2014.04.05

『あかんやつら 東映京都撮影所血風録』(文芸春秋)/春日太一

これは、昔々、「熱い」時代の物語である――『赤穂浪士』『仁義なき戦い』『柳生一族の陰謀』など、数々の名作映画を生み出した東映京都撮影所。本書は、そんな「東映京都」60年を裏方として支えた男たちの群像劇だ。

「『疲れた人!』その掛け声を合図に看護師の前に一列に並ぶと、看護師は次々とヒロポンを打っていく。これで頭をスッキリさせ、朝までの仕事をやり遂げるのだった。」

「火の中の立ち回りでは、防護服も着ていない役者の体に灯油をかけて燃やして、大ヤケドを負わすこともあった。」(本文より)

エピソードの一つ一つが熱くてめちゃくちゃだ。時代劇・ヤクザ映画・ポルノ……大衆とともにあった「東映京都」に迫った一作。

『てっちゃん ハンセン病に感謝した詩人』(彩流社)/権徹

「てっちゃん」の愛称で親しまれた詩人で、ハンセン病患者の桜井哲夫さんの姿を写真に収め、綴ったフォト・ドキュメント。

「オレはね、自分の顔に誇りをもっているの。この顔には、苦しみや悲しみがいっぱい刻まれているのね。それを乗り越えてきた自信も。だからね、崩れちゃってはいるけど、いい顔なんじゃないかな。だってこの味わいは、オレじゃないと出せないでしょ」

本書にはてっちゃんだけでなく、ハンセン病患者への偏見、隔離されてきた療養所の様子もおさめられている。だが注目して欲しいのは、てっちゃんの豊かな表情だ。一瞬、目を背けたくなる。あるいは目を背けてしまう。しかし一歩踏みとどまり、改めててっちゃんの表情を眺めてみよう。そこにたくさんの感情が混合し、生き生きとした姿が浮かび上がってこよう。

あまりにも重厚なテーマだ。それにも関わらず、てっちゃんの姿と言葉の爽やかさが、ゆっくりでも確かに、ページをめくらせる。誰もに、一度は手に取って欲しいフォトブックだ。

『生殖医療はヒトを幸せにするのか 生命倫理から考える』(光文社新書)/小林亜津子

iPS細胞研究の功績を認められてノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥氏への注目にせよ、あるいはSTAP細胞騒動への反応にせよ、われわれは、ほんの十数年前はSFの世界の空想の技術の実現に驚き、戸惑いながらも、そうした技術を受け入れつつあるように思う。だが社会は、急速に発展する技術に追いつくことができず、多様なニーズへの「温度差」を生んでいる。

「子どもが欲しい」と希望するひとが、生殖技術を利用して、子どもを持つことは「自然」なのか。はたして、それは許されることなのだろうか。着床前診断によって命の選別を行ってもよいものなのか。そうした問いを、われわれはなぜ立てるのか。その根底には、どんな価値観が潜んでいるのか。

日々目覚ましい進歩を遂げる医学は、わたしたちの価値観を常に揺らがせる。自民党の「生殖補助医療に関するプロジェクトチーム」が不妊治療などに関する法案の中身について議論されているいまだからこそ、最初に読んでほしい一冊。

『世界を動かす聖者たち』(平凡社新書) /井田克征

南アジアの、さまざまな聖者たち。

タレジュ女神の生ける化身として崇拝される選ばれし少女、ネパールのクマリ。転生を繰り返す活仏と亡命政権の指導者という、聖俗ふたつの顔をもつチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ。イスラームの聖人シルディ・サイ・ババと、その生まれ変わりだとされた奇跡を起こす地上の神、ヒンドゥーの聖人サティヤ・サイ・ババ。

汚職防止を求めて闘った世俗の活動家でありながら、ガンディーの再来とも呼ばれるカリスマ性をまとったアンナー・ハザーレ。聖者として崇められる一方で、商売人として毛嫌いもされる現代ヨーガの指導者ババ・ラームデーヴ。カースト制度を否定すべく、不可触民を率いて集団で仏教に改宗し、菩薩となったアンベードカル。

聖と俗、宗教と政治が交錯するところ、祈る-祈られる関係性のうちに、聖者たちは立ち現れる。自己を放棄し大義に仕える者を前にしたとき、「人は、目の前に立つ何者か、かけがえのない特別な存在に対して、ただ祈るしかできないことがある」。わたしたちが南アジアの聖者たち、そしてその行跡に見出すのは、これまでも、そしてこれからも、何度でも反復される、このような根源的かつ日常的な「人間の性」だ。

筆者が冒頭で述べるように、たしかに「世界は聖者を中心に回っている」。

『学校では教えてくれない! 国語辞書の遊び方』(角川学芸出版)/サンキュータツオ

誰もが一度は国語辞書を手にしたことがあるだろう。あなたは今まで、「辞書はなんでも一緒」「一冊あれば充分だ」と思ってはいないだろうか。そんなあなたにおススメの本が『国語辞書の遊び方』だ。

著者・サンキュータツオ氏は、「国語辞典は、みんなちがう!」と主張する。「うつくしい」や「恋愛」という言葉を例に辞書を読み比べ、その背後にある編集方針にまで思いを馳せる。さらに、『岩国国語辞書』を「辞書各都会派インテリメガネ君」、『三省堂国語辞典』を「親切で気のいい情報通」と擬人化し、その個性と魅力をわかりやすく説明。

読み終われば、あなたも自分にぴったりの一冊が見つかるはずだ。

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足を運びたいオススメイベント

■4月5日(土)9:30~ 第三回将棋電王戦第四局 森下卓九段 VS. ツツカナ(開発者:一丸貴則)

5人の現役棋士と5つのコンピュータ将棋ソフトが対戦する将棋棋戦。「第1回 将棋電王トーナメント」で勝利した上位5チームの将棋ソフトと、名乗りを上げた5人のプロ棋士が団体戦(全5局)を行います。前回の「第2回 将棋電王戦」では、プロ棋士の1勝3敗1引き分けというプロ棋士側が団体戦として敗れる苦い結果となりました。「第3回 将棋電王戦」プロ棋士の反撃開始となるか。人類 vs コンピュータ全5局。ニコニコ完全生放送にご期待ください。(ニコニコ生放送 第三回将棋電王戦公式ページより)

詳細は → http://ex.nicovideo.jp/denou/3rd/

・あわせてお読みください

「計算する知性といかにつきあうか――将棋電王戦からみる人間とコンピュータの近未来」久保明教

■4月6日(日) 13:00~15:00 夢をかなえるモノづくり~パラリンピックと日本の技術 トークイベント「ユニバーサルな社会を目指す、目と手」

世界トップレベルの記録を生み出す義足の技術を支えるものとは何か? また機能性だけでなく、障がいをもつ人が身につけたくなるような義足のデザインとは? 日本における義肢装具士の第一人者、障がい者スポーツを熱く追い続ける写真家、機能美を備えた義足を追求するプロダクト・デザイナーの3人が語り合います。

後半は3人の義足アスリートが実際に義足の付け外しを行い、走るなどのパフォーマンスを披露するほか、事前お申し込みいただき、抽選に当選された方には義足着用も体験していただけます。

日時:2014年4月6日(日) 13:00~15:00
場所:1階 インフォメーションロビー
参加費:無料
参加方法:トーク、義足パフォーマンスは事前申込み不要
主催:日本科学未来館、中外製薬株式会社
協力:株式会社今仙技術研究所、公益財団法人鉄道弘済会義肢装具サポートセンター、東京大学山中俊治研究室、越智貴雄(写真家)、ヘルスエンジェルス、NPO法人Happy Japan Project
後援:公益財団法人日本障害者スポーツ協会日本パラリンピック委員会

■講師:
臼井二美男(義肢装具士)
越智貴雄(写真家)
山中俊治(プロダクト・デザイナー)
ファシリテーター: 鈴木啓子(日本科学未来館 科学コミュニケーター)

■義足パフォーマー:
鈴木徹(プーマジャパン株式会社所属 陸上選手/ハンドボール部監督)
村上清加(リコージャパン株式会社所属)
小林久枝(ヘルスエンジェルス所属)

詳細は → http://www.miraikan.jp/sekai1/event.html

※同会場で写真展も開催中!

■4月13日(日) 第32回「読んでいいとも!ガイブンの輪」豊﨑由美さん×松田青子さん トークイベント

「読んでいいとも!ガイブンの輪」通称「よんとも」は書評家の豊崎由美さんが「笑っていいとも」の「テレフォンショッキング」方式でゲストをお招きし、素敵な本屋さんを転々として海外文学について語り合う流浪番組、ではなくトークショーです。 とびきりのガイブン”目利キスト”である豊崎さんとゲストが、「これはおもしろい!」「いまが旬!」「読んで損しない!」という一冊をおススメし、魅惑の翻訳小説ワールドへとみなさんをご案内いたします。 今回は、山崎まどかさんからのご紹介で、作家の松田青子さんをお招きします!(河出書房新社さんHPより)

開催日時:2014年4月13日(日) 14:00~15:30(開場13:30)
開催場所:青山ブックセンター本店 大教室
定員:80名
入場料:1,080円(税込)

予約方法など詳細は → http://www.kawade.co.jp/news/2014/03/41332.html

■~5月6日(火)森美術館10周年記念展 アンディ・ウォーホル展:永遠の15分

ポップ・アートの旗手、アンディ・ウォーホル(1928-1987年)は、米国に生まれ、消費社会と大衆文化の時代を背景に活躍した、20世紀後半を代表するアーティストです。デザイナー、画家、映画制作者、社交家と多様な顔をもち、ジャンルを超えたマルチクリエーターとして活躍しました。

本展は、700点におよぶ初期から晩年までのウォーホルの作品と資料を包括的に紹介する、日本では過去最大級の回顧展です。作家の主要シリーズを網羅した本展はウォーホルを知らない人には「入門編」となります。また、《人体図》をはじめ、日本初公開の作品も多数含まれる本展は、ウォーホル通が見ても新たな発見や驚きがあることでしょう。(森美術館公式HPより)

会期: 2014年2月1日(土)-5月6日(火・休)
会場: 森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階)

入館料など詳細は → http://www.mori.art.museum/contents/andy_warhol/about/index.html

プロフィール

シノドス編集部

シノドスは、ニュースサイトの運営、電子マガジンの配信、各種イベントの開催、出版活動や取材・研究活動、メディア・コンテンツ制作などを通じ、専門知に裏打ちされた言論を発信しています。気鋭の論者たちによる寄稿。研究者たちによる対話。第一線で活躍する起業家・活動家とのコラボレーション。政策を打ち出した政治家へのインタビュー。さまざまな当事者への取材。理性と信念のささやき声を拡大し、社会に届けるのがわたしたちの使命です。専門性と倫理に裏づけられた提案あふれるこの場に、そしていっときの遭遇から多くの触発を得られるこの場に、ぜひご参加ください。

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