2014.05.07

インドで第16回国会下院総選挙(以下「総選挙」)が進行中だ。現下院の任期満了に伴うもので、4月7日から各地で順次投票が行われており、5月16日に全543選挙区で一斉に開票される予定である。

今回の総選挙では、最大野党のインド人民党(BJP)が勝利できるか否かに焦点が絞られている。各種世論調査や事前情勢を見る限り、過去10年にわたって政権を担ってきた国民会議派が率いる与党連合は劣勢に立たされており、政権交代が実現する可能性が高まっている。それだけに、インド国内メディアはもちろん、欧米はじめ外国の有力メディアも盛んに今回の総選挙について取り上げており、注目度の高さがうかがえる。

そこで、本稿では今回のインド総選挙の見取図を読者に提供すべく、その特色と位置づけ、選挙戦の構図、おもな争点について解説していく。

「世界最大の民主主義」:膨大な有権者数と政党数

インド政治を語るときに枕詞のように付いてくるフレーズが「世界最大の民主主義」だ。総人口約12億1,000万人は中国に次いで世界第2位。インドでは選挙権は18歳から付与されるため、今回の総選挙における有権者数は約8億1,460万人という膨大な数に上る。

前回(2009年)総選挙時の有権者数(約7億1,700万人)からの増加分は約1億に達すると言えば、その巨大さがさらに実感を伴って伝わってくるだろう。なお、有権者全体に占める若年層の割合が高いのも特徴で、18〜25歳の層は15%を占めている。

総選挙は、全543選挙区で有権者の直接投票により行われる(過半数は272。このほかに、2議席が大統領によって任命される)。投票は地域別に異なる日に分けて実施され、今回の総選挙ではこれまででもっとも多い9つのフェーズが設定された。過去の総選挙における投票率は60%前後で推移しており、それを当てはめれば、今回も5億人弱が全国で投票所に足を運ぶことになる。実際には、これまで投票が完了した地域では60%を超える投票率を記録しているケースが少なくなく、この数字はさらに高くなることが予想される。

政党数もインドにおける選挙の規模の大きさを示す指標である。インド選挙管理委員会の資料によると、前回の総選挙に候補者を立てた政党は、7つの全国政党(複数の州で選挙の実績を有する等の一定の要件を満たした政党)を含め363。このうち、議席を獲得した政党だけでも37党に上る。

これほどまでに巨大な規模で選挙を実施するのは容易なことではない。しかし、インドは独立以降、非常事態宣言により憲法機能が停止された70年代後半の一時期を除き、国会下院と各州の議会選挙が定期的に行われ、その結果に基づいて政権を発足させ、政府を運営してきた。

ただし、「制度」としての民主主義が機能しているというだけでこの実績を手放しで賞賛するわけにはいかない。三輪博樹氏が本誌で「人々の自由や平等、社会正義が実現されていることなどを民主主義を構成する重要な要素であると考えるならば、インドが民主主義の国であると見なすことは難しい」と指摘しているように(インドは「世界最大の民主主義国家」か?)、民主的な手続きだけでなく、それによってなにを実現するかという側面も併せて考えていく必要があるだろう。

政権交代が現実味を帯びる今回の総選挙

今回の総選挙には、これまで以上に増して強い関心が内外から注がれている。その最大の理由は、選挙の結果、政権交代が実現する可能性が事前段階で盛んに指摘されていることにある。少なくとも首相が交代することは確実だ。これは、今年の年頭記者会見でマンモーハン・シン首相が3期目を務める考えはないことを明らかにしたためで、政権枠組みがいかなる形になるかは別にして、インドでは総選挙後に新たな首相が誕生することになる。

政権交代の可能性という点では、過去2回の総選挙ではそのような見方は大勢を占めていなかった。前回(2009年)総選挙では、与党・国民会議派が率いる統一進歩連合(UPA)が好調な経済を実績に有利に選挙戦を進め、再選を果たした。前々回(2004年)は、選挙結果そのものはBJP率いる政党連合・国民民主連合(NDA)が敗北し、国民会議派が勝利したが、事前段階ではBJP有利との下馬評が圧倒的であり、政権交代の可能性が論じられることは限られていた。

しかし、今回は情勢が異なっている。会議派主導のUPA政権は、第2期(2009年~)に入るとほころびが目立ちはじめ、政策面の対立等により連立を組んでいた政党の離脱が続き、少数与党に転落。汚職スキャンダルも次から次へと浮上し、閣僚の辞任や与党議員の逮捕に至ったケースもあり、国民から厳しい批判の眼が向けられた。

さらに追い打ちをかけたのが、経済成長の減速である。第2期UPA政権が発足した2009年時には8.6%だったGDP成長率は、2013年度には4.9%にまで低下。国民生活に影響を及ぼすインフレも、消費者物価指数(CPI)上昇率が10%前後と高止まりした状態が続いている。景気の悪化に外資は敏感に反応しており、外国直接投資(FDI)は2011年度の351億2、100万ドルをピークに、その後は減少傾向が続いている。

このように与党を取り巻く情勢は厳しく、最大野党BJPにとっては政権を奪回する絶好のチャンスが到来している。インド主要メディアの世論調査でも、時期や規模によってばらつきはあるものの、BJPが第1党に躍進するとの点では一致している(表参照)。逆に、会議派は100議席を割り込み、同党史上最悪の結果になるとの予想も少なくない。事前の予想を大きく覆した2004年総選挙のようなケースもあり断定はできないが、BJPの議席大幅増と会議派の退潮、その結果としての政権交代が現実味を帯びつつある。

「NaMo(ナモ)」対「RaGa(ラガ)」――選挙戦の構図

今回の総選挙は、与党・国民会議派と最大野党・BJPの対立を基本軸として展開している。それぞれの党を中核として、会議派であればUPA、BJPであればNDAという政党連合が形成されており、1998年以降はいずれかが政権を担っている。

後述するように、インドでは地域政党や特定のカーストを支持基盤とする政党が支持を伸ばし、さらに左派政党の勢力もあるなど、単純な二大政党制とは言えない。しかし、1991年総選挙以降、100議席以上の議席を獲得したのは会議派とBJPだけであり、数多ある政党のなかで両党が突出した存在であることは間違いない。

ここでは、BJPと会議派の選挙戦を、ナレンドラ・モディとラーフル・ガンディーという各党の指導者の対比を通じて見ていくことにしよう。ちなみに、インドでは両者を指すとき、名前を略する形で「NaMo(Narendra Modi)」と「RaGa(Rahul Gandhi)」と称されることも多い。

10年ぶりの政権奪還を目指すBJPが切り札として首相候補に指名したのが、ナレンドラ・モディ氏(64歳)である。同氏は、1950年にグジャラート州北部の町に生まれた。モディ家は「その他の後進諸階級(OBC)」と呼ばれる低位カーストに属しているとされ、モディ氏自身は幼少時、地元の鉄道駅でチャイ(お茶)を売って家計を助けていたという。ヒンドゥー・ナショナリズム運動の中核的組織である「民族奉仕団(RSS)」に入団し、雑用係から始めて次第に頭角を現し、1980年代後半にはRSSの政治ウィングであるBJPに派遣されて幹部まで上り詰めた叩き上げの政治家である。

2001年には、地元グジャラート州の州首相(Chief Minister)に就任。積極的な投資誘致やインフラ整備等を通じて州の経済成長をリードし、その手腕が高く評価されて昨年9月にBJPの首相候補に指名された。2012年7月には、日本政府の招待で訪日したこともある。州のトップから連邦首相候補というルートは、州知事が大統領になることの多いアメリカのパターンを彷彿とさせる。

その一方で、モディ氏には「反イスラム的」ではないかとの指摘が常につきまとっている。きっかけは、2002年にグジャラート州でヒンドゥー教徒とイスラム教徒の間で発生した暴動への対応だった。イスラム教徒に多数の死者を出したこの暴動で、モディ氏は州首相の座にあったにもかかわらず、被害の拡大を防ぐために十分な措置を講じなかったことが意図的だったのではないかとして非難が浴びせられた。外国でも、これを問題視した米英がモディ氏へのビザ発給を拒否するとして厳しい姿勢で臨んだ(英国は昨年、方針を事実上転換)。その後の調査でモディ氏本人は潔白となっているが、この問題はいまも同氏にとって最大のネックとなっている。

こうした経歴が示すように、モディ氏はBJPという党を良くも悪くも体現する人物だと言える。BJPは経済再生を掲げて選挙戦に臨んでおり、「グジャラート・モデル」を全国に広げようとするモディ氏は「党の顔」としてうってつけの存在だ。

同時に、BJPは「ヒンドゥトゥヴァ(Hindutva)」と呼ばれるヒンドゥー・ナショナリズムを標榜する政党でもある。ヒンドゥー・ナショナリズムとは、一言で言えばヒンドゥー教とその文化に基づいた政治・社会体制を構築すべきとの思想であり、イスラム教徒等の宗教マイノリティからは根強い警戒感を持たれている。BJPもこの点は認識しているようで、今回の選挙戦ではヒンドゥー・ナショナリズム的な政策は極力控えめにするとともに、イスラム教徒の支持を得るべくソフトなイメージの表出に腐心している。

【左】BJPの選挙ポスター(上がモディ首相候補)【右】10年にわたり政府を率いた国民会議派のシン首相(いずれもケーララ州にて、著者撮影)
【左】BJPの選挙ポスター(上がモディ首相候補)【右】10年にわたり政府を率いた国民会議派のシン首相(いずれもケーララ州にて、著者撮影)

これに対し、「セキュラリズム(政教分離主義)」を掲げる現与党の国民会議派は、今回の総選挙を「“包摂的な民主主義”か“分断的な権威主義”の選択」と位置づけ、自らこそがインドの多様な層を代表する政党であると主張している。同党の選挙戦を指揮するのがラーフル・ガンディー党副総裁(43歳)だ。ラーフル副総裁は、しばしば「ダイナスティ(王朝)」と呼ばれるネルー・ガンディー家の御曹司であり、曾祖父にネルー初代首相、祖母にインディラ・ガンディー首相、父にラジーヴ・ガンディー首相を持つほか、ソニア・ガンディー現党総裁は実の母である(ここでいう「ガンディー家」は、マハトマ・ガンディーと血縁上のつながりはない)。

ラーフル氏も早くから文字通り「プリンス」として、会議派に早くから将来を嘱望され、2004年の総選挙で下院議員に初当選し、現在2期目を務めている。2007年9月からの約5年半では、幹事長として党の青年・学生組織を担当したこともあった。

会議派内では、今回の総選挙に臨むに当たり、BJPのモディ首相候補に対抗して、ラーフル副総裁を党の首相候補とすべきとの意見が根強くあった。ラーフル副総裁自身も、指名されれば受諾する用意があるとして意欲を示していた。ところが、今年1月の党大会では党として首相候補は指名しないと発表。そもそも会議派には総選挙に際し首相候補を指名する伝統はないというのが理由とされたが、劣勢に立たされている会議派が選挙前から敗北を織り込んでいるのではないかとの受け止め方が目立った。

また党大会では「会議派の選挙戦を指揮するのはラーフル副総裁」との方針が示された。しかし、その後も同氏は「首相になることはプライオリティではない」「政治に対する自分の情熱は特定のポストに就くことよりもずっと深い」と述べており[*1]、真摯な姿勢を伝えようとするあまり、かえってまわりくどい言い方になってしまっている感がある。

対照的な両指導者に対する評価は、世論調査で顕著に現れている。大手メディアグループのインディア・トゥデイ・グループが今年1月に発表した調査では、「誰がもっとも良い首相になるか」との問いに対し、BJPのモディ首相候補を挙げた回答者は47%に上ったのに対し、会議派のラーフル副総裁は15%にとどまった。むろん、インドの首相は直接選挙で選ばれるわけではないし、有権者にとって党の指導者が投票先を決める唯一の判断材料ではないが、選挙戦における両党の勢いの差がこうした結果に映し出されていると言える。

[*1] “’It’s a contest between two competing ideas of India’”, The Hindu, April 24, 2014. http://www.thehindu.com/news/national/its-a-contest-of-two-competing-ideas-of-india/article5941163.ece

地域政党の役割――展開次第ではキャスティングボートを握る可能性も

インドの選挙を考察する上で不可欠なのが、地域政党や特定のカーストに支持基盤を置く政党である(後者のなかには複数の州で活動する党もあるが、多くは特定の州を地盤とするため、本稿では前者とまとめて「地域政党」と総称する)。

前回総選挙で第3党となった北部ウッタル・プラデーシュ(UP)州が地盤の社会主義党(SP)、同じくUP州でダリット(非抑圧者の意。かつて「不可触民」と呼ばれた人々)を支持基盤とする多数者社会党(BSP)、西ベンガル州に勢力を持つ全印草の根会議派(TMC)らがその代表格だ。退潮傾向にあるものの、インド共産党(マルクス主義)等の左派政党も一部の地域で勢力を保っている。

会議派とBJPが突出した勢力であると先述したが、両党の合計議席が総議席に占める割合は、1996年総選挙以降、60%を超えたことはない。換言すれば、残る40%以上は地域政党や左派政党で占められているのである。

この結果、1991~96年の会議派政権以降、単独政権は出現しておらず、連立政権が続いている。選挙前には有力地域政党と選挙協力を結び候補者調整を行い、選挙後に第1党になったものの自前の政党連合だけでは過半数に達しない場合には、他党と連立工作や閣外協力の取り付けに奔走するといったことが常態化しているのである。

今回の総選挙でも、こうした地域政党が一定の議席を確保する見通しと報じられている(前掲表参照)。世論調査ではBJPが第1党になる可能性が高いことが示されているが、同党主導の政党連合NDAだけで過半数に達しない場合、政権を発足させるには他党からの協力が不可欠となる。

そうした展開になったときに想定される連立パートナーとして、南部タミル・ナードゥ州の地域政党、全印アンナ・ドラヴィダ進歩連盟(AIADMK)やTMCの名前が挙げられることが多い。可能性は高くないが、会議派が第1党となった場合でも多数派工作が必要な状況は変わらない。

なお、こうした状況は、アプローチを受ける地域政党にも政権入りできるメリットをもたらすものの、それだけで連立に応じるわけではなく、閣僚ポスト数や自党に有利な政策をめぐって第1党との間に虚々実々のバーゲニングが繰り広げられることとなる。

地域政党の側からも、自らが主体となって政権構築を志向する動きがある。「第三勢力」と呼ばれるイニシアチブで、前回総選挙時に左派政党と一部の地域政党が「非会議派・非BJP勢力の結集」を掲げて立ち上げられた。しかし、共通の選挙綱領や統一首相候補を打ち出すには至らず、選挙後には同勢力としてまとまった行動をとることはなかった。

今回の総選挙でも今年2月に11党による第三勢力立ち上げの試みがなされたものの、前回以上に各党の足並みが揃っていない。仮に会議派とBJP両党の議席が伸び悩み、第三勢力に参加する政党が個々に躍進するという結果になればその時点で求心力が生まれる可能性はあるものの、選挙前の段階では単一の勢力とは見なせないのが現状だ。

各党候補者の選挙ポスター(ケーララ州にて、著者撮影)
各党候補者の選挙ポスター(ケーララ州にて、著者撮影)

このほか、今回の総選挙では新党・庶民党(AAP)の参入も注目を集めている。同党は汚職撲滅を訴える社会運動のなかで中心メンバーのひとりだったアルヴィンド・ケジュリワル氏が2012年に立ち上げた政党である。昨年12月のデリー準州議会選挙では初参戦ながら第2党に躍進し、一気に脚光を浴びるようになった。

同党は総選挙でも全国に候補者を擁立、一時は都市部で会議派やBJPといった既存政党の地盤を脅かすかに思われた。ところが、ケジュリワル党首がいったんは引き受けたデリー準州首相ポストをわずか49日間で投げ出した頃から党への支持も失速し始め、デリー等で数議席の獲得にとどまるとの見方が支配的となっている。

おもな争点はなにか――マニフェストに見る会議派とBJPの違い

次に、今回の総選挙の争点に眼を転じたい。与党の国民会議派は政権を維持してなにを達成しようと国民に約束しているのか。一方、BJPは政権を奪還してなにを変えようとしているのか。ここでは、両党が選挙マニフェストで示した政策の比較を通じ、争点を明らかにしたい。

国民会議派とBJPの選挙マニフェスト
国民会議派とBJPの選挙マニフェスト

経済再生が最大の争点であることは衆目の一致するところである。会議派もBJPも経済を最優先課題として、マニフェストで多くのページを割いている。貧困層から脱却した新たな中間層を主要なターゲットにしているのも両党の共通点である。

異なるのは、成長実現のための方法だ。会議派は、「3年以内に経済成長率8%以上を実現」を掲げ、新政権発足後100日以内に1億人の新規雇用創出に向けた計画の策定や税制改革、財政赤字対策に着手するとしている。また、医療分野への財政支出増をはじめとする社会保障分野での取り組みを強化し、社会全体の底上げを図っていくとのアプローチが示されていることも同党の特徴と言える。

一方、BJPは成長率に関する具体的な数値目標は示さず、ガバナンスの向上や物価高騰への対策、産業振興、インフラ整備、都市化の推進といった制度の基盤強化を通じ経済活動を活発化させていくというアプローチである。同党も社会福祉に対する取り組みにも言及してはいるが、例えば貧困対策で「極度の貧困層」を主要な対象とするなど、結果平等よりは機会平等を優先する姿勢が見受けられる。

両党が見解を異にする政策課題のひとつが、外国直接投資(FDI)をめぐる政策だ。両党ともFDIを歓迎する立場は一致しているが、複数のブランドを扱う総合小売業(Multi-brand retail. 米ウォルマートや仏カルフールのような大型小売店が代表例)を対象とすることについては、会議派が賛成(2012年に政府として解禁を決定)であるのに対し、BJPは「FDI受入の対象外」との姿勢をとっている。

総合小売業におけるFDI解禁は、国内では減少傾向にある外国からの投資を上昇に転じさせる起爆剤として、海外からはインド市場における進出拡大の突破口として関心が高い一方で、国内小売業保護の観点から根強い反対論がある。有力地域政党には総合小売業へのFDI解禁に慎重な姿勢の党が多いことから、BJPは選挙後に他党との連立工作が必要になった場合のことを念頭に置いて足並みを揃えた可能性もある。なお、首相候補のモディ氏は経済紙エコノミック・タイムズとのインタビューで「投資家の感情に配慮するようコミットしていく」と述べており、政権に就いた際の対応に含みを残している[*2]。

外交政策は選挙の争点になりにくいこともあり、両党とも多くのページを割いておらず、全体のなかでの比重は必ずしも高くないが、両党の姿勢の違いが現れている。会議派は穏当で、ある意味では当たり障りのない書きぶりに終始している。これに対しBJPは、大国の利益ではなく自らの利益に基づいた積極的な対外関係を構築するとしたほか、近隣国との間でも友好的な関係を追求していくとしつつも「必要なら断固とした措置をとることをためらわない」とし、自立的・能動的な外交を進めていくとの考えが表明されている。なお、BJPは核ドクトリンの見直しにも言及しており、これが従来の「核兵器の先行不使用」政策の変更を意味するのではないかと議論を呼んだ。これについては、党総裁が同政策を改めるつもりはないと述べたことでひとまず沈静化している。

[*2] “Narendra Modi Interview: Ready to work with Congress; on FDI, policy continuity top priority”, The Economic Times,  April 22, 2014.  http://articles.economictimes.indiatimes.com/2014-04-22/news/49318830_1_fdi-policy-continuity-upa-government

起こりうるシナリオ――結びにかえて

最後に、今回の総選挙で起こりうる3つのシナリオを示すことで、本稿の結びとしたい。第1のシナリオがもっとも可能性が高く、第2、第3の順番で可能性は低くなると見られる。また、第2、第3のシナリオでは、いずれの勢力も過半数を制さない「ハング・パーラメント」となり、その下で成立する政権は必然的に不安定なものとならざるをえない。

第1のシナリオは、BJPが200議席前後を獲得して第1党となり、同党が率いる政党連合NDAによる政権が発足するというものだ。NDAだけで過半数を超えるか、過半数に到達しなくても不足分が1、2の地域政党との連立ないし閣外協力でクリアできる程度であれば、BJP首相候補のモディ氏が新政権の首班となる。しかし、NDAが最大勢力となっても過半数まで大きな開きがあり、自陣営以外で複数の政党からの支持取り付けが必要となる場合は、より受け容れられやすい代替首相候補が登場する可能性もある。

第2のシナリオは、BJPが第1党になるものの、会議派も事前の予測ほどには議席を減らさず、両党の勢力が拮抗するケースだ。この場合、双方に政権を構築する可能性が生じるが、2004年総選挙後に左派政党からの閣外協力を得て政権を発足させたこともある会議派が、より多くの連立パートナーを得やすいという点でBJPと較べ有利になる。首相ポストにはラーフル・ガンディー会議派副総裁が就任するだろう。

第3に考えられるのは、会議派もBJPも議席が伸び悩み、その一方で各州の地域政党が躍進するというシナリオだ。左派政党や地域政党が結集する「第三勢力」が主体の政権構築に向けた動きが出てくると見られるが、同勢力単独で過半数に達することは困難と見られることから、会議派が閣外協力に応じるか否かが決め手となる。また、各党が首相の人選で一致できるかという課題もクリアする必要がある。

今回の総選挙の開票は、5月16日に行われる。前回総選挙の例に照らせば、同日深夜か、遅くとも翌日未明には大勢が判明する見通しだ。

プロフィール

笠井亮平インド政治

岐阜女子大学南アジア研究センター特別研究員。インド、パキスタン、中国の日本大使館で専門調査員を務める。専門は、南アジアの国際関係及びインド政治。共著に『軍事大国化するインド』(亜紀書房、2010年)、『インド民主主義の発展と現実』(勁草書房、2011年)など。

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