応援版サンプル

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困ってるズ!号外
応援版限定配信コラム

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「ことば作り」の最前線――「困ってるズ」へのエール――

はじめまして。荒井裕樹と申します。いつもは地味に、目立たないように「困って
るズ」を応援しています。先日、編集部から「あんまり陰でコソコソしてないで、ち
ょっとは表に出てきなさいよ」といわれてしまいました。なので、誠に僭越ながら、皆
さんへの応援メッセージを書かせて頂きます。ちょっと長目の文章になってしまいまし
たけど、最後まで読んでもらえたら嬉しいです。
私は「障害者文化論」というテーマで研究をしている「研究者」ということに、一応
(?)なっていて、最近は、ある精神科病院に併設されたアトリエに毎週通っていま
す。そこはなかなかユニークな場所で、入院者や通院者たちがアート活動を心の支えに
しながら、しんどい毎日を何とかやり過ごしているんです。「業界」では有名なので、
ちょくちょく見学の人たちも来るんですけど、そういった人たちから、よく次のような
感想を頂くんです。
「心の病を抱える人は感受性が豊かだから、自分の心を表現するのも上手なのでしょう
ね。」
これを言われるたびに、私は「ん? 
それ…ちょっと違うんじゃない…?」って思
ってしまうんですね。現場にいる実感から言わせてもらうと、むしろ逆なんです。
自分の「心」ってなかなか表現できないんです。そのアトリエに通う人たちの多く
は、家庭や学校や職場などで「これじゃ自分の心なんか表現できないよな…」と、話を
聞くだけで滅入ってしまうような状況に置かれていたりするわけです。アトリエという
安心できる空間に来て、ようやく「何か表現してもいいかな……」みたいな気持ちにな
るんです。
  「生きるのがつらい人」「言いようのないしんどさを感じている人」。そういう人たち
って、自分が抱えている「つらさ」「しんどさ」を表現するのが苦手だったり、すごくた
めらいを覚えていたりするんですよね。「大変なら大変って言えばいいじゃん」とか思
っちゃったりするんですけど、なかなかそういうわけにもいかないんですよね。
というのは、しんどい人ほど「自分のつらさを表現したって何の意味もないじゃん」
とか思っていたりするんですよ。他にも「グチっぽくなるのが嫌だ」とか、「弱い自分
を見せたくない」とか思ってたりする。みんな子どもの頃から、周りの大人たちに「が
んばれ!」「負けるな!」「怠けるな!」「気持ちが大事!」って言われ続けてきてる
から、「つらいとかって言ったらいけないんじゃないか」「ワガママなやつって思われ
ちゃうんじゃないか」って考えてしまって、自分の気持ちを表現しにくい。あるいは、
ずっとずっと「しんど過ぎる毎日」を送っている人の中には、「痛い」とか「しんど
い」という感覚が分からなくなってしまっていたり…なんてこともあります。
で、ちょっと助走が長くなりましたけど、この文章のテーマはこんな感じです。

「自分が個人的に感じている“しんどさ”って、わざわざ言葉にして表現する意味なんてあ
るの?」
  この問題は、すごく難しいんですね。でも、私は「もちろん!  ありますよ!」って応
えたいと思います。自分の「しんどさ」を言葉にすることは、「自分のため」を超えて、
「ほかの誰かのため」になる!!……はずなんです……たぶん……。


  じゃあ、具体的にどんな意味があるのでしょうか。いろんな文脈、いろんな事情に応じ
て、いろんな意味があると思いますけど、今回はページの都合もありますから、一つだけ
シチュエーションを挙げて、私の考えを記しておきたいと思います。
 ここは都内のとある中学校。クラスのなかに溶け込めないA君とB君がいます。
A君は「みんなと同じこと」がちょいと苦手。授業中も最初の15分はがんばるけれ
ど、それ以降は目に入る色んなことが気になって仕方がない。となりの友達の気持ちも
考えず一方的に話しかけちゃったり、立ち歩いてしまったり…。「そんなことしちゃダ
メ」って怒られても、「そんなこと」が何か分からない。とにかく、その場の「空気」
とか「雰囲気」とか「文脈」とか、はっきりしないものが分かりにくい……。
  B君は国語が超苦手。というか、そもそも「文字」がよく分からない。国語の試験問題
なんか、見ているだけでめまいがしそう。授業の課題レポートを一生懸命書いても、「字
が汚い!」「もっと丁寧に気持ちを込めて書け!」って先生から怒られちゃう。でも手書
きは苦手だけど、パソコンなら結構書ける。明日しめ切りのレポートも、パソコンで書け
たらいいのにな……。
  二人とも悩んでいて、なんだかとってもしんどい。そんなわが子の様子を見ていて、ご
両親も困ってる。それで勇気をもって専門的な医療機関を受診したところ、A君は「発達
障害」、B君は「学習障害」と診断されました。なんだかイカメシイ名前でよくわからな
いけど、でも言葉にならないモヤモヤに名前がついてすっきりしたし、診断書を先生に見
せたら「いろいろ協力してくれる」って言ってくれた。だけど、なんだか割り切れない感
じもする……。
  実は、その「割り切れない感じ」を抱えているのがもう一人。A君とB君の担任の先生で
す。簡単に言うと、ほかの生徒たちにツッコまれた時に困ってしまう。「A君は授業中に
うるさいのに、なんで注意しないんですか?!」とか、「なんでB君だけレポートをパソ
コンで書いていいんですか?!」とか。そんなツッコミがあった時、果たして何と説明す
ればいいのやら……。
「A君は“発達障害”だから仕方ないでしょ」「B君は“学習障害”だから分かってあげ
て」  こんなふうに障害の名前を持ち出すのが「その場の説得力」では一番有効なんだ
けど、でも、これにはちょっと弊害もある。なんだか重々しい「〇〇障害」って聞く
と、ほかの生徒たちが身構えて、イヤな感じの距離感が出てしまう。「あいつら、普通
の人間じゃないんだ…」みたいな感じで遠ざけられちゃったり、「ごめん……悪いこと
聞いちゃった……」みたいな感じで妙にヨソヨソしくされちゃったり……。
  A君もB君も、たしかにみんなとは違う。でも、まったく違うわけじゃない。同じクラス
で生活していて、遠足も修学旅行も文化祭も体育祭も一緒にやってきた。だから、同じ仲
間なんだけど、でも、違うところがちょっとだけ違うというか……「同じなんだけど、ち
ょっと違う」「ちょっと違うところもあるんだけど、でも基本的には同じ」みたいな距離
感でやっていけたら一番助かるんだけど……ああ、なんだか、ちょうどいい言葉がない。

そう、「ちょうどいい言葉」がないんです。

「〇〇障害」とか、「〇〇症候群」とか、お医者さんが付ける診断名って、かた苦し
いですよね。で、こういう診断名って「違う」という側面が強く出過ぎてしまう。もち
ろん、障害や病気の種類によっては、まったく違う扱いをしないといけないものもある
でしょう。でも、「確かに違うんだけど、そこまで違うわけじゃない」っていう感じの
障害や病気もあるわけですよね。A君やB君がそういうパターンに当てはまるわけです。
この「違う」と「同じ」の微妙な感じを表す言葉が、私たちが日常使っている言葉の中
には少ない。というか、まったくないんですよね。
で、ここが「困ってるズ」さんたちの腕の見せどころになるはずです。A君やB君が、
クラスの皆とちょうどいい距離感でやっていくためには、どんな言葉で説明すればいい
でしょうか?  この距離感を説明する言葉を考えるのは、もうお医者さんの仕事じゃな
いんです。彼らと同じような状況で「困ってる」人たちが、自分たちの体験を持ち寄
って、「こういう言い方がしっくりくる」という言葉を出し合っていくのが良いんだと
思います。
急いで断っておきますけど、「医者が付けた病名などに頼るな!」「そんなものいら
ん!」というわけじゃありませんからね。とりあえず、今の社会のなかでは、医療のケ
アを受けたり、福祉の人にサポートしてもらうときには必要になりますから……。
じゃあ、この文章のはじめに出した問題に戻ってみましょう。
「自分が個人的に感じている“しんどさ”って、わざわざ言葉にして表現する意味なんてあ
るの?」
そう、きっとあると思うんです。
いま見てきたように、「違う」と「同じ」の距離感を表せる「ちょうどいい言葉」を
考えて、みんなで作っていく。できれば、分かりやすかったり、伝わりやすかったりす
る、あんまりかた苦しくない言葉がいいですね。そういった言葉を社会の中に貯めてい
く。「ことば貯蓄」や「ことば作り」のようなものをしていく。そうしていけば、いつ
かA君やB君と同じように困っている人たちが、「ああ、こんな言い方があるのか!」
って、とても助かるかもしれないですよね。
病気や障害を持っているからって、「あなたはみんなとは違うから…」って遠ざける
のはやめてほしい。でも逆に「同じ人間なんだから、もっとがんばってみんなに合わせ
ろよ!」って無理をさせられるのもご免こうむる。いろんな事情をもった人たちが、い
ろんな距離感を保ちながら生きていくためには、もっともっと「違う」と「同じ」を説
明できる言葉が必要なんです。
いま、学校でも職場でも地域でも、「あなたはみんなと同じなの? 
違うの?」
って、二者択一をせまってくる感じが強くなってきているんですよね。で、「みんなと
同じなら全部同じことをして!  違うなら専門家のところに行って!」って、細かく住
み分けようとする。それが親切なことで、適切な対処なんだって、みんなが何となく信
じている。まるで「敵か? 味方か?」をせまられてるみたいですね。
でも、「同じだけどちょっと違う」とか、「違うけど少し同じ」とか、「んー、7対
3で味方かな…」みたいな人たちが、なんとなく一緒にいられる社会の方が、きっと
フトコロが深くて居心地がいいんじゃないかなって、私は思っています。そんな社会の
フトコロを広げるためにも、ことばを作っていくことが必要です。「困ってる人」たち
が自分のしんどさを語るのを避けてしまったら、次に続く人たちも語りにくくなってし
まいます。それは、ますます「困ってる人」たちを増やしてしまうんじゃないでしょう
か。
だから、この「困ってるズ!」というメールマガジンは、その「ことば作りの最前
線」なのかもしれませんね。みなさん、後に続く「困ってる人」たちのために、自分た
ちの言葉を信じてみてください。

……と、約束の文字数もオーバーしちゃったので、本当ならここで原稿を終えなき
ゃいけないんですけど、編集長! お願い! 一つだけ宣伝させてください!
  「つらいことって、どうすれば表現できるの?」と思っている人に、ぜひ観てほしいア
ート展が開催されます。私も実行委員を務めています。日ごろ大変すぎて心に余裕のない
方も、逆に余裕のある方も、よかったら覗きに来てください。なんと入場無料でやってお
ります!
東京精神科病院協会主催「第4回
心のアート展――それぞれの感性との出会い――」(会期
:2013年4月24日~29日 場所:東京芸術劇場) 詳しくはHPをご覧ください。
http://www.toseikyo.or.jp/art/index.html

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困ってるズ!

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http://bit.ly/MbZlFc

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編集長:大野更紗+荻上チキ
編集:金子昂(シノドス)
進行管理:久保健一郎(わたしのフクシ。)
発行:わたしのフクシ。+株式会社シノドス
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