そして旅はつづく——劇団・地点とアトリエ・アンダースローの新たな挑戦

アトリエ・アンダースローの様々な試み

 

地点が京都に拠点を移したのは2005年のこと。そして2013年7月、銀閣寺にほど近い左京区北白川にあった元はライブハウスだった空間を改修し、稽古場兼劇場となるアトリエをついに構えた。「アンダースロー」と名づけられたそのアトリエは、数十人で満杯になる小さなものだが、だからこその親密さを漂わせる素晴らしい空間になっている。ビールやワインが呑めるロビーが併設され、終演後に観客たちはそこで今観たばかりの舞台について語り合えるし、三浦基や俳優たちもまた、そこに生まれる幾つかの輪の中に自然と加わる。

 

創作環境としても、稽古から本番までをこの場所でできるというのは大きい。小劇場演劇では、わずかな例外を除いて、公民館などを点々としながら稽古をするケースがほとんどで、舞台美術や小道具もその都度撤収しなければならないし、テンションをキープするのも難しい。そうした問題も、自前のアトリエを持つことによって解消されるのだ。

 

ここまでの道のりは大変だったろうと推察するが、アンダースローは不思議と、無理につくった感じがしない。あるべくしてここにある、という気配がすでに漂っている。このような拠点を持つ例は、日本ではまだかなり少ない。地点はこの場所に、本気で、劇場文化を生み出そうとしている。今、多くの若い演劇人がこのアンダースローに注目しているのは、それが若い人たちに夢や憧れを抱かせるからだろう。その意味で、アンダースローは「未来の劇場」なのである。

 

 

アンダースローのある夜の風景

アンダースローのある夜の風景

 

 

アンダースローを手に入れてからの地点は、「攻め」の姿勢に向かっている。これまで制作は田嶋結菜がひとりで務めてきたが、昨年までフェスティバル/トーキョー事務局に在籍していた小森あやが加わり、2人体制となった。俳優は、地点を支えてきた安部聡子、石田大、窪田史恵、河野早紀、小林洋平がそれぞれの技術やトリックスター的な飛び道具に磨きをかけたのに加え、ちょっとおとぼけた雰囲気を漂わせる小河原康二が新たに入団し、まるでコミックバンドのようなユーモアが増してきた。こうした劇団としての体力強化なしには、現在のようなハイペースで公演を打つことは不可能だろうし、また「BEAT」(http://chiten-beat.tumblr.com/)という速報のニュースレターを毎週発行するという試みもきっとありえない。

 

また、カルチベート・チケット(http://chiten.org/under-throw/cultivate)と呼ばれる斬新なシステムも導入した。これは一種のパトロン制度であり、その時に懐に余裕のある人間が一枚2000円のチケット(アンダースローは全演目この値段)を買ってストックを増やす。残数があれば、それを他の人……例えばあまり金銭的に余裕のない学生や、試しに友達を誘ってみたい人などが使用できる。つまりこれは観客から別の観客へのギフトであり、地点はただそれを仲介しているだけ、というのが面白い。

 

さらに地点はこの秋から冬にかけて、新たにカルチベート・プログラム(http://chiten.org/under-throw/culpro)という画期的な試みを開始する。参加者は、アンダースローでの6本の公演と3回のレクチャーが無料。その全てに参加できること、そして終了後に報告エッセイを書くことだけが条件となっている。遠方から通うのはちょっと大変だが、京都にかぎらず関西近郊であれば、さほど負担もないはず。わたしも参加する最後のレクチャーのタイトルは「芸術なしでは生きられない」だが、これは三浦から提案された言葉である。わたしもそこに共鳴する。

 

「カルチベート」という言葉は「耕す」という意味だ。アンダースローで行われているのは、新しい観客の創造なのである。

 

『はだかの王様』2012年 地点初の子ども劇 撮影:阿部綾子

『はだかの王様』2012年 地点初の子ども劇 撮影:阿部綾子

 

 

寒いロシアからの熱い便り

 

京都を拠点にする地点は、今は『ファッツァー』ロシアツアーの真っただ中にいる。彼らは、国際社会の渦中にあるロシアにおいて、どんな光景を目にしているのだろうか? モスクワ公演のカーテンコールでは、劇中に登場する「糞ったれ!」コールが鳴り響いたという。その言葉は果たして誰に向けられたものだろう?

 

「BEAT」最新号(9/16発行 http://chiten-beat.tumblr.com/)によると、ロシアはすでにかなり寒そうだ。三浦の言葉が踊っている。「そろそろ、我々は酔っぱらわなくてはならない。酔え! 私たちのリアリズムを獲得するために」という形で締めくくられるこの熱い言葉の意味は、わたしには今はわからない。本当に彼はただ酔っぱらって書いただけかもしれない。しかし、いずれ近いうちにきっと腑に落ちる瞬間があるだろう、という予感はしている。

 

ロシアから帰国したら、次は横浜と京都で『光のない。』である。彼らは旅を続けている。

 

 

『光のない。』2012年初演 今年10月再演される  撮影:松本久木

『光のない。』2012年初演 今年10月再演される  撮影:松本久木

 

 

公演情報 

 

『光のない。』

作 エルフリーデ・イェリネク  翻訳 林立騎(白水社刊)

演出 三浦基

音楽監督 三輪眞弘

出演 安部聡子 石田大 小河原康二 窪田史恵 河野早紀 小林洋平 ほか

公演日程/会場

[横浜公演]

2014年 10月11日(土)18:00/10月12日(日)18:00/10月13日(祝・月)15:00

KAAT神奈川芸術劇場〈ホール〉

[京都公演]

2014年 10月18日(土)19:00/10月19日(日)14:00*

京都芸術劇場春秋座

 

主催 合同会社地点[横浜公演] KYOTO EXPERIMENT[京都公演]

提携 KAAT神奈川芸術劇場[横浜公演]

製作 フェスティバル/トーキョー、地点(2012年初演)

2014年版共同製作 KYOTO EXPERIMENT

助成 芸術文化振興基金[横浜公演]

フェスティバル/トーキョー14連携プログラム[横浜公演]

 

http://chiten.org/next/archives/11

 

 

 

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