2014.09.20

アジアで影響力を拡大するイスラム国――海外報道から考える

平井和也 人文科学・社会科学系の翻訳者(日⇔英)

国際 #イスラム国#テロ組織

米国のオバマ大統領が9月10日(水)の夜、国民向けのテレビ演説を通して、イスラム教スンニー派の過激派組織「イスラム国」打倒に向けた戦略を発表した。米国はイスラム国を弱体化・壊滅させるための軍事行動を主導する考えであり、空軍を主力としてシリア国内の標的への、初の空爆を行う考えも明らかにしている。

オバマ大統領はテロの脅威を減らすため、有志連合の協力による対テロ戦略を発表。ケリー国務長官に対して、イスラム国と戦っているイラク政府とクルディスタン地域政府の訓練、教育、軍事支援に必要な資金提供の指示も出している。

このような状況の中で、イスラム国のアジアへの影響も懸念されている。本稿では、アジアにおけるイスラム国の影響に注目する。

インドネシアにおけるイスラム国の影響

まず最初に、アジア太平洋地域情勢を中心に報道を行っている雑誌『The Diplomat』8月23日付の記事(リズヴィ・シハブ氏=建国財団研究員)を見てみよう。そこでは、インドネシアにおけるイスラム国(IS)の影響について論じられている。

記事冒頭でシハブ氏は、国境を越えてインドネシアにISが入ってきたことについて、インドネシア全土に警戒感が広がっていると指摘する。特に、コーランの教えを厳格に守るISの信仰を危険視している。自分たちの信仰に従わないだけで殺人の正当な理由になる、という彼らの考え方に注目し、残忍な処刑シーンを映した映像が、世界中に衝撃を与えていることを伝えている。

「しかし、なぜこのような過激な組織が簡単にインドネシアに触手を伸ばし、支持者を獲得しているのだろうか?」。こうした問題提起とともに、シハブ氏は以下のように述べている。

「安全保障面での失策、ソーシャル・メディアによる情報操作、地方の教育不足が原因だろうか? これらは全て原因の説明としては正しいが、ISのインドネシア浸透の根本にある問題を見逃しているかもしれない。その根本にある問題とは、貧困と、インドネシアが経済成長しているという幻想だ」

このように述べた上で、インドネシア経済の実情について、次のように説明している。

「複数の基準に照らし合わせて見た時、今日のインドネシア経済は購買力平価[注1]では世界の上位10位以内に入っている。しかし、問題は、国内総生産(GDP)が高ければ必ずバランスのとれた経済を実現することができ、エリートだけではなく、大部分の市民にも利益をもたらすことができるのかどうかということだ。貧困レベルは過去数年間に悪化し、約11.5%に達している。このようなアンバランスな状況を生んでいる主な理由は、インドネシアの天然資源の多くが米シェブロン(石油・ガス)や米フリーポート・マクモラン(鉱山)といった外資系企業に握られているからだ」

[執筆者注1]:ある国においてある価格で買える商品が他国ではいくらで買えるかを示す交換レート。例えば、ある商品が日本では400円、米国では4ドルで買えるとすると、1ドル=100円が購買力平価ということになる。

続けてシハブ氏は、統計数値と経済の実態とのこのような乖離が引き金となり、市民の不満や不信、無関心を招くことになると論じている。過激派がそこにつけ込み、改革やデモ、宗派間の暴力によって現状を変えようと支持者に訴える格好の口実になると言うのだ。

「実際、インドネシアでは国民の50%以上が一日の収入が2ドル以下という状況であり、低開発問題を抱えている。そのような中で、経済的な分配が十分でないために、識字率の低さ、失業、社会の主流からの脱落といった問題が引き起こされている」

シハブ氏は人間開発指数(HDI)という経済社会指標についても言及している。これは一国のGDP、平均寿命、教育水準の三つの側面から、人間開発の達成度を示す指数だ。記事によると、インドネシアのHDIは世界第121位という無残な結果となっており、GDPで見た場合の経済の世界水準からは大きく後れをとっているという。

また、インドネシアには、富の分配を妨げ、国家運営に関わるエリート層と一般市民との断絶を生んでいる政府高官の汚職問題もある。さらに、国民の意思を無視する前政権の下で過激派を生む土壌ができたという点も見逃せないという。政府は経済成長を自画自賛しているが、国民の大部分は家計のやりくりに苦慮しているのが実態だ。

7月22日(火)の選挙結果発表を受けてジョコ・ウィドド大統領の新政権が誕生し、インドネシア政府のISへの今後の対応が注目される。これについて、シハブ氏は次のように結論づけている。

「穏健派のイスラム組織は過激派の問題への対応に協力すべきだ。また、外務省の課題は過激派の流入を抑えるための防止措置を講じることだ。国全体がまとまって協力し合わない限り、インドネシアにおけるISの動きを抑え込むことはできない。しかし、類似のイデオロギーを持った社会の病根をさらに生まないようにするためには、問題の根本的な原因を最初に取り除く必要がある」

以上が、『The Diplomat』の記事(リズヴィ・シハブ氏)のまとめだ。

イスラム国対策におけるインドネシア、マレーシア、ブルネイの協調の必要性

『The Diplomat』は9月4日付の記事(ルーク・ハント氏=同誌東南アジア特派員)でも、インドネシアに関連した内容を伝えている。この記事では、インドネシア、マレーシア、ブルネイの三国によるイスラム国対策について論じられているので、以下に詳しく見てみよう。

ハント氏は冒頭で、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国の中で、国内にイスラム教徒を多く抱えているインドネシア、マレーシア、ブルネイの三国に対して、イスラム国(IS)対策への協力を求める圧力が強まっているという直近の状況を伝えている。

「その中で、インドネシアとマレーシアはISから距離を置いている。というのも、ISのアブバクル・バグダディ指導者と共に訓練を受けた両国出身者たちがテロの戦術を身につけて国内に戻り、東南アジアにおけるカリフ制(イスラム教の最高権威者)の復活を要求する事態になりかねないという懸念を抱いているからだ。また、今年の五月にシャリア(イスラム法=イスラム教徒が守るべき儀礼的・日常的生活規範)を導入したブルネイは、ハサナル・ボルキア国王がニューヨークを代表するプラザホテルを買収しようとしているという報道が流れる中で、予想されていた通り沈黙を保っている」

またハント氏は、オーストラリアのコラムニストたちがトニー・アボット首相に対して、マレーシアのナジブ・ラザク首相とインドネシアのジョコ・ウィドド大統領に、イラクへの資金と武器の提供、場合によっては軍の派遣を要求するように訴えていることを伝えている。

これを受けて、インドネシアとマレーシアの事情について、次のように説明されている。

「インドネシアについては、東南アジアで最大の支援国となりえる可能性がある。イスラム過激派組織ジュマ・イスラミーヤ(JI)の強硬派聖職者であるアブ・バカール・バッシールが、独房からISへの忠誠を誓ったのを受けて、インドネシア政府はJIを復活させる動きを厳しく取り締まる措置を打ち出している。JIは、二百人以上の死者を出した2002年のバリでの爆弾テロを含めた一連の爆破事件を引き起こしている」

「マレーシアでは、東南アジア本土の広い領域に対して支配を要求する、四つのテロ組織が現われたという報道が伝えられる中で、テロリストの逮捕劇が繰り広げられている。警察は、大捜索網を潜り抜けて逃げた民兵を捕まえている。彼らはイスラム過激派テロ組織アブ・サヤフ・グループ(ASG)と共にフィリピンに潜伏していると考えられている」

そして、次のように結論づける。

「フィリピンとタイも国内でのイスラム教テロ組織との戦いを継続している。しかし、ASEANは外交政策に対する対応がバラバラになるという悪評がある。インドネシア、マレーシア、ブルネイというイスラム教国が立ち上がってIS対策の問題を主導する姿勢を見せない限り、バラバラな外交政策はこのまま変わらないだろう」

以上が、『The Diplomat』の記事(ルーク・ハント氏)のまとめだ。

米誌『The National Interest』が伝えるアジアにおけるイスラム国の影響

アジアにおけるイスラム国の影響については、米国外交専門誌『The National Interest』も8月29日付の記事(ハンナ・スー氏=新アメリカ安全保障センターのアジア太平洋安全保障プログラム・コーディネーター)で伝えているので、その内容を以下に見てみよう。

スー氏はまず、インドネシア各地でイスラム原理主義者が、イスラム教の過激派テロ組織「イスラム国(IS)」に対する支持を公然と表明しており、その中には、過激派テロ組織「ジュマ・イスラミーヤ(JI)」の創始者であるアブ・バカール・バッシールも含まれていることを伝えている。

「JIは、バリのナイトクラブ爆破テロ(2002年)、マリオット・ホテル爆破テロ(2003年)、首都ジャカルタのオーストラリア大使館を狙った爆破テロ(2004年)、バリ島爆破テロ(2005年)、ジャカルタのホテル爆破テロ(2009年)など、いくつもの犯行を重ねてきたテロ組織だ。ISがアジア太平洋地域に広がってきていること自体は不思議ではない。しかし、危険であるにもかかわらず、まだあまりよく知られていない状況は、米国はもちろんのこと、アジア太平洋地域にとっても重大な意味を持っている」

続けてスー氏は、東南アジアにおけるホームグローン・テロリスト(自国で生まれたテロ集団)の歴史について論じる。世界のイスラム教徒の約62%が、アジア太平洋地域に集中しているという人口統計に注目し、それがイスラム戦士の復活に対する懸念を高める原因になっているという。

「特にインドネシアは世界最大のイスラム教徒人口を抱える国で、人口の87.2%がイスラム教徒だ。海外でISに加わっているインドネシア人は他国に比べて多くはないが、戦闘経験を積んだインドネシア人が自国に戻ってきた場合、国家の安全保障にとって重大な結果を招く、大きな脅威となる事態が発生する」

フィリピン情勢については、米国の共同特別作戦部隊が削減される中で、首都マニラにおけるテロの脅威が増す危険性があることを伝えている。フィリピンを拠点とするアルカイダ分派のテロ組織「モロ・イスラム解放戦線(MILF)」のメンバーが、シリアやイラクで戦闘を行った後にフィリピンに戻ってきた場合、MILFが活気づく危険性があると指摘するのだ。

さらに、オーストラリア情勢についても論じており、最近シドニーで行われた米豪外務・防衛閣僚協議(AUSMIN)でも、ISの脅威が話題の中心だったと伝えている。海外の戦闘から戻ってきたジハーディスト(聖戦主義者)の脅威はオーストラリアでも懸念されているという。

「1990年代から2000年代にかけて、推定三十人のオーストラリア人がアフガニスタンとパキスタンにわたってアルカイダの訓練を受けている。オーストラリアに戻ってきた者のうち、その約3分の1がテロ関連の容疑で逮捕され、全員が何らかのテロ活動に関わっていた」

ここでスー氏は、日本と中国の情勢について言及する。

「日本外務省は、ISのメンバーに捕まった日本人捕虜の姿をとらえたYouTubeの映像を調査している。また、一部の中国人学者の話によると、中国の中東特使が最近記者会見で述べた内容こそ、同国が中東情勢に注目していることを示す証拠だという。特に、中国はイスラム教徒を抱えている新疆ウイグル自治区への影響を強く意識している」

続けて、東南アジア諸国連合(ASEAN)が果たす役割については、次のように論じている。

「個々の国の対テロ戦略の重要性は過小評価できない。しかし、地域全体としての対応も同じくらい重要なものであり、その意味でASEANの役割が注目される。ASEANは政治・安全保障共同体(APSC)を創設することによって、2015年の終わりまでに、政治と安全保障における協力態勢を強化すると宣言している。IS がマレーシアで直接兵員の徴集を行っているという報道が伝えられる中で、2015年にはマレーシアがASEAN議長国を務めることになっている。このような情勢下で、東南アジアにおけるテロの再発は、ASEANが直接行動を起こすことを促す要因となる」

テロが世界中に広がっている中、スー氏は米国の外交政策に対して注文をつけている。特に9.11テロを境に世界は一変したが、イラク危機と東南アジアにおけるイスラム過激派の復活によって、テロのグローバル化がさらに増したからだ。

「オバマ政権は中東情勢に専念しているが、アジア太平洋地域へのISの進出も注視すべきだ。米国はアジア回帰政策に基づいて、アジアの同盟国およびパートナーとの外交・防衛関係の強化を図っている。ブッシュ政権の安全保障におけるアジアとの協力は、対テロ分野に集中することが多かった。ISがアジア太平洋地域への進出を見せている中で、米国がアジア外交においてテロ対策を引き続き重視することが重要であるということが改めて浮き彫りになった」

こう述べてスー氏は、インドネシアとフィリピンの二国および東南アジア全体の軍事演習への米国の関与と、ASEANを通じての地域協力支援について論じた上で、次のように結論づけている。

「ASEAN拡大国防相会合(ADMMプラス)、テロ対策および国境を越える犯罪に関するASEAN地域フォーラム、APECテロ対策タスク・フォースなどを通じて、米国は地域協力支援を続けていくべきだ。米国はこれまでに、インドネシアとフィリピンのテロ対策に大量の資源を投入してきた。しかし、ISが過激なイスラム原理主義の新たな時代を開く危険性が増している中で、東南アジアの多くの国がテロの脅威にさらされている。この脅威は、米国の新たな政策立案を促す要因となるものであり、テロ対策に関して油断している暇はない」

以上が、『The National Interest』の記事(ハンナ・スー氏)のまとめだ。

南アジアにおけるイスラム国の影響

次に、『The Diplomat』が9月4日付の記事(アンキット・パンダ氏=同誌の共同編集者)で、南アジアにおけるイスラム国の影響について伝えているので、その内容を以下に見てみよう。

パンダ氏は冒頭で、イスラム国(IS)は世界中のイスラム過激派集団の間でゆっくりと勢いを増しており、カリフ統治の復活を宣言してから東進、その影響力は南アジアにも広がっていると伝えている。ISはまた、アフガニスタンとパキスタンでビラを撒いているという。現地の過激派組織の間でもISの勢いが増しているとのことである。

「アフガニスタンのタリバン系イスラム民兵グループであるヒズベ・イスラミがISに合流するだろう、とBBCは報じている。また、パキスタンを活動拠点とするテロ集団テレーケ・キラファットも、自らをISのカリフであると宣言した指導者アブバクル・バグダディへの忠誠を誓っている」

次いでパンダ氏は、南アジアにおけるテロ集団の構造について論じている。ISはアフガニスタンとパキスタンで兵員を徴集し、過激派集団からの支持宣言をとりつけているものの、南アジアのテロ集団の構造を塗り替えることができると考えられる根拠はほとんどない、と言う。

「タリバン(アフガニスタンのタリバンとパキスタンのテレーケ・タリバン)、ハッカーニ・ネットワーク、ラシュカレ・タイバなどのグループは、ISのカリフ統治の正統性を認め、支持を表明した場合、重要な支持基盤と資金源を失う恐れがある。南アジアのスンニー派の過激派組織にとっては、アルカイダがいまでも大きな力を持っており、この状況が続く限り、ISが本格的に勢いづくことはないだろう」

対照的に、ISに対する支持を表明しているテロ集団もいる。その組織とは、イエメンのアルカイダとアラビア半島のアルカイダ(AQAP)だ。アルカイダ系のテロ組織AQAPは米国の権益に対して、最も重大な脅威を及ぼす集団の一つと考えられている。

「AQAPがアルカイダと袂を分つ決定を下したことは、凶悪なテロ組織が支持を表明する価値があると踏むのに十分なレベルまで、ISの影響力と魅力が増していることを表している。ISがAQAPなど、レバント地方に比較的近い地域で活動するテロ組織を惹きつける大きな魅力とは、ISがイラクの重要地帯を掌握していることにある」

南アジアにおけるISの命運は、世界のイスラム原理主義を主導するアルカイダを、その地位から引きずり落とすことができるかどうかにかかっている、とパンダ氏は論じる。そして、ISのレベント地方における第一の目的が、土地を掌握してカリフ統治を実現することだとすれば、第二の目的は、自らが紛れもなくアルカイダに優る組織であることを明確にすることだ、と分析しつつ、次のように結論づけている。

「南アジアがISにとって、兵員を徴集し、組織の拡大を図るための重要な対象地域であることは確かだ。ただ、現在のところは、同地域のテロ組織がISに対する支持を表明することを促すような要素はない。しかし、当該地域の政府は、ISを支持して合流している組織がもたらす影響を考慮に入れる必要がある。世界中の組織的な聖戦を主導するアルカイダを追い落とそうとするISの目論みを考えると、南アジアでは、拡大を続けるイスラム原理主義の『内戦』による小競り合いが起こる可能性がある」

以上が、『The Diplomat』の記事(アンキット・パンダ氏)のまとめだ。

中国はイスラム国打倒の国際的な連携に協力するのか?

最後に、『The Diplomat』が9月12日付の記事(シャノン・ティエズィ氏=同誌の共同編集者)で報じた内容を見てみよう。この記事では、中国が国際的なイスラム国打倒の動きに加わるかどうかについて論じられている。

ティエズィ氏は冒頭でこう述べる。イスラム国(IS)打倒を宣言した米国は、中国が有志連合に加わることを期待しているが、今のところ中国政府は協力を拒否している。米国政府高官の発言に依拠して、9月7日から9日にかけて中国を訪問したスーザン・ライス米大統領補佐官(安全保障問題担当)が、IS打倒に対する中国の支持を求めたが、中国は興味を示したものの、明確な協力の意思は示していない、と言うのだ。

ティエズィ氏はその一方で、ISの指導者が中国を、イスラム教徒の迫害によって非難されている国のトップに挙げていると指摘し、中国がイスラム聖戦の標的になりうると論じている。また、中国は、ISをはじめとする過激派組織の訓練を受け、テロに加わっている中国人が、本国に戻ってテロ攻撃を加える危険性があることを懸念している、と伝える。

「イラク国防省の発表によると、ISの兵員として戦っている中国人を逮捕したという。これに対して、中国外務省は現在、この報告について調査を進めている最中だ。さらに、中国は、東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)などのウイグル民族の民兵組織が他のテロ集団との接触を通じて勢力を増す危険性についても懸念している」

このような状況の中でも、中国は他国の国境内での米国の軍事行動を直接支援する意思は見られない、とティエズィ氏は論じる。中国がテロ対策に対して強力な支援を行っていることを明確にしながらも、外務省の華春瑩報道官は、国家主権の尊重を望む中国の考えを強調しているからだ。

「我が国は、国際的なテロとの戦いの中で、国際法の順守と、関係国の主権、独立および領土の一体性が尊重されることを望んでいます」

中国は米国のシリア内戦への介入にも反対しており、シリア国内のISに対して米国が空爆を行うことによって、アサド政権と戦っている反政府勢力を支援する口実に使うのではないか、このような懸念を中国が抱いていると、ティエズィ氏は指摘している。

そして、ティエズィ氏は、中国のアナリストが、米国のテロに対する軍事行動の効果を疑問視していることに言及し、9.11以降の米国のテロ対策に関する国営新華社通信の報道を紹介している。

「米国がテロと戦えば戦うほど、かえってテロリストを生む結果となっているのはなぜなのだろうか?」新華社は、こう問題提起をしながら、米国はイラクのフセイン政権とリビアのカダフィ政権を打倒し、シリアのアサド政権の弱体化を図ることによって、テロ組織の動きが活発化する余地を生んでいるとしている。新華社はさらに、米国を次のように批判する。

「米国はイラク侵攻に対する謝罪を行っておらず、侵攻の決定を下した者の責任についても説明していない。9.11テロから既に十三年が経過しているが、米国は自らがなぜ攻撃を受けたのかという理由について反省する気はなく、ましてや自国が被害を加えた国々に対する謝罪や賠償など行ってはいない。そのような反省をしないまま、9.11テロの苦い教訓は無駄になった」

ティエズィ氏は、次のように結論づける。

「中国は、ウイグル民族に対する自らの待遇が、テロ活動の急増を招いたことを一貫して否定する一方で、テロの原因に関する反省を求める声を上げている。これは、米国自身が過ちを犯したがために、テロリストの標的となっているのだというメッセージを示唆している。この観点から見ると、ISは米国の問題であって、中国には関係ないということになる。このようなレトリックを用いると、中国はIS打倒の軍事行動への参加に興味がないということを表す強力なメッセージになる。中国はテロに反対しているものの、だからと言って、米国のIS打倒戦略を受け入れるというわけではない。ただ、中国がどんな代替案を提案するのかは、依然としてはっきりしていない」

【参照記事】

The Diplomat: The Root Problem of IS in Indonesia

http://thediplomat.com/2014/08/the-root-problem-of-is-in-indonesia/

The Diplomat: Indonesia, Malaysia and Brunei Must Contribute Against Islamic State

http://thediplomat.com/2014/09/indonesia-malaysia-and-brunei-must-contribute-against-islamic-state/

The National Interest: The Islamic State’s Dangerous Influence in Asia

http://nationalinterest.org/feature/the-islamic-states-dangerous-influence-asia-11163

The Diplomat: Will the Islamic State Gain Influence in South Asia?

http://thediplomat.com/2014/09/will-the-islamic-state-gain-influence-in-south-asia/

The Diplomat: Will China Join the Fight Against Islamic State?

http://thediplomat.com/2014/09/will-china-join-the-fight-against-islamic-state/

サムネイル「Flag of the Islamic State.svg」The Islamic State

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Flag_of_the_Islamic_State.svg

プロフィール

平井和也人文科学・社会科学系の翻訳者(日⇔英)

1973年生まれ。人文科学・社会科学分野の学術論文や大学やシンクタンクの専門家の論考、新聞・雑誌記事(ニュース)、政府機関の文書などを専門とする翻訳者(日⇔英)、海外ニュースライター。青山学院大学文学部英米文学科卒。2002年から2006年までサイマル・アカデミー翻訳者養成産業翻訳日英コースで行政を専攻。主な翻訳実績は、2006W杯ドイツ大会翻訳プロジェクト、法務省の翻訳プロジェクト(英国政府機関のスーダンの人権状況に関する報告書)、防衛省の翻訳プロジェクト(米国の核実験に関する報告書など)。訳書にロバート・マクマン著『冷戦史』(勁草書房)。主な関心領域:国際政治、歴史、異文化間コミュニケーション、マーケティング、動物。

ツイッター:https://twitter.com/kaz1379、メール:curiositykh@world.odn.ne.jp

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