2012.07.27

「国民的議論」をいかに進めていくか ―― ドイツ倫理委員会の実情と脱原発へのプロセス

ミランダ・A・シュラーズ氏インタビュー

国際 #環境NGO#脱原発世界会議#再生可能エネルギー#原子力安全委員会#自然エネルギー#ウルリッヒ・ベック#ドイツは脱原発を選んだ#倫理委員会#リスク社会論

『ドイツは脱原発を選んだ』の著者ミランダ・シュラーズ。ドイツの「安全なエネルギー供給に関する倫理委員会」(*1)に委員として参加し、同国の脱原発のプロセスを経験的に語れる人物である。

現在、日本では新しいエネルギー政策を決めるタイミングにあり、3つの選択肢が国民的議論にかけられている。これから討論型世論調査が行われ、8月中にはエネルギー戦略が決定される見通しだ。私たちはこれからの日本のエネルギー政策について何をどう議論していけばいいのか。ミランダ氏にドイツ倫理委員会の成り立ちや、3つの選択肢を考える際のポイントなどについて伺った。(聞き手/古屋将太、山下紀明、構成/宮崎直子)

(*1)ドイツ・安全なエネルギー供給に関する倫理委員会

アンゲラ・メルケル首相の委託により2011年4月4日から5月28日まで設置された委員会、通称「倫理委員会」。委員による非公開の議論と、テレビ中継による公開の議論を経て報告書「ドイツのエネルギー転換—未来のための共同事業」を提出し、ドイツの脱原発を倫理的側面から方向付けた。

「倫理委員会と専門家によるテレビ公開討論会議事録」(ユミコ・アイクマイヤー 訳/丸山康司 ・ 青木聡子 監修)

http://www.sc.social.env.nagoya-u.ac.jp/achieves/reports/ethikkommision

「ドイツのエネルギー転換—未来のための共同事業」(松本大理・吉田文和暫定訳)

http://www.enecho.meti.go.jp/info/committee/kihonmondai/3rd/3-82.pdf

ドイツ倫理委員会の構成

古屋 本日は、ドイツの倫理委員会がどのように組み立てられ、運営されてきたのか、またこれから日本の国民的議論をどのように進めていけばいいのかについてお伺いしたいと思っています。まずは、ミランダさんが倫理委員会へ参加することになった経緯を教えていただけますか。

ミランダ ある日ドイツのメルケル首相の秘書から電話がありました。「倫理委員会のメンバーになる気持ちがあるか」と聞かれ、その約一週間後には、首相のオフィスでミーティングが開かれ、他のメンバーとはじめて顔を合わせました。

みんな「どうして私が選ばれたのか」とお互いに話していました。メンバーはメルケル首相が10人選び、残りを委員長のクラウス・テプファー(*2)さんが選んだという話を聞いています。環境問題に取り組む人と、企業的な考えを持っている人をバランスよく選出したのだと思います。

原子力の専門家や電力会社関係の人は一人もいません。エネルギーのことをわかっている人、ほとんどわかってない人の両方がいます。印象的なのは、教会のメンバーはカトリックとプロテスタントの両側が代表されていることでした。その他には、消費者に詳しい方、倫理やリスク社会専門の教授などが招待されました。与野党の議員も入っていましたが、緑の党はいませんでした。環境を代表していたのは私で、緑の党的な位置づけで見られたのだと思います。

古屋 なるほど。委員長がクラウス・テプファーなので、全体のバランスは一応とれていると感じます。実際に会議はどんな感じだったのでしょうか。誰かの発言が特別に重視されたりということはありましたか。

ミランダ 委員長は政治家と研究者の二人がいたのですが、やはり両者の関係が非常に大切でした。議事録を見るとわかりますが、政治の話に加え、将来のためには研究も大切であるということがよく書かれています。

また、委員会では意見がまとまらずに議論が進まないときがありましたが、そういうときはテプファーさんが場を仕切り、目標は「脱原発」であるということを繰り返し主張しました。最初のミーティングでメルケル首相は、「日本のような技術の高い国でさえこうした被害が起きてしまった。ドイツは昨年脱原発の時期を延長したが、考え直すべきだ」と発言しています。だから、議論をはじめる前から、この委員会の目的が「脱原発」であるということは明らかでした。

古屋 福島原発事故のあと、日本では菅直人元首相が「脱原発」路線に舵を切り、首相を辞める直前には固定価格買い取り制度を成立させ、自然エネルギー推進の方向を打ち出してきました。その後、エネルギー政策全体を一から見直そうということで、経産省のもとで委員会が設置され、議論が行われてきました(総合資源エネルギー調査会基本問題委員会)。

メンバーは経済系、金融系、環境系の人や研究者、消費者団体代表などを25人集めていますが、会長が鉄鋼会社の人なので、環境派の議論が隅っこに追いやられるようなことが多々ありました。もともとは脱原発依存という方向ではじまった委員会にもかかわらず、この委員会の成果として出され、現在「国民的議論」にかけられている3つの選択肢の中には、原発を増設する案すら含まれています。出発点は日本もドイツと同じだと思いますが、委員会の組み立てや運営で、こんなにも結果が違ってくるのかという感触があります。

(*2)クラウス・テプファー(Klaus Topfer):倫理委員会の委員長。1987年からドイツ環境大臣を務め、1998年から2006年にかけて国連環境計画(UNEP)の事務局長を務めた。現在、持続可能性高等研究所(IASS)所長。 http://www.iass-potsdam.de/index.php?id=58

「原子力安全委員会」と「倫理委員会」の関係

山下 倫理委員会と平行して、「原子力の安全を確認するための委員会(原子炉安全委員会)」もできましたが、この安全委員会のほうにはどういうコンセプトがあったのでしょうか。

メルケル首相は最終的に安全委員会ではなく、倫理委員会の意見を尊重したのではないかといわれています。安全委員会では、福島のようなことはドイツでは起こらないと結論されています。地震や津波はほとんど考えなくていいし、テロのリスクが残るものの、安全面については日本よりもきちんと規制を行っていると。しかし、それでもメルケルは脱原発を唱えています。

ミランダ 安全委員会のメンバーの一人と話をしたいと思ってコンタクトをとってみたのですが、断られました。やはりお互いに独立する必要あるという考えがあったのでしょう。しかし、おそらく委員長レベルでは情報交換はあっただろうと思います。安全委員会のレポートが私たちのレポートの数日前に出来上がり、だいたいどういう内容が書かれているかは私たちにもわかっていました。ただ、それは私たちの倫理的な考え方に影響するものでもありませんでしたので、結果としては独立的に働いていたと思います。

倫理委員会を進めていくうえで一番難しかったことは、本当の倫理的な考え方をもつと「原子力発電はすぐに停めたほうがいい」という考えに至ることです。稼働停止を10年先延ばしにしても、リスクはどこかのコミュニティが負担することになるわけですからね。しかし、やはり政策を考えていくうえで、簡単にそう言い切ることは難しいのです。

日本は「いつまでに脱原発したいのか」ということが不明瞭なのが問題だと思います。「2030年までに」という数字は一応出ていますが、ドイツに比べると、ずいぶんと先の話をしています。もう少し近いところで目標を設定するべきです。

古屋 やはり委員会の組み立て方に問題があると思います。日本は経産省が議題を設定し、議論をまとめてペーパーに落とすということをやっていますが、まんべんなく記述しようとすると、「定量的な数値が必要だから、シナリオを作りましょう」という話になる。

シナリオはあくまで計算の結果でしかない。大事なのは「最終的に我々はどこにいくのか」を決めることなんです。環境派の委員は、そうした計算に基づいた議論の進め方に対して抵抗しているのですが、なかなかうまくいきませんでした。

委員会の構成メンバーは、産業界、市場主義、環境派のだいたい3つに分けられますが、どうしても産業側の声が強くなって、当初の脱原発依存で白紙から見直すという部分がかすんでしまっているところがあります。

公開討論会をいかに成功させるか

古屋 倫理委員会は一部公開もされました。メンバーに加え、専門家やステークホルダー(利害関係者)がゲストに呼ばれ、短い時間ですが意見交換が行われていますね。レポートを読むと、教会の人たちの声の影響力が強いのではないかと気になりましたが。

ミランダ 誰に質問の権利を渡すかというのは大きい。しかしそれよりも重要なのは、誰を招待するかです。

たとえば、リスク社会論専門のウルリッヒ・ベックさんは、若者や女性をもっと招待するべきだと主張しました。次世代について考えることですから若者の視点が必要です。また、ドイツも日本と同じくまだまだ男性社会で、倫理委員会のメンバーは女性は2割くらい。ゲストで呼ばれた人もほとんど男性です。

脱原発と一口にいっても立場によって様々な意見があります。産業関係者、専門家、市民といった立場の別に加えて、世代や性別なども考慮し、できるだけ多様な意見を取り入れることが公開討論においては重要になってきます。

古屋 議事録を読んでいてもう一点気になったのは、ドイツで環境都市の成功モデルとなっているフライブルクの市長が呼ばれていたことです。実際に地域で自然エネルギー推進活動を行い、実績のある人が呼ばれるというのはすごく大事。彼の発言で印象的だったのは、フライブルクは他の地域と何が違うかと問われたときに「(活動を)早くはじめたこと」だといっていたことです。日本も、脱原発も自然エネルギー推進もしっかり議論を行い政策を定めて、とにかく早急に取り組むべきだと考えます。

ミランダ 政策を決めて実際に動きが見えはじめるのは、地方のレベルからです。フライブルクは1973年頃から自然エネルギーに力を入れて、脱原発するという方向性でドイツの中でもリーダーシップをとってきました。「緑の町」と呼ばれ、彼らの持続可能な発展をお手本にする地域が多くあります。

山下 公開討論会は、テレビ中継で2回行われていますね。

ミランダ 1回目はインタビュー形式で11時間ほど、2回目はパネルディスカッション形式で5時間ほど行いました。一番ピークのときで約150万人が見ていたと聞いています。ドイツではそれなりに関心を持たれているといえます。また放送では視聴者の様子も映し出され「今のインタビューの内容をどう思いましたか?」「足りない議論はありますか?」など、委員会と視聴者の意見交換も行われました。

古屋 ちゃんとした国民的議論になっていますね。

ミランダ そうですね。特に、議論の中でわからないところはどこだったかをその場で確認し合あえたのはよかったと思います。

政治文化の相違

山下 日本と違い、NGOがワンセッションをもっているということがまず驚きなんですね。ドイツではあたりまえのことですが、日本ではそうではない。ミランダ先生は、日本とドイツとアメリカの環境運動の歴史を『地球環境問題の比較政治学』で書かれていますが、相変わらず日本とドイツの市民の存在感の差を感じています。

ミランダ ドイツは環境NGOの活動が進んでいますので、委員会に招待されないほうが話題になります。ただ、議論の中では各NGOがみな同じ発言をしていて、意見の差がそれほど見られなかった。自然保護に関するディベートなどを期待していたのですがなかったんですね。

やはり「脱原発」というNGO全体としての方向性を見せたかったのだと思います。事前に戦略を組んで、合意している立場でいきましょうということを決めたとも聞いています。ですので、NGOのセッションでは「脱原発がどれぐらい早くできるのか」ということが争点になりました。日本のように一度に全停止するべきだという要求をしていたのは一人だけで、あとはみんな段階的に脱原発したほうがいいという主張でした。

山下 今は日本でも官邸前でデモが行われたり、今年の1月に東京で行われた、ミランダ先生も参加したイベント「脱原発世界会議」でも2万人が集まったりと、昔よりは国民の関心が高まってはきています。

ミランダ 日本とドイツでは政治文化がまず違います。日本は1960年代の安保闘争のときにデモがさかんに行われて以降、それほど大きいデモはありません。一方、ドイツは何に対してもデモをします。まるでパーティーのように。みんなが楽しみながら自分の政治立場を見せるという文化があるのですが、そこは日本とドイツの差だと思います。

日本も3.11以降、原子力がそれほど必要ないということがわかってきたのだと思います。原子力発電所が動いていなくても結構スムーズにいっている。今までは原子力産業のPRが強かっただけで、別に50基もなくてもなんとかなるのがわかってきた。

ドイツでも福島原発事故後、前から停めてあった1基も含めて8基(原子力の約40%)が停止しました。でもほとんど社会的な影響はなかった。一点、以前ほど電気の輸出ができなくなったのですが、コストにもほとんど影響はありませんでした。日本も徐々にそうなるのかなと思っています。

コストより安全性を議論せよ

山下 国民的議論にかけられている3つの選択肢を検討するにあたって、4つの比較基準が設けられています。1)原子力の安全確保、2)エネルギー安全保障の強化、3)地球温暖化問題解決への貢献、4)コスト抑制、空洞化防止といった視点ごとに比較検証することが重要であると書かれています。

「エネルギー・環境に関する選択肢」P13、4つの視点毎のシナリオの比較」

http://www.npu.go.jp/policy/policy09/pdf/20120629/20120629_1.pdf

ミランダ これは正す必要があります。1)人間の健康、2)環境、3)次世代、4)福島の被害者、となるべきだと私は考えます。

山下 経済と技術の話だけになっていますね。人間のことは何一つ考慮されていなくて、あくまでモデルとしての計算になっています。

ミランダ コストはあまり細かく見る必要はありません。コストが高くても倫理的な話を重視するべきです。

山下 おっしゃる通りです。今はGDPが1%上がるか下がるか、あるいは家庭の電気料金が1000円上がるか上がらないかというような議論が注目されています。しかしその前に、そもそも倫理的な議論が抜け落ちている。それを国民的議論の場だけでも復活させないと、技術論とコスト論だけの議論になってしまいます。

ミランダ まさに経済的な見方から判断しているシナリオですね。これでは安全性の話よりもコストの考えが強くなっています。まずは、現存する原子力発電所がどれくらい古くて、まだ使えるのか使えないのか、いつ停止するべきなのかを考えることです。そして、原発が立地されている場所ではどれくらいの地震のリスクがあって、被害を被る人口は周囲にどれくらいいるのか、そうしたところを先に見て決めるべきではないかと思います。

安全が第一です。もちろん議論されてはいますが、私の考える安全性とは違っています。エンジニアの立場からみた安全性ではなくて、地震や人口の密度との関係を考えた安全性です。そもそも日本は地震大国にもかかわらず原発を作っていること自体、私はおかしいと考えています。

私はアメリカ生まれで、スリーマイル島から車で3、4時間のところに住んでいました。事故当時も間近で見ています。日本では茨城県に住んだことがありますが、東海村も遠くないところでした。ですので、たまたまそういう場所に縁があったのだと思いますが、原子力は危険だなというイメージを人一倍強くもっています。安全性の話は昔から信じることができないんですね。

また、これは倫理委員会の大きなテーマであったのですが、次の世代に何を残すのかを考えたときに、廃棄物についての議論は避けられません。最近アメリカでも、廃棄物問題を事前に決めない限り、原発新設の許可を与えないという判決が裁判でくだされました。

複数の再生可能エネルギーを同時に導入

ミランダ 現在日本で国民的議論にかけられている3つの選択肢についてですが、私はたぶんどれも選ばないと思います。先ほどもいいましたが、「2030年までに」という設定は遠すぎます。もっと段階的に計画を立てるべきです。(「3つのシナリオ—話そう“エネルギーと環境のみらい”」http://www.sentakushi.go.jp/scenario/

疑問点はいくつかあります。まずは、自然エネルギーの割合が少な過ぎますし、省エネについての考察も不十分です。福島事故後は東京都だけで15%の省エネを達成しました。今後20年で少なくとも20%は実現できるはず。ドイツの計画が2020年までに20%省エネです。今日本は電力の約3割が原子力です。あと20年間でそれを半分にカットすることはできると思います。

山下 省エネをしたら、自然エネルギーの割合が増えるという考えですね。

ミランダ そうです。また石炭もこれほど必要はありません。これからは天然ガスの時代になります。地球温暖化のことを考えてもCO2の排出量が少ないし、コストも安くなってきます。今は太陽光に主に力を入れていますが、もっといろんな再生可能エネルギーに同時に力を入れると、可能性が見えてくると思います。

山下 「15%」案では原発は政府が動かせると見ているものは全て再稼働したうえで40年廃炉が基準ですから、安全基準の見直しなどの理由で想定していた再稼働が実現せず、廃炉や休止になる炉が増えれば、15%のために新しく原子力を作るという話になりかねません。

ミランダ それはありえません。

古屋 世界からも注目される中で、こうした選択肢が入ってくるのは本当に哀しいですね。

今後の議論の進め方について

山下 国民的議論は現在進行中で、8月12日まで受け付けているパブリックコメントと、8月4日、5日に行われる予定の討論型世論調査を経て、日本の新しいエネルギー戦略が確定される予定です。討論の参加者は、ランダムサンプリングでピックアップされた普通の人です。政府は7月より取り組みを行っています。エネルギー政策の意見交換会も全国11カ所でやりました。しかし、先の図版のようなデータをウェブ上で公開しているだけで、政府の情報提供は不十分です。

先ほどドイツの公開討論会での課題を述べていただきましたが、日本でこれから行われる討論型世論調査でどのようなことに留意すべきなのか、あらためて伺いたいと思います。

ミランダ まずは「誰が市民と対話するか」ということです。それによって、提供される情報が違ってくるからです。エンジニアと産業関係者がバランスよく配置されるのが理想です。もう一つは特定の利益団体に有利にならないようにすること。一般の人々の考えを知るためにEメールなどを送って情報を集めている団体があります。それ事体は大事ですが、情報に偏りが出て考え方がアンバランスになってきます。

そして、ディベートの期間が短かすぎます。ドイツの倫理委員会も二ヶ月弱という短期間で行われましたが、計画に意見を反映させることは難しいのではないでしょうか。市民が何に不安を感じているかを重点的に聞くことが欠かせません。仕事、コスト、安全性、テロ等々、それぞれのリスク要素を判断して決める必要があります。

山下 市民からの意見聴取はどういう形式や頻度で行われるのが妥当でしょうか。ドイツにおいても、Eメールや手紙によるやりとり、テレビ中継での意見交換、パネルディスカッションでの質疑応答など、様々な方法で意見交換があったと思います。

ミランダ 大切なのは、私たちは判断する委員会ではなく、アドバイスする委員会であったということです。委員会のメンバーにはそれぞれ異なる意見がありましたが、最終的には、ある程度統一した考えを唱えていたと思います。

山下 名前からしても、倫理的で環境に優しい委員が揃っているとイメージしますが、実際にはそうでもなくて、いろんな立場の人が関わっているんですね。

ミランダ 議論が進まずに、これでは委員会がだめになるんじゃないかというときも何度かありました。対立したメンバーが、部屋をかえて密談や説得をはじめたりしたことも。しかし、倫理委員会全体が統一できていなければ、社会からの信頼や期待を得ることはできません。

私たちは社会に対する責任を感じていました。倫理委員会はどういう役割を果たすべきなのかという不安がありました。メディアは私たちを追い、政府も私たちのレポートを待っているわけですから。私自身、自分の人生の中でもこれほど大きな使命を感じたことはありません。

女性が政治を変えるとき

ミランダ 最後に、今月『女性が政治を変えるとき――議員・市長・知事の経験』(岩波書店)という本を出版しました。昔から女性政治家に興味があり、博士論文のテーマも環境にするか女性政治にするか迷ったほどです。女性の政治での役割、あるいは女性の政治への影響ということについて考察しています。

日本・ドイツ・アメリカで暮らしてみて思うのは、やはりドイツも日本も女性がまだまだ活躍できていないということです。ただ、環境分野は他の分野に比べて比較的女性の関心が高く識者も多い。NGO出身の政治家やジャーナリストが少なくありません。今回は主に日本が調査舞台ですが、将来はこの本を英語でも出版したいと考えていますので、そのときにはドイツやアメリカの研究も含めたいと思っています。

具体的な内容は、政治学者の五十嵐暁郎さんとともに、北海道から沖縄まで、国会、都道府県、市区町村議会議員などを務めた、日本の女性政治家を50人以上インタビューしています。日本の女性議員は、地方都市で1割もいません。特に田舎の小さな町で活躍する人たちのインタビューは一読の価値があります。

どうして政治家になろうと思ったのか、政治家になって何ができたと思うか、ということを聞いています。彼女たちの多くははじめから政治家を目指していたわけではありませんが、みなに共通しているのは「自分が動かないと何も変わらない」と思っていること。「脱原発」は昔から女性が要求してきたことだということも見えてきました。ぜひ読んでみていただければと思います。

(2012年7月8日 東京大学駒場キャンパス)

プロフィール

古屋将太環境エネルギー社会論

1982年生。認定NPO法人環境エネルギー政策研究所研究員。デンマーク・オールボー大学大学院博士課程修了(PhD)。専門は地域の自然エネルギーを軸とした環境エネルギー社会論。

この執筆者の記事

ミランダ・A・シュラーズベルリン自由大学教授・環境政策研究センター所長

1963年アメリカ生まれ。メリーランド州立大学教授を経て、ベルリン自由大学教授・環境政策研究センター所長。専門は環境政策、政治学。2011年3月より、ドイツ政府原発問題倫理委員会委員。著書にEnvironmental Politics in Japan,Germany,and the United States,Cambridge University Press,2002(『地球環境問題の比較政治学――日本・ドイツ・アメリカ』長尾伸一・長岡延孝監訳、岩波書店、2007)などがある。

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