メキシコ麻薬マフィアの世界――『メキシコ麻薬戦争』を読む

今、メキシコで何が起きているのか。メキシコ麻薬戦争の内実を綿密に取材したルポルタージュ『メキシコ麻薬戦争――アメリカ大陸を引き裂く「犯罪者」たちの叛乱』(ヨアン・グリロ著)が今年の2月に刊行された。今回は訳者の山本昭代氏が、メキシコマフィアの世界をレクチャーする。(構成/山本菜々子)

 

 

地獄の沙汰も金次第

 

太田 今日は『メキシコ麻薬戦争: アメリカ大陸を引き裂く「犯罪者」たちの叛乱』の出版記念イベントということで、翻訳をされた山本昭代さんをお招きしました。メキシコで行われている麻薬カルテル(組織)間での対立、または麻薬密売を取締るメキシコ当局との抗争で、毎年1万人以上もの人々が命を失っていますが、日本での報道は非常に少ないといえます。今日は、色々とお話していただければと思っています。よろしくお願いいたします。

 

 

p-3-1

(写真:左から山本氏・太田氏)

 

 

山本 『メキシコ麻薬戦争』を翻訳した山本昭代です。「メキシコ麻薬戦争」とネットで検索すると、とんでもない凄惨な画像が出てきて驚かれた方もいるかと思います。しかし、これがメキシコの実情なんです。「麻薬はいけない」とメキシコの多くの国民は考えていますが、「密輸は必要悪だ」と言う人々もおり、解決が難しいのが現状です。

 

さて、今年の2月にホアキン・グスマンという、シナロア・カルテルの大幹部であり、世界最大級の麻薬マフィアが逮捕されました。まずは、彼の逮捕と人物像を導入にして、麻薬マフィアとはどのようなものなのかご紹介したいと思います。

 

ホアキン・グスマン・ロレアは、チャポ(チビ)・グスマンの呼び名で知られた大マフィアです。彼は2月22日に、メキシコ北西のシナロア州で逮捕されました。

 

これほどの大物になってくると、逮捕は非常に難しい。見張りが何重にも立ち、自宅には脱出用のトンネルがあったりして、それまでなかなか捕まえられなかったのです。彼がメキシコ・シナロア州のリゾート地、マサトランのコンドミニアムに家族と滞在しているときに、メキシコ海軍と連邦警察の合同部隊が突入し、流血の事態なく身柄を確保しました。

 

なぜ、逮捕に海軍が必要だったのでしょうか。陸軍や地元の警察はなぜ参加していないのでしょうか。じつはメキシコ陸軍は信頼性が低く、作戦に入れると情報が漏れてしまう可能性がある。実際、陸軍にはエリート特殊部隊があるのですが、1990年代後半、そこから大量に除隊して、麻薬組織の側に寝返ったということがありました。

 

また、シナロア州の警察も排除されていました。シナロア州はチャポ・グスマンの本拠地ですので、州警察は麻薬組織の下部組織のようなものです。警察官が国のためではなく、麻薬組織のために働いている状況にある。ですので、シナロア州知事も逮捕があったのが寝耳に水だったようです。

 

逮捕はされましたが、国民の中には、それは本物なのか、また脱獄するのではと疑う人が多くいるようです。というのも、チャポ・グスマンは1993年に一度逮捕されているのですが、2001年に脱獄しています。刑務所から脱走するなど、日本では考えにくいですが、中南米では珍しくない話です。チャポが脱獄した理由は、アメリカに身柄が引き渡されそうになったからだとされています。

 

2001年に脱獄した際には、表向きには洗濯物を運ぶカートの中に隠れて出たことになっています。『メキシコ麻薬戦争』著者のヨアン・グリロも本書でこの説をとっています。しかし、実際は刑務所長をはじめ当局が承知していて、当局者に付き添われて正門から出たといわれています。

 

彼は刑務所暮らしとはいえ、ほとんど不自由していませんでした。看守のほとんどを買収して、特別扱いを受けていました。塀の中にいながら、パーティをしたり、恋人を複数持ったり、薬物やバイアグラを持ち込んだり。地獄の沙汰も金次第といったところでしょう。

 

 

ƒvƒŠƒ“ƒg

 

 

 

 

シノドスのコンテンツ

 

●ファンクラブ「SYNODOS SOCIAL」

⇒ https://camp-fire.jp/projects/view/14015

 

●電子メールマガジン「αシノドス」

⇒ https://synodos.jp/a-synodos

 

●少人数制セミナー「シノドス・サークル」

⇒ https://synodos.jp/article/20937

 

 

 

 

1 2 3 4
シノドス国際社会動向研究所

vol.260 

・吉永明弘「都市に「原生自然」を残す――人新世の時代の環境倫理学」
・藤重博美「学び直しの5冊――「相対的な安全保障観」を鍛えるための読書術」
・赤木智弘「今月のポジだし――AIが支配する社会を待ち続けて」
・竹端寛「「実践の楽観主義」をもって、社会に風穴を開けていく」
・伊吹友秀「エンハンスメントの倫理」
・鈴木崇弘「自民党シンクタンク史(4)――東京財団退職後」
・加藤壮一郎「デンマーク社会住宅地区再開発におけるジェーン・ジェイコブス思想の展開」