なぜ彼女たちは出会い系に引き寄せられるのか

ワリキリに対人コミュニケーションは必要ない?

 

―― 本で描かれている女性たちのエピソードを見ていると、精神疾患を抱えている人が非常に多い。でも、現代社会には、同じような困難を抱えていても、昼の世界で生きている人もいくらでもいますよね。彼女たちをワリキリに追いこんだボーダーはどこにあるのでしょう?

 

そこはスパッとは切れません。ひとつの理由だけではなく、さまざまな理由が複合的に絡んできます。無理に単純化して説明しようとすれば、個人の資質=自己責任、ですませるのが一番簡単でしょうけれどね。

 

まず本人は「お金欲しいからワリキリを始めた」と言っていても、その背景には「他の仕事が手に入らない」とか「短期間にどうしても稼がなきゃいけない」といった多種多様な理由がある。あるいは、ワリキリを知ったきっかけとしては、知人からの紹介が多い。つまり、困っているときに出会ったのがワリキリだったか、あるいは別の相談相手なのかでもまた、変わったでしょう。

 

ワリキリを行っている女性は、学歴が高くなく、かつ精神疾患を抱えている人が多い。履歴書の段階で、働ける場所は、サービス業のような対人コミュニケーションを必要とする職業にかぎられてくるが、精神疾患を持っているため、コミュニケーションに過度のストレスが生じることも多々ある。そのときに残された選択肢の有力なひとつがワリキリだったということですね。

 

他の風俗では、お茶を引いている時間は値段にならないので、どうしたら継続的に通ってもらえるかを考える必要がある。その結果、客とのメールのやりとりや、ブログの更新といった、無料労働も発生します。プレイのときも、「喋って、服を脱がせて、シャワーを浴びて」という一通りの方法を、客の好みに合わせてサービスしなければいけない。

 

しかし、ワリキリでは、「穴だけ貸すから好きにやって」というスタンスの人も多い。ギャラ以外の要因でも、ワリキリに引かれる女性がいるわけです。

 

 

お金を貯める方法を知らない

 

―― お金に困っているからワリキリを始めたにもかかわらず、ホストやギャンブルに使ってしまう女性が多いようです。どうして彼女たちはお金を貯められないのでしょう?

 

まず、「将来の自分に、具体的に投資する」という考えが弱いケースが多いです。将来の話になると、「いつかは店を持ちたい」「ネイリスト」といった、「大きな夢」に飛ぶ一方で、具体的な準備はなにひとつできていないというような。

 

貯蓄などの文法を身につけてこられなかったことも大きいかもしれません。たとえば、親と「お年玉を貯金しよう」「通帳作ったから貯金しよう」という話をし、貯金の方法を学んでいくという経験がない。親からの教育投資もほとんど受けなかった。わずかなお金が当たり前だったのが、ワリキリをしだすと、月に数十万円を稼げるようになる。「稼いだお金は、その月のうちに使う」というのが当たり前になっているので、タクシー代に使ったり、洋服を少しいいものに変えたりするんだけど、どことなく全体はアンバランスで、「夜職だとわかってしまう格好」になっている。

 

また、ワリキリをしている女性には「居場所がない」と答える人が多くいます。そして、優しさや癒しを求めてホストに依存したり、楽しみを求めてギャンブルに使い込んでしまう。ストレス解消というのもあります。ホスト利用率や、ホストとつき合った経験率については、2013年の今年、改めて調査を行なっているので、調査の続報として発表できると思います。

 

 

夜の世界の統計を取る重要性

 

―― このルポは荻上さんが自ら全国の出会い喫茶や出会い系サイトを利用して100人以上の女性に調査していますよね。お金も労力もかなりかかったと思いますが、どうしてワリキリのルポを行おうと思ったのですか?

 

「物書きが何を書くか」ということにはさまざまな動機が混在しますが、ものすごくシンプルに言えば「書きたいし、書けるから」です。ぼくは知っているけれど他の人が知らないことがあって、その事実を伝えられるように書くのが物書きの仕事ですね。

 

既存の売春ルポには統計をとったものがほとんどない。風俗ライターなどはそういう観点をそもそも持たないし、学者などの統計のプロは、ヤクザ、風俗といった世界の調査にあまり手を出しません。ぼくなら、ルポを書き、データも集められる。そして、その仕事に対し、思想的にも大きな意義を感じている。簡単にいえばそういうことになります。

 

 

女性たちがワリキリに引かれていく力学

 

―― 副題の「社会からの斥力、出会い系の引力」という言葉にはどんな思いが込められているのでしょう?

 

既存のワリキリに関する議論は、「お金がたやすく手に入る」という売春のもつ引力に引き寄せられた女性たちに着目し、道徳や心の問題として批判するというものが多数を占めています。個人の選択の話ばかりして、社会環境との関係性について書く視点があまりないんですね。あるいは唐突に、「こんな時代のせいなのだ」とか、凡庸な文明論になったり。

 

でもデータを見るかぎり、本当ならば「彼女たちにとって何が社会からの斥力になっているのか」という議論が継続される必要があります。過去の日本政府は、売春の実態に関する丹念な調査をしていましたが、いまは継続されていないし、学者らもそれを補えていない。

 

彼女たちが他の仕事に就けない理由として、「精神疾患」「学歴」「容姿」の問題であるとか、「誰かに愛されたことがない」「裏切られつづけて人を信頼することができない」「お金の使い方を知らない」という多種多様な社会からの斥力の影響があります。そのような斥力が原因となって仕事に就けない彼女たちがワリキリに引かれていくという力学を描きたかったので、彼女たちが「何に惹かれ、何に追い出されたのか」ということを題名に切り取りました。

 

 

彼女たちがワリキリをしなくてすむ社会づくり

 

―― 彼女たちを救うには、具体的にどういった方策が必要だとお考えですか?

 

まず前提として、本書で取り上げているワリキリ女性のなかには、いたって健康で、お金に困っていない女性もいます。なので、「ワリキリ女性=救うべき」という図式をすべてに当てはめたりはしません。

 

一方でこの本は、売春問題の改善について問うてはいますが、ある意味では変化球な答えしか与えていません。つまり、「あまり望まないワリキリ」をしている女性たちの話をしながら、いまワリキリをしている彼女たちへの対応を議論するよりも、そもそも彼女たちがここに辿り着かずにすむためにはどうしたらよかったのかという話になっているからです。

 

なぜ具体策を提示しなかったかというと、いまある対応レパートリーそのものが弱いため、「これなら薦められる」とも言いがたく、またぼくはNPO関係者でもソーシャルワーカーでもないため、自分自身でソリューションを出すこともできない。その代わり、この本やデータを残すことで、支援のバトンは渡す。「n個の斥力に対応したn個の包摂をどうつくっていくか」という議論のつづきを、読むものに委ねたいと思うのです。

 

ただ一方で、たんに専門家が努力すればいいという話ではなく、いかなるイメージが世論を形成するかは重要となる。本当ならば、既存の議論のように「心の問題として片づけ、彼女たちを批判する」ことは、すべての予防策を講じたあとで許されるものです。それにもかかわらず、論者たちがワリキリに対する現状把握をしないまま、中身のない議論が先行してしまっている。これではいつまで経っても効果的な議論はできません。

 

ぼくがこの本で言いたいのは、「売春対策をしろ」ということではなくて、「斥力となる一つひとつの要素を発見し、潰していくことで、さまざまな望まない選択を減らせる環境づくりをしよう」です。そのためにも、まずは事実を積み重ねること。そうした作業を、ぼくは今回、個人売春というテーマで行いました。あてずっぽうな議論を回避し、少しでも的を射た議論が増えるよう、貢献できればと思ったのです。

 

(2012年12月27日 新宿にて)

 

 

彼女たちの売春(ワリキリ) 社会からの斥力、出会い系の引力

彼女たちの売春(ワリキリ) 社会からの斥力、出会い系の引力書籍

作者荻上 チキ

発行扶桑社

発売日2012年11月29日

カテゴリー単行本

ページ数333

ISBN4594067344

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