「どうなっているのか」と「どうすべきか」を一緒に考える

「どうなっているのか」と「どうあるべきなのか」を一緒に

 

―― 教育社会学を勉強することにはどんな意味があるのでしょうか?

 

先ほどもお話したように、教育社会学は、教育学と社会学のはざまにありますから、「どうしたらいいのだろう」という発想と、「どうなっているのだろう」と現実を把握する傾向とを両方含みもっています。この両者のバランスをとることは簡単ではないのですが、それでも、実践志向や政策志向をもちながら、実証的な調査によって現実を把握する姿勢を学生が学ぶことは、結局のところ、非常にいいことだと思っています。

 

教育という現実への関心と、データを集めて、自分の思い込みや社会通念がほんとうに正しいのか、現実と対話し虚心坦懐に確かめていくという往復作業を経験するのは、自分を鍛える上でも非常に良いことです。データを見ていくと、思い込みや「常識」に修正を迫られることがとても多いんです。歴史を振り返ったり、他国との比較をすることができれば、なおさら自分がいま生きているこの社会のあり方を相対化することにつながるでしょう。

 

さらに、現実を把握するだけでなく、もう一段階抽象度を高めて、これまでに構築されてきた理論や概念を駆使して、解釈を与えていくことも重要です。先に述べたような教育社会学の複雑な構造があるゆえに、現実への関心と、実証的な検証、理論的な解釈という、三つの軸の間を、大きく旋回しないといけない。これを実践して身に付けることは、もちろん直接的には教育や調査に関わる仕事に就く上ではとても重要ですし、それに限らず、より広い様々な社会的な場面で意味があることだと思います。

 

 

―― 教育社会学を勉強したいと思ったら、教育学部に入ればいいのでしょうか?

 

どの大学でも教育社会学を学べるわけではありません。「教育社会学」という学科やコースがあれば勉強できると思いますが、全国に多くあるわけではないんです。たとえば教育学部のなかに教育社会学の教員が一人だけいるとか、あるいは教育学部すらない大学のなかで、教職科目を一手に担当されている教育社会学の先生がぽつんといたりする場合もあります。

 

さらに、教育社会学を扱う学科やコースがあっても、どういう科目が設定されているかはさまざまです。教員がなにをとくに専門にしているかで大きく違います。だからもし教育社会学を勉強したい方は、それぞれの研究者が、どういう論文や本を書いているか、丁寧に見ていかないと、やりたい勉強ができるとは限らないんですよね。しかもいま、教育社会学のなかで、理論を専門的に研究している研究者がどんどん減っているので、理論をじっくりやりたい人は、なかなか難しいかもしれません……。

 

 

過去に覚えた違和感を正面から研究できる

 

―― 高校生に向けてメッセージをいただけないでしょうか?

 

うーん、じつはこういうメッセージをお話するのは、一番苦手なんです。わたしは社会の体制について研究したり提言したりすることが多いので、個人がどう振る舞うべきかといった話は、自己責任化につながってしまう気がして、答えに困ってしまうんです。

 

教育社会学はとても柔軟で、どんなテーマでも取り上げられます。とくに10代、高校生は、いろいろと悩んだり、学校や家族や社会に違和感を覚えながら大人になっていく時期だと思います。その違和感や不満、疑問を捨てることなく、がっつり正面から研究対象にできるのが教育社会学だとは伝えておきたいです。『教室(スクール)カースト( https://synodos.jp/newbook/3691 )』という本で、鈴木翔君が行った研究も、俗っぽいと思われていままで学問的な対象とされてこなかったことを、正面から取り上げたものでした。教育社会学とは、そんな学問です。

 

 

絶望せずにいて欲しい

 

―― 最後に、いま就職活動をしている人たちに向けて一言いただけないでしょうか?

 

わたしは最近、「あなたは仕事でどんな「強み」をもっていますか」という質問を含んでいる質問紙調査の分析を担当しました。調査対象である30代の人たちに、この質問に自由記述で答えていただいた結果を、資格のような具体的なスキルとしての「強み」と、対人能力や時間を守るといった漠然とした「強み」の二つに分けて分析しました。

 

この二種類の「強み」のそれぞれをもっている人と、強味がない人、合わせて三つのタイプに分けて、その三タイプの人たちがそれぞれどんな意識をもって仕事に取り組んでいるか調べてみると、対人能力や行動様式が強みだといっている人は、女性の場合は、将来の生活の向上や安定よりも、いまが楽しければいいと考える傾向が見えますし、男性の場合は、「俺はビッグになるぜ」といった意識をもっている傾向がある。

 

それに対して、資格やスキルなどの明確な「強み」をもっている人は、専門性を高めたい、社会に貢献したいという意識が強いようです。社会のなかの自分の位置づけを意識しながら、堅実に暮らしている。社会の諸問題にも敏感です。もちろん世の中にはいろんな人がいて構わないと思いますが、こういうタイプの方が増えたら頼りがいのある社会だなって思います。

 

先ほどもいいましたが、いまは企業に身をゆだねるような世の中ではありません。自分になにができるのか、いまの社会でなにをやるべきなのかといった、それぞれのテーマに即して、進路を選ぶことがこれから必要になってくると思います。

 

自分のテーマや、それに即したスキルや資格などの「強み」をナビとして生きてゆけるような道は、いまの日本では依然「けもの道」で、いろいろ提言などもしていてもまだ環境も全然整っていなくて申し訳ないですが、そこを歩く人たちが増えれば、けもの道は整っていきます。こんなことをいまの若者にいうのは酷だと思うのですが、従来の、組織に抱きかかえてもらって安心するようなルートが失われても、どうか絶望せずにいて欲しいと思います。

 

 

教育社会学がわかる! 高校生のための3冊

 

まず、文字通りわかりやすい教科書として、酒井朗・中村高康・多賀太編著『よくわかる教育社会学』(ミネルヴァ書房)をあげておきます。階層と教育、マイノリティと教育、ジェンダーと教育、教師の社会学など、教育社会学の主な研究内容が一望できるような構成になっています。

 

 

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加えて、個別のテーマをかみ砕いて論じたものの例として、矢野眞和『「習慣病」になったニッポンの大学―18歳主義・卒業主義・親負担主義からの解放』や、加野芳正『なぜ、人は平気で「いじめ」をするのか?―透明な暴力と向き合うために』などを含む、日本図書センターの「黄色い本」シリーズがお薦めです。

 

 

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もう少し難しくなりますが、若手の教育社会学者ががっつり取り組んだ最近の著作としては、牧野智和『自己啓発の時代-「自己」の文化社会学的探究』(勁草書房)、須藤康介『学校の教育効果と階層-中学生の理数系学力の計量分析』(東洋館出版社)、澁谷知美『立身出世と下半身-男子学生の性的身体の管理の歴史』(洛北出版)などがあります。いずれも博士論文を書籍化したものですが、教育社会学の研究手法やとりあげるテーマの多様性、それが教育や社会を解き明かすやり方の魅力を実感していただけると思います。

 

 

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★高校生のための教養入門コーナー記事一覧

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