12億人の民主主義――政権交代の可能性が注目されるインド総選挙の見取り図

地域政党の役割――展開次第ではキャスティングボートを握る可能性も

 

インドの選挙を考察する上で不可欠なのが、地域政党や特定のカーストに支持基盤を置く政党である(後者のなかには複数の州で活動する党もあるが、多くは特定の州を地盤とするため、本稿では前者とまとめて「地域政党」と総称する)。

 

前回総選挙で第3党となった北部ウッタル・プラデーシュ(UP)州が地盤の社会主義党(SP)、同じくUP州でダリット(非抑圧者の意。かつて「不可触民」と呼ばれた人々)を支持基盤とする多数者社会党(BSP)、西ベンガル州に勢力を持つ全印草の根会議派(TMC)らがその代表格だ。退潮傾向にあるものの、インド共産党(マルクス主義)等の左派政党も一部の地域で勢力を保っている。

 

会議派とBJPが突出した勢力であると先述したが、両党の合計議席が総議席に占める割合は、1996年総選挙以降、60%を超えたことはない。換言すれば、残る40%以上は地域政党や左派政党で占められているのである。

 

この結果、1991~96年の会議派政権以降、単独政権は出現しておらず、連立政権が続いている。選挙前には有力地域政党と選挙協力を結び候補者調整を行い、選挙後に第1党になったものの自前の政党連合だけでは過半数に達しない場合には、他党と連立工作や閣外協力の取り付けに奔走するといったことが常態化しているのである。

 

今回の総選挙でも、こうした地域政党が一定の議席を確保する見通しと報じられている(前掲表参照)。世論調査ではBJPが第1党になる可能性が高いことが示されているが、同党主導の政党連合NDAだけで過半数に達しない場合、政権を発足させるには他党からの協力が不可欠となる。

 

そうした展開になったときに想定される連立パートナーとして、南部タミル・ナードゥ州の地域政党、全印アンナ・ドラヴィダ進歩連盟(AIADMK)やTMCの名前が挙げられることが多い。可能性は高くないが、会議派が第1党となった場合でも多数派工作が必要な状況は変わらない。

 

なお、こうした状況は、アプローチを受ける地域政党にも政権入りできるメリットをもたらすものの、それだけで連立に応じるわけではなく、閣僚ポスト数や自党に有利な政策をめぐって第1党との間に虚々実々のバーゲニングが繰り広げられることとなる。

 

地域政党の側からも、自らが主体となって政権構築を志向する動きがある。「第三勢力」と呼ばれるイニシアチブで、前回総選挙時に左派政党と一部の地域政党が「非会議派・非BJP勢力の結集」を掲げて立ち上げられた。しかし、共通の選挙綱領や統一首相候補を打ち出すには至らず、選挙後には同勢力としてまとまった行動をとることはなかった。

 

今回の総選挙でも今年2月に11党による第三勢力立ち上げの試みがなされたものの、前回以上に各党の足並みが揃っていない。仮に会議派とBJP両党の議席が伸び悩み、第三勢力に参加する政党が個々に躍進するという結果になればその時点で求心力が生まれる可能性はあるものの、選挙前の段階では単一の勢力とは見なせないのが現状だ。

 

 

各党候補者の選挙ポスター(ケーララ州にて、著者撮影)

各党候補者の選挙ポスター(ケーララ州にて、著者撮影)

 

 

このほか、今回の総選挙では新党・庶民党(AAP)の参入も注目を集めている。同党は汚職撲滅を訴える社会運動のなかで中心メンバーのひとりだったアルヴィンド・ケジュリワル氏が2012年に立ち上げた政党である。昨年12月のデリー準州議会選挙では初参戦ながら第2党に躍進し、一気に脚光を浴びるようになった。

 

同党は総選挙でも全国に候補者を擁立、一時は都市部で会議派やBJPといった既存政党の地盤を脅かすかに思われた。ところが、ケジュリワル党首がいったんは引き受けたデリー準州首相ポストをわずか49日間で投げ出した頃から党への支持も失速し始め、デリー等で数議席の獲得にとどまるとの見方が支配的となっている。

 

 

 

シノドスのコンテンツ

 

●ファンクラブ「SYNODOS SOCIAL」

⇒ https://camp-fire.jp/projects/view/14015

 

●電子メールマガジン「αシノドス」

⇒ https://synodos.jp/a-synodos

 

●少人数制セミナー「シノドス・サークル」

⇒ https://synodos.jp/article/20937

 

 

 

 

1 2 3 4
シノドス国際社会動向研究所

vol.2019.4.15 

・打浪文子「知的障害のある人たちと「ことば」」

・照山絢子「発達障害を文化人類学する」
・野口晃菜「こうすれば「インクルーシブ教育」はもっとよくなる」
・戸谷洋志「トランスヒューマニズムと責任ある想像力」
・濵田江里子「「社会への投資」から考える日本の雇用と社会保障制度」
・山本章子「学びなおしの5冊 「沖縄」とは何か――空間と時間から問いなおす」
・鈴木崇弘「自民党シンクタンク史(6)――設立準備期、郵政民営化選挙後」