2013.09.20

コンセントの先に想像力を働かせよう ―― どうせ使うなら楽しい電気

『コミュニティ発電所 原発なくてもいいかもよ?』著者・古屋将太氏インタビュー

情報 #自然エネルギー#新刊インタビュー#コミュニティ発電所

2013年9月に認定NPO法人環境エネルギー政策研究所の研究員・古屋将太さんが『コミュニティ発電所 原発なくてもいいかもよ?』(ポプラ社)を出版。いま日本各地で芽吹きつつある自然エネルギー事業の支援に携わってきた古屋さんだからこそ書けた、自然エネルギーのいま。たいへんだけど楽しい自然エネルギーに、カジュアルに関わるきっかけとして、ぜひお読みいただきたい一冊です。(聞き手・構成/金子昂)

「自然エネルギーの入門本」

―― 認定NPO法人環境エネルギー政策研究所(ISEP)の研究員で、国内外の自然エネルギーの事例に詳しい古屋さんには、これまで何度もシノドスに文章を寄せていただきましたが、いつもよりもわかりやすい本をお書きになったんだなあと思いました。なにか理由があるんですか?

東日本大震災と原発事故のあと、知識人といわれる人たちの自然エネルギーについての発言って、ぼくにはすっとんきょうに感じられるものばかりだったんですね。だからシノドスでは、そういった人たちに向けて、自然エネルギーの可能性や政策的な話、政治的な話をちゃんと知って欲しいと思って書いたんです。

でも、市民が各地で開催している勉強会や研究会に呼んでいただいてお話をする機会が増えてから、専門用語や長ったらしい固有名詞を使って、一般企業の方やおじいちゃんおばあちゃんに話をしてもなかなかうまく伝えられないことに気がついたんですね。もっとわかりやすい言葉で、自然エネルギーのことを伝えないといけないと思いました。でもそのときは忙しくて、なかなか書く時間がつくれなかったんです。

―― 忙しすぎて「古屋さんの持続可能性が危ぶまれている」というお話も書かれていましたね(笑)。

でも、それだけいろんな人が興味をもってくれるようになったのは本当に嬉しいことですよね。

コミュニティ単位で取り組んでいる各地の自然エネルギー事業にもちょっとずつ成果がでてきて、そろそろもっとたくさんのひとに伝えなくちゃいけないなあと思うようになりました。原発事故が起きる前から頑張っている人たちがいて、原発事故が起きてから始めた人も成功し始めている。そこには誰もが参加するチャンスがあるので、その入り口になるような本を書きたいと思ったんです。

―― シノドスの記事は一生懸命読まないとついていけないときもありましたが、この本はすごく読みやすかったです。何が違うんでしょうか?

エネルギー政策って難しい言葉が多いんですよね。この本でもどうしても使わなくちゃいけなかったので使いましたが「地域主導型再生可能エネルギー事業化検討業務」みたいな言葉がたくさん並ぶんです。漢字ばっかりで頭が痛くなります。だから最低限必要な言葉は使いましたが、できるだけわかりやすい言葉で書くようにしました。あと地域ごとの具体的な事例を起承転結のある物語仕立てで書くように意識もしています。また、「人」を中心に書くように心がけました。

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自然エネルギーは雪だるま式に増えていく

―― あとがきに「震災から時間が経って脱原発の動きも弱まった」とメディアの方に聞かれることが多いと書かれていて、以前ぼくも古屋さんに同じような話をしたことを思い出してドキッとしました。実際に現場で働かれている古屋さんはどう感じていらっしゃるんですか?

先日、自然エネルギー財団の末吉竹二郎さんが会津電力のイベントで印象的なことをおっしゃっていました。「社会の本当の転換は0が100になる話じゃないんです。49が51になる話なんです。古い考えと新しい考えの間がどんどん狭まって、どこかでクロスする。クロスした瞬間に決定的な転換が起きます。だから100変えなくていいんです。49を51にすればいいんです。それが一票の差。最後の一票をどうみんなで勝ち取るか」と。

ぼくも社会の変化って段階的なものだと思うので、まずは先駆者が苦労をして成功事例を積み上げて、それに続く人が次々と増えていって、後で振り返ったら「世の中変わったね」って思うようなものなんだろうと。

そういった長期的な視野に立ってみると、原発事故以前から、いろいろな地域で自然エネルギー事業を頑張ってきた人たちがいて、10年かけて成功事例をつくってきました。ぼくもISEPの一員としてそれをお手伝いしてきたので、あまり「進まない感」とか「弱まっている感」ってないんですよね。むしろ、地域の金融機関が自然エネルギー事業への融資をはじめたり、自然エネルギー業界の求人募集が増えていたり、以前に比べたら自然エネルギー業界は確実に進んでますよ。

それに、政策的な議論は得てして抽象的になりがちですが、実際に市民がつくった発電所を見れば、心が動かされるし、少しずつ進んでいることを実感できると思います。ただ、メディアによっては地域の小さな発電所の事例をすくいとって伝えるというのがうまくできないのかなって思います。数十件ぐらいの事例が出てくると、また変わってくるとは思いますが。

インターネットも最初は一部の人が使っていただけなのに、ある段階を境にぐんぐんと広がって行きました。自然エネルギーがそれとまったく同じかたちで広がるとは言えませんが、きっと人員や資源、技術や資本を導入する体制がちゃんとできれば、雪だるま式に増えていくだろうと思っています。

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―― 原発事故以降、その流れはいっきに加速しましたか?

していますね。いま自然エネルギーの導入を検討している人たちの50倍も100倍も苦労されてきた先駆者がいたからこそ、原発事故以降に興味をもってくださった人たちの基盤になっていると感じます。この本の中でも書いていますが、初期の事例はひとつ立ち上げるのに関係者総動員で支援していましたが、いまは1人で5〜10地域を並行して支援するといった感じです。

ISEPとしては、これからさらに増えるであろう地域支援の要請に応えられるよう、人材育成プログラム(ISEPエネルギーアカデミー)を開いて制度化を試みるなど、量的な支援を強化していかないといけないなあと思っています。

たった2か月で市民太陽光発電所が!

―― この本ではたくさんの成功事例をお書きになっていますが、ひとつご紹介いただけませんか?

先にお断りしておくと、いろいろな成功事例をとりあげてはいるものの、すべてがするっと成功したわけではありません。それに実は自然エネルギーを導入するにあたって大事なことは、何をもって「成功」とするかという基準なんですよね。成功の定義を当事者たちで話し合うことから始めるんです。

比較的順調にコミュニティ発電所を実現してしまった地域としては、例えば兵庫県の宝塚市では、以前から反原発NPOはありましたが、自然エネルギーに関する団体はまったくありませんでした。でも東日本大震災以降、市長のイニシアティブのもとで行政に自然エネルギーの担当課ができて、民間では自然エネルギーに取り組むNPOが立ち上がりました。

ISEPも支援に入って、連続セミナーを行っていくうちに、行政の方々も何をしなくちゃいけないのかが次第にわかってきて、地域の人たちが集まって議論できる「場」として市民懇談会を何度も開き、そのなかでワークショップをやりました。そこに関心のある市民がたくさん集まってきた。「場」をつくることでたくさんのひとが集まるんですね。

ワークショップの場で、広い土地をもっている地主さんや、新しくできた自然エネルギーのNPOのメンバー、技術的なことに詳しい人が知り合って、気がついたら2か月くらいで市民太陽光発電所をつくってしまいました。

どうせ使うなら良心の呵責なく

―― 地域によっていろいろと条件も違ってくるのだと思いますが、どんな地域でもコミュニティ発電所を作れるかもしれないというわけですね。ポイントはどこにあると思いますか?

コミュニケーションですね。

もちろん技術的な問題をクリアしたり、資源の可能性、経済性についてデータを集めて、しっかりした事業計画をつくることも大切ですけど、一番大事なのは、いろいろな考え方の人がいるなかで、お互いに理解して納得しあってつくることだと思います。

各地域に必ず一人は、その地域の豊かさとかエネルギーのあり方について真剣に考え、現状を変えていこうとしている人がいます。でも一人ではできないことですから、その思いをコミュニケーションして伝えなくちゃいけなくちゃいけない。

正直、大変です。でも、企画書を作って、それにハンコを押して、税金から予算をとって、下請業者に丸投げして……という従来の開発のやり方とは違う意味がそこにはあるんですね。

ジャンクフードを食べるよりは、オーガニックフードを食べるほうが、自分にも環境にもいいですよね。どうせ使うなら、電気だって良心の呵責なく使えるものがいい。そうやってコンセントの先に想像力を働かせれば、自ずと進むべき方向は見えてくると思うんです。そして、それはこれからのエネルギーと社会の豊かさのひとつのかたちだと思うんです。

「こんなに面白いことをどこかの誰かに任せてしまったらもったいない」ってぼくは思っています。自分たちでやるからこそ、地域の多様性とか価値がエネルギーのあり方にも反映されてくるんです。

「よくわからないけど大きな水車が東京の大企業の資本で作られたね。以上、終了」じゃまったく面白くない。自然エネルギーをきっかけに、コミュニティの中でいままで交流のなかったようなひとたちが集まって、互いに知恵を絞って発電所を作る。例えば、水力発電所で作った電気を使って、その地域の特産物を加工して、しかもその発電所は地元の農家の方が所有していて……とその地域独特の発展の仕方があるんですね。

イノベーションっていまあるものを組み合わせて新しいものをつくっていく作業です。自然エネルギーは地域のイノベーションに関わってくる事業なんですね。国がドンとお金をつぎ込むより、べらぼうな経済的リターンがなくても、ほどよいリターンの中で、みんなで楽しみながら継続的にやっていくこと。そういった豊かさを作り上げることに意味があるんじゃないかなとぼくは思います。

―― 実際にいままでの事例の中で、「やってよかった」という声はありましたか?

象徴的だと思ったのは、しずおか未来エネルギーの事業ですね。

しずおか未来エネルギーの事業が無事に立ち上がったとき、出資をしてくれた人の名前を書いた記銘ボードを、静岡市の日本平動物園の入口に置いたんですね。このボードは、静岡県内の木材を使って、静岡市内の障害者施設の方々が一生懸命つくってくれたものです。

そのお披露目会のときに障害者施設の方が「記銘ボードを作ってみんなに見てもらったことで、自分たちが社会の役に立てるんだってことを実感しました。これはお金では買えないものです」とのコメントを寄せていました。そういうことが現実に各地で起きています。

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記銘碑の序幕イベントの様子
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世界から注目を浴びる自然エネルギー

―― 日本は海外に比べて、自然エネルギーの導入が随分と遅れているというお話も書かれていましたが、とくに皆さんに知って欲しいことってありますか?

そうですね、デンマークのサムソ島はみなさんにぜひ知って欲しいと思います。

サムソ島は100%自然エネルギーを実現した人口4,000人の島です。サムソ島の人たちは、文字通りみんなで自然エネルギーの計画作りに参加して、ミーティングをしたり、シンポジウムを開いたり、コーヒーを一緒に飲んだり、お酒を飲んだり、ときどき喧嘩をして、10年で100%自然エネルギーを実現、しかも利益を生み出しているんですね。さらに、マーケティングを狙ったわけでもないのに、世界中のあらゆる国から視察がきて、メディアからも注目されている。丁寧に作ったものって、やっぱり人を自然に惹きつけると思うんです。

あと、昨年ドイツで開かれた世界風力エネルギー会議で「世界風力エネルギー賞」を受賞した、オーストラリア・デイルスフォードのヘップバーン市民風力発電所は、地域の人たちがコミュニケーションをとりながら6年かけて建設した市民風車です。当初は、外部の事業者が開発しようとしたんですが、地域の人たちが「自分たちでやった方がいいんじゃないか?」と言って協同組合をつくって実現させました。たった2基の風車なのですが、それでも世界中から注目をあびているんですね。

そういった動向をみていると、自然エネルギーの導入が進んだ都市や地域の価値が次第に高くなると思います。都市の競争力の指標の中に、自然エネルギーが入ってくるんじゃないかなって。住宅や公共施設といった建物に、環境に配慮した自然エネルギーが組み込まれるようになれば、環境性能という意味でも、経済性能という意味でも価値が出てきて、自然エネルギーを多く利用している都市や地域の快適さが広まっていくと思うんですよね。

―― この本でもお書きになっていましたが、風力発電に対して「景観を損ねるんじゃないか」って話がありますよね。この本で紹介されているデンマークのコペンハーゲンのお話はすごく印象的でした。

実は風力発電って、設置の仕方でいろいろと工夫ができるんですよね。

コペンハーゲンの沖合には、20基の洋上風車が建設されています。これはもともと9基×3列の扇形に建設をする予定でした。でもCGにしてみたら、ノイジーな風景になっていた。当然パブリックヒアリングでも懸念がでて、改めて建設計画を見直したんですね。

そこでできたのが、1基の出力を高めて、27基から20基に減らして、配置も扇型ではなくて円弧を描くようにするという案です。この案はCGで描いても風景に非常に馴染んでいました。しかもこの円弧には意味があるんですよ。

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コペンハーゲンの向かい側にはスウェーデンのバーセベック原発があります。そして、バーセベック原発建設時にコペンハーゲンの市民は抗議運動をした経験がある。さらにコペンハーゲンの中心にはアマリエンボー宮殿があるのですが、その宮殿を円形で囲むかたちで外濠が二重に巡らされているんですね。洋上風車はこの円弧にそって建てられていて、それは宮殿に住んでいる女王を原発から守る役割もある。そんな意味付けがされているんです。

もちろん経済性だって考えられていて、地元の市民が出資していますし、漁師さんたちの「魚たちがいなくなってしまうんじゃないか」「騒音の影響が出るんじゃないか」という心配もクリアしています。風車を作っているときは魚たちが離れてしまったものの、1、2年もしたらむしろ漁礁になったそうです。おそらく皆さんが考えるよりもはるかに自然エネルギーには可塑性があるんです。

カジュアルに関わって欲しい

―― 最後にお聞きしたいのですが、自然エネルギーに少しずつ興味をもち始めている人たちは、まずなにをすればいいのか、何をしてほしいと思っているのかを教えてもらえますか?

まずはこの本をぜひ読んでほしいですね。自然エネルギーに関する間違った俗説ってたくさんありますが、本当のところはどうなっているのか、基本的な話がよくわかるように書いたつもりです。そして日本も含め、世界の事例もたくさん紹介しました。

きっと本気になって関われるひとって一握りだと思います。だから出来ることがないかをまずは調べてもらって、カジュアルに関わってもらえたら嬉しいですね。インターネットを使って調べてみたり、本を読んでみたり、自然エネルギー関連の映画の自主上映会とか全国各地でやっているのでそれを見に行ってもらったり、情報にアクセスしてもらいたいです。

新しい取り組みをするときは、若い人からある程度年齢を重ねられている人まで、どちらの力も大切です。若い人たちの、自分たちの未来を作っていくという思いと、社会で経験を積まれた方たちのノウハウが合わさって、コミュニティのあり方を変えていく力になるのだと思います。

いままで関わってきた方々もみんな「たいへんだけど楽しい」って口をそろえてお話になっています。自分たちで作った発電所が生みだすさまざまな利益や価値を自分たちの地域に活かす。自然エネルギーをめぐる新しいしくみを生み出すことで経済も環境もよくなるかもしれない。その第一歩として、この本を手に取ってもらえたら嬉しいです。

参考ウェブサイト

コミュニティパワー・イニシアチブ

(2013年9月12日 環境エネルギー政策研究所にて)

プロフィール

古屋将太環境エネルギー社会論

1982年生。認定NPO法人環境エネルギー政策研究所研究員。デンマーク・オールボー大学大学院博士課程修了(PhD)。専門は地域の自然エネルギーを軸とした環境エネルギー社会論。

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