感染拡大のデング熱! 蚊の生態からわかることとは

連日感染者の増加が報道されるデング熱。デング熱によってどのような症状があらわれるのか。なぜ今年注目を浴びるようになったのか。治療法はどのようなものがあるのか。媒介する蚊の生態を学びながら今後の対策について考える。TBSラジオ 荻上チキSession-22 「感染拡大のデング熱。蚊の生態と対策」より一部抄録。(構成/山本菜々子)

 

 

デング熱の症状とは

 

荻上 今日は、国内感染の拡大が連日取り上げられてきた「デング熱」を取り上げます。基礎的な知識に加えて、蚊の生態についても学び、今後の対策について考えていきたいと思います。二人のゲストの方にお越しいただいています。まずは、病原体媒介節足動物がご専門の嘉糠さんです。よろしくお願いします。

 

嘉糠 よろしくお願いします。

 

荻上 「病原体媒介節足動物」というのは、これは文字通り、蚊を含む、病気を媒介する節足動物ということですか。

 

嘉糠 そうです。この中にはマダニが含まれてきます。マダニは昆虫ではないので、「節足動物」というのが正式分類です。

 

荻上 普段はどのような研究をされているのでしょうか。

 

嘉糠 まさに話題になっているデング熱を媒介する蚊や、マダニの行動生態学です。たとえば、どういった人間を蚊は好んで吸っているのかなどを研究しています。

 

荻上 そして、感染症がご専門の自治医科大学附属病院・感染制御部長、准教授の森澤雄司さんです。よろしくお願いいたします。「Session-22」では以前、エボラウィルス感染症(エボラ出血熱)についてもお話していただきました。

 

今回は、デング熱がどのような症状で、今どのような状況なのかについてお話を伺えればと思います。改めて、デング熱はどのような感染症なのでしょうか。

 

森澤 世界中にたくさん患者がいるのが特徴だと思います。WHOによると、毎年一億人ほどの患者が出ています。一億人となると、全人類の70人に一人がかかっていることになります。

 

多くの方がかかる病気ですが、具体的にどのようなタイプの方が重症化するのかは詳しくわかっていません。デング熱の悪化で入院される方は年間50万人ほどいるのですが、傾向としては、大部分がお子さんであるといえます。その中でなくなる方は2.5%ほどです。致死率としては非常に低いと言えますね。

 

荻上 医療が受けにくい環境だと、致死率が高くなることはあるのでしょうか。

 

森澤 デングの重症患者の中で、無治療であると亡くなる率は10%~20%と、昔の教科書には書いています。ですが、たとえば点滴をするだけでも助かる確率が上がります。きちんとした医療を受けられる環境であれば、致死率は1%も行かないというのが一般的な理解です。

 

荻上 デング熱の致死率は、医療体制の不備によって上がっている面があるということですね。デング熱はどのような場所で発生しやすい病気なのでしょうか。

 

森澤 これは、嘉糠先生のご専門ですが、デングをうつしやすい蚊が必要条件であることは確かです。人がいて蚊がいることが条件ですので、誰もいないような田舎というよりも、リゾート地や都市部などある程度人の集まっている場所で出ているのも特徴です。

 

荻上 蚊が感染者から血を吸い、その次の人を刺すまでの距離が短い場所、ということですね。確認ですが、デング熱は人から人には感染しないわけですね。

 

森澤 そうです。蚊を介して感染することになります。

 

荻上 デング熱はどのような症状が出るのでしょうか。

 

森澤 簡潔に言うと、ひどいインフルエンザと思っていただければと思います。熱が高くなり節々が痛くなります。インフルエンザの場合、高い熱が続くと3日~5日ですが、デング熱では平均して1週間ほど発熱と節々の痛みが続きます。たいていは、自然に治ることが多いです。

 

デング熱で特徴的なのは、一度目は高い熱がでて一過性で終わる方が多いのですが、二度目が重症化しやすい点です。

 

荻上 2度目の方が重症化するというのは蜂などでも聞きますが、アナフィラキシーショックにも似ていますね。

 

森澤 流行地域の話を聞くと、3回目、4回目は軽い症状で済む方が多いようです。必ずしも、アレルギーのように入ったから過剰な反応が起きるという単純なメカニズムではありません。

 

この重症化も不思議な経過をたどります。熱が下がった時に急にお腹がいたくなるとか、あるいはうわ言をいう、皮膚が真っ赤になる、出血する。そういったケースは重症化します。そこが注意する点だと思います。

 

デングは、ウイルスが体に入っても、発症する率が半分以下と言われています。僕らも短期の旅行から帰ってこられた方は重症化しないと思って診ていますが、現地にしばらく住んでいた方や、現地の方が日本に来られて発症されると、危険だと感じます。

 

荻上 デング熱にも症状に幅があること。うわ言や、出血などの症状も知っておいた方がいいですね。

 

森澤 「熱がある」と病院に行くと、解熱剤を出されて「様子をみてください」というのが一般的な対応です。小さいお子さんや高齢の方、基礎疾患がある方は熱が出たら病院に来ていただきたいですが、普段元気な方は自宅で休養することが多いのではないでしょうか。熱が下がってから具合が悪くなったら、デングの可能性がありますので、病院に来ていただければとおもいます。

 

 

なぜ、今年!? デング熱が注目される理由

 

荻上 質問が来ています。「そもそも、デングとはどんな意味なのでしょうか。」

 

森澤 デングという病気は非常に古くからあります。私が調べてみたところ、たとえば、1780年にはアメリカのフィラデルフィアでデングと思わしき病気がはやっていました。その時は〝break-bone fever″(骨が折れる熱)という名前で呼ばれていたようです。

 

それが、今のデングだろうと言われています。デングの語源は、スワヒリ語で「Ki-denga pepo」、急に何かに取りつかれたという意味のようです。そのdenga の部分が訛ってデングになったと言われています。

 

荻上 このような質問も来ています。「毎年日本でも十数人、数十人単位でデング熱感染者が報告されていますが、今年はなぜこんなにも騒がれているのでしょうか。もちろん用心に越したことはないので、あまりにも今年に限って過剰に報道されているので違和感を覚えます。何か例年と違いがあるのでしょうか」と。

 

森澤 ここ数年は、200人を超えてデングは発症していました。我々の病院でデングの診断がついた方も、去年は4人ほどいます。

 

しかも、デングの確定診断は、保険診療ではできないので、保健所を介して国立感染研究所などで検査しないといけません。たいへん手間がかかります。ですので、毎年200人以上いたと考えていいと思います。

 

荻上 知らずにデング熱にかかっている方も多いということですね。

 

森澤 海外から帰ってきて、熱が出たとして、医療機関を受診する方はいったいどれくらいいるのか疑問ですね。

 

荻上 もしかしたら、疲労だと思ったり、日焼けし過ぎて熱中症になったんじゃないか、とか思って、病院にいくより家で休養していようとなるかもしれませんね。

 

森澤 では、なぜ今年は騒がれているのか。今までは、海外から帰ってきた人が発症していました。しかし、今年は海外渡航歴の無い方がデング熱にかかってしまったんです。

 

とはいえ、本当に今年からなのかという疑問もあります。昨年、ドイツの方で日本に旅行して帰った後にデングを発症したという報告がありました。厚労省から通達は出ていたのですが、空港で刺されたのでは、勘違いしたのではと、医療現場では受け取られました。

 

ですので、通常では、海外渡航歴のない方が発熱した時に、デング熱かどうか疑うことはありません。今回、どういう先生が気づかれたのか、私は分かりませんが、よく気が付いたなというのが率直な感想です。

 

荻上 つまり今回、日本国内で蚊が媒介したので、いつもと違うような形で問題化されているんですね。

 

森澤 そうです。「今年のデングは重症化する」という話ではありません。ほとんどの場合自然に治る病気ですし、今のところ二度デング熱にかかってしまい日本国内だけで重症化するというのは、考えにくいと思っています。

 

 

治療法は「何もなし」

 

荻上 だから報道でも、「国内感染者」を強調するわけですね。森澤さんは、この間のデング熱に関する報道をどう見ていますか。

 

森澤 非常に対応が早かったと思っています。特に行政側から情報があっという間に流れて、その点はよかったのではないでしょうか。

 

ただ、医療の方は情報についていけなかった部分があります。「蚊に刺されて熱が出たら病院に行きましょう」という話が出ていますが、そう単純な問題ではありません。

 

先ほども言ったように、病院に来られても保険診療では診断できないので、研究目的で大学などが持っている検査キッドを使い、陽性だったら保健所に出して検査してもらって診断を確定するという手順ですから、そう簡単には診断がつかないんです。

 

そこまで手間と時間をかけても、1週間くらいでほぼ治ってしまいます。そういった状況で、「蚊に刺されて熱が出たら病院に行きましょう」というのは難しいですね。

 

荻上 今、診断キットは特殊だという話になりましたが、治療法も特殊な薬などあるのでしょうか。

 

森澤 治療法は何もなしですね。

 

荻上 何もなし?

 

森澤 対症療法だけです。熱を下げる、ご飯が食べられなかったら点滴をする、というくらいです。

 

荻上 なるほど。デングの診断がついたからと言って、特別な治療をするわけではないんですね。とはいえ、対処療法をすることによって楽になること等はとても重要ですよね。普段から、働いている人は病院に行かずに無理する傾向がありますからね。

 

森澤 そうですね。ですが、日本の場合、簡単には言い尽くせないところもあります。

 

たとえば高い熱を出すと、普通は解熱剤を出しますよね。日本で出す解熱剤は、一般的に非ステロイド系の抗炎症薬です。そういう薬は、血小板を抑制して血を固まりにくくする作用があるので、出血するデングのような病気にはあまり使っては欲しくないんです。

 

でも、今までずっと、それを出し続けていたので、パッと変えられるのかと言われると難しいですね。

 

荻上 現在は、特定の場所が原因だったのではと言われていますよね。僕個人、報道をする際に、病気だけの知識ではなく、場所をアナウンスするのも大事だと思っています。利用者が多い公園ですから、そこが閉鎖されていることなど情報も大事ですし、そこに行ったことを覚えておくためのリマインドなど、役割は多いなと思います。但し、それと閉鎖・消毒の賛否とは、別の論点として区別しなくてはならないですね。

 

森澤 そのあたりは非常に難しくて、バランスの問題ですね。これから、様々な情報が増えてくると思うんですが、本当にこの公園だけなのか、他のところにも広がっているんじゃないか、後から見たら過剰な対策だった、ということはあるかもしれません。感染症の対策は当初過剰なぐらいで、後からだんだん緩めていくのがいいと思います。

 

最初は公園を閉鎖してもいいと思いますが、それがいつまでも続くのは、ちょっとやりすぎかなと思います。

 

 

注射器に入った毒

 

荻上 ここからは、嘉糠さんに蚊の生態についてお話していただきたいと思います。今回は、国内で感染したとのことですが、日本にはデングウイルスを媒介する蚊が生息しているのでしょうか。

 

嘉糠 デング熱ウイルスを媒介する蚊はヒトスジシマカという蚊ですが、これは、日本中あちこちに生息する蚊です。

 

意外に思われるかもしれませんが、マラリア原虫を媒介することができるハマダラカも日本にいますし、日本脳炎を媒介することができるイエカもいます。もともと日本にはいろんな蚊がいるのですが、病原体がなかっただけなのです。

 

今回は、デング熱ウイルスを持った状態で海外から来られた人を蚊が吸血した結果、媒介がスタートしたと考えられます。

 

荻上 たとえますと、注射針はもともとたくさんあった。今回はそこに変わった毒が入った。そういうような状態なんですね。

 

嘉糠 まさにその通りです。

 

 

 

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