ウィキリークスのジュリアン・アサンジ逮捕をめぐる流言、そして「強姦」と「『強姦』」のあいだ 

ジュリアン・アサンジの逮捕

 

2010年秋頃より米国の軍事・外交文書をインターネットや既存メディアを通して大量に暴露し、世界中の話題をさらったウィキリークスの責任者、ジュリアン・アサンジの英国での逮捕劇については、たしかな情報がごく限定的にしか伝えられていないにもかかわらず、ウィキリークスやアサンジの行動を支持する側、またそれらを非難する側の双方の論者により、憶測やうわさ話をまじえて、さまざまな意見が交わされている。

 

この問題に関心をもつ多くの人が知るように、アサンジの逮捕用件は、じつのところウィキリークスの活動とはまったく関連がない。英国滞在中のかれに対する逮捕状がスウェーデンで出され、国際刑事警察機構によって国際指名手配されたのち出頭・逮捕、そして保釈された容疑は、ふたりの女性に対するレイプ、性的暴行、不法な性行為の強要というものだ。

 

スウェーデン当局は、8月の時点でこれらの容疑について捜査をはじめていたが、それ以後もアサンジはヨーロッパ各国を自由に回りながら、ウィキリークスに関連した活動をつづけていた。国際刑事警察機構を動かすなど、かれに対する法的な追求が強化されたのは、ウィキリークスが米国の軍事・外交文書を大量に公開しはじめてからであり、性犯罪の容疑に対する正当な責任追及であるというよりは、米国およびその同盟国の意思にもとづいた、アサンジとウィキリークスの活動を抑えつけるための実力行使ではないか、という疑いをもつ人は少なくない。

 

その代表的な人物が、『ボウリング・フォー・コロンバイン』『シッコ』などで知られるリベラル派のドキュメンタリ映画監督マイケル・ムーアだ。かれはアサンジの弁護士にかれの保釈金を支払うと申し出ただけでなく、そのことをニュース番組で聞かれて次のように釈明した。

 

 

アサンジはそもそも何の容疑も受けていないし、このこと全体(アサンジの容疑)が非常に疑わしい。権力に不都合なことを明らかにしようとする人は、かならずこのような嘘や人格攻撃を受けることになる。かれが犯したとされている犯罪というのは、合意あるセックスの最中にコンドームが破れてしまったというだけであり、英国ではそれは違法ではない。

 

 

容疑の深刻さを否定するリベラル派

 

ムーアが前半でいわんとしていることには、わたしも同意したい。アサンジの容疑が国際問題にまで昇格されたタイミングはたしかに怪しいし、米国政府はアサンジを性犯罪容疑でスウェーデンに送るのではなくスパイ容疑で米国に移送させようとしている、という報道もある(どうやって知ったんだよとは思うけど)。

 

また、アサンジの逮捕とほぼ同時にウィキリークスのウェブサイトが各国のインターネットプロバイダから排除されたり、寄付を集めるための口座を凍結されたりというかたちでの追求も起きており、米国とその同盟国らが総力をあげてウィキリークスを潰しにかかっているようにもみえる。

 

アサンジには、かけられた容疑に対して(あるいはスウェーデンへの移送に対して)万全の弁護を受ける権利があるし、米国の圧力によって不当な扱いを受けないための支援をムーアがしたいというなら、ぜひそうしてほしいと思う。けれども、ムーアのメディアでの発言は、アサンジを擁護するあまり、性暴力の訴えに対する「ごくありふれた、事態を矮小化し、被害者を貶め、泣き寝入りを強いる」主張に陥っている。

 

上に書いたとおり、アサンジに対してあげられた容疑はレイプ、性的暴行、不法な性行為の強要の三つだ。「合意あるセックスの最中にコンドームが破れてしまっただけ」というのは、アサンジを支持する多くのコメンテータやブログが、かれに対する具体的な容疑も明らかにならないうちから大々的に広めてしまった話だが、実際にかれにかけられた容疑はそれよりはるかに深刻だ。もちろん、容疑が事実かどうかは裁判で争われる性質のものであり、予断をもつのはおかしいだろうが、容疑自体を矮小化して誤魔化すのはもっとおかしい。

 

しかし、ムーアのような有名人や、かれをインタビューしたリベラル系コメンテータのキース・オルバーマンらは、あるいはアサンジを支持する多数のブログやソーシャルメディアでは、「コンドームが破れただけ」「スウェーデンのような特殊な法律のある国以外では犯罪ではない」という、すでに否定されているはずの「解説」で、容疑の深刻さを否定しつづけている。

 

 

ギズモードの報道

 

テクノロジーやガジェットについて詳しい人気サイト・ギズモードの本家英語版では、12月3日に「ジュリアン・アサンジにレイプの容疑はかかっていない」という記事を掲載した。その記事では、アサンジにかけられた容疑はスウェーデン法に特異な「不意打ちの性交渉」というものであり、いわゆる「レイプ」とはまったく異なるものだ、「被害者」とされる女性たちもレイプされたとはいっていない、という趣旨のことが書かれている。

 

しかし実際の容疑が次第に明らかになると、ギズモードはその記事を撤回したうえで、次のように釈明した。「こうなると、あきらかに違った話になってきます。レイプ、性的暴行、不法な性行為の強要は、とても深刻な訴えです。これらは以前話していた『不意打ちの性交渉』とは異なります。」

 

間違いを認め訂正するというのは勇気がいるし、素晴らしいことだとは思うのだけれど、深刻な話だけに、そもそもはじめから、不確かなネットの噂にすぎないような内容の記事を、ギズモードのような影響力のあるサイトには掲載しないで欲しかった。

 

ところが、このギズモードの12月3日の記事を(さらに煽り口調に改変して)翻訳・掲載したギズモードの日本語版、ギズモード・ジャパンでは、「サウンドバイトにご用心。国際指名手配のWikiLeaks創始者ジュリアン・アサンジ、『性犯罪』容疑の中身とは?」という記事がいまだに(12月24日現在)掲載されている。「不意打ちの性交渉」でありレイプの訴えはない、という解説もそのままだ。

 

よく読むと、記事全体を撤回・訂正した本家と違って、日本版では本文の末尾に次のような文が掲載されている。「以上の記事が出た直後、スウェーデン検察庁から「レイプ、性的虐待、違法な強制」と容疑倍増で正式な逮捕状が出て、結果オーライになった、というわけですね。いやあ…。」 「いやぁ」ではない。ネットの噂に騙されて誤報を掲載し、性犯罪の訴えを矮小化することに加担しておきながら、ふざけすぎている。

 

はてなブックマークやツイッターでのこの記事に対するコメントを読んでみても、読者が「本文は誤報、追記部分が正しかった」と理解しているとは思えず、ほとんどの読者は「スウェーデンにしかない特異な『不意打ちの性交渉』」が逮捕容疑なんだと思っている様子。まさしく「サウンドバイトにご用心」とこちらがいいたい。

 

ムーアやギズモードやその他の多くのアサンジ支持者たちは、どうしてそれほどアサンジの性犯罪容疑を矮小化しようとするのだろうか。かれらがアサンジは無実だと信じたいのはわたしにも理解できるが、「アサンジには深刻な容疑がかけられているが、事実無根であり無実」と主張するのではなく、容疑そのものを矮小化しようとしていることには、別の理由があるように思う。

 

 

 

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