2014.06.11

特定秘密の国会監視機関は本気で運用監視を行えるのか?

三木由希子 情報公開クリアリングハウス

政治 #情報監視審査会#特定機密保護法

これまでの経緯

昨年末に成立した特定秘密保護法の施行を12月に控え、政府では特定秘密の指定・解除等の基準と政令の素案、そして監視機関の検討が進められている。一方の国会では、特定秘密の運用を監視する機関と、特定秘密の提供を政府から受けるための制度の検討が行われ、5月30日に国会法の改正法案などが提出された。

特定秘密保護法には、国会とかかわる3つの規定がある。一つ目は、政府が国会に特定秘密の提供をする場合の条件(法10条1項1号)。二つ目が、特定秘密保護法の運用状況について政府から報告を受けるというもの(法19条)。三つ目が、特定秘密の提供を受けるために必要な措置を国会が検討して講ずることを定めたものだ(附則第10条)。

政府・国会の監視機関の設置は、特定秘密保護法の国会審議の終盤で、自民・公明の与党と、維新の会・みんなの党の間の「4党合意」によって決められた。特定秘密の運用状況についての報告を国会が受けるという特定秘密保護法の規定は、国会での修正により設けられた。国会の監視機関は、政府から運用状況の報告を受け、監視を行う受け皿となる。

しかし、特定秘密の指定・解除等の監視をするための十分な調査審議をするための機能が備わっていると言い難い。また、監視機関は与党会派が多数を占め、国会の会議としては例外的に、非公開を原則とした会議運営が行われることになるため、与党を中心とした監視活動の実効性には疑問もある。

衆参両院に設置される「情報監視審査会」の概要

衆参両院に設置される情報監視審査会(以下適宜、審査会)は、常設の8名で構成され、各会派の議席数に応じて委員数が割り当てられる。衆参の議長および副議長は、審査会に出席をして発言できるとされている。会議は非公開で行われ、事務局の職員は10名程度。職員に対しては、特定秘密を取り扱うための適性評価が実施される。

監視の対象は、「特定秘密の指定、解除、適性評価の実施状況」だ。監視活動は(1)毎年の政府からの報告、(2)職員による調査・行政機関の長からの説明聴取により行われ、さらに(3)必要に応じて政府に特定秘密の提供を求めることができる。調査審議の結果、問題等があれば政府に対して運用改善を勧告することができるが、法的拘束力はない。

特定秘密保護法を国会が成立させた以上は、特定秘密として特に保護される政府活動は国会が責任を持って行うべきであるので、監視機関はあった方が良い。それは、実質的に機能するものでなければならないはずだが、特定秘密のに関する監視活動を効果的に行うような仕組みになっているとは言い難い。

会派の議席数に応じて割り当てられる委員数

情報監視審査会は公明党の強い主張もあって常設のものとなった。ただ、常設であることと、日常的に開催されるか否かは別のものだ。

衆参両院に設置されている様々な委員会には、国会会期中の定例開催曜日がおよそ決まっているものから、常任委員会であっても不定期にしか開催されないものもある。例えば、衆議院には常任委員会として国家基本政策委員会があるが、今通常国会は開催実績がなく、先の臨時国会でも1回議事録が確認できるだけだ。委員会を開催するか否かは、法案審議などの決められた案件がある以外は、必要に応じて開催が決まる。委員会を立てるか否かそのものが、政治的な駆け引きの対象ともなっている。

情報監視審査会は、年に1回政府から運用状況の報告を受けることになるので、年に1回は確実に会議が行われる。しかし、審査会がどの程度積極的に活動をするのかは、多数を占める与党次第となるだろう。

また、特定秘密は「行政機関の長」に指定権限がある。警察庁や公安調査庁など一部の機関は国会議員以外が長を務めているが、それ以外はおよそ議員が「大臣」だ。特定秘密の指定や解除に問題があるということは、審査会の多数を占める与党議員からすると、仲間である大臣の決定に問題があることと同義なのだ。

与党が多数を占める審査会が、実質的な監視機能を発揮できるのだろうか。せめて、少しでも機能させることを考慮すれば、審査会は与野党半々の構成にするくらいは必要だろう。

秘密会を原則とする情報監視審査会の効果

国会で開かれる会議は原則として公開されるものであるが、審査会は非公開で開催されるもので、通常の国会運営とは異なった会議であると言える。まずは国会の会議について整理しておきたい。

衆参両院の本会議は公開が原則だが、出席議員の3分の2以上の議決があるときは公開を停めることができる(国会法62条)。また、公開を停められた秘密会議の記録のうち、特に秘密を要するものとして議決した部分は公表しないことができる(同63条)とあり、秘密会議と記録の公表は例外的なものとなっている。

委員会については、「議員の外傍聴を許さない。但し、報道の任務にあたる者その他の者で委員長の許可を得たものについてはこの限りではない」(国会法52条1項)とあり、委員会室での傍聴は例外的な扱いになっている。ただ、この規定は会議を秘密会で行うことを趣旨としているわけではなく、秘密会として委員会を行う場合は、過半数の委員の議決が必要だ(同2項)。

また、本会議、委員会ともにインターネット中継の対象となっているが、両院の議院運営委員会は中継対象外だ。ただし、議事録は公表され、傍聴が制限されているわけではないので、いわゆる秘密会ではない。

このように秘密会は例外的なものとして扱われていたため、国会での開催実績が極めて限られている。過去に、証人喚問を行う場合の秘密会での開催のほか、議院運営委員会で国会議員の逮捕許諾請求について捜査当局から説明を受ける場合などのみだ。

これに対し、情報監視審査会は秘密会を原則として、決議があったときのみ公開すると、「情報監視審査会規程」により定められることになった。会議録は作成されるが非公表が原則で、公開で行われた会議の記録のみ公表される。秘密会が原則、しかも行政運営を秘密会で原則行うというのは、これまでの国会運営からは例外中の例外が常態化するのが審査会だ。

特定秘密に関する問題を取り扱う会議であるので、特定秘密保護法という仕組みを前提にすれば「保秘」はあらゆる場面で求められることになる。これは避けられないことであるが、国会議員は、公開できる情報以外、審査会での活動は会議で何をしたのかも含めて、秘密を守らなくてはならなくなる。

私たちが見慣れている国会の光景は、国会議員が、内容はともかく政府活動や情報非公開を追及する、あるいは政府から答弁を引き出し得点とするというものだ。しかし、非公開で、しかも調査審議の内容の秘匿性を確保した会議では、「追及」というパフォーマンスはきかないし、わかりやすくアピールすることも、成果を示すこともできない。特定秘密の運用に関して問題があれば、審査会の失点にはなるが、問題がなくても得点にはならないというジレンマもある。

また、特定秘密は秘密指定の解除が行われる仕組みになる一方で、国会には市民が情報にアクセスするための情報公開法がない。現在内部ルールで行われている情報公開の仕組みも、立法調査文書と言われるもの(審議・調査に関する情報など)は情報公開の対象から除外されている。さらに審査会の議事録は、時間の経過を経て公開されるという仕組みも、情報公開させる仕組みもない、政府以上に不透明な場となる。

与党が多数を占める審査会が、秘密会議という場で実質的な調査審議が行われるのだろうかということは、誰もが疑問に思うのではないだろうか。

国政調査と特定秘密

国会には国政調査権がある。憲法には、「両議院は、各々国政に関する調査を行い、これに関して、証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる。」(62条)とあるが、その実質は国会法で定められている。

国会法は、「各議院又は各議院の委員会から審査又は調査のため」に必要な報告や記録の提供を求めたときは、政府はそれに応じなければならないと定めている(104条1項)。しかし、政府はそれに応じないこともできる。拒否する場合は国会に対して疎明をし、議院又は委員会がそれを受諾すれば応じる義務がなくなる。受諾しなかった場合は、議院又は委員会が内閣に対して「提出が国会の重大な利益に悪影響を及ぼす旨の声明」を要求し、声明があった場合は政府には応じる義務がなくなり、国会はそれ以上提供を求めることができない。

特定秘密の国会への提供・提示は、基本的に従来からの国政調査に関する国会法の規定の範囲を踏襲している。審査会に対して、政府が特定秘密の提出・提示を拒める場合として、「我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがあるとき」との規定が国会法に新たに設けられるが、これは、特定秘密保護法の規定に対応したものに過ぎない。

従来と異なるのが、特定秘密の提示・提出を受ける場合の保護措置を国会法に定めることと、国会事務局職員に適性評価を行うこととしている点だ。また、外務委員会や安全保障委員会などの常任・特別委員会が特定秘密の提出・提示を要求した際に、政府がそれに応じないときは、政府の疎明についての審議を審査会に要請するとなった。審査会は、政府に対して委員会への提出の要求・勧告を行うことができるが、いずれも強制力はなく、内閣が声明を出すことで提出に応じないことができる。

審査会が特定秘密の提出・提示を受けるのはどのような時か

国会への特定秘密の提出・提示が政府の判断によって拒まれるのは、国政調査権の侵害であるという議論は、特定秘密保護法案審議時からあった。しかし、別の視点からもこの問題は見る必要がある。

一つは、そもそも国政調査権はあまり使われていないということだ。日常的に国会議員が政府から資料提供を受けているのは、法律にいう国政調査権ではない。国政調査権は、院か委員会により行使されるものであり、これまでの実績は極めて限られている。直近では、尖閣諸島での中国漁船の衝突映像の一部が、国政調査権の行使を衆議院予算委員会が議決をして提供されたのがそれだ。証人喚問も国政調査の一環だ。

院や委員会の議決が必要であるので、国政調査は与党が応じる範囲で行われてきた。審査会への特定秘密の提出は、「審査会が政府に求める」という構造になるので、一部の議員が積極的であっても、審査会としての意思決定ができなければ行使されないことになろう。

もう一つは、審査会が政府から特定秘密の提供を受けるのがどのような場合か、想定しにくいという問題だ。審査会は、(1)政府の報告、(2)行政機関からの説明の聴取、(3)事務局職員による調査、などを端緒に特定秘密の提出を求めるとしている。漠然と特定せずに特定秘密の提出を政府に求めることは、できないだろう。この特定秘密が調査審議のために必要だという特定ができないと、実際に提出を求めるというところまで調査審議は進まないのではないだろうか。

そうすると、特定秘密の運用に関して問題がある、あるいは課題があることを具体的に情報としてつかむ必要があるが、そのようなルートが国会にはない。特定秘密保護法にいう情報漏えいは、外部への漏えいだけでない。内部であっても、アクセス権限のない者に対して特定秘密を提供した場合は、情報漏えいとして罰則の対象となる違法行為になり得る。また、特定秘密が記録された文書そのものでなくても、「知得」という知り得た情報を提供しても、罰則の対象となる。

この前提で考えると、審査会や国会議員に問題のある特定秘密の内容の通報は、処罰の対象となり得る。内部情報の提供を受けられないのでは、監視活動の調査審議の具体的な端緒が非常に乏しい。本来は、審査会に対する通報は、処罰の対象とならないような立法上の措置を、特定秘密保護法なり個別の法制で行うべきであろうが、そうしたことはなされていない。

要は、国会の特定秘密の運用監視に対する本気度は、制度面からも非常に疑わしいのだ。与野党の対立が持ち込まれる審査会は、会議の開催、国政調査権の行使のいずれも与党主導になる。その与党は、特定秘密に関する権限を行政機関の長に対して集中させているため、問題があれば仲間の失点をさらすことになる。どこに監視のインセンティブが働くのかが、正直見えない。審査会は「監視機関」ではなく「追認機関」だと揶揄されるのは、最もなことなのだ。

国会議員が特定秘密を漏えいした場合はどうなるのか

特定秘密を知った国会議員がその情報を漏えいした場合にはどうなるのか。

憲法は、「両議院の議員は、議院で行った演説、討論又は表決について、院外で責任を問はれない。」(51条)と定めている。特定秘密に関しても、本会議や委員会でその情報を明らかにした場合も、刑事罰には問われることはない。

その代わりではないが、両院にある懲罰委員会による懲罰の対象とはなり得る。国会法改正法案では、「特定秘密は、その情報監視審査会の委員及び各議院の議決により定める者並びにその事務を行う職員に限り、かつ、その調査又は審議に必要な範囲で、利用し、又は知ることができるものとする」(102条の19)とあるため、これに反する行為は、院内のことであって懲罰の対象になると考えられるからだ。各委員会に特定秘密が提供された場合も同様の規定がある(104条の3)。

ただし、院外で情報を漏えいした場合は免責外となるため、特定秘密保護法の罰則の対象となる。国家議員が、特定秘密を扱う権限のない秘書や関係者、専門家に知り得た情報を伝えると、情報漏えいとして刑事罰が適用され得ることになる。実際にどのくらい特定秘密に国会議員がアクセスすることになるのかは、過去の国会運営からすると予想できないところだが、このことは、国会議員の活動にも影響を与えることになるだろう。

監視機関を設置すれば大丈夫という問題ではない

国会も政府も特定秘密保護法の運用の監視機関を設置することになり、「特定秘密」という仕組みそのものを監視することを、法の適正運用を保障するかのうように説明されている。しかし、特定秘密の指定・解除の監視をどうするかという問題は、そう簡単な問題ではない。

そもそも、秘密は政府活動に伴って生まれるもので、勝手に秘密が生まれてくるわけではない。秘密の範囲が適正か否かは、秘密を伴う政府活動と密接に関係している。違法・不適法な政府活動が行われていれば秘密も不適切なものとなるし、政府活動に誠実性が欠落していけば、特定秘密として秘匿したくなる情報も増えるという関係になる。特定秘密の指定や解除が適切に行われているかを監視するためには、本来は、特定秘密を生み出す政府活動そのものを監視する機能が必要だ。

このようなことを思うのは、情報公開制度の経験があるからだ。情報が非公開となる場合は、よほど単純な案件を除き、請求した情報だけを取り出して判断がされるわけではない。その情報の業務上や業務フローでの位置づけ、業務全体への公開することによる影響・支障など、情報を取り巻く業務や環境と、公開・非公開の判断は無関係ではない。このことが、実際には情報公開を難しくしている一面がある。これまで公開してこなかった情報を公開することによる業務への影響は、やってみなければわからないところがあり、そのため過剰に影響が見積もられる傾向があるからだ。

特定秘密のような仕組みを、完全に監視することは不可能だ。むしろ、限界があり完全に監視ができないことを認めた上で、いかに効果的に監視を行うか、何を監視することで全体の運用へ良い影響を当たるのか、という課題に取り組む必要がある。国会も同様だ。

秘密との付き合いは、悩みながら、課題を認めより良いあり方を模索するくらいのことは、最低限必要だ。国会の監視機関は、こうした前提に立てるのだろうか。

サムネイル「Self-Portrait?#16」r.f.m II

http://www.flickr.com/photos/robhardingii/2757064302

プロフィール

三木由希子情報公開クリアリングハウス

横浜市立大卒。学生時代より情報公開法を求める市民運動に関わり、卒業後に事務局スタッフになる。1999年の情報公開クリアリングハウス設立とともに室長、2011年より理事長。共著に『高校生からわかる政治のしくみ 議員のしごと』などがある

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