「リセット」後も紆余曲折の米ロ関係 

米国・ブッシュ政権は、米国の一極的支配を追求するような外交を展開し、多極的世界を追求した中ロとは関係を緊張させていった。その緊張がピークに達したのが、2008年8月のグルジア紛争であった。

 

 

オバマ、米ロ関係の「リセット」宣言

 

筆者は、同紛争の勃発の背景には、国内レベル(グルジア、ロシア両国内)、国家間レベル(グルジア・ロシア関係)、地域レベル(旧ソ連・東欧)、国際レベル(欧米・ロシア関係)の各々の問題があり、なかでもブッシュ政権時代の米ロ関係の緊張がとくに大きな意味をもったと考えている。

 

実際、同紛争後、米ロ関係は顕著に悪化し、「新冷戦」が到来するという懸念すら囁かれるようになった。結果的には「新冷戦」は生じなかったとはいえ、米ロ関係の緊張は2009年に米国大統領に就任したオバマが、米ロ関係の「リセット」を宣言するまではつづいたといってよい。

 

「リセット」後、米ロ間の懸案事項はかなり解消された。今年4月には、昨年12月に失効した戦略兵器削減条約(START1)に代わる「新START」に調印、軍縮に弾みがついた。

 

また、6月23日にロシアのメドヴェージェフ大統領は米国・カリフォルニア州のシリコンバレーを訪問。モスクワ郊外のスコルコボで進められているロシア版シリコンバレー計画への投資を呼び掛ける一方、ロシアが40億ドル相当のボーイング737型機50機を購入することも明らかになるなど、経済関係も緊密化している。

 

 

対ロシア協力、米国にとっての不可避の道

 

両国大統領の6月24日の首脳会談では、対イラン制裁や欧州ミサイル防衛構想、NATO東方拡大の事実上の中止など、両国間の懸案となっていた多くの重要課題で合意に達した。

 

米国はポーランドとチェコへのミサイル配備を中止し、グルジアのアブハジア、南オセチアをロシアが事実上占領していることや、ロシア国内の反民主的・反人道的動きなどについても黙認する一方、ロシアのWTO(世界貿易機関)加盟にも支援を表明している。

 

ロシアも米国の対アフガニスタン政策に必須である、キルギスの空軍基地を閉鎖させることを断念。新STARTや対イラン制裁に合意するなど、一定の譲歩はしているものの、圧倒的な米国の譲歩が目立つ。それでも、ブッシュ時代に最悪になった米ロ関係を解消し、世界の政治的、経済的不安定状態を解消するためにロシアと協力していくというシナリオは、米国にとっては不可避の道であるともいえる。

 

 

ロシアの裏庭を歴訪するクリントン米国長官

 

ところが、こうしたなか7月初旬に、米ロ関係を本質的に揺るがしかねない事態が旧ソ連、東欧で進行していた。

 

ヒラリー・クリントン米国務長官によるポーランド、ウクライナ、アゼルバイジャン、アルメニア、グルジアの歴訪である。

 

これら諸国はアルメニアを除き、「反露」傾向が強い国であり(*1)、米ロの関係「リセット」後、米国に「見捨てられた」という思いを強めていた。今回のクリントンの歴訪は、それら諸国に対する埋め合わせ行脚であったといってよい。

 

(*1)ただし、アゼルバイジャンはウクライナ、グルジア、モルドヴァとともにGUAMという反露的な地域組織を組む一方、絶妙なバランス外交をとってロシアとも無難な関係を維持しており、ウクライナは2010年2月にヤヌコビッチ が大統領となって以降、ロシアとの関係を改善している。

 

 

ウクライナのNATO加盟問題とポーランドの新ミサイル防衛協定

 

ウクライナはユーシチェンコ前大統領時代、NATO加盟を切望していた。ロシアの強い反発があったとはいえ、少なくとも2008年グルジア紛争直前までは、それはかなり現実的であった。だが、グルジア紛争を契機に、ウクライナのNATO加盟はかなり難しくなり、ヌコビッチ大統領はNATO加盟を目指さない方針を示している。

 

ところが、今回の訪問でクリントンは、「NATOへの扉は開かれている」と発言するなど、ウクライナがロシア一辺倒になることを牽制しているかのような姿勢を示した。

 

ポーランドでは、新ミサイル防衛(MD)協定に調印した。

 

前述のように、2008年にブッシュ前政権が、大陸間弾道ミサイル(ICBM)にも対応できる地上配備型の迎撃ミサイル10基を、ポーランドに配備する計画を決定した。オバマ政権はロシアの反対を受け、この計画を反故にしていたのだが、ポーランド側の強い依頼で、MD計画を見直して実行することとなったのである。

 

今回の計画は、SM3搭載のイージス艦や、地上型の移動式SM3を配備するとしており、クリントン長官は「純粋に防衛を目的とするシステムで、ロシアへの脅威とはならない」と強調している。しかし、ロシアは計画が縮小されたとはいえ、ポーランドにMDシステムが配備されることに大きな反発を示している。

 

 

 

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