2014.03.30

『自由か、さもなくば幸福か? 二一世紀の<あり得べき社会>を問う』(筑摩選書)/大屋雄裕

アマゾンによってほぼ外れのない「おすすめ商品」が紹介される。街中のいたるところに監視カメラがセットされている。ジョージ・オーウェルが監視社会の恐怖を描き出した『一九八四年』よりもはるかに高度な情報技術と監視の網の目の世界で生きる私たちは、しかし、あれほどまでの恐怖を感じながら生きているのだろうか?

自由と幸福の両立可能性という古典的な問題を考える本書は、自由と幸福の親和的な関係という十九世紀の夢が、どのようにして破られ、我々はいまどのような問題に直面しているのかを問うている。

情報技術の発展とグローバリゼーションによって国家や企業による監視・支配が強化されるだけでなく、それらを監視・抵抗する手段を個人や組織が得る。それによって噴出した、これまで想定されていた国家の主権を超えた様々な問題。本書ではその例として、国家や企業を監視するだけでなく、人びとを脅かすこともある小さな権力者たちの存在――ウィキリークスやアノニマス――があげられている。

このような、掟に従うか否かではなく、どの掟に従うかというメタレベルの思考を迫られる社会は、領主それぞれが権利と義務、その対象を決め、市民はその中で適切に振る舞うことを要求されていたヨーロッパ中世の構造に非常に近しい。著者は我々が迎えつつある社会を「新しい中世」と呼ぶ。

中世を乗り越え、近代は生み出された。「新しい中世」の中で我々の社会は、いまどのように歩を進めつつあるのか。そしてその先に描かれる新しい社会はどのようなものか。われわれの覚悟が問われている。

著者・大屋雄裕氏と稲葉振一郎氏のトークイベントが4月5日(土)に開催! 詳細はこちら → https://synodos.jp/info/7666/3

著者・大屋雄裕氏記事一覧 → https://synodos.jp/authorcategory/oyatakehiro

『思春期サバイバル』(はるか書房)/ここから探検隊

思春期はとてもデリケートだ。友人との諍いに心を痛め、身体の成長とまどい、大人達に憤りを感じる。本書はそんな思春期を「サバイバル」するための、多くのヒントがつまっている。

「『やりたいことは何ですか?』って何ですか?」「親って勝手!」「教師ってウザイ」「理不尽な先輩」「友だち関係もムズカシイ」誰もが一度は思ったことのあるモヤモヤを、堅苦しい言葉を使わず丁寧に扱う。

10代の時にこの本があれば! と思ってしまう読者も多いのでは。ぜひ、学校図書館で取り扱ってほしい本だ。

『ルポMOOC革命無料オンライン授業の衝撃』(岩波書店)/金成隆一

名門大学に「スマホ留学」!? MOOC(ムーク)という言葉を目にしたことがあるだろうか。「大規模公開オンライン講座」(Massive Open Online Courses)の頭文字だ。

2012年に米国で本格的に配信がはじまり、ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学、スタンフォード大学などの名門大学の授業が、インターネットを通じて無料で受講できるようになった。さらに無料オンライン授業は、名門大学だけではなく、小中学生向けサイトも登場するなど、多くの年代に開かれた学びの場を提供している。

本書では、そんなMOOC創設者や、利用者への取材を通して、新しい教育の形に迫る。「勉強って嫌々するものだと思っていましたけど、今は楽しい」紹介される利用者の声は、学ぶ喜びにあふれている。

『ギンイロノウタ』(新潮文庫)/村田沙耶香

『しろいろの街の、その骨の体温の』で第26回三島由紀夫賞を受賞した小説家・村田沙耶香の『ギンイロノウタ』(第31回野間文芸新人賞)が文庫化された。

彼女の作品は、子どもの頃に抱き、そしていつのまにか薄れていたどことない違和感や欲望、そして絶望を思い出させる。懐かしい胸のざわつきに苦しみ、戸惑いを覚えながらページを進めていけばいくほど、強烈で生々しくドロドロとした性描写のように、それらがまとわりついてくる。そこにはなぜか罪悪感も混じっている。

学校で繰り広げられる残酷な駆け引き、家庭での疎外感に覚えのない人は少ないのではないだろうか。収録されている二編の作品(『ひかりのあしおと』、『ギンイロノウタ』)は、それらの中で、膨張する憎しみによって壊れていく少女と女子大生の姿を描く。読む人を選ぶ作品だろう。しかし一度は手に取ってみて欲しい。

『都市の環境倫理』(勁草書房)/吉永明弘

「都市の環境倫理」といわれると違和感をもつ人もいるかもしれない。都市と自然とは対立するものであり、都市とそこで営まれる人間の活動が、あるいはもっといえば、都市生活者たちの欲望こそが、自然環境を破壊してきたのではないかと。

現にそう主張する環境運動家はたくさんいるし、それがわたしたちが環境問題に胡散臭さを感じがちな理由でもある。あたかも人間などいなくなった方が地球環境にとってよいかのような口吻に、ついていけないものを感じる人も少なくないだろう。

しかしながら現代は、世界人口の半数以上が都市に住む時代。そんな時代に、都市を無視して原生自然を礼賛していても意味はないし、また選民意識丸出しで頭ごなしに「自然を守ろう!」と叫んでも実践的な影響力はもてないだろう。それにそもそも、都市は地球環境にとってよくない地域なのか?

こんな不信や疑問をもつ読者なら、ぜひ本書を手に取るべきだ。「環境プラグマティズム」の立場に立つ筆者によって、環境倫理学のこれまでの議論が手際よく整理されながら、効率化された都市生活こそが、地球環境の保全に大きな貢献をなしうることが説明される。目指すべきは、都市居住地を拡張しつづけながら、自然のリズムと調和するパターンをつくり上げること。都市は郊外よりもずっとエコなのだ。

【編集部からのお願い】シノドスにご恵贈いただける際は、こちら https://synodos.jp/company に記載されている住所までお送りいただけますと幸いです。 

足を運びたいオススメイベント

■4月5日(土)大屋雄裕×稲葉振一郎 新世紀の社会像とは?

この社会はこれから、どうなっていくのか? 一体いかなる社会が、望ましいのか?  考えられる未来の社会像として、次の三つがある。一つ、安全の保障などを国家に求めたりせず、各人の自力救済が前面化する「新しい中世」。 一つ、一人ひとりが好き勝手に振る舞っても、社会全体の幸福が自動的に実現するような社会。 一つ、誰ひとりとして例外なく「監視される」対象となる、ミラーハウス社会。

このなかで最も望ましいのは、一体どの社会だろう?

『自由か、さもなくば幸福か?』(筑摩選書)を刊行した大屋雄裕氏は、いずれも耐えがたいとしながらも、次善の選択肢として、三つ目の「ミラーハウス社会」が望ましいと結論づけている。なぜならこの社会は「正義」にかなっているし、社会のルールに抵触しなければ、各人は自由な生き方を追求することができるからだ。そう大屋氏は言う。

ほんとうに、そうなのか? もしそれが「次善の選択肢」であるとして、いかにしてこの社会は実現し得るのか? こうしたテーマをめぐって、社会倫理学者である稲葉振一郎氏と大屋氏が徹底討論!

『自由か、さもなくば幸福か?』にも引用されている、「我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこに行くのか」というゴーギャンの問いを、いま、この時代において、改めて探究する試みでもある。ぜひ、ご参集を!

日時:4月5日(土)14時30分開場、15時開演
場所:明治学院大学白金校舎1401教室(本館4階)

登壇者:大屋雄裕(法哲学者)×稲葉振一郎(社会倫理学者)

■4月4日(金)『メキシコ麻薬戦争』出版記念イベント

2月にマフィアの大立者が政府に拘束され、日本でも大きく報道された米墨国境地域の麻薬をめぐる紛争。センセーショナルな事件報道の背景では、一体なにが起きているのか。アメリカ大陸を揺るがす「犯罪」の被害者は誰なのか? 新自由主義経済の裏歴史とも言える「メキシコ麻薬戦争」の実態を、このたび刊行された現地発の詳細なルポルタージュの役者が「ナルココリード(麻薬密輸人の歌)」の調べとともに解説する。

日時:4月4日(金)19時30分
会場:Cafe★Lavanderia
レクチャー:山本昭代(『メキシコ麻薬戦争』訳者)
司会・コメント:太田昌国(民族問題研究)
音楽:Sonido La Bomba

詳細はこちら → http://www.jca.apc.org/gendai/html_mail/oshirase64.pdf

■4月24日(木)19:30~「『パンダが来た道――人と歩んだ150年』刊行記念遠藤秀紀先生 トーク&サイン会」

動物界きっての愛らしさとくれば、もちろんパンダだ。

白黒模様のちょっとお間抜けなこの御仁。実は謎の塊なのだ。クマか否か? 竹しか食べずに健康なのか? どうして子どもが殖えないのか? そもそもなぜ白黒なのか? 冷戦外交の切り札から動物ビジネスの主役まで張るこのアイドルを、遠藤秀紀が斬る。

日時:4月24日(木)19:30 ~
場所:ジュンク堂書店 池袋本店

予約方法など詳細はこちら → https://www.junkudo.co.jp/mj/store/event_detail.php?fair_id=4684

発見当初から人々を魅了し、動物園では驚異の集客力を発揮。中国共産党は外交に、WWFは広告塔に利用した。このアイドル動物と人間が辿った数奇な道のりとは。謎に包まれた生態と繁殖、保護活動の最新情報まで網羅。図版多数。上野動物園長・土居利光氏推薦!

■~4月25日(金)キートス カウリスマキ

フィンランドの映画監督アキ・カウリスマキが完全監修したデジタル・リマスター版がオーディトリウム渋谷で上映!

開催期間:3月29日~4月25日

料金:一般1400円/大学専門学校生1200円/会員・シニア1000円/高校生800円/中学生以下500円

   *リピーター割引:半券提示で1000円

   *各回入替制/自由席

上映作品・スケジュールなどはこちら → http://a-shibuya.jp/archives/9393

プロフィール

シノドス編集部

シノドスは、ニュースサイトの運営、電子マガジンの配信、各種イベントの開催、出版活動や取材・研究活動、メディア・コンテンツ制作などを通じ、専門知に裏打ちされた言論を発信しています。気鋭の論者たちによる寄稿。研究者たちによる対話。第一線で活躍する起業家・活動家とのコラボレーション。政策を打ち出した政治家へのインタビュー。さまざまな当事者への取材。理性と信念のささやき声を拡大し、社会に届けるのがわたしたちの使命です。専門性と倫理に裏づけられた提案あふれるこの場に、そしていっときの遭遇から多くの触発を得られるこの場に、ぜひご参加ください。

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