしている。例えば下図は総務省が5年おきに実施している社会生活基本調査に基づいて作成した、平成18年と平成23年の国民の各時間帯における「睡眠者比率」を比べたものである。

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この比較に基づくと、夜23時45分から翌朝7時00分までの夜間においては平成18年の調査結果の方が平均0.9%程度全体に占める睡眠者の割合が高く、一方、朝7時00分から夜23時45分までの昼間おいては平成23年の調査結果の方が平均0.4%程度全体に占める睡眠者の割合が高い。即ち、平成18年から平成23年の5年の間に、我々日本人はその生活スタイルを確実に昼から夜に向かってシフトしていることがわかる。

ナイトタイムエコノミーとは、昼間に行われる一般的な経済活動に対し、陽が落ちた以降、すなわち夜から翌朝までの間に行われる経済活動の総称である。「夜は寝るものである」という伝統的な価値観が未だ根強く共有されている我が国において、夜の時間帯の経済活動は一種の反社会性を持ったものであるかのような認識が為されることが多く、「夜の仕事」というのは必ずしも社会から正当な評価を受けて来なかった。

しかし近年、諸外国においては特に都市政策の中で、このナイトタイムエコノミー振興の必要性が年々重要視され始めており、その手法に注目が集まっているのである。

◇世界的なナイトタイムエコノミー振興

現在、世界で最も先進的なナイトタイムエコノミーの振興政策を推進している国の一つがイギリスである。2015年6月、イギリス国内のバー、ラウンジ、劇場、レストランなど夜を経済活動の中心とする商業者によって構成されるNight Time Industries Association(ナイトタイム産業協会)は、「国内のナイトタイムエコノミーの経済規模は年間660億ポンド(約8兆9千億円)に達する」との調査結果を発表した。同協会は、ナイトタイムエコノミー全体の雇用総数は130万人、国内5番目の「雇用主産業」であるとしてその振興の重要性を訴えている。……つづきはα-Synodos vol.204で!

3.久繁哲之介「市民・顧客は『攻略する対象でなく、協働する仲間』――競わない地方創生」

 

失敗しない地方創生のためには、どのような戦略が効果的なのか。市民のライフスタイルを地域再生の資源としてどう活かしていけるのか、実例に基づいて解説していただきました。

 

◇弱者(地方、中小企業)と強者(大都市、大企業)の経営は正反対に違う 

「失敗しない地方創生へ、市民のライフスタイルを主体としたまちづくり」というテーマで執筆を依頼された。結論を先に明示しよう。

弱者(地方、中小企業)と強者(大都市、大企業)の経営は正反対に違う」という経営の基本を実践する弱者は、地方創生に成功できる。正反対に違う項目を9つに集約した経営モデルを今年3月刊行の拙著『競わない地方創生~人口急減の真実』で以下にように纏めた。

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◇弱者は、京都や飛騨高山の観光戦略を真似してはいけない

弱者と強者の経営モデルが正反対に違うことを、歴史的建造物の魅力で集客する観光事業を例に説明しよう。強者の例は、京都と飛騨高山。弱者の例は、長野県須坂市。

京都や飛騨高山など強者の観光施設は、歴史的建造物を厳かに見せるだけで、高い入館料を多くの顧客(観光客)から徴収できる。集客の数も稼げるし、利益率も稼げるこの経営モデルは、観光施設を厳かに見せるだけで「ほとんどの顧客が高い価値を感じるし、楽しめる」からこそ成立する。

つまり、ある一つの価値が、どの顧客にも通用する大量販売が可能な経営モデルである。

京都や飛騨高山の更なる強みは、そのような観光施設が地域内に集積していること。だから、消費金額が小さい通過型観光地ではなく、消費金額が大きい宿泊型観光地になれる。……つづきはα-Synodos vol.204で!

4.田中友章「都市再生プロジェクトへの景観法の活用」

 

景観デザインの観点から、都市づくりの取り組みを紹介していただきました。京都など伝統的景観が残る地方都市のイメージが強い景観法ですが、東京の都市デザインにおいてはどう活用されているのでしょうか。

◇東京の新しい都市開発

現在東京都心部では、さまざまな地区で都市再生の取組みが進められており、2020年の東京オリンピック招致決定を受けて、その動きはさらなる進展をみせてきている。特に都市再生特別措置法(2002年施行)により創設された「都市再生特別地区」を活用した多数の大規模開発プロジェクトが現在進行している。

この制度は、都市の再生に貢献することを条件として、その貢献の度合いに応じた規制緩和を認めるものだ。従来の制度で用いられてきた公共的なオープンスペースの確保などの数量的な基準によらず、ビジネスや文化・交流・生活を支援する施設や機能の充実・強化、また開発地区外の関連公共施設等の整備などの計画提案によって高さや容積のボーナスが得られる。

独創的な都市の魅力の創出のための提案を受けて、既存の用途地域等に基づく用途・容積率等の規制を適用除外とした上で、自由度の高い計画を定めることができる都市計画制度となっている。

都市再生特別地区の運用にあたっては、都道府県が都市計画の手続きを決定することになっている。東京都では、事業者の創意工夫を最大限に発揮するために、事業者による提案を基本とし、一律的な基準によらず、都が1件ごとに個別審査を実施して実施する基本方針が示されている。

そして、この方針に基づいて、庁内に特別な審査検討体制が構築され、提案への審査対応が行なわれている。(http://www.toshiseibi.metro.tokyo.jp/seisaku/tokku/)このように規制緩和によるアクセルをふかしながら、都心部で複数の都市再生プロジェクトが進められているわけだが、その多くは民間事業者が主体のプロジェクトであるため、いくつかの構造的制約を伴わざるをえない。

その一つは、事業者の価値判断が各々のプロジェクトの枠組み内でのベネフィットに向かわざるをえない点である。このため、場合によっては行き過ぎた規制緩和により、その場所の個性や長い時間をかけて醸成された環境の価値を滅失させてしまう懸念がある。

よって、複数の大規模プロジェクトが隣接・近接して展開する場合などにおいては、個々の事業エリアを超ええ総合的・集合的な価値を創り出すために、あるいは個別のプロジェクトの連鎖による長い時間の中での良い変化を創り出すために、より高い次元の公共的な論理を持ち込んだ制御を行なう必要があるだろう。……つづきはα-Synodos vol.204で!

5.富井規雄「電車はなぜ遅れるのか?――都市における電車の遅延メカニズムとその対策」

かつて「通勤地獄」と言われた状況は改善されてきましたが、ラッシュ時の混雑・遅延は都市に住む上での大きなストレスです。電車の遅延はどのように生じ、どのような対策が取られているのでしょうか。鉄道会社によるさまざまな工夫に目からウロコです。

◇電車は遅れる – 原因は乗客

最近、都市圏、特に東京圏においてラッシュ時の電車がよく遅延しているという苦情が多いようだ。実際、例えば遅延証明書の発行状況をしらべた資料(交通政策審議会 東京圏における今後の都市鉄道のあり方に関する小委員会 遅延対策ワーキング・グループ最終取りまとめ付属資料)を見ると、「しょっちゅう遅れている」と言わざるをえない路線も少なくない。

では、なぜラッシュ時に電車は遅れるのだろうか。実は、数分程度の小規模の遅延の原因は、ほぼ100%乗客である。もう少し詳しく言うと、乗客が原因となる停車時間の増加である。例えば、電車の特定のドアに想定以上の乗客が集中して乗降時間が延びた、車内で発生した急病人を救護した、線路内に人が立ち入った、乗客のカバンや傘などがドアに挟まった、線路に落し物をしたため駅員がそれを拾う間電車をとめたなどである。

しかし、停車時間が少し増加したくらいでなぜ電車は遅延するのだろうか。あるいは、少しくらいの遅れなら回復できるのではないのだろうか。さらに、なぜ他の電車、場合によっては、遠く離れた路線の電車にまで遅延が波及するのだろうか。いや、そもそも、遅延が発生したり、他の電車に波及したりすることのないようにはできないものなのだろうか。ふだんからこういう疑問をお持ちの方も少なくないと思う。ここでは、こういう疑問にこたえるべく、背景にある事情と現在行なわれている対策、あわせて、今後の進め方を述べてみたい。

◇停車時間が延びれば電車は遅れる

東京駅を中心として、半径約50kmの範囲を東京圏という。東京圏の平成22年度の1日平均の鉄道の輸送人員は、約3、900万人である(数字で見る鉄道2015)。このような多くの乗客を運ぶために、多くの路線では、特に朝ラッシュ時において頻繁に電車が運転されている。実際、1時間に30本前後の電車が運転されている路線も珍しくない(図1:中央線中野駅の時刻表)。

図1:JR東日本中央快速線中野駅の時刻表
図1:JR東日本中央快速線中野駅の時刻表

例えば、東京メトロ丸ノ内線では32本、JR東日本中央快速線では30本、東急電鉄田園都市線では27本である。おおむね2分に1本、電車が走っていることになる。こういう状況で停車時間が延びるとどうなるかを考えてみよう(図2を参照していただきたい。なお、この図は、いわゆる列車ダイヤ図の形式で描かれている。横軸が時間、縦軸が距離、斜めのスジは電車に対応している)。

図2:停車時間と最小運転時隔
図2:停車時間と最小運転時隔

今、話を簡単にするために、1時間に30本の電車が走っているとする。すなわち、図2の運転間隔は120秒である。そして、駅の停車時間は、ダイヤ上で50秒に設定されているとする。

この場合、前の電車が駅を出た時から次の電車がこの駅に着くまでの時間は、簡単な計算で70秒ということがわかる。この70秒という値は、実は、安全を保つために確保しなければならない前の電車との間隔(専門用語で恐縮だが、最小運転時隔という)と余裕(図2のα)を加えたものである。例えば、最小運転時隔が60秒であれば、余裕は10秒ということになる(ここで、最小運転時隔の値は、信号システムのスペックで決まる。よって、駅によって異なる)。

この場合、何らかの理由によってある電車の停車時間が延びて60秒以上になったとたん、次の電車の到着は遅れる。前の電車がまだホームにいてこの電車は駅に入れず、駅の手前で止まってしまうからだ。これを機外停止という。……つづきはα-Synodos vol.204で!

プロフィール

シノドス編集部

シノドスは、ニュースサイトの運営、電子マガジンの配信、各種イベントの開催、出版活動や取材・研究活動、メディア・コンテンツ制作などを通じ、専門知に裏打ちされた言論を発信しています。気鋭の論者たちによる寄稿。研究者たちによる対話。第一線で活躍する起業家・活動家とのコラボレーション。政策を打ち出した政治家へのインタビュー。さまざまな当事者への取材。理性と信念のささやき声を拡大し、社会に届けるのがわたしたちの使命です。専門性と倫理に裏づけられた提案あふれるこの場に、そしていっときの遭遇から多くの触発を得られるこの場に、ぜひご参加ください。

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