哨戒艇事件をめぐる韓国内の亀裂と日本の選択  

哨戒艇沈没事件以後、北朝鮮周辺の動向がまたあわただしくなっている。 昨年に二度目の核実験が行われたとき、わたしは北京にいた。その後しばらくマスコミや市民の反応をみていて、「中国も北朝鮮を重荷に感じている」と、ひしひしと感じた。実際に北朝鮮側の行動も、中国の影響圏を離れたがっていることをうかがわせたし、中国の側はそれに危機感を深めていたように思う。

 

 

確固とした外交利害をもつ中国

 

わたしは北朝鮮の専門家ではないので、内部の動きなどはまったく分からない。しかし、哨戒艇事件が顕在化してから、中国との適切な距離感を保つ、という方向性がすっかりなくなったようにみえる。

 

中国は、よくも悪くも、統一的な意志をもって外交利害を主張する国であり、その分、意図がはっきりしている。安全保障面では、現在の「国境線」は現状維持を望む。経済的には、自国内で消滅しつつある「フロンティア」と安価な労働力の代替物として、北朝鮮を有効活用しようとしている。そのための投資も、長年に渡って行っている。その上で、国際社会に対し、北朝鮮との連絡役という立場を外交カードとして活用する。

 

他方で、自国からの投資が無意味となるような事態、東北地方に民族問題が発生する事態など、自国に明確な不利益が生じる事態は、なんとしてでも回避しようとする。こうした観点からすれば、現状は、中国の意図に沿うようなかたちで推移しているといってよいだろう。

 

 

政府への不信感と、北朝鮮関与の否定

 

これに対し、韓国と日本は、どういう対処をしたいのか、自国内で意見が集約できていない。

 

まず韓国では、李明博大統領に対する国内の信任が薄い。哨戒艇沈没についても、原因は北の攻撃と断定した政府発表を、信用できないという世論が盛り上がっている。ダウムの「アゴラ」を根城とするネット世論過激派には、韓国軍・米軍が共謀したなどとする陰謀説が、一定程度の影響力をもっている。

 

これは極端にしても、現政権に対する不信感から、今回の事件に北朝鮮が関与していることを否定する感情が、ある程度の広がりをもつ。現政権の「政敵」にあたる、韓国最大の市民団体連合「参与連帯」は、国連安保理に向けて、事件の再調査を依頼した。革新メディアのハンギョレ新聞の世論調査では、回答の6割が「政府発表は信用できない」というものだった。

 

 

イデオロギーに左右される南北問題

 

南北問題・統一問題をめぐる見解は、韓国内では、国内のイデオロギー分布と切り離すことはできない。

 

保守メディアは、哨戒艇事件を「韓半島版911」などと呼び、あたかも開戦間近であるかのような煽り文句を連発した。代表的な保守派新聞の朝鮮日報は、北の攻撃を前提として、再度侵犯行為があった場合、自衛権発動に6割が賛成しているとしている。

 

韓国の世論調査の類は(この場合それぞれの読者が対象なので仕方ないにせよ)、発表側の立ち位置によって結果がまったく異なるのが常態だ。したがって、単体の数値をそのまま引用・分析することに、あまり意味はない場合が多い。

 

6月の統一地方選に際し、李明博がこの事件を人気取りに利用していると、批判派は主張していたし、そういわれても仕方のない言動もあった。しかし結果は、与党ハンナラ党の事実上の大敗となった。

 

 

 

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